仕事を大切にしながら、家族との時間や趣味、休息も確保したい。こうした考え方を表す言葉が、ワークライフバランスです。
以前は、長く働くことが仕事への熱意として受け取られる場面もありました。しかし現在は、共働き世帯の増加、育児や介護との両立、長時間労働の見直しなどを背景に、生活と無理なく両立できる働き方が重視されています。
ワークライフバランスは、仕事と私生活を半分ずつに分ける考えではありません。生活の変化に合わせながら、仕事上の役割と仕事以外の時間を両立できる状態を目指すものです。
ワークライフバランスとは仕事と生活を両立できる状態
ワークライフバランス(work-life balance)は、日本語で「仕事と生活の調和」と表されます。
内閣府は、仕事と生活の調和が実現した社会について、働いて経済的に自立できること、健康で豊かな生活のための時間を持てること、多様な働き方や生き方を選べることを柱に示しています。仕事を減らして私生活だけを優先するのではなく、どちらかを諦めずに続けられる状態を目指す考えです。
仕事と生活を半分ずつに分ける必要はない
「バランス」という言葉から、仕事と私生活へ同じ時間を使う姿を思い浮かべる人もいるでしょう。しかし、望ましい時間の配分は人や時期によって異なります。
仕事へ集中したい時期もあれば、子育てや介護、学び直しに多くの時間を使いたい時期もあります。毎日同じ割合を守るのではなく、そのときの暮らしに合わせて働き方を変えられることが、仕事と生活の両立につながります。
勤務時間を短くしても、限られた時間へ多すぎる業務を詰め込めば負担は軽くなりません。反対に、仕事を優先し続けて十分に休めなければ、同じ働き方を長く続けるのが難しくなることもあります。
ワークライフバランスが重視されるようになった背景
ワークライフバランスが重視されるのは、長時間労働の見直しに加え、共働き、育児や介護、人手不足などにより、従来の働き方だけでは生活との両立が難しくなったためです。
日本では2007年12月18日、関係閣僚や経済界、労働界、地方公共団体などの代表による会議で「仕事と生活の調和憲章」と行動指針が策定されました。2010年6月29日には、社会や経済の変化を踏まえた新たな合意も結ばれています。
長時間労働を見直す動きが広がった
労働時間が長くなると、休息や家族との時間を確保しにくくなります。本人が予定を工夫しても、残業を前提とした仕事量や職場の慣習が残っていれば、生活との両立は難しいままです。
こうした課題を受け、働き方改革関連法は2019年から順次施行されました。時間外労働の上限規制や、年次有給休暇の取得を促す仕組みなどが導入されています。適用が猶予されていた建設業、自動車運転業務、医師などにも、2024年4月からそれぞれの業務に応じた上限規制が適用されました。
ワークライフバランスは、単に早く帰るための考えではありません。残業を減らすには、業務量や人員配置、仕事の進め方も見直す必要があります。
共働き世帯が増えて家庭の予定が変わった
かつては、一人が外で働き、もう一人が家事や育児を担う世帯が多く見られました。現在は夫婦ともに働き、家庭の予定と勤務時間を調整する世帯が増えています。
内閣府の令和7年版男女共同参画白書では、妻が64歳以下の世帯を対象にした集計で、2024年の共働き世帯数が専業主婦世帯数の3倍以上となっています。
夫婦ともに働いている場合、子どもの送迎や学校行事、家族の通院などを勤務時間と合わせて考える場面が増えます。決められた時間と場所で長く働く方法だけでは、家庭の予定へ対応しにくい人が増えたことも、働き方を見直す背景になっています。
育児や介護をしながら働く人がいる
仕事との両立が求められるのは、子育てだけではありません。親や家族の介護は、必要になる時期や期間を前もって決めにくく、急な対応を求められることもあります。
育児や介護を理由に仕事を辞めることになれば、本人は収入や働く機会を失い、企業にとっても経験を積んだ人材の離職につながります。休業制度に加え、勤務時間や働く場所を変えられる選択肢が注目されるようになりました。
子育て中の人に限らず、通院や学び直し、地域活動などの時間を必要とする人にも関係する考えです。仕事以外で優先したいことは、年齢や家族構成だけでは決まりません。
企業にとっても働き続けやすい環境が課題になった
働き方の選択肢は、働く人の希望だけで増えてきたわけではありません。企業にとっても、採用した人が経験を積みながら働き続けられる環境を作ることは、人材の定着や業務の継続に関わります。
休暇や柔軟な勤務制度が用意されていても、利用すると周囲へ迷惑をかけるような雰囲気があれば使いにくいままです。制度の数だけでなく、上司や同僚の理解、業務を引き継げる体制も働きやすさを左右します。
働き方はどのように変わってきたのか
ワークライフバランスが重視されるようになり、働く時間や場所にも選択肢が増えました。
一方で、接客、医療、運輸、製造など、決められた場所や時間で働く必要がある仕事もあります。全員を同じ働き方へ変えるのではなく、仕事内容に合う方法を選ぶ視点が欠かせません。
残業を前提としない仕事の進め方
労働時間を減らすには、早く帰るよう呼びかけるだけでは十分ではありません。
会議の回数を減らす、作業をデジタル化する、特定の担当者へ業務が集中しないようにするなど、仕事の進め方そのものを変える方法があります。勤務時間だけを短くして同じ量の業務を押し込めば、働く人の忙しさが増す可能性もあります。
時間の使い方を個人に任せるだけでなく、業務量や人員配置、職場の慣習にも目を向けることで、休みやすさや働き続けやすさを改善できます。
育児や介護に合わせた制度が広がった
育児・介護休業法の改正内容は、2025年4月と10月に施行されました。
2025年4月には、介護離職を防ぐための情報提供や意向確認などが強化されました。また、3歳未満の子どもを育てる労働者がテレワークを選べるよう、企業には導入を検討する努力義務が設けられています。
同年10月には、3歳から小学校就学前までの子どもを育てる人に向けて、企業が複数の柔軟な働き方を用意する仕組みも始まりました。選択肢には、始業時刻の変更、テレワーク、休暇、短時間勤務などがあります。企業は用意した措置を対象者へ知らせ、本人はその中から利用するものを選びます。
制度ごとに対象者や利用条件は異なります。実際の利用については、勤務先の制度や公的な案内を確認することになります。
テレワークやフレックスタイム制が選択肢になった
テレワークは、情報通信技術を利用し、働く場所を柔軟にする方法です。通勤時間を減らせるほか、育児や介護と仕事を両立する助けになるとされています。
ただし、自宅で働けば自動的に仕事と生活の調和が取れるわけではありません。勤務時間や連絡方法を決めずに働き続けると、仕事と生活の境目が曖昧になることもあります。
フレックスタイム制では、あらかじめ定められた総労働時間の範囲内で、労働者が始業と終業の時刻を決められます。通院や送迎などへ時間を合わせやすくなりますが、制度が導入されている職場や対象業務で利用するものです。
ワークライフバランスで誤解されやすいこと
ワークライフバランスは広く知られるようになりましたが、「仕事を減らすための考え」「私生活を優先する制度」と受け取られることもあります。
実際には、仕事か生活のどちらかを選ぶのではなく、両方を無理なく続けられる働き方を考えるものです。
プライベートだけを優先する考えではない
仕事は収入を得て生活を支える役割を持っています。仕事にやりがいや達成感を感じる人もいるでしょう。
そのため、勤務時間を短くすることだけがワークライフバランスではありません。収入や雇用が不安定になったり、短い時間へ業務が集中したりすれば、生活の負担が増える可能性もあります。
働く時間だけでなく、仕事内容、収入、休息を含め、続けやすい状態を考えることになります。
個人の時間管理だけで決まるものではない
予定表を工夫したり、家事の手間を減らしたりする方法は、生活の負担を軽くする助けになります。
しかし、仕事量が多すぎる、人手が足りない、休暇を取りにくいといった問題は、個人の工夫だけでは対応しにくいものです。企業による業務の見直しや、育児・介護を支える社会の仕組みが組み合わさることで、働き方の選択肢を利用しやすくなります。
全員に同じ働き方が合うわけではない
自宅で働くほうが集中しやすい人もいれば、職場へ出勤したほうが仕事と生活を切り替えやすい人もいます。早い時間から働きたい人と、家族の予定に合わせて始業を遅らせたい人でも、望む働き方は異なります。
柔軟な働き方とは、全員をテレワークや短時間勤務へ移すことではありません。仕事の内容や本人の希望に応じて、選べる範囲を広げることに意味があります。
Q&A
まとめ
ワークライフバランスが重視される背景には、長時間労働の見直し、共働き世帯の増加、育児や介護との両立、働く人の事情や価値観の変化があります。
仕事と私生活を同じ時間に分けるのではなく、そのときの暮らしに合わせ、どちらも無理なく続けられる状態を目指す考えです。
テレワークやフレックスタイム制、育児・介護との両立支援など、働き方の選択肢は広がってきました。制度を用意するだけでなく、仕事量や職場の慣習にも目を向けることで、それぞれの生活に合った働き方を選びやすくなります。
参考情報
- 内閣府男女共同参画局「仕事と生活の調和とは(定義)」
- 内閣府男女共同参画局「政府の取組」
- 内閣府男女共同参画局「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)レポート2010」
- 内閣府男女共同参画局『令和7年版男女共同参画白書』「共働き世帯数と専業主婦世帯数の推移」
- 厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制」
- 厚生労働省「年次有給休暇の時季指定」
- 厚生労働省「育児・介護休業法について」
- 厚生労働省「テレワーク総合ポータル」
- 厚生労働省「フレックスタイム制とは」
※育児・介護休業や労働時間に関する制度は、雇用形態、勤務先の規定、業務内容などによって利用条件が異なります。具体的な利用方法は、勤務先の案内や厚生労働省の最新情報をご確認ください。
