子どもの頃に乳歯が抜け、大人の歯である永久歯に生え変わる。
この流れは多くの人が経験しますが、あらためて考えると不思議に感じるかもしれません。
「なぜ歯は何度も生え変わらないのか」
「永久歯が抜けたら、なぜ元に戻らないのか」
永久歯が一度きりなのは、歯が作られるタイミング、あごの成長、哺乳類としての体の仕組みと関係しています。
人間の歯は、最初から大人用の歯だけで成り立っているわけではありません。成長途中の小さなあごに合う乳歯と、大人のあごで長く使う永久歯が、役割を分けて用意されています。
人間の歯は何回生え変わるのか
人間の歯は、大きく分けると「乳歯」から「永久歯」へ移り変わります。
乳歯は、子どもの小さなあごに合わせて生える歯です。全部で20本あり、食べ物を噛むだけでなく、あごの成長や永久歯が生えてくる場所の目印としても役割を持っています。
一方、永久歯は大人の体で長く使うことを前提とした歯です。親知らずを含めると最大で32本あります。ただし、親知らずが生えない人や、抜いている人もいるため、大人の歯の本数は28〜32本とされることがあります。
ここで大切なのは、永久歯のすべてが乳歯と入れ替わるわけではない点です。
前歯や小臼歯の多くは乳歯と入れ替わる形で生えてきますが、奥歯の一部は乳歯の後ろに追加されるように生えてきます。代表的なのが、6歳ごろに生え始める第一大臼歯です。これは「6歳臼歯」とも呼ばれ、噛む力を支える大切な奥歯です。
つまり、人間の歯の生え変わりは、単純に「乳歯が全部抜けて、その場所に永久歯が全部生える」というものではありません。乳歯と入れ替わる歯と、新しく奥に加わる歯が組み合わさって、大人の歯並びが作られていきます。
なぜ乳歯と永久歯の二段階なのか
歯が二段階に分かれている理由は、体の成長と深く関係しています。
子どものあごは小さく、大人と同じ大きさの歯を最初から並べるだけのスペースがありません。もし生まれたときから永久歯だけだった場合、成長途中のあごには大きすぎて、歯並びやかみ合わせに大きな負担がかかる可能性があります。
そこで、幼少期には小さな乳歯が生え、あごが成長してから大きな永久歯へ移り変わる仕組みになっています。
乳歯は一時的な歯ではありますが、ただ抜けるまでの仮の歯というわけではありません。食べ物を噛む、発音を助ける、あごの成長を支える、永久歯が生える場所を保つといった役割があります。
そのため、乳歯から永久歯への生え変わりは、体の成長に合わせて歯の大きさや本数を調整する仕組みだと見ることができます。
永久歯はなぜ一回しか生え変わらないのか
永久歯が一度きりなのは、歯の作られ方と関係しています。
歯は、歯胚と呼ばれる“歯の芽”から作られます。乳歯も永久歯も、突然その場で作られるのではなく、体の中で早い時期から準備されています。
乳歯の歯胚は胎児期の早い段階から作られ始め、永久歯の歯胚もその後に準備されていきます。つまり、永久歯は乳歯が抜けたあとに急に作られるのではなく、体の中で時間をかけて用意されていた歯なのです。
一方、永久歯が生えたあとに、さらに次の歯を用意する歯胚は基本的に準備されていません。
そのため、永久歯が抜けても自然に次の歯が生えてくる仕組みにはなっていないのです。
永久歯は、最初から「長く使う前提」で作られた歯です。一度生えたあとに何度も取り替える歯ではなく、成長後のあごとかみ合わせを支えるための歯として用意されています。
歯は骨と同じようには再生しない
永久歯が抜けても元に戻らない理由を考えるとき、歯と骨の違いも重要です。
骨は折れても、体の働きによって修復されます。もちろん状態によって治療は必要ですが、骨には作り替えや修復を続ける性質があります。
一方、歯は骨と似て見えても、同じようには再生しません。
特に、歯の表面を覆うエナメル質はとても硬い組織ですが、一度大きく失われると、体の力だけで元通りに再生することは難しい部分です。初期の小さな変化では再石灰化が話題になることがありますが、欠けたり大きく失われたりしたエナメル質が、歯として自然に作り直されるわけではありません。
歯の内部には象牙質や歯髄などがありますが、完成した歯全体が新しく作り直されるわけではありません。
そのため、永久歯は「失ってもまた作り直す」より、「できるだけ長く保つ」ことを前提とした構造になっています。
この点が、骨とは大きく違うところです。
何度も歯が生え変わる動物もいる
人間の歯が一回しか永久歯に生え変わらないと聞くと、「動物もみんな同じなのか」と気になるかもしれません。
実際には、動物によって歯の生え変わり方は大きく違います。
一部の魚や爬虫類では、歯が抜けても次々に新しい歯が生えてくる種類があります。たとえば、サメの歯はよく知られています。使われた歯が抜けると、後ろに控えていた歯が前に出てくるような仕組みを持っています。
一方、人間を含む多くの哺乳類は、乳歯と永久歯の二段階で歯を使うタイプです。このように、一生のうちに乳歯と永久歯の2組の歯を持つ性質は、二生歯性と呼ばれることがあります。
哺乳類では、歯がただ何本もあればよいわけではありません。前歯、犬歯、小臼歯、大臼歯のように、場所によって形や役割が分かれています。食べ物を切る、裂く、すりつぶすといった働きを分担するため、歯並びやかみ合わせの安定が重要になります。
何度も歯が入れ替わるより、一度生えそろった歯を長く使う仕組みのほうが、哺乳類のかみ合わせには合っていると考えられます。
人間の食生活と歯の関係
人間は、硬いものをそのまま噛み砕くだけでなく、火や道具を使って食べ物を調理してきました。
調理によって食べ物を柔らかくしたり、小さく切ったりすることで、歯にかかる負担は変わります。もちろん、人間の歯にも強い噛む力は必要ですが、歯が何度も生え変わることよりも、安定したかみ合わせで長く使うことが重視される形になりました。
また、人間は言葉を話すときにも歯を使います。歯並びや前歯の位置は、発音や口元の動きにも関わります。
もし人間の歯が何度も生え変わる仕組みだった場合、歯並びやかみ合わせが安定しにくくなる可能性があります。歯が入れ替わるたびに、噛み方や発音への影響が出るかもしれません。
一度生えそろった永久歯を長く使う仕組みは、安定したかみ合わせや発音を支えるうえで重要だと考えられます。
永久歯が抜けると自然に戻らない理由
永久歯が抜けても自然に生え直さないのは、次に生える歯の芽が基本的に用意されていないためです。
乳歯が抜けたあとに永久歯が生えるのは、永久歯の歯胚があらかじめ準備されているからです。けれど、永久歯の次に生える「三番目の歯」は、通常は体の中に準備されていません。
そのため、永久歯を失った場合、自然に元通りの歯が生えてくることは基本的にありません。
歯を失った場合には、入れ歯、ブリッジ、インプラントなどの選択肢があります。ただし、どの方法が合うかは口の状態や健康状態によって違うため、歯科医院で相談する必要があります。
永久歯は、毎日の食事や会話に関わる大切な歯です。だからこそ、失ってから作り直すのではなく、できるだけ長く使えるように保つことが重視されます。
もし歯が何度も生え変わったらどうなる?
もし人間の歯が何度も生え変わる仕組みだったら、便利に思えるかもしれません。
虫歯になっても、抜けても、また新しい歯が生えてくるなら便利だと感じる人もいるでしょう。
しかし、何度も歯が生え変わることには別の問題も考えられます。
たとえば、歯並びが安定しにくくなる可能性があります。歯が入れ替わるたびに、上下の歯のかみ合わせも変わるからです。
かみ合わせが頻繁に変わると、食べ物を噛む効率が下がるかもしれません。発音や口元の動きにも影響が出る可能性があります。
人間は、一度生えそろった歯を長く使うことで、安定したかみ合わせを保っています。何度も生え変わらないことは不便に見えますが、別の見方をすれば、安定した生活に合った仕組みでもあります。
Q&A(よくある疑問)
まとめ
永久歯が一回しか生え変わらないのは、歯の作られ方と人間の成長過程に関係しています。
人間の歯は、子どもの小さなあごに合う乳歯と、大人のあごで長く使う永久歯に分かれています。乳歯は20本、永久歯は親知らずを含めると最大32本あり、すべての永久歯が乳歯と入れ替わるわけではありません。
歯は歯胚と呼ばれる歯の芽から作られます。乳歯や永久歯は体の中で早くから準備されていますが、永久歯の次に生える歯は基本的に用意されていません。
また、歯は骨のように元通りに作り直される組織ではなく、とくにエナメル質は大きく失われると自然には元に戻りにくい部分です。
永久歯が一度きりなのは、成長したあごとかみ合わせを長く安定させる仕組みの一部だと見ることができます。
※診断や治療を目的とした内容ではなく、永久歯が一回しか生え変わらない理由を、歯の成長と体の仕組みから一般的に紹介する内容です。
参考情報
- 8020推進財団「歯の本数の数え方」
- 日本歯科医師会 テーマパーク8020「歯の成長と変化」
- ライオン歯科衛生研究所「歯の生えかわり」
- 花王 クリアクリーン「口の中のふしぎ」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「歯・口腔の健康」
- Yu et al., “Molecular and cellular mechanisms of tooth development, homeostasis and repair”, Development, 2020
- Navin et al., “Enamel Regeneration – Current Progress and Challenges”, Journal of Clinical and Diagnostic Research, 2014
- Moradian-Oldak, “The Regeneration of Tooth Enamel”, Dimensions of Dental Hygiene, 2009
