ストーリーテリングはなぜ記憶に残る?物語が印象を強める理由

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数字や箇条書きの内容はすぐ忘れてしまったのに、昔聞いた物語の場面だけは何年たっても覚えている。そんな経験をしたことがある人は少なくないでしょう。

ストーリーテリングが記憶に残りやすい理由は、「物語だから脳が特別に保存する」という一つの仕組みだけでは説明できません。

物語には、出来事を順番につなぐ、原因と結果を結びつける、登場人物の感情を伝えるといった特徴があります。バラバラの情報が一つの流れとしてまとまることで、後から思い出すきっかけも増えていきます。

さらに、予想していた展開が裏切られることや、自分自身の経験と物語が重なることも、印象に残りやすさと関係します。

一方で、「記憶に残る」ことと「細部まで正確に覚えている」ことは同じではありません。

物語の筋や印象は残っていても、細かな表現や順序が変化する場合があります。

では、ストーリーテリングでは情報の何が変わるのでしょうか。

目次

ストーリーテリングとは?

ストーリーテリングとは、伝えたい情報を単独で並べるのではなく、人物や出来事、変化などを物語の流れに乗せて伝える方法です。

小説や昔話だけを指す言葉ではありません。

商品やサービスの背景を紹介するとき、歴史上の出来事を説明するとき、プレゼンで実際の体験を交えて話すときなどにも使われます。

たとえば、

「この製品は軽量で持ち運びやすい」

と特徴だけを伝える方法に対して、

「出張のたびに重い荷物に困っていた人が、持ち運びやすい製品を求めて開発した」

と出来事の流れを加えるのもストーリーテリングの一例です。

ストーリーテリングは、話を長くしたり脚色を加えたりすること自体を指すわけではありません。

「誰が」「何を求めて」「何が起こり」「どうなったのか」

といった関係によって、別々の情報を一続きの出来事として受け取りやすくすることが特徴です。

この構造が、物語と記憶の関係を考える入り口になります。

物語はバラバラの情報を一つの流れに変える

たとえば、次の情報を覚える場面を考えてみましょう。

「鍵」「駅」「雨」「電話」

4つの単語をそのまま覚えるより、

「雨の朝、駅へ向かおうとしたら鍵が見つからず、友人に電話した」

という出来事にしたほうが、4つの情報を一続きで思い浮かべやすくなります。

物語では、別々に見えていた情報を一つの出来事として関連づけやすくなります。

原因と結果があると次の出来事を思い出しやすい

物語では、

「Aが起きた」
「だからBをした」
「その結果Cになった」

という因果関係が作られます。

この関係は記憶にも関わっています。

原因と結果につながりのある出来事では、無関係な出来事を並べた場合より、順序や重要な内容を思い出しやすくなることがあります。

時間的に離れている出来事でも、一つの筋の通った物語として結びついていれば、互いに無関係な出来事より思い出しやすくなる場合があります。

一つの出来事を思い出したことが、次の出来事へたどるきっかけになるからです。

「王子」「森」「剣」「城」という4語を個別に記憶するより、「王子が森で剣を見つけ、その剣を持って城へ向かった」という関係があったほうが、どれか一つから残りの情報を思い出しやすくなります。

出来事には「まとまり」が作られる

私たちは連続して起きる出来事を、完全に切れ目のない情報として受け取っているわけではありません。

映画を見ているときでも、「店に入る」「店員と話す」「店を出る」といった一連の流れを、意味のある場面ごとに捉えています。

こうした出来事の区切り方は、その後の記憶とも関係しています。

物語には登場人物、目的、場所、出来事の変化などがあるため、長い情報でも場面ごとのまとまりを作りやすくなります。

箇条書きでは独立していた情報が、物語では「ある場面で起こったこと」としてまとまるのです。

知っている「物語の型」も理解を助ける

私たちは物語を完全な白紙状態で受け取っているわけではありません。

これまでの経験から、

「人物には目的がある」
「途中で問題が起こる」
「何らかの行動を取る」
「その結果が現れる」

といった出来事の流れを知っています。

こうした既有知識は、新しい物語を理解するときにも役立ちます。

たとえば「旅に出た主人公が途中で道に迷った」と聞けば、その後に誰かへ道を尋ねたり、別の道を探したりする展開を予想できます。

新しい情報が、すでに持っている知識や経験と結びつくことで、内容を理解しやすくなる場合があります。

後から思い出すときにも、「旅」「迷子」「目的地」といった複数の要素から出来事をたどれます。

物語を読むときには、情報そのものだけでなく、すでに知っている出来事の型や過去の経験も理解を支えています。

感情が動く出来事は記憶に残りやすい

怖かった出来事、うれしかった瞬間、驚いた場面。

日常を振り返ってみると、感情を伴った出来事ほど思い出しやすい場合があります。

感情を伴った出来事は、そうでない出来事とは記憶の残り方が異なることがあります。

物語は、登場人物の状況や出来事の変化を追う中で、期待や不安、驚きといった感情が生まれやすい形式でもあります。

「何が起こるのか」が感情を生む

単なる情報なら、

「ある船が航海中に沈没した」

と一文で終わります。

物語として描かれる場合には、船に乗った人物がいて、目的地があり、途中で問題が発生します。そこで選択を迫られ、その結果が訪れます。

読み手は出来事の先を予想しながら、

「助かるのだろうか」
「なぜそんな選択をしたのだろう」

と関心を向けます。

こうした感情的な関与は、物語の一部を印象深くする要因になり得ます。

ただし、感情が強ければ出来事のすべてを正確に記憶できるわけではありません。

感情を伴う記憶は鮮明に感じられることがありますが、記憶の鮮明さと正確さは必ずしも一致しません。

「感動したから細部まで正しく覚えている」とは限らないのです。

予想外の展開が印象に残ることもある

物語では、「次はこうなるだろう」と思っていた展開が外れることがあります。

たとえば、味方だと思っていた人物が裏切ったり、目的地に着いたと思った瞬間に別の問題が起きたりする場面です。

こうした予想と実際の出来事のずれは、記憶研究では予測誤差として扱われることがあります。

予想外の出来事が起こると、それまで考えていた展開を見直す必要が生まれます。こうした変化が注意を向けるきっかけになり、記憶の残り方にも影響することがあります。

ただし、出来事の区切りや記憶の変化が予測誤差だけで決まるわけではありません。場所や状況が変わるといった文脈の変化も関係します。

また、驚きが大きければ何でも記憶に残るわけでもありません。

反対に、予想どおりの情報は既存の知識と結びつけやすい場合があります。

予想に沿って進む部分と、予想を外れる部分では、記憶への残り方が同じとは限りません。

主人公への没入も関係する

物語を読んでいると、自分自身は椅子に座っているだけなのに、登場人物と一緒に旅をしているように感じることがあります。

物語世界へ入り込むような感覚は、物語への没入(ナラティブ・トランスポーテーション)と呼ばれることがあります。

物語への没入には認知的・感情的な処理が関係し、登場人物や出来事への反応にも影響します。

たとえば、主人公が危険な場所へ入っていく場面では、

「やめたほうがいい」
「この先に何かありそうだ」

と自分まで状況を予想することがあります。

物語をただ文字として読んでいるのではなく、登場人物の立場や周囲の状況を頭の中で追っているためです。

ただ、没入したから必ず内容を長期間覚えられるという関係ではありません。

ストーリーテリングと記憶の関係には、没入だけでなく、因果関係や情報のまとまり、感情など複数の要素が関わります。

「自分ならどうする?」が記憶のきっかけになることもある

良い物語を聞いていると、ときどき登場人物から自分へ意識が移ります。

「自分だったら逃げただろうか」

「同じ状況なら何を選ぶだろう」

「似た経験をしたことがある」

という感覚です。

この「自分との関連づけ」も、記憶を考えるうえで見逃せません。

自分と結びつけた情報は覚えやすくなることがある

心理学には自己参照効果と呼ばれる現象があります。

情報を自分自身と関連づけて処理すると、単に意味だけを考えた場合などより記憶成績が高くなる傾向があります。

物語そのものが常に自己参照効果を起こすわけではありません。

しかし、人物の選択や失敗、成功が自分の経験と重なったときには、新しい情報がすでに持っている知識や経験と結びつく場合があります。

たとえば、

「初めて訪れた街では道に迷うことがある」

という説明だけを読む場合と、

「自分が初めて訪れた街で道に迷い、地図を見ながら目的地を探している」

という場面を思い浮かべる場合を考えてみましょう。

後者では、知らない街を歩いた経験や、道に迷った記憶などと内容を重ねられる人もいるでしょう。

覚える内容と自分の経験との関連が増えることで、後からその情報を思い出しやすくなることがあります。

自分の経験と重なると物語の意味も変わる

同じ物語を読んでも、印象に残る部分は人によって違います。

旅の物語なら、旅行経験の多い人は土地や移動の場面を覚えているかもしれません。

失敗から立ち直る物語なら、似た経験をした人は主人公の選択や感情を強く覚えることがあります。

つまり物語は、送り手が用意した情報だけで受け取られるとは限りません。

読み手自身が持っている記憶や経験と重なることで、同じ物語でも印象に残る場面が変わることがあります。

これも、ストーリーが人によって異なる形で残る理由の一つです。

ストーリーなら何でも覚えやすいわけではない

ここまで見ると、あらゆる情報を物語にすれば記憶できそうに感じます。

しかし、物語形式そのものが万能というわけではありません。

研究では、平均すると物語形式の文章は説明的な文章より理解されやすく、思い出されやすい傾向が報告されています。

ただし、物語に余計な情報を増やしすぎれば、本当に覚えてほしい内容が埋もれる可能性があります。

記憶に残るのは「事実そのもの」とは限らない

「印象に残る話だった」という感覚だけ残り、肝心の商品名や数字を忘れてしまうこともあります。

物語を使うときに大切なのは、覚えてほしい情報を物語の中心に置くことです。

たとえば「新しい制度が4月から始まる」と伝えたいのに、登場人物の細かな生い立ちを長々と説明しても、制度の開始時期を覚えやすくするとは限りません。

必要なのは、

誰が → 何を求めて → 何が起こり → どう変わったか

という流れの中へ、覚えてほしい情報を組み込むことです。

「覚えている」と「正確に再現できる」は違う

物語を覚えている場合でも、文章を一字一句そのまま保存しているとは限りません。

昔話を思い出すときも、細かな言葉遣いまですべて再現するより、

「主人公が旅に出た」
「途中で問題が起きた」
「最後に目的を達成した」

といった大まかな流れを覚えていることが多いでしょう。

人の記憶では、出来事の意味や筋が残る一方で、細かな表現、順序、周辺情報が抜けたり変化したりすることがあります。

そのため、

「物語だから記憶に残る」=「物語なら細部まで正確に覚えられる」

ではありません。

場合によっては、物語として理解した内容を思い出す過程で、細部が元の情報とは異なる形になることもあります。

ストーリーテリングを使う場面では、印象に残ることと正確な情報伝達を分けて考える必要があります。

複雑な情報では説明との組み合わせも必要

物語には流れを理解しやすくする利点がありますが、細かな数値、条件、定義、操作手順などを正確に伝える場面では、表や箇条書きのほうが確認しやすいことがあります。

たとえば歴史上の出来事なら、

物語で「なぜ起きたか」を理解し、
年表で「いつ起きたか」を確認する。

商品の説明なら、

利用者の体験で「どんな場面で役立つか」を示し、
表で「価格や仕様」を比較する。

という使い分けができます。

学校の授業なら、人物の行動や時代背景を物語として理解した後に、年号や用語を一覧で確認する方法も考えられます。

ストーリーテリングと箇条書きは競争相手ではなく、伝える情報によって役割が違います。

物語が記憶に残る理由は「つながり」にある

ストーリーテリングが記憶に残りやすい理由は、一つではありません。

物語では出来事に順序が生まれ、原因と結果が結びつきます。

人物や場所が思い出すきっかけになり、場面ごとのまとまりもできます。

私たちがすでに知っている出来事の型や過去の経験も、新しい物語を理解するときに役立ちます。

さらに、驚きや期待などの感情が生まれれば、その出来事が印象に残る場合があります。

予想外の展開や場面の変化が、出来事の捉え方に影響することもあります。

登場人物の選択を「自分ならどうするか」と置き換えて考えれば、物語が自分自身の経験と結びつくこともあります。

単独だった情報が「ほかの情報とつながった状態」になることが、物語の大きな特徴です。

一つの数字だけを思い出すのは難しくても、「誰が、なぜ、その数字にたどり着いたのか」という出来事を覚えていれば、そこから数字を思い出せる場合があります。

一方で、記憶に残ることと、細部まで正確に覚えていることは別です。

物語の筋や感情は長く残っていても、言葉遣いや細かな順序までそのまま残るとは限りません。

だから昔聞いた物語は、細部を忘れても「誰が何をして、最後にどうなったか」という筋だけが長く残ることがあるのです。

参考情報

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  • Symons, C. S., & Johnson, B. T. “The self-reference effect in memory: A meta-analysis.” Psychological Bulletin.
  • Nolden, S., Turan, G., Güler, B., & Günseli, E. “Prediction error and event segmentation in episodic memory.” Neuroscience & Biobehavioral Reviews.
  • Phelps, E. A. “Human emotion and memory: interactions of the amygdala and hippocampal complex.” Current Opinion in Neurobiology.
  • Vaccaro, A. G., Scott, B., Gimbel, S. I., & Kaplan, J. T. “Functional Brain Connectivity During Narrative Processing Relates to Transportation and Story Influence.” Frontiers in Human Neuroscience.

この記事を書いた人

気になったテーマを中心に、公開情報や資料を読みながら記事をまとめています。背景や違いが見えにくい話題も、公式サイトや公開資料を確認しつつ、できるだけわかりやすく整理してお届けしています。

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