水や空気、食品、薬、衣類、スマートフォンの材料まで、私たちの身の回りには化学が深く関わっています。そんな化学を身近に感じてもらうため、日本には「化学の日」という記念日があります。
化学の日は毎年10月23日です。
一見すると化学と関係のなさそうな日付ですが、実は「10」と「23」には、物質の量を扱うときに欠かせないアボガドロ定数が隠れています。
なぜ10月23日なのかを知ると、学校の化学で登場する「mol(モル)」という単位が、少し身近に感じられるかもしれません。
化学の日はなぜ10月23日?
10月23日が化学の日になった理由は、アボガドロ定数にあります。
化学では、原子や分子のような非常に小さな粒子を扱うときに「mol(モル)」という単位を使います。
1 molに含まれる要素粒子の数を簡略化して表すと、およそ
6.02 × 10²³個
です。
化学の日は、この「10²³」にちなんで10月23日とされています。
つまり、「10月」の10と「23日」の23を合わせることで、10²³という化学にとって重要な数字を日付で表しているわけです。
現在のアボガドロ定数は、正確には
6.02214076 × 10²³ mol⁻¹
と定められています。
化学の日の由来としてよく使われる「6.02 × 10²³」は、この値を分かりやすく簡略化して表したものです。
そもそも「モル」とアボガドロ定数とは?
アボガドロ定数は、モルという単位とセットで考えると、その役割が見えてきます。
原子や分子はあまりにも小さく、私たちが日常の物を数えるように「1個、2個、3個……」と一つずつ扱うことは現実的ではありません。
そこで化学では、膨大な数の粒子をひとまとまりとして扱うためにmol(モル)という物質量の単位を使います。
現在の定義では、1 molは原子や分子、イオンなどの要素粒子を正確に6.02214076 × 10²³個含む物質量です。
ここでいう「要素粒子」とは、数える対象として指定された原子や分子、イオンなどを指します。
たとえば、
- 水分子1 molなら、水分子が6.02214076 × 10²³個
- 二酸化炭素分子1 molなら、二酸化炭素分子が6.02214076 × 10²³個
含まれます。
物質が違っても、1 molに含まれる要素粒子の数は同じです。ただし、水分子と二酸化炭素分子では1個あたりの質量が違うため、1 molあたりの質量まで同じになるわけではありません。
身近な単位にたとえるなら、12個をひとまとめにして「1ダース」と呼ぶのに少し似ています。
1ダースなら12個ですが、1 molに含まれる粒子の数は、日常生活ではまず扱わないほど巨大です。 原子や分子の世界では、それほど大きなまとまりにすることで、目に見えない粒子の数と、実際に量ることのできる物質の量を結び付けて考えやすくなります。
2019年からモルの定義がアボガドロ定数基準になった
モルの定義は、2019年に大きく変わりました。
国際単位系(SI)の改定によって、現在ではアボガドロ定数が
6.02214076 × 10²³ mol⁻¹
という正確な値に固定されています。
それに伴い、1 molは正確に6.02214076 × 10²³個の要素粒子を含む物質量として定義されています。
以前のモルは、炭素12を基準として定義されていました。現在は、特定の物質の質量を基準にするのではなく、アボガドロ定数の数値を固定する形になっています。
新しい定義が発効したのは2019年5月20日です。
化学の日が制定された2013年より後にモルの定義は変わりましたが、記念日の由来になった「6.02 × 10²³」という数字との関係は変わっていません。
化学の日が作られたのは2013年
化学の日は、昔から続いている記念日ではありません。
2013年10月に、
- 日本化学会
- 日本化学工業協会
- 化学工学会
- 新化学技術推進協会
の4団体によって制定されました。
目的は、化学や化学産業の魅力、社会への貢献などを広く知ってもらうことです。
私たちの生活には、化学によって生まれた材料や技術が数多く使われています。
たとえば、プラスチックや合成繊維、半導体材料、電池、洗剤なども化学と深く関わっています。
「化学」と聞くと、実験室に並ぶフラスコや難しい化学式を思い浮かべることもあります。しかし実際には、身近な製品の材料や製造方法、エネルギー、環境技術など、生活のさまざまなところで化学が利用されています。
化学の日は、そうした化学と暮らしとのつながりに目を向けてもらうために設けられた記念日です。
米国では10月23日が「Mole Day」
10月23日とアボガドロ定数を結び付ける発想は、日本だけに見られるものではありません。
米国では、10月23日は「Mole Day(モルの日)」として知られ、学校などでモルや化学に親しむ活動が行われています。
Mole Dayで面白いのが、日付だけでなく時刻までアボガドロ定数に対応させているところです。
National Mole Day Foundationでは、毎年10月23日の
午前6時02分から午後6時02分まで
をMole Dayとしており、「6.02 × 10²³」の6.02を時刻の6:02、10²³を10月23日に見立てています。
日本の「化学の日」と米国のMole Dayは名称や活動の形こそ異なりますが、どちらもアボガドロ定数にちなんだ10月23日を、化学に親しむ機会としている点が共通しています。
10月23日を含む1週間は「化学週間」
化学の日と一緒に覚えておきたいのが、「化学週間」です。
2013年に化学の日が制定された際、10月23日を含む月曜日から日曜日までの1週間が化学週間と定められました。
そのため、化学週間の日付は毎年同じではありません。10月23日が何曜日になるかによって期間も変わります。
この時期には、化学に関する講演やイベントなど、化学に触れる機会を広げるさまざまな取り組みが行われています。
化学の日が10月23日の1日を指すのに対し、化学週間はその日を含む1週間です。どちらも、化学や化学産業について広く知ってもらい、化学をより身近に感じてもらうことにつながっています。
また、化学の日や化学週間を制定した4団体は、「夢・化学-21」という化学の普及活動にも取り組んでいます。
「夢・化学-21」は1993年から続く活動で、化学の面白さや化学産業の社会への貢献などを伝え、化学への理解を広げるためのさまざまな取り組みが行われています。
化学の日や化学週間も、こうした化学の魅力を社会へ伝える活動の一つとして位置付けることができます。
「6.02 × 10²³」は想像できないほど大きい
化学の日の由来を知ると、気になるのが「6.02 × 10²³とは、どれくらい大きな数なのか」という点です。
数字で表すと、
602,000,000,000,000,000,000,000
です。
日本の大きな数の単位では、約6,020垓(がい)にあたります。
「垓」は10²⁰を表す単位なので、6.02 × 10²³は6,020 × 10²⁰、つまり約6,020垓となります。
普段の生活でこの桁の数を数えることは、まずありません。それでも化学では、この巨大な数字が重要になります。
その理由は、原子や分子が非常に小さいからです。私たちが手に取れる量の物質には、それだけ膨大な数の粒子が含まれています。
たとえば水も塩も、目には見えないほど小さな粒子が膨大な数だけ集まってできています。
そこでモルを使えば、「どれくらいの数の粒子があるのか」というミクロな世界と、「何グラムあるのか」「どれだけ反応させるのか」といった実験で扱える量を結び付けて考えられます。
10月23日という日付には、そんな原子や分子の世界を扱うための「10²³」という化学ならではの数字が隠れているのです。
まとめ
化学の日は毎年10月23日です。
日付は、1 molとアボガドロ定数に関係する「約6.02 × 10²³」という数字に由来しています。
2013年に日本化学会、日本化学工業協会、化学工学会、新化学技術推進協会の4団体が制定し、10月23日を含む月曜日から日曜日までの1週間は「化学週間」とされています。
現在のアボガドロ定数は正確に6.02214076 × 10²³ mol⁻¹で、2019年のSI改定以降は、この値を基準にモルが定義されています。
また、米国のMole Dayでは「6.02 × 10²³」を時刻と日付に見立て、10月23日の午前6時02分から午後6時02分までを化学に親しむ時間としています。
普段何気なく目にしている10月23日という日付も、化学の視点から見ると「10²³」という特別な数字に変わります。
化学の日をきっかけに、水や食品、衣類、電池など身近なものがどのような物質からできているのか、そして化学が暮らしをどのように支えているのかに目を向けてみるのも面白いかもしれません。
参考情報
- 日本化学工業協会「化学の日、化学週間の制定」
- 国際度量衡局(BIPM)「SI base unit: mole (mol)」
- 国際純正・応用化学連合(IUPAC)「Gold Book:mole」
- 国際純正・応用化学連合(IUPAC)「Gold Book:Avogadro constant」
- National Mole Day Foundation「What is Mole Day?」
