袋に入った温かい麺を少しずつ汁へ移し、ミートソースやカレーあんを絡めて食べるソフト麺。給食で親しんだ人にとっては、柔らかな食感だけでなく、袋を開ける音や教室の風景まで思い出せるメニューです。
現在も学校給食で提供されている地域がありますが、以前より登場する機会が少なくなった学校もあります。米飯給食が増え、麺料理や献立の選択肢も広がりました。さらに、袋詰めや配送に対応する製麺業者の状況も、地域ごとの提供頻度に関係しています。
ソフト麺が減り始めた年は全国で統一されていません。献立や供給体制の変化に合わせ、地域ごとに少しずつ提供状況が変わってきました。
ソフト麺とはどのような麺?
ソフト麺の正式名称は「ソフトスパゲッティ式めん」です。自治体や学校給食会の資料では「ソフトスパゲティ式めん」と表記されることもあります。
名前にはスパゲッティと入っていますが、一般的なパスタと同じ食品ではありません。白く柔らかな見た目はうどんにも似ており、ミートソース、カレーあん、肉みそ、和風の汁など、幅広い味と組み合わせられました。
パン以外の主食として作られた
1960年代の学校給食では、パンが主な主食でした。ソフト麺は、パンとは異なる主食を献立へ取り入れるため、学校給食向けに作られた麺です。
全国製麺協同組合連合会の沿革では、1965年に東京都で学校給食麺の導入が始まったと記録されています。その後、関東や中部、中国地方などへ広がったとされています。
ただし、全国の学校へ同じ時期に普及したわけではありません。地域の製麺業者や配送範囲によって導入状況が異なり、何度も食べた人がいる一方、給食で一度も見たことがない人もいます。
袋に入っていたのには理由がある
ソフト麺と聞くと、透明な袋へ一食分ずつ入った姿を思い浮かべる人も多いでしょう。
給食用麺の細かな規格は地域によって異なります。神奈川県の規格では、ゆでた麺を一回分ずつ袋へ詰め、開口部を密封した後、袋ごと蒸気で殺菌する製造方法が定められています。
袋入りにすると一人分ずつ配りやすく、教室で麺を量り分ける必要がありません。児童や生徒は、自分で袋を開けて汁やソースへ加えられます。
一方、製造側には、麺をゆでて一食分ずつ量り、袋詰め、密封、殺菌まで行う工程が必要です。まとまった量を給食時間に間に合うよう届ける配送体制も欠かせません。
うどんともパスタとも違う柔らかな食感
ソフト麺はうどんのように見えますが、一般的なうどんと同じ規格ではありません。
神奈川県の規格では、準強力粉へ塩水を加えて麺を作り、熱湯でゆでた後に水洗いします。製品重量は粉の約2.2倍で、水分を多く含んだ柔らかな仕上がりです。水分量を抑えた「ハードめん」と区別される場合もあります。
一般的な乾燥パスタの歯応えとは異なり、汁やソースとなじみやすいのが特徴です。ソフト麺は、学校で配りやすく、和風にも洋風にも使える給食ならではの麺でした。
ソフト麺は現在も給食で提供されている
ソフト麺は現在も、一部地域で学校給食用の食品として扱われています。
神奈川県では、2026年度の登録物資にソフト麺が掲載され、複数の製麺業者が取り扱っています。愛知県の2024年度実績では、ソフトスパゲティ式めんが約321万食供給されました。同年度には、中華麺や白玉うどんも給食用として供給されています。
地域によって提供状況が異なる
給食の献立や食品の調達先は、自治体や給食センターによって変わります。
定期的にソフト麺が出る学校もあれば、年に数回だけ献立へ入る学校、長い間提供されていない学校もあります。同じ都道府県内でも、製麺業者からの距離や調理場の方針によって違いが生まれます。
親世代にはなじみのあるメニューでも、現在の子どもは知らない場合があります。反対に、今も給食で食べている地域では、特別に古いメニューという印象はないかもしれません。
ソフト麺はいつから減った?
提供回数が減った時期は、地域によって異なります。
ソフト麺だけの提供回数を長期間追った全国統計は確認されていません。米飯給食が増えた時期、ほかの麺が使われ始めた時期、製麺業者が事業を終えた時期も地域ごとに違います。
ある年を境に全国で急に減ったのではなく、主食や献立の選択肢が増える中で登場回数が少なくなり、製造や配送の事情から提供方法を見直した地域もあります。
ソフト麺が給食から徐々に減った4つの背景
ソフト麺の登場回数が少なくなった背景には、いくつかの事情が重なっています。
米飯給食の増加だけでなく、麺料理の種類が増えたことや、地域の製造・配送体制も関係しています。どの事情が大きかったかは地域によって異なります。
1.米飯給食を出す回数が増えた
学校給食へ米飯が正式に導入されたのは1976年です。その後、ご飯を提供する学校や回数が増えていきました。
近年の公立学校などでは、年間約190回の給食のうち、米飯給食が約140回を占めています。週平均では3.6回となり、残りの日にパンや麺が提供されています。
週5日程度の給食でご飯が3回から4回出れば、パンや麺を入れられる日は限られます。米飯給食の増加は、麺料理の登場機会が相対的に少なくなった背景の一つです。
2.献立と麺料理の選択肢が増えた
学校給食で使われる麺は、ソフト麺だけではありません。
神奈川県では、ソフト麺に続いて中華蒸し麺、生麺、ゆで麺、ラーメンなどが加わり、2002年にはパスタも導入されました。愛知県でも、ソフト麺のほかに中華麺や白玉うどんが供給されています。
郷土料理や海外の料理など、給食で扱われる献立そのものも多彩になりました。選べる主食や料理が増えたことも、ソフト麺の登場機会が少なくなった背景の一つとみられます。
3.製造と配送に専用の対応が必要
ソフト麺は、乾麺のように長期間保管し、使う日に学校でゆでる食品ではありません。
麺をゆでて水洗いし、一食分ずつ袋へ詰めます。密封と蒸気殺菌を行った後、指定された時間までに学校へ届けなければなりません。神奈川県の規格では、当日製造して配送する方法や、前日に袋詰めする場合の冷蔵保管方法も定められています。
近隣に対応できる製麺業者がなければ、自治体がソフト麺を使いたくても調達は難しくなります。遠方から仕入れる場合は、配送距離や製造量、費用も関係します。
4.製麺業者の廃業が影響した地域もある
給食用のソフト麺を作る業者が事業を終え、提供状況が変わった地域もあります。
茨城県ひたちなか市では、県内のソフト麺製造業者が2016年に廃業した後、市内の給食で提供されない時期がありました。その後は別地域の製麺業者から仕入れ、年に数回の提供が行われています。
学校給食では、必要な食数を決められた時刻までに安定して届ける必要があります。一社が製造を終えても、同じ条件で対応できる会社がすぐ見つかるとは限りません。
ソフト麺が懐かしく感じられる理由
ソフト麺を覚えている人の中には、味だけでなく、袋を開けて麺を移した手順まで思い出す人もいるでしょう。
温かい袋を手に取った感覚や、汁があふれないように少しずつ入れたことが、教室の風景や友人との会話に結び付いています。
袋の上から麺を分けていた人もいる
ソフト麺を一度にすべて汁へ入れると、器からあふれそうになることがありました。
袋の上から麺を二つや四つに分け、少しずつ入れて食べた人もいるでしょう。学校や世代によって食べ方は違いますが、自分で袋を開けて入れる量を調整する点は、ほかの給食メニューにはあまりない体験でした。
袋の上から麺を分けたことや、汁をこぼさないように食べたことまで覚えている人も少なくありません。
地域によって給食の思い出が異なる
ソフト麺は懐かしい給食として語られますが、食べた経験には地域差があります。
学校給食用麺が導入された時期や、製麺業者が供給できる範囲が違ったため、同じ年代でも「よく出た」という人と「見たことがない」という人がいます。
給食の話をしたときに経験が一致しないのは、記憶違いとは限りません。住んでいた地域によって、定番の主食や献立が違っていたためです。
昔の給食を振り返る献立に登場することもある
日常の献立としてソフト麺が出る地域もあれば、昔の給食を振り返る日に登場する地域もあります。
東京都立墨田工科高等学校では、2025年の全国学校給食週間に、細めのうどんを使った「ソフト麺風」のミートソースが提供されました。
同じ製品を用意できなくても、麺の食べ方やソースの組み合わせを再現することで、以前の給食を知る機会になります。
Q&A
まとめ
ソフト麺は、パン以外の主食を学校給食へ加えるために作られ、1960年代から地域ごとに広がりました。現在も学校給食用として供給されている地域があります。
提供回数が減った時期は全国で統一されていません。米飯給食の増加、献立や麺料理の多様化、袋詰めや殺菌を伴う製造工程、配送を担う業者の変化などが重なり、地域ごとに状況が変わってきました。
柔らかな麺の味だけでなく、袋を開けて少しずつ汁へ入れた経験まで含めて、ソフト麺は給食の記憶に残るメニューになっています。
参考資料
- 農林水産省「昭和から令和まで、年代別にみる学校給食の変遷」
- 農林水産省「京都府の学校給食 茶汁―ふるさと給食自慢」
- 全国製麺協同組合連合会「全国製麺協同組合連合会60年の歩み」
- 公益財団法人神奈川県学校給食会「学校給食用めん規格」
- 公益財団法人神奈川県学校給食会「登録物資規格書 ソフト麺」
- 愛知県「公益財団法人愛知県学校給食会の概要」
- 農林水産省「米粉をめぐる状況について」
- ひたちなか市立津田小学校「10月8日火曜日 給食・ソフトメンが登場」
- 東京都立墨田工科高等学校定時制「本日の給食!」
