春の新生活が始まってしばらくすると、「なんとなく気分が重い」「やる気が出にくい」「連休明けから調子が戻らない」と感じることがあります。こうした状態は、日常的に「五月病」と呼ばれることがあります。
ただし、五月病は正式な病名ではありません。新しい環境への適応がうまくいかず、体調不良ややる気の低下などがあらわれる状況を指す、身近な俗称として使われてきた言葉です。
では、なぜこの言葉には「五月」が入っているのでしょうか。そこには、日本の新年度の始まり方と、連休明けに出やすい心身の疲れが関係しています。
五月病とは何を指す言葉?
五月病とは、主に新年度の環境変化のあと、5月ごろに心身の不調を感じる状態を指す言葉です。
4月は、入学、進学、就職、異動、転勤、クラス替えなどが重なりやすい時期です。新しい人間関係や生活リズムに慣れようとして、普段より気を張って過ごす人も多くなります。
その緊張が続いたあと、ゴールデンウィークをきっかけに一度ペースがゆるみ、連休明けに疲れが表に出ることがあります。新しい環境で頑張っていた分だけ、休み明けに「前のように動けない」と感じやすくなるのです。
名前に「病」とついていますが、日常語としての五月病は、病名というより「新生活の疲れが5月ごろに出る状態」を表す言葉として使われています。
五月病の由来はどこにある?
五月病の由来は、もともと大学生の状態を指して使われたことにあるとされています。
厳しい受験を終えて大学に入ったものの、5月ごろになると虚脱感や無気力を覚える。そうした新入生の状態を表す言葉として広まり、やがて新入社員や新しい環境に入った人にも使われるようになったと考えられています。
五月病の由来をたどると、単に「5月はだるくなりやすい」という話ではなく、目標を達成したあとに生まれる空白や、新しい環境になじもうとする疲れが見えてきます。
もともとは大学生の言葉だった
今では社会人にも使われる「五月病」ですが、由来をたどると、大学生の不調を指す言葉として広まった側面があります。
厳しい受験を終えて大学に入ると、それまでの大きな目標が急になくなります。さらに、大学では高校までと違い、授業の選び方や人間関係も自分で決める場面が増えます。
自由になったはずなのに、何をしたらよいのかわからない。目標に向かって走っていた時期が終わり、気持ちがふっと空いてしまう。そんな戸惑いが、5月ごろに表に出ることがありました。
このように、五月病は古くからある病名というより、戦後の進学・受験・新生活の変化の中で広まった言葉と見られます。
なぜ5月に起こりやすいのか
五月病が5月と結びつくのは、日本の新年度が4月に始まることと関係しています。
4月は、新しい場所に慣れるために気を張りやすい時期です。最初は「頑張ろう」という気持ちがあり、多少の疲れがあっても勢いで動けることがあります。
ところが、5月に入ると新生活の緊張が少しずつゆるみます。さらにゴールデンウィークで生活リズムが変わると、連休明けに「また同じペースへ戻るのが重い」と感じることがあります。
4月に緊張が続き、5月の連休明けに疲れが表に出る流れが、「五月病」という名前と結びつきやすかったと考えられます。
4月の緊張が5月に表に出る
4月は、周囲に慣れるだけでも多くのエネルギーを使います。
新しい学校、新しい職場、新しい通学・通勤ルート、新しい人間関係。ひとつひとつは小さくても、重なると意外に疲れます。本人は普通に過ごしているつもりでも、体や心はずっと緊張していることがあります。
5月になると、その緊張がいったんほどけます。すると、これまで気づきにくかった疲れが出やすくなります。五月病が「連休明け」のイメージと結びつきやすいのは、この切り替わりがあるためです。
目標を達成したあとの空白も関係する
五月病の由来を考えるうえで見逃せないのが、「目標を達成したあとの空白」です。
受験に合格する、入社する、新しい環境に入る。これらは大きな節目です。そこまでは「合格したい」「採用されたい」「新生活をうまく始めたい」という目標があります。
けれど、実際に入ってみると、思っていた生活と違うことがあります。目標を達成したはずなのに、次の目標が見えない。頑張る理由が一度ぼやける。そうした感覚が、5月ごろの無気力感につながることがあります。
五月病という言葉が、もともと大学生の虚脱感や無気力と結びついていたのは、この「達成後の空白」と相性がよかったからです。
今の五月病は学生だけのものではない
現在では、五月病は大学生だけの言葉ではありません。
新入社員、異動した人、転職した人、新しい部署に入った人、子どもの進学に合わせて生活が変わった人など、さまざまな人に使われます。
社会人の場合は、「新しい職場で思ったように動けない」「人間関係に慣れない」「仕事の理想と現実の差を感じる」といった形で表れやすくなります。研修や配属のタイミングによって、似た不調が6月ごろに意識されることもあります。
五月病の中心にあるのは、5月そのものというより、新しい環境に慣れようとしたあとの疲れです。だからこそ、学生にも社会人にも使われる言葉になったと考えられます。
五月病という言葉の注意点
五月病はよく知られた言葉ですが、使い方には少し注意が必要です。
「五月病かもしれない」と軽く言える場面もありますが、気分の落ち込みや体調不良が長く続く場合は、単なる季節の気分だけとは限りません。五月病は正式な病名ではないため、その言葉だけでつらさを片づけてしまうと、状態が見えにくくなることがあります。
また、つらそうな人に対して「ただの五月病でしょ」と言うと、相手のしんどさを軽く扱っているように聞こえることがあります。言葉としては身近でも、その人が感じている疲れや不調は軽いとは限りません。
使うときは、「誰でも起こりうる新生活の疲れ」という意味でやわらかく扱うのが合います。
五月病から見える日本の季節感
五月病という言葉には、日本ならではの季節感もあります。
日本では4月に新年度が始まり、多くの人が新しい環境へ入ります。そして、1か月ほど経ったところでゴールデンウィークがあります。ちょうど緊張が続いたあとに、まとまった休みが入る流れです。
この「4月に始まり、5月に疲れが出る」という流れが、五月病という言葉をわかりやすくしています。
もし新年度が別の時期に始まる社会なら、「五月病」という言葉は今ほど定着しなかったかもしれません。五月病は、心身の不調を表す言葉であると同時に、日本の学校や会社の暦から生まれた季節の言葉でもあります。
Q&A(よくある疑問)
まとめ
五月病とは、5月ごろに気分が重くなったり、やる気が出にくくなったりする状態を指す俗称です。正式な病名ではありませんが、新しい環境への適応がうまくいかないときに使われる言葉として広まっています。
由来としては、1960年代ごろ、大学入学後の学生が5月ごろに無気力や虚脱感を覚える現象と結びついて使われるようになったとされています。その後、社会人や新しい環境に入った人にも広く使われるようになりました。
五月病という名前には、日本の4月始まりの新年度と、5月の大型連休明けに疲れが表に出やすい流れが反映されています。単なる季節の言葉に見えて、学校や仕事の暦、新生活の緊張、目標を達成したあとの空白まで含んだ表現なのです。
参考情報
- 厚生労働省「こころの耳」5月「五月病」とのつきあい方
- コトバンク「五月病」
- 国立国会図書館 レファレンス協同データベース「五月病の起源を探している」
- 厚生労働省「こころもメンテしよう」大学になじめず、いつのまにか「五月病」 taroさん(19)の場合
