「あのね、それは違うんだよ」「そうじゃなくてさ」「だから、さっきから言ってるのは……」。伝えられた内容そのものより、最初の言い方が妙に引っかかることがあります。
露骨に怒られたわけでも、責める言葉を使われたわけでもない。それなのに「訂正された」「たしなめられた」「分かっていない人へ説明された」ように感じることがあります。
こうした印象は、特定の言葉一つだけで決まるとは限りません。前置きや切り返し、話す順番、声の調子、間の取り方、相手との関係、その後に何が続くかまで含めて受け取られます。
同じ言葉でも、親しげに聞こえる場面もあれば、言い聞かされているように聞こえる場面もあります。その違いには、言葉の意味だけでは説明しきれない会話の流れが関わっています。
言い聞かされるような印象は言葉だけで決まるとは限らない
会話では「何を言われたか」だけでなく、「どのように話が始まったか」も印象に残ります。
たとえば、
「あのね、それは違うんだよ」
と言われる場合と、
「私は少し違うふうに考えていて」
と言われる場合では、伝えようとしている内容が近くても受け取り方は変わります。
また、
「そうじゃなくてさ、私が言いたかったのは……」
という言い方では、直前の内容をいったん打ち消してから自分の説明へ進みます。聞き手には「自分の理解を正された」という感覚が残ることもあるでしょう。
ここで気になっているのは、一つの単語だけではありません。
自分がまだ話している途中だったのか、最後まで聞いてもらったのか。相手がこちらの発言をいったん受け止めてから話し始めたのか、それともすぐ訂正へ移ったのか。
相手がこちらの発言をどう受け止め、どのタイミングで自分の話へ移ったかも、言い方の印象を見るうえで大切なポイントです。
前置きや切り返しによって印象が変わることがある
日常会話には、話を始めたり、相手の発言を訂正したり、前の説明を受けて話を続けたりするためのさまざまな表現があります。
「あのね」「そうじゃなくて」「だから」もその例ですが、それぞれの役割は同じではありません。
一つひとつを見ると、同じように「言い聞かされた」と感じる場面があっても、その理由まで同じとは限らないことが分かります。
「あのね」は呼びかけにも訂正の前置きにもなる
「あのね」は、親しい相手へ話しかけるときによく使われます。
「あのね、今日こんなことがあったんだ」
「あのね、ちょっと聞いてほしいことがあるの」
という使い方なら、これから話したいことがあると相手へ知らせる呼びかけとして聞こえます。
一方、『日本語日常会話コーパス』を用いた研究では、親しい間柄でも、意見を切り出す場面や相手の意見を正す場面、説明を補う場面などで「あのね」が前置きとして使われる例が報告されています。
そのため、
「あのね、それはそういう意味じゃないよ」
「あのね、私が言っているのはそこじゃなくて」
と続けば、「あのね」そのものに否定の意味がなくても、受け手には「これから訂正される」という印象が残ることがあります。
だからといって、「あのね」が上から目線の言葉というわけではありません。
親しく話しかけるときにも使われる表現なので、直後に何を言ったのか、どのタイミングで使ったのかまで含めて見る必要があります。
「そうじゃなくて」は直前の内容を打ち消して言い直す表現
「あのね」と比べると、「そうじゃなくて」は訂正との関係が分かりやすい表現です。
たとえば、
「つまり明日は中止なんだね」
「そうじゃなくて、時間を変更するってこと」
という会話では、相手の理解を修正しています。
一方、
「いや、そうじゃなくて……私が言いたかったのは別のことで」
のように、自分自身の発言を言い直すときにも使えます。
そのため、「そうじゃなくて=相手を否定するための言葉」とだけ考えるのも適切ではありません。
ただ、相手がまだ説明している途中で、
「そうじゃなくてさ」
と入れば、「最後まで聞く前に違うと決められた」と感じる人もいるでしょう。
相手が話し終えたあとで、
「なるほど。私の説明が分かりにくかったかも。言いたかったのは……」
と続ける場合では、同じ訂正でも入り方が違うため、聞こえ方も変わってきます。
何を訂正したかだけではなく、いつ訂正へ入ったのかも重要です。
「だから」は前に話した内容との関係でも印象が変わる
「だから」は、前に述べたことを受けて次の内容へつなぐときに使われます。
「今日は雨が降りそう。だから、傘を持っていこう」
なら、前後の内容を結び付けています。
ところが会話では、
「だから、さっきから言ってるでしょ」
「だから、それじゃ間に合わないんだって」
のように使われることがあります。
この場合は、前に説明したことをもう一度示す流れが加わっています。
聞き手によっては、理由を説明されたというより、「一度言われたことを理解できなかったので、もう一度教えられている」ように感じることもあります。
一方で、
「今日は混みそうだよ。だから、少し早く出よう」
なら、同じ「だから」でもかなり聞こえ方が違います。
「だから」という言葉そのものに説教や非難の意味があるのではありません。前後のやり取りまで含めると、普通の説明にも、言い直しにも聞こえる理由が見えてきます。
話すタイミングや声の調子、相手との関係も影響する
文章にすると同じ言葉でも、実際の会話では声や間の情報も一緒に伝わります。
「あのね」と明るく話しかける場合と、少し間を置き低めの調子で「あのね……」と話し始める場合では、同じ文字でも聞こえ方は同じではありません。
「だから、明日は少し早く行こう」と穏やかに続ける場合と、「だから!」と語気を込めて返す場合でも違います。
声の高さや話す速さなど、言葉以外の音声的な特徴と話者への印象との関係も研究されています。
ただし、そうした研究が「言い聞かされている感じ」そのものを調べたわけではありません。あくまで、同じ言葉でも音声的な特徴によって話者への印象が変わり得ることを考える手がかりです。
話を最後まで聞いてもらえたかも印象に関わる
言い方が引っかかる場面では、使われた言葉より「話を途中で止められたこと」が気になっていることもあります。
たとえば、自分が説明している途中で、
「あのね、それは……」
「そうじゃなくて」
と入られれば、訂正内容より先に「まだ話し終わっていないのに」と感じることがあります。
反対に、最後まで話したあとで、
「そういうことなんだね。私は少し違って考えていて」
と返されれば、反対意見であっても受ける印象は違ってきます。
意見が一致しているかどうかとは別に、自分の発言をいったん受け取ってもらえたかどうかが、聞き手にとって気になることもあるということです。
ただし、相手の発言に途中から重なることが、いつも否定や会話の妨害になるわけではありません。
日本語の会話を調べた研究では、割り込みの中にも、相手へのフィードバックや補足、確認、関連する質問、情報の追加など、会話を進める働きを持つものが確認されています。
そのため、「途中から話した」という事実だけで、相手の話を奪ったとは決められません。
相手の発言を押し切る形だったのか、補足や確認として会話につながる形だったのかでも違います。
相手との関係によって会話への入り方も変わる
会話へ入るタイミングや割り込み方は、相手との関係によって違いがみられることがあります。
普段からくだけた話し方をする家族や友人との会話と、初対面やまだ距離のある相手との会話では、話し始めるタイミングが同じになるとは限りません。
友人同士と初対面同士の会話を比較した研究では、相手が話し始めた直後に割り込む例は、初対面同士のほうが少ないという結果が報告されています。
この研究が「初対面だと同じ言い方が不快になる」と示しているわけではありません。
それでも、相手との関係によって、会話へ入るタイミングや話者交替の仕方に違いが出ることがあると考える手がかりにはなります。
言葉だけでなく、「誰が誰に、どのような関係の中で言ったのか」も、会話を見るうえでは無視できません。
訂正や説明を受ける側になると気になることもある
「あのね、それは……」
「だから、何度も言ってるけど……」
と続くと、一方が相手の理解を正したり、改めて説明したりする会話になりやすくなります。
知らないことを教えてもらう場面なら、それほど気にならないこともあります。
ところが、対等に意見を交わしている途中だったり、聞き手がすでに内容を理解していたりすると、「分かっていない人として扱われた」と感じる人もいるでしょう。
「上から言われた感じ」が生まれる理由を考えるときは、特定の言葉だけを見るより、その会話の中で相手の発言がどのように扱われ、誰が訂正や説明を受ける側になっていたのかを見るほうが分かりやすいこともあります。
言い聞かされる感じを弱めるには?
違う意見を持つことや、誤解を訂正すること自体を避ける必要はありません。
変えやすいのは、意見そのものより最初の一言と説明へ入る順番です。
たとえば、
「あのね、それ違うよ」
より、
「そう考えたんだね。私は少し違って受け取っていて」
とすれば、相手の考えを一度受け取ってから違う意見を伝えられます。
「そうじゃなくて、私が言ってるのは……」
より、
「私の説明が分かりにくかったかも。言いたかったのは……」
とすれば、相手の理解を正す形から、自分の説明を言い直す形へ変えられます。
「だから、何回も言ってるけど」
より、
「前にも少し話したけど、気になっているのはここなんだ」
とすれば、同じ内容を繰り返しても「分かっていない相手へ教え直す」という印象は弱まりやすくなります。
これは、すべて敬語へ変えればよいという話でもありません。
丁寧な言葉を使っていても、相手が話している途中で訂正を始めれば、引っかかる人はいます。
言葉遣いの丁寧さだけでなく、相手の発言を受け取ったうえで自分の話へ移っているかも、会話の印象を考えるポイントです。
気になる側も一つの言葉だけで相手の意図を決めつけない
反対に、聞く側も「あのね」「そうじゃなくて」「だから」という一語だけで、相手が見下している、説教しようとしていると決める必要はありません。
「あのね」は親しい呼びかけにもなります。「そうじゃなくて」は誤解を解くために必要なことがあります。「だから」も前後の話をつなぐ一般的な表現です。
言い方が引っかかったときは、
- 話を最後まで聞いてくれたか
- 本当に自分の意見を否定されたのか
- 誤解を解くために説明を言い直しているだけなのか
- 声の調子や間はどうだったか
- 普段どのような話し方をする関係なのか
- 同じ形で何度も訂正されていないか
まで含めてみると、なぜ気になったのかを考えやすくなります。
その一語が何を意味するかだけではなく、会話のどこで、誰から、どんな言い方で、何の前置きや切り返しとして使われたのか。 そこまで含めると、同じ内容でも違って聞こえる理由が見えてきます。
まとめ
「あのね」「そうじゃなくて」「だから」は、それぞれ役割の異なる表現です。
「あのね」は親しい呼びかけだけでなく、意見や訂正へ入る前置きとして使われることがあります。「そうじゃなくて」は直前の内容を打ち消して言い直す表現で、「だから」は前の話を受けて説明を続ける場面などで使われます。
これらをまとめて「上から目線の言葉」と考えることはできません。
ただし、訂正や説明へ入る前に使われたり、相手が話している途中で切り返したりすると、「分かっていない自分へ説明された」「言い聞かされた」ように感じることがあります。
一方、話が途中で重なること自体が、必ず会話の妨害になるわけでもありません。補足や確認など、会話を進める形で言葉が重なることもあります。
声の調子、話し始めるタイミング、相手との関係、その後に続く内容まで含めて、会話の印象は作られます。
何を言うかだけでなく、相手の話をどう受け取ってから、どんな言い方で自分の話へ移るのか。そこに、同じ内容でも印象が変わる理由があります。
参考情報
- 加藤恵梨「感動詞『あのね』の分析―『日本語日常会話コーパス』を用いて―」人工知能学会 言語・音声理解と対話処理研究会資料
- 祁福鼎・鄒暁婷「日本語における割り込み発話の考察―親疎関係の視点から―」『学芸国語国文学』
- 内田照久・中畝菜穂子「声の高さと発話速度が話者の性格印象に与える影響」『心理学研究』
- 内田照久「音声の発話速度と休止時間が話者の性格印象と自然なわかりやすさに与える影響」『教育心理学研究』
