キャラクターへの同一化は感情移入と何が違う?物語に入り込む仕組み

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小説や漫画、アニメ、映画、ゲームなどを楽しんでいると、キャラクターの成功を自分のことのように喜んだり、その人物の目線で物語を見ているように感じたりすることがあります。

こうした体験と関係するのが、キャラクターへの「同一化」です。

日常会話では「感情移入」とかなり近い意味で使われることもありますが、メディア研究では少し違った反応として扱われています。

単にキャラクターを好きになることでも、性格が似ていることでもありません。キャラクターの視点や感情、目標を一時的に取り込み、その人物の側から物語を経験することが、同一化の大きな特徴です。

目次

キャラクターへの同一化とは?

キャラクターへの同一化とは、キャラクターの視点に入り込み、その人物の感情や目標を自分に近いものとして経験することを指します。

メディア研究では、単なる好意や共感とは少し違う体験として考えられてきました。

たとえば、主人公が大事な試合に挑んでいる場面を考えてみます。

「この主人公には勝ってほしい」と外側から応援するだけなら、好意や共感に近い反応です。

一方で、「ここでは絶対に勝ちたい」「この相手には負けられない」と主人公の目標を自分のことのように感じ、試合をその人物の立場から経験しているような感覚になる場合は、同一化に近いと考えられます。

もちろん、本当に自分が誰なのか分からなくなるという意味ではありません。

物語に触れているあいだ、登場人物が知っていることや感じていること、目指しているものを追いながら、その人物の立場へ視点を移すような体験と考えると分かりやすいでしょう。

感情移入や「推し」とは何が違う?

「同一化」「感情移入」「共感」「憧れ」は重なる部分がありますが、すべて同じ反応ではありません。

日常語の「感情移入」はかなり幅広い意味で使われるため、普段の会話で厳密に区別する必要はありません。ただ、物語を見るときの体験を細かく分けると違いが見えてきます。

反応主な特徴
共感・感情移入キャラクターの悲しみや喜びを理解したり、一緒に感じたりする
同一化キャラクターの視点や目標を取り込み、その人物の側から物語を経験する
憧れ「この人物のようになりたい」と感じる
好意・親近感キャラクターを好きになったり身近に感じたりする

たとえば、悲しい出来事に遭った人物を見て「かわいそうだ」と感じることと、自分までその状況に置かれているように感じることは、似ているようで少し違います。

好きなキャラクターだからといって、必ず強く同一化しているとも限りません。

いわゆる「推し」のキャラクターを、自分とは別の存在として応援したり眺めたりする楽しみ方もあります。この場合は強い好意や親近感があっても、その人物の視点から物語を経験しているとは限りません。

「このキャラクターのようになりたい」という憧れについても、研究では通常の同一化とは分けて扱われることがあります。英語では wishful identification(その人物のようになりたいという願望的な同一視) と呼ばれる概念です。

同じキャラクターに対しても、「好き」「気持ちが分かる」「この人のようになりたい」「自分がこの人物になったように感じる」は、少しずつ異なる体験なのです。

「物語に入り込むこと」と同一化は同じではない

本や映画に夢中になり、周囲のことを忘れるほど物語へ引き込まれることがあります。

物語全体へ強く引き込まれる体験を考えるときには、「ナラティブ・トランスポーテーション」という概念が使われます。一方、キャラクターへの同一化は、特定の人物の視点や感情、目標を取り込み、その人物の側から物語を経験することに重点があります。

つまり、物語全体への没入と、特定のキャラクターへの同一化は関係していても同じものではありません。

たとえば、推理小説の謎解きそのものに夢中になっていても、特定の登場人物になったように感じているとは限りません。反対に、作品全体への没入感はそれほど強くなくても、ある人物の悩みや選択には深く入り込むことがあります。

二つが同時に起こる場合もあります。

自分と似ているキャラクターほど同一化しやすい?

自分とキャラクターの共通点は、同一化に関わる要素の一つです。

同じような経験をしていたり、価値観や悩みに共通点があったりすれば、「自分にも分かる」と感じやすくなります。

ただし、自分とそっくりな人物でなければ同一化できないわけではありません。

キャラクターとの共通点だけでなく、物語が誰の視点から描かれているか、その人物の考えや目標がどれほど伝わるかによっても、人物との距離は変わります。

一人称で心の内側まで描かれる人物なら、その人が何を知り、何を恐れ、どんな目的で動いているのかを追いやすくなります。

「この人はいま何を望んでいるのか」「なぜこの行動を選んだのか」「何を失うことを恐れているのか」といったことが作品から伝わると、その人物の立場も追いやすくなります。

現実では経験したことのない冒険をする主人公や、自分とは年齢も境遇も違う人物に入り込めるのは、外見やプロフィールが自分と一致しているかどうかだけで同一化が決まるわけではないからです。

ゲームではキャラクターとの距離が変わることもある

小説や映画では、読者や視聴者は基本的にキャラクターの行動を見守ります。

ゲームの場合は、そこに「自分で操作する」という要素が加わります。

プレイヤーが主人公を動かし、敵と戦ったり、道を選んだり、課題を達成したりすると、キャラクターの目的とプレイヤー自身のゲーム上の目的が重なることがあります。

たとえば「城へたどり着かなければならない」という主人公の目的が示されれば、プレイヤーにとっても「城へたどり着く」ことがそのまま目標になります。

アバターを使うゲームでは、操作しているキャラクターを「ゲーム世界の中の自分」に近い存在として感じることもあります。反対に、自分とは別の登場人物として操作する場合もあります。

理想の自分を重ねる人もいれば、設定された主人公を一人のキャラクターとして見守りながら遊ぶ人もいます。

そのため、「自分で操作している=そのキャラクターに同一化している」とは限りません。

同じゲームでも、キャラクターを「自分」として遊ぶか、別の人物として見るかで距離感は変わります。操作できるからこそ、映画や小説とは少し違ったキャラクターとの関わり方も生まれます。

同一化してもキャラクターに賛成しているとは限らない

キャラクターの立場から物語を見ることと、その人物の考え方を全面的に支持することも別です。

物語には、正しいことしかしない主人公ばかりが登場するわけではありません。判断を誤る人物や、道徳的に問題のある行動をする人物、敵役の視点から物語が描かれることもあります。

そのような人物について、「なぜこの人がそう考えたのか分かる」と感じることは、「その行動は正しい」と認めることとは同じではありません。

物語では、その人物が何を知り、何を恐れ、何を望んでいるのかを追うことができます。そのため、自分とは異なる価値観を持つ主人公や敵役でも、その人物の視点から物語を追える場合があります。

人物の立場を理解することと、その判断に賛成することは別です。

キャラクターへの同一化も、「その人物と同じ意見になること」を意味するわけではありません。

まとめ

キャラクターへの同一化は、単にキャラクターを好きになったり、その感情に共感したりすることだけではありません。

キャラクターの側から物語を経験するような感覚が、同一化の中心にあります。

感情移入や共感、憧れ、好意とは重なるところがある一方、必ずしも同じではありません。物語全体へ引き込まれるナラティブ・トランスポーテーションとも、関連しながら区別されています。

自分と似ていることだけでなく、誰の視点から物語が描かれているか、キャラクターの目標や感情がどのように示されているかによっても、人物との距離は変わります。

作品を見ていて「この人物の気持ちが分かる」を越え、「自分までこの場面を経験しているようだった」と感じたなら、そこにはキャラクターへの同一化が関わっているのかもしれません。

参考情報

  • van Krieken, K., Hoeken, H., & Sanders, J.(2017)「Evoking and Measuring Identification with Narrative Characters – A Linguistic Cues Framework」Frontiers in Psychology
  • Murphy, S. T., Frank, L. B., Chatterjee, J. S., & Baezconde-Garbanati, L.(2013)「Narrative versus Non-narrative: The Role of Identification, Transportation and Emotion in Reducing Health Disparities」Journal of Communication
  • Banks, J., & Bowman, N. D.(2021)「Some Assembly Required: Player Mental Models of Videogame Avatars」Frontiers in Psychology
  • de Jans, S., Cauberghe, V., & Hudders, L.(2019)「Tweens’ Wishful Identification and Parasocial Relationships With YouTubers」Frontiers in Psychology
  • van Krieken, K., Hoeken, H., & Sanders, J.(2017)「Evoking and Measuring Identification with Narrative Characters – A Linguistic Cues Framework」

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