粒子加速器とは何をする装置?粒子を速くする理由と身近な用途

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「粒子加速器」と聞くと、巨大なリングの中を何かがものすごい速さで走っている姿を思い浮かべるかもしれません。

名前のとおり粒子を加速する装置ですが、速さの記録を作ることが目的ではありません。

粒子加速器は、電子や陽子などの電気を帯びた粒子に大きなエネルギーを与え、物質の内部を調べたり、研究に使う光や別の粒子を作ったりする装置です。

高いエネルギーを持つ粒子同士を衝突させる装置もあれば、粒子を物質へ当てるもの、電子から強い光を作るものもあります。

用途も素粒子や原子核の研究だけではありません。現在では物質・生命科学、医療、産業など幅広い分野で加速器が使われています。

粒子をものすごく速くすること自体が目的ではなく、必要なエネルギーを粒子に与え、その先の実験や利用につなげることが粒子加速器の役割です。

目次

粒子加速器は粒子に大きなエネルギーを与える装置

粒子加速器が直接加速する代表的なものは、電子や陽子、イオンなどの電気を帯びた粒子です。

イオンとは、電子を失ったり受け取ったりすることで電気を帯びた原子や分子などを指します。

加速器では、多数の粒子をある方向へそろえて進ませます。このまとまった粒子の流れが粒子ビームです。以降に登場する「陽子ビーム」「電子ビーム」も、この粒子の流れを意味します。

高エネルギー加速器研究機構(KEK)は、高エネルギー加速器を、電子や陽子などの粒子を光の速度近くまで加速して高いエネルギー状態を作る装置と説明しています。

たとえば大強度陽子加速器施設J-PARCでは陽子を加速して研究に利用しており、30GeVの陽子は光速の約99.95%に達します。

GeV(ギガ電子ボルト)は、粒子が持つエネルギーを表す単位です。1GeVは10億電子ボルトに当たります。

「すでに光速の99.95%なら、さらに加速してもほとんど変わらないのでは」と感じるかもしれません。

質量を持つ粒子は光速そのものには到達できません。光速に近づくほど、さらにエネルギーを与えても速度の増え方は小さくなります。その一方で、粒子が持つエネルギーは増えていきます。

そのため高エネルギー加速器では、どこまで速度を上げられるかより、どれだけ高いエネルギーの粒子ビームを作れるかが重要になります。

ブラウン管にも電子を加速する仕組みがあった

「粒子加速器」という名前から、CERNのLHC(大型ハドロン衝突型加速器)のような巨大研究施設を想像する人も多いでしょう。

しかし、粒子を加速する仕組み自体は、巨大研究施設だけにあるものではありません。

かつて家庭で広く使われていたブラウン管テレビにも、電子を加速して画面へ飛ばす仕組みがありました。KEKも、高エネルギーではない身近な加速器の例としてブラウン管を挙げています。

巨大施設とブラウン管テレビでは規模も目的も大きく異なります。それでも、「電気を帯びた粒子へエネルギーを与え、目的に応じて利用する」という基本的な考え方には共通する部分があります。

粒子加速器は何のために作られた?

粒子加速器が発達した大きな理由は、原子核の内部を詳しく調べるためでした。

20世紀前半には、原子や原子核についての研究が急速に進みます。しかし、原子核のような非常に小さな対象を調べるには、高いエネルギーを持った粒子を原子核へ当て、そこで起こる反応を観測する方法が必要でした。

CERNは、加速器が1930年代に、原子核の構造を調べるための高エネルギー粒子を得る目的で作られたと説明しています。

加速器が登場したことで、自然界に存在する放射線だけに頼らず、実験に合わせて粒子の種類やエネルギーを制御したビームを作ることができるようになりました。

その後、研究対象は原子核からさらに小さな世界へ広がっていきます。陽子や中性子の内部にはクォークがあり、そのほかにも電子やニュートリノなど多くの素粒子が存在します。

高いエネルギーを扱える加速器が作られるにつれて、こうした素粒子の性質や、自然界で働く基本的な法則を詳しく調べられるようになりました。

さらに、加速器から得られる強い光や特殊な粒子ビームそのものにも大きな利用価値があります。現在では基礎物理学だけでなく、材料科学や生命科学、医療、産業へと用途が広がっています。

原子核の内部を調べるために発達した加速器は、現在では極小の世界を探るだけでなく、さまざまな研究や技術に必要なビームを生み出す役割も担っています。

粒子は電場で加速し、磁場で進む方向を変える

目に見えないほど小さな粒子を、どのように加速しているのでしょうか。

基本となるのは電場と磁場です。

電子や陽子などの電荷を持つ粒子には、電場を使って力を加えられます。高エネルギー加速器では、高周波加速空洞と呼ばれる装置などを利用し、通過する粒子へエネルギーを与えます。

一方、磁石は主に粒子ビームの進行方向を曲げたり、広がろうとするビームを細く集めたりするために使われます。

粒子が空気中の分子へ何度もぶつかってしまえば、狙った状態のビームを保つのも難しくなります。そのため粒子が通るビームパイプの内部は、高い真空状態に保たれています。

J-PARCでも、陽子ビームが空気中の酸素や窒素に邪魔されないよう、ビームが通る部分を高い真空にしています。

直線型と円形がある

加速器の代表的な形には、直線型加速器と円形加速器があります。

直線型加速器では、ほぼ一直線に並べた装置の中を粒子が進みながらエネルギーを得ます。

円形加速器では磁石を使って粒子の進む方向を曲げ、リング状の経路を周回させます。同じ加速部分を繰り返し通過させながら、粒子のエネルギーを高められます。

CERNのLHCは、円形加速器の代表的な例です。

ただし、すべての粒子加速器がLHCのように粒子同士を衝突させるための装置ではありません。

加速した粒子を固定された標的へ当てる装置もあれば、放射光を作ることを目的とした加速器もあります。

中性子やニュートリノはそのまま電場で加速しない

加速器施設では、中性子やニュートリノといった粒子も研究に利用されています。

ただし、これらを電子や陽子と同じ方法で電場によって直接加速しているわけではありません。

電場によって直接加速するには、基本的に粒子が電荷を持っている必要があります。中性子やニュートリノは電気的に中性なので、加速した陽子などを標的へ当て、その反応を利用して作ることができます。

J-PARCでは、高エネルギーの陽子ビームを利用して中性子、ミュオン、ニュートリノなどを生み出し、それぞれの研究に使っています。

「加速器施設で使われている粒子」と「加速器が直接加速している粒子」は、必ずしも同じではありません。

なぜ粒子をそこまで高いエネルギーにするの?

粒子へ大きなエネルギーを与える理由は一つではありません。

代表的なのは、非常に小さな構造を調べること、衝突から別の粒子を作ること、研究に必要な光や粒子ビームを生み出すことです。

1. 高エネルギーほど小さな世界を調べやすい

粒子を高エネルギーにすると、なぜ小さな世界を調べやすくなるのでしょうか。

量子の世界では、電子や陽子のような粒子には波としての性質もあります。粒子の運動量が大きくなるほど、それに対応する波長は短くなります。

顕微鏡でも、より短い波長を使うほど細かな構造を見分けやすくなります。それと似た考え方で、高いエネルギー・運動量を持つ粒子ほど、より小さな距離の構造を探るのに向いています。

原子の内部から原子核、そのさらに内部へと研究対象が小さくなるにつれ、より高いエネルギーを扱える加速器が求められてきた理由の一つがここにあります。

2. 衝突から別の粒子を作る

高エネルギーの粒子同士を衝突させると、衝突点へ大きなエネルギーを集中させることができます。

アインシュタインの式「E=mc²」が示すように、エネルギーと質量には関係があります。十分なエネルギーを持つ衝突では、そのエネルギーから別の粒子が生じる場合があります。

CERNのLHCでは陽子などを衝突させ、そこで生じた粒子を大型の測定器で観測します。

実験で重要なのは、単に粒子を「壊す」ことではありません。

衝突後に現れた粒子の種類、エネルギー、飛んでいった方向などを詳しく測定し、衝突の瞬間にどのような反応が起きたのかを調べます。

加速器が「巨大な顕微鏡」にたとえられることがありますが、普通の顕微鏡のように対象の写真を撮っているわけではありません。衝突後に残された情報を手がかりに、直接見ることのできない粒子の性質を探っています。

3. 強い光や別の粒子を作る

粒子加速器には、粒子同士を衝突させる以外の重要な役割もあります。

高速の電子の進行方向を磁石で曲げると、放射光と呼ばれる非常に明るい光が生じます。

放射光施設では、赤外線や可視光、X線など幅広い電磁波が研究に利用されています。こうした光を使うことで、物質の構造や性質を原子・分子に近い細かな尺度で調べられます。

また、高エネルギーの陽子を標的へ当て、中性子やミュオンなどを作って研究用のビームとして利用することもできます。

粒子加速器は、粒子そのものを調べる装置だけではなく、ほかの研究に必要な特殊な光や粒子を作り出す装置でもあります。

粒子加速器は何の役に立っている?

巨大な加速器は素粒子研究のニュースで取り上げられることが多いため、「宇宙の謎を調べる研究専用の装置」という印象があるかもしれません。

実際には、加速器の用途はかなり広くなっています。

素粒子や物質の基本法則を調べる

CERNのLHCやKEKのSuperKEKBなどでは、高いエネルギーを持った粒子を衝突させ、その反応から素粒子の性質を調べています。

私たちの身の回りにある物質は原子からできています。原子には原子核と電子があり、原子核には陽子と中性子があります。さらに陽子と中性子の内部にはクォークがあります。

こうした階層をさらに深く調べる研究は、「物質は何からできているのか」「自然界ではどのような基本的な法則が働いているのか」という根本的な疑問につながります。

物質や生命の構造を調べる

放射光、中性子、ミュオンなども、物質の内部を調べるための道具になります。

たとえば材料の原子配列を調べたり、物質内部の磁気的な性質を研究したり、生命活動に関係する分子の立体構造を調べたりする研究があります。

そのため加速器は、素粒子物理学だけでなく、材料科学、化学、生命科学などでも活用されています。

医療や産業で使われる加速器のほうが数は多い

巨大な研究施設は目立つ存在ですが、世界中にある加速器の大半を占めているわけではありません。

IAEA(国際原子力機関)の資料では、世界で数万台規模の粒子加速器が利用されており、97%を超える装置が医療または商業用途とされています。

医療では、放射線治療に使われる線形加速器や、陽子などの粒子を利用する治療装置があります。診断などに利用される放射性同位元素の製造にも加速器が使われています。

産業では、半導体製造で材料へイオンを打ち込むイオン注入、材料の加工や改質、製品の検査などに加速器技術が利用されています。

数の上では、巨大な素粒子研究施設よりも、医療や産業で使われている加速器のほうが圧倒的に多いのです。

まとめ

粒子加速器は、電子や陽子などの電気を帯びた粒子へ大きなエネルギーを与える装置です。

もともとは原子核の内部を詳しく調べるために発達し、その後、研究対象は素粒子や自然界で働く基本的な法則へ広がりました。

高いエネルギーを持つ粒子を使えば、非常に小さな構造を探ることができます。粒子同士を衝突させ、そこで生まれた粒子を調べる研究も行われています。

一方、加速器の役割は衝突実験だけではありません。放射光を作ったり、陽子を標的へ当てて中性子やミュオンなどを作ったりする施設もあります。

さらに現在では、材料・生命科学から医療、半導体などの産業分野まで用途が広がっています。世界にある加速器の多くは、巨大研究施設ではなく医療や商業用途で働いています。

粒子を速くすること自体がゴールではありません。小さな世界を調べたり、さまざまな研究や技術に必要な光・粒子を作ったりするために、大きなエネルギーを粒子へ与えること。それが粒子加速器の基本的な役割です。

参考情報

  • 高エネルギー加速器研究機構(KEK)「加速器とは」
  • 欧州原子核研究機構(CERN)「How an accelerator works」
  • 大強度陽子加速器施設(J-PARC)「J-PARCの加速器群」
  • 高エネルギー加速器研究機構(KEK)「KEKの目指すもの」
  • International Atomic Energy Agency(IAEA)「Decommissioning of Particle Accelerators」IAEA Nuclear Energy Series No. NW-T-2.9, 2020
  • International Atomic Energy Agency(IAEA)「The Multiple Benefits of Accelerators」

この記事を書いた人

気になったテーマを中心に、公開情報や資料を読みながら記事をまとめています。背景や違いが見えにくい話題も、公式サイトや公開資料を確認しつつ、できるだけわかりやすく整理してお届けしています。

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