ドッペルゲンガーとは?自分そっくりの存在が恐れられた理由

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街中で自分と驚くほど似た人を見かけたり、「世の中には自分と同じ顔の人がいる」という話を聞いたりしたことはないでしょうか。そんな「もう一人の自分」を連想させる言葉として有名なのが、ドッペルゲンガーです。

怪談では、自分自身のドッペルゲンガーを見ると不幸が起きる、死の前触れになると語られることもあります。しかし、本来のドッペルゲンガーは単なる「そっくりさん」だけを意味する言葉ではありません。

その背景には18世紀末のドイツ文学があり、自分と同じ姿をした存在は「もう一人の自分」や「自分とは何者なのか」という不安を表す題材として広がっていきました。

現在では血縁関係のないそっくりな人にも使われるドッペルゲンガー。その意味は、時代とともに少しずつ変わっています。

目次

ドッペルゲンガーとは「もう一人の自分」を表す言葉

「ドッペルゲンガー」はドイツ語の Doppelgänger に由来します。

「Doppel」は「二重の」「二つの」、「Gänger」は歩く者・行く者といった意味を持ちます。文字どおりに捉えると、自分と同じ姿をした「もう一人の存在」を思わせる言葉です。

今では使われる範囲も広がっています。

英語では、幽霊のような「もう一人の自分」を指す意味に加えて、誰かと非常によく似た別人を表す言葉としても使われます。現代ドイツ語でも、別の人物と見間違えるほどよく似た人という意味があります。

そのため、

「俳優○○のドッペルゲンガーみたい」
「海外で自分のドッペルゲンガーを見つけた」

といった形で、超常現象とは関係なく「そっくりさん」という意味でも使われます。

もともとの不気味な分身像と、現在の軽い「似ている人」という使い方には少し差があるのです。

「ドッペルゲンガー」という言葉は18世紀末の文学から広がった

現在の「ドッペルゲンガー」という言葉につながる表現は、ドイツの作家ジャン・パウル(Jean Paul、本名ヨーハン・パウル・フリードリヒ・リヒター)の作品に登場します。

1796~1797年に刊行された小説『ジーベンケース』の初版では、現在の「Doppelgänger」とは少し異なる「Doppeltgänger」という綴りが使われました。その後、1818年に刊行された版では、現在と同じ「Doppelgänger」という形が確認されています。

『ジーベンケース』は、ドッペルゲンガーという言葉の文学上の重要な出発点として扱われています。

さらに興味深いのは、ジャン・パウル自身がこの言葉を、「自分自身を見る人々」という趣旨で説明していたことです。

今では「顔がそっくりな別人」という意味でも使われますが、もともとの説明は、偶然似ている他人というよりも「もう一人の自分を目にする」という感覚に近いものでした。

一方で、自分と同じ姿をした分身という発想そのものが18世紀末に初めて生まれたわけではありません。

自分の分身や、自分によく似たもう一人の存在をめぐる物語は、それ以前の神話や伝承にも見られます。

ジャン・パウルがこの語を用いたことは文学上の重要な出発点とされ、その後「もう一人の自分」をめぐるモチーフは、ドイツ文学をはじめさまざまな作品へ広がっていきました。

19世紀になると、E.T.A.ホフマンをはじめとする文学作品でも「分身」が重要な題材になります。

ドッペルゲンガーは、単に顔が同じ人物を登場させる仕掛けではなく、「自分とは何者なのか」という不安や、自分の中にある別の側面を描く題材としても使われていきました。

ドッペルゲンガーはなぜ不吉な存在として恐れられた?

ドッペルゲンガーについて特に有名なのが、「自分の分身を見ると死ぬ」という話です。

ヨーロッパの一部の伝承や後世の文学では、本人と同じ姿をした分身が、死や不幸の前触れとして扱われることがありました。

ただ、ヨーロッパ各地にある分身伝承をすべて「ドッペルゲンガー」と一括りにできるわけではありません。地域によって、生きている人物の分身や死を知らせる存在には別の名称や伝承があります。

また、「ドッペルゲンガーを見た人は必ず死ぬ」という決まりが実在するわけでもありません。あくまで伝承や文学、怪談の中で広まったイメージです。

では、なぜ自分と同じ姿をした存在が、それほど不気味に感じられたのでしょうか。

普段、顔や身体は「自分が自分であること」を示す非常に分かりやすい特徴です。ところが、自分とまったく同じ姿の存在が目の前に現れれば、その前提が崩れてしまいます。

「どちらが本物なのか」
「もう一人の自分は何者なのか」
「自分の場所を奪うのではないか」

といった不安を物語にしやすいため、ドッペルゲンガーは怪談や幻想文学と非常に相性のよい存在になりました。

つまり、「死の前兆」という部分だけでなく、自分自身とそっくりな存在に出会うことで、自分という存在そのものが揺らぐ怖さもドッペルゲンガーの特徴です。

自分の分身を見るような体験は実際に研究されている

では、本当に「自分自身の姿を見る」という体験はあるのでしょうか。

医学や神経科学では、自分の身体や、自分によく似た身体が外部に存在するように感じる珍しい体験が、autoscopic phenomena(自分自身を見るように感じる現象)として研究されています。

その中には、自分の身体の二重像を見るように感じるオートスコピーや、自分と分身のどちらに「自分」がいるのか曖昧になるヘオートスコピーなど、いくつか異なる体験が知られています。

ヘオートスコピーは、研究上ドッペルゲンガーとの遭遇を連想させる現象として取り上げられることもあります。

ただし、医学で研究されているこうした現象と、伝承上のドッペルゲンガーをそのまま同じものと考えることはできません。

文学や怪談では「もう一人の自分」が独立した存在として行動することがあります。一方、医学・神経科学で研究されているのは、人が自分の身体や自己の位置をどのように認識しているかに関わる知覚体験です。

また、ヘオートスコピーは日常的によく起こるものではありません。過去に報告された事例を調べた研究でも、典型的なヘオートスコピーに当てはまる例は非常に少なく、珍しい体験として扱われています。

「分身を見た」という古い伝承のすべてを、こうした知覚現象だけで説明することもできません。

ドッペルゲンガーという物語上の存在と、人間が実際に経験することのある珍しい知覚体験は、似ている部分はあっても別々に考えたほうがよいでしょう。

現代では本当にそっくりな他人も「ドッペルゲンガー」と呼ばれる

現代の用法では、ドッペルゲンガーという言葉が、怪異よりも「自分と驚くほど似た他人」を指して使われることも少なくありません。

実際、血縁関係がないにもかかわらず、非常によく似た顔を持つ人は存在します。

2022年に科学誌『Cell Reports(セル・リポーツ)』で発表された研究では、顔認識技術によって選ばれた血縁関係のない「そっくりな人」のペアを調べています。

その結果、特によく似た人同士では、遺伝的な共通点が見つかりました。 一方で、DNAメチル化や腸内細菌などには違いも確認されています。

この研究からも、血縁がなくても顔立ちが非常によく似た人同士が存在することが分かります。

ただし、「世界には自分と同じ顔の人が必ず3人いる」「7人いる」といった人数を決めることのできる科学的な法則が示されているわけではありません。

研究で確認されているのは、血縁のない人同士でも非常によく似た外見になる例があり、その一部では遺伝的な共通点も見つかるということです。

現代では、怪談に登場する「もう一人の自分」と、現実に存在する「自分と驚くほど似た人」の両方に、ドッペルゲンガーという言葉が使われています。

まとめ

ドッペルゲンガーは、ドイツ語の「Doppelgänger」に由来する、自分と同じ姿をした「もう一人の存在」を表す言葉です。現在につながる表現はジャン・パウルの1796~1797年の『ジーベンケース』初版に登場し、そこでは「Doppeltgänger」、1818年版では「Doppelgänger」という綴りが使われています。

一部の伝承や文学では、分身との遭遇が死や不幸の前触れとして描かれてきましたが、「自分のドッペルゲンガーを見ると必ず死ぬ」という事実が確認されているわけではありません。

現在では、血縁がないのに驚くほど顔が似ている人にもドッペルゲンガーという言葉が使われます。怪談の「もう一人の自分」と現実の「そっくりな他人」。この二つの意味が重なっているところにも、ドッペルゲンガーという言葉の不思議さがあります。

参考情報

  • Duden Online「Doppelgänger」
  • Jean Paul: Werke – Historisch-kritische Ausgabe(De Gruyter)
  • Andrew J. Webber, The Doppelgänger: Double Visions in German Literature, Oxford University Press
  • “The doppelgänger and the dead God in Jean Paul’s Jacobian critique of Fichte,” British Journal for the History of Philosophy
  • Joanna Szczotka & Michał Wierzchoń, “Splitting the Unity of Bodily Self: Toward a Comprehensive Review of Phenomenology and Psychopathology of Heautoscopy,” Psychopathology
  • Ricky S. Joshi et al., “Look-alike humans identified by facial recognition algorithms show genetic similarities,” Cell Reports

この記事を書いた人

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