電話に出た瞬間、普段より少し高い声で話していることがあります。家族や友人から「電話のときだけ声が違う」と言われ、自分でも気づいた経験がある人もいるでしょう。
電話では、対面より声が高くなったり、抑揚が大きくなったりする場合があります。表情が見えない相手へ声で反応を伝えること、周囲の騒音に負けないよう発声が変わること、通話の第一声に挨拶や応答の役割が集まっていることなどが関係します。
ただし、誰もが電話で高い声になるわけではありません。相手との関係、用件、周囲の音、普段の話し方によって変化の大きさは異なります。
電話では声の高さや抑揚が変わることがある
電話の声が対面と違って聞こえるのは、気のせいだけとは限りません。
英語話者の電話と対面での発話を比べた研究では、電話中の基本周波数がやや高くなった例が報告されています。基本周波数とは声帯の振動に関係する指標で、数値が上がると一般に声も高く聞こえます。
ただし、この研究は限られた条件で行われたものであり、現在のスマートフォン利用者や日本語話者に同じ変化が起こると示したものではありません。同じ人でも、仕事の電話と家族からの電話では話し方が異なります。
声のトーンは音程だけでは決まらない
日常会話で使われる「声のトーン」は、声の高さだけを指す言葉ではありません。
抑揚、声量、話す速さ、語尾の上げ下げ、声の響きなどが重なり、「明るい声」「落ち着いた声」「普段より高い声」という印象が生まれます。
平均的な音程が大きく変わっていなくても、声の高低差が広がり、語尾が上がると高い声に聞こえることがあります。電話の声を考える際は、音程そのものと、話し方全体の印象を分ける必要があります。
顔が見えないと声で反応を伝える場面が増える
対面の会話では、言葉や声だけでなく、表情、視線、うなずき、姿勢からも相手の反応が伝わります。
電話では、こうした視覚的な合図が使えません。うなずくだけでは相手に伝わらないため、「はい」「そうなんですね」と声に出して反応する必要があります。
相手の顔が見えない場面では、声の抑揚や相づちが普段より目立つこともあります。話を聞いていることや、会話を続ける意思を声で示そうとすると、対面とは異なる話し方になりやすいのです。
ただし、顔が見えないことだけで声の音程が上がるとは限りません。声量や言葉の選び方が変わる人もいれば、普段とほとんど変わらない人もいます。
笑顔で話すと声の響きにも違いが出る
笑顔で話すと、口元や声道の形が変わるため、声の響きにも違いが表れます。
小規模な音声実験では、笑顔を伴う発話で声の高さや共鳴の特徴が変わり、聞き手が声だけから違いを感じ取れる場合があると報告されました。
接客や仕事の電話で明るい表情を意識すると、音程や抑揚も普段とは違って聞こえる可能性があります。ただし、笑顔で話せば必ず高い声になるわけではありません。
声量、口の開き方、話す速さも変わるため、音程の高さより柔らかさや明るさとして感じられる場合もあります。
騒がしい場所では声量と高さが変わりやすい
駅や道路、店内などで電話をすると、静かな部屋にいるときより大きな声を出してしまうことがあります。
人は周囲が騒がしいと、自分の声を届きやすくするため発声を変えます。声量が増えるだけでなく、声の高さや発音の長さが変わる反応は「ロンバード効果」と呼ばれます。
実験では、話し声と重なる周波数を含む騒音のなかで、声量、発話時間、基本周波数が上がった例が確認されています。どのような音でも同じ変化が起きるのではなく、騒音の性質によって反応の出方は異なります。
電話をしているだけでロンバード効果が起きるわけではありません。静かな場所で通信状態がよければ、発声を大きく変える必要はないでしょう。
一方、駅や道路で相手の声が聞き取りにくいと、自分の声も届いていないように感じ、いつもより大きく話すことがあります。声量とともに音程も上がれば、「電話のときだけ高い声になる」という印象につながります。
相手に聞き返されると発声が変わることもある
通話中に「聞こえません」「もう一度お願いします」と言われると、次の言葉を大きく、はっきり発音しようとします。
その際、単に声量を上げるだけでなく、母音を長めにしたり、言葉を区切ったりする人もいます。こうした話し方の変化が、声の高さや抑揚の違いとして聞こえることがあります。
聞き返された経験が重なると、電話では最初から少し強めに発声する習慣が身に付く場合もあります。これは声を高く見せるためではなく、言葉を届けようとした結果として起こる変化です。
通話音質によって声質が変わって聞こえる
電話の声が違って聞こえる理由には、話し手の発声だけでなく、端末や通信方式も関係します。
通話方式によって伝えられる音の範囲は異なります。従来の狭い帯域を使う通話に対し、広帯域通話ではより広い範囲の音を伝える規格が用意されています。
音の細かな成分が十分に伝わらない場合、話し手の発声が変わっていなくても、対面とは異なる声質に聞こえます。低い声の響きが弱く感じられたり、音が軽く聞こえたりすることもあるでしょう。
つまり、「電話では声が高い」と感じる場面には、本人が話し方を変えているケースと、通信を通して聞こえ方が変わっているケースがあります。
電話の第一声は抑揚が目立ちやすい
電話に出た直後は、発信者名や番号が画面に表示されていても、詳しい用件や相手の様子までは分かりません。
「もしもし」「はい、お電話ありがとうございます」といった第一声には、挨拶、応答、相手の確認、会話の開始という複数の役割があります。そのため、通話が進んでからの発話よりも、声の高低差が目立つことがあります。
英語の電話会話を分析した研究では、通話の冒頭は中盤より基本周波数の変化幅が大きく、挨拶を含む発話では抑揚がさらに広がる傾向が報告されました。
これは、第一声の平均的な音程が必ず高くなるという結果ではありません。また、英語の挨拶を含む通話を調べた研究であり、日本語の「もしもし」が必ず同じ変化を示すと確認されたものでもありません。
電話の冒頭には挨拶や応答などの役割が重なっており、こうした特徴が抑揚の広がりに関係している可能性があります。
相手や用件が分かると、第一声とは異なる話し方へ変わる人もいます。家族からの電話ではすぐ普段の口調へ移り、仕事の電話では明瞭な抑揚を保つなど、会話の目的に合わせて声が切り替わります。
丁寧な電話だから声が高くなるとは限らない
仕事の電話や店への問い合わせでは、普段より高めの声を使う人がいます。そのため、高い声と丁寧な話し方が結びついているように感じられることがあります。
しかし、丁寧さは音程だけで決まりません。日本語と韓国語の丁寧な発話を調べた研究では、声の大きさや抑揚の幅などに違いが見られました。一方、声が高いほど丁寧に聞こえるという一貫した関係は示されていません。
高めの声でも、早口で語尾が聞き取りにくければ、慌ただしい印象になることがあります。低めの声でも、言葉を明瞭に発音し、相手が話し終えるのを待って応じれば、丁寧なやり取りはできます。
電話で声が高くなる背景には、礼儀だけでなく、聞き取りやすさへの意識や仕事上の話し方の習慣も関わっています。
電話の声が違っても作り声とは限らない
人は電話に限らず、相手や場所に合わせて声量や抑揚を変えています。
家族との会話、仕事上の挨拶、大勢の前での発表では、同じ人でも話し方は同じではありません。声を届ける距離や、相手との関係に合わせて発声を変えています。
電話での話し方も、声だけでやり取りする場面に合わせた変化の一つです。意識して明るい声を使う人もいれば、長く続けてきた電話応対の習慣が表れる人もいます。
普段とは声が違っていても、特別に演技をしているとは限りません。
電話声の変化には個人差がある
電話で声が大きく変わる人もいれば、対面とほぼ同じ声で話す人もいます。
親しい相手との通話では普段の話し方を保ち、知らない相手や仕事の電話では抑揚が広がる人もいます。静かな部屋では落ち着いた声でも、屋外では声量と高さが上がる場合があります。
性別だけで電話声の変化を分けることもできません。もともとの声の高さや、普段どのような電話応対をしているかによって、変化の目立ち方は異なります。
同じ人でも、通話の第一声と数分後では声が違うことがあります。相手や用件に合わせて話し方が変わるため、電話声は一つの決まった声ではありません。
Q&A
まとめ
電話で声が高く聞こえる背景には、話し手の発声と、通信を通した聞こえ方の両方があります。
顔が見えない会話では、相づちや抑揚を声に出して伝える場面が増えます。周囲が騒がしい場所では、ロンバード効果によって声量や音程が変わることもあります。
電話の第一声は、平均的な音程が必ず上がるというより、挨拶や応答の役割が重なって抑揚が目立ちやすい部分です。丁寧さについても、高い声だけで決まるものではありません。
相手との関係、用件、周囲の音、通話方式によって話し方や聞こえ方は変わります。「電話のときだけ声が違う」と感じるのは、こうした複数の変化が重なった結果です。
参考情報
- Hirson, Allen/French, Peter/Howard, David「Speech Fundamental Frequency over the Telephone and Face-to-Face: Some Implications for Forensic Phonetics」
- Bradshaw, Leahほか「Fundamental Frequency Variability over Time in Telephone Interactions」
- Stowe, Lauren M./Golob, Edward J.「Evidence that the Lombard Effect Is Frequency-Specific in Humans」
- Tartter, Vivien C.「Happy Talk: Perceptual and Acoustic Effects of Smiling on Speech」
- Idemaru, Kaori/Winter, Bodo/Brown, Lucien「Cross-Cultural Multimodal Politeness: The Phonetics of Japanese Deferential Speech in Comparison to Korean」
- International Telecommunication Union「ITU-T Recommendation G.722」
