会話の中で少し言い間違えただけなのに、その部分ばかりを指摘されることがあります。伝えたかった内容には触れず、言葉尻だけを責められると「なぜそこにこだわるのだろう」と感じるものです。
このような態度は「揚げ足を取る」と表現されます。もともとは、技をかけようとして上がった相手の足を取り、体勢を崩す動作に由来する言葉です。
現在は、相手の言い間違いや不用意な発言を捉え、非難したり、からかったりする意味で使われています。小さな言葉の誤りが話題の中心になり、本来の内容から会話がそれていく点に特徴があります。
「揚げ足を取る」とはどのような意味か
「揚げ足を取る」とは、相手の言い間違いや言葉尻を捉えて責めたり、からかったりすることです。単に誤りを訂正するだけでなく、その誤りを利用して相手を困らせる意味合いを含みます。
たとえば、会議で「来週までに完成させます」と説明した人に対し、内容を確認せず「来週とは何曜日ですか。日曜日なら再来週とほとんど同じですよね」と言葉だけを取り上げる場面が考えられます。
作業日を確認する必要があるなら、曜日を尋ねること自体に問題はありません。しかし、説明の内容へ戻らず、曖昧な言い方だけを繰り返し責めれば、揚げ足取りに見えやすくなります。
細かな部分を指摘したかどうかだけでは判断できません。誤解をなくして会話を進める訂正なのか、言い間違いを利用して発言全体を否定するのかによって違いが表れます。
本来は発言に対して使われる言葉
「揚げ足を取る」は、辞書では発言の言い間違いや言葉尻を捉える意味を中心に説明されています。
現在では、行動上の失敗や不注意を責める場面でも使われることがあります。ただし、発言とは関係のない失敗を表すなら「粗探しをする」「小さな失敗を責める」と書いたほうが、状況を正確に伝えられる場合もあります。
文化庁が実施した令和3年度の「国語に関する世論調査」では、「言い間違いや言葉じりをとらえて責めたりからかったりする」を意味だと考えた人が65.9%でした。
「失敗ややり損ないを見て責めたりからかったりする」は8.8%、両方の意味を選んだ人は22.2%です。この調査は実際にどのような場面で使うかではなく、回答者がどの意味だと捉えているかを尋ねたものです。
なぜ「揚げ足を取る」というのか
「揚げ足」は、動作の途中で地面から上がった足を指します。
相撲や柔道などで、技をかけようとした相手の上がった足を取り、倒す動作がもとになっています。相手が一瞬見せた隙を利用する様子が、発言の小さな誤りを捉えて責める態度に重ねられました。
会話の揚げ足取りでも、話の全体ではなく、一語や短い言い回しが狙われます。浮いた足をつかんで体勢を崩すように、発言の一部分を使って相手の立場を弱くする表現です。
発言の一部分だけを切り取る
「私は基本的に反対です」と話した人に対し、反対する理由を尋ねず「基本的にということは、条件によっては賛成なのですね」と詰め寄る場面があります。
言葉の意味を確かめるだけなら問題はありません。しかし、「基本的に」という一語だけを取り出し、発言全体が曖昧だったかのように扱えば、話の中心から離れてしまいます。
揚げ足取りでは、本人が伝えようとした内容よりも、わずかな矛盾や曖昧さが大きく扱われます。発言の一部が、本来の意図とは異なる批判材料へ変わってしまうのです。
少なくとも1779年には使われていた
「揚げ足を取る」は、近年になって生まれた言葉ではありません。
『精選版 日本国語大辞典』には、1779年刊行の洒落本(しゃれぼん)『大通愛想尽』から「かへってあげあしを取られ」という用例が収録されています。
辞書で確認できる用例では、少なくとも1779年には、相手の発言の隙を捉える現在に近い表現が使われていました。ただし、この年に言葉が誕生したと断定できるわけではありません。
揚げ足取りに見えやすい4つの会話の流れ
揚げ足取りに見える会話では、発言の内容よりも言い間違いが注目されたり、元の話題から別の論点へ移ったりします。
相手が何を考えているかは外から決められません。ここでは、人の性格ではなく、会話の中で確認できる流れに注目します。
1.小さな言葉の誤りが話題の中心になる
本来の主張よりも、言い間違いや曖昧な表現が長く取り上げられることがあります。
小さな誤りが話題の中心になると、何を伝えたかったのかより、どちらの言い方が正しいかという議論へ移りやすくなります。
言葉の確認が必要な場面でも、訂正した後に元の内容へ戻れなければ、発言全体を聞いてもらえていないように感じられます。
2.最初の論点から別の話へそれる
相手の表現について話し続けると、最初に確認したかった問題が後回しになることがあります。
たとえば「約束を忘れた理由を聞きたい」と伝えたのに、「忘れたのではなく、思い出すのが遅れただけです」という言葉の違いだけが続けば、約束が守られなかった問題へ戻りにくくなります。
話題をそらす意図がなくても、言い方の違いへ会話が集中すると、元の論点が見えにくくなります。
3.内容より言葉の正確さが優先される
日付や金額、契約条件などを間違えると、実際の問題につながる場面があります。そのような状況では、細かな確認や訂正が欠かせません。
一方、雑談や大まかな意見交換で言葉を毎回訂正すると、会話の流れが止まります。
正確さを求めた指摘であっても、言い方やタイミング次第では、内容より言葉尻を重視しているように受け取られます。
4.一つの誤りから発言全体へ批判が広がる
小さな言い間違いを訂正するだけなら、話の内容には影響しないこともあります。
ところが「その言葉を間違える人の意見は信用できない」のように、発言の一部から知識や人柄まで否定すると、訂正の範囲を超えてしまいます。
一つの誤りが主張全体の評価へ広がると、正しい情報を共有するよりも、間違えた事実を目立たせる会話になります。
必要な訂正と揚げ足取りは何が違うのか
間違いを指摘する行為が、すべて揚げ足取りになるわけではありません。正しい情報を共有し、誤解を防ぐためには訂正が必要です。
違いが表れやすいのは、指摘の目的と、その後の会話です。
必要な訂正では「会議は火曜日ではなく水曜日です。企画の内容については賛成です」のように、誤りを直した後で元の話題へ戻ります。
揚げ足取りでは、間違いを何度も強調したり、その一部分だけで発言全体を否定したりします。訂正によって話を前へ進められるか、相手を責める材料として残り続けるかが違いです。
訂正した後に元の話題へ戻れるか
必要な訂正には、誤解を減らして会話を進める役割があります。どこが違うのかを伝えた後、元の論点について話し続けられます。
同じ内容でも、伝え方で印象は変わります。
「その使い方は間違いです」と人前で強く言うより、「ここは別の表現にすると伝わりやすそうです」と伝えたほうが、相手の意図を保ちながら訂正できます。
間違いの内容だけでなく、指摘する場所や口調、訂正後の会話まで含めて受け取られるのです。
「重箱の隅をつつく」「粗探し」との違い
似た表現でも、中心となる意味は異なります。
「揚げ足を取る」は、発言の言い間違いや言葉尻を捉えて責めることです。
「重箱の隅をつつく」は、全体から見れば重要ではない細かな部分へ必要以上にこだわることを表します。発言に限らず、規則や文章、仕事の進め方にも使われます。
「粗探しをする」は、発言や行動を問わず、欠点や失敗を見つけようとすることです。
発言の隙を利用するのが「揚げ足を取る」、細部へこだわり続けるのが「重箱の隅をつつく」、対象を問わず欠点を探すのが「粗探し」と考えると使い分けやすくなります。
揚げ足を取られたときは話の中心へ戻す
揚げ足を取られると、指摘された言葉について細かく説明したくなります。しかし、一つずつ反論し続けると、最初に話したかった内容から離れてしまいます。
言い間違いがあったなら、その部分を短く訂正したうえで、伝えたかった内容を言い直す方法があります。
「表現は正確ではありませんでした。伝えたいのは、予定を見直したいという点です」
訂正と主張を分けると、発言の一部分に偏った会話を元の話題へ戻しやすくなります。
SNSやチャットでは、一文だけが前後の文脈から切り離されることもあります。声の調子や表情が伝わらないため、軽い訂正が厳しい批判として受け取られる場面もあります。
SNS上の発言は、一文だけでなく前後の文章まで読むことで意図を確かめやすくなります。自分が訂正する側になったときも、言葉の修正と相手の主張への返答を分けると、何を伝えたいのかが明確になります。
Q&A(よくある疑問)
まとめ
「揚げ足を取る」は、技をかけようとして上がった相手の足を取り、体勢を崩す動作に由来する言葉です。現在は、相手の言い間違いや言葉尻を捉えて責めたり、からかったりする意味で使われています。
揚げ足取りに見える会話では、小さな言葉の誤りが話題の中心になったり、元の論点から別の話へそれたりします。ただし、間違いを指摘する行為がすべて揚げ足取りになるわけではありません。
訂正した後で元の話題へ戻れるか、発言の一部だけで相手全体を否定していないかを見ると、必要な訂正との違いが分かります。
参考資料
- 文化庁「令和3年度『国語に関する世論調査』」
- コトバンク「揚足を取る」
- コトバンク「上げ足」
- コトバンク「重箱の隅をつつく」
