Webサイトを見たとき、最初にどこへ目が向くのか。商品パッケージのどの部分を長く見るのか。文章を読んでいる途中で、視線はどこへ戻るのか。
こうした「人がどこを、どの順番で、どれくらい見たか」を計測する技術がアイトラッキング(eye tracking:視線計測)です。
Webサイトやアプリの使いやすさを調べる場面をはじめ、広告、読書、運転など幅広い分野で使われています。また、目の動きを「測る」だけでなく、視線そのものを文字入力や機器操作に利用する技術もあります。
ただし、目の動きが分かるからといって、その人の考えや感情まで直接読み取れるわけではありません。「どこを見たか」と「なぜ見たか」は別の情報です。
アイトラッキングとはどんな技術?
アイトラッキングとは、目や視線の動きを計測し、人がどこを見ているかを記録する技術です。
現在広く使われている映像式のアイトラッカーでは、カメラで目を撮影し、瞳孔の位置や角膜に生じる光の反射などから視線方向を推定します。画面を見る場合なら、その結果を「画面上のどの位置を見ていたか」という座標として扱えます。
アイトラッカーは、「目が見ている一点」を直接読み取っているわけではありません。目の画像などをもとに計算し、視線位置を推定しています。
測定前には、画面上の決められた点を順番に見てもらうcalibration(キャリブレーション:較正)を行うのが一般的です。目の状態と画面上の位置を対応させ、視線位置を推定できるようにします。
装置や測定環境、頭の動きなどの影響を受けるため、記録される視線位置には一定の測定誤差が含まれます。
アイトラッカーには、モニターの下などへ設置する据え置き型のほか、眼鏡のように装着して店舗や屋外で視線を記録できるタイプもあります。
「注視」と「サッカード」とは?
視線データでよく使われるのが、fixation(フィクセーション:注視)とsaccade(サッカード:急速な眼球運動)です。
注視は、ある場所に視線が比較的とどまっている状態です。サッカードは、一つの場所から次の場所へ視線を素早く移す眼球運動を指します。
たとえば商品ページで、
「商品写真を見る」→「価格を見る」→「説明文を見る」
と視線が移った場合、それぞれの場所での注視と、その間のサッカードとして記録できます。
複数の注視地点を時間順に追った視線の軌跡は、scanpath(スキャンパス:視線経路)と呼ばれます。
ただし、どの程度の動きや時間を「注視」と判定するかは、測定条件や分析方法によって異なります。
目の動きから何が分かる?
アイトラッキングが得意なのは、人が情報を見る過程を記録することです。
たとえばWebサイトでボタンがクリックされたことはアクセス解析でも分かります。しかし、それだけでは「すぐ見つけたのか」「画面を何度も探してから見つけたのか」までは分かりません。
視線データがあれば、その途中の動きを調べられます。
| 視線データ | 調べられることの例 |
|---|---|
| 最初の注視位置 | 最初にどの場所へ視線が向いたか |
| 注視時間 | 特定の場所をどの程度長く見たか |
| 注視回数 | 同じ場所へ何度視線が戻ったか |
| 視線の順番 | どこからどこへ視線が移ったか |
| 直接の注視が少ない領域 | 視線位置としてほとんど記録されなかった場所 |
| 瞳孔径 | 条件を整えた実験で認知的な努力や負荷などを考える手掛かり |
重要なボタンへなかなか視線が向かなければ、その位置や見た目が見つけにくさに関係している可能性があります。
一方、説明文を何度も見直していても、「重要だから読み返した」「理解しにくかった」「探している情報が見つからなかった」など理由は複数考えられます。
アイトラッキングは「どう見たか」を記録できますが、「なぜそう見たか」までは視線データだけでは分かりません。
AOIを使って特定の場所を比較する
視線データを見るときは、画面全体を一度に扱うだけでなく、調べたい部分をあらかじめ区切ることがあります。
この領域をAOI(Area of Interest:関心領域)と呼びます。
たとえば商品ページなら、
- 商品画像
- 価格
- 商品説明
- 購入ボタン
などを別々のAOIとして設定できます。
すると、「どこを長く見たか」「どの領域へ最初に視線が入ったか」「何度見直したか」といった違いを比べやすくなります。
ただし、AOIは目的に合わせて設定するものです。どこまでを一つの領域として区切るかによって、集計結果が変わる場合もあります。
ヒートマップで分かるのは視線の「集中」
アイトラッキングでよく知られている表示方法がヒートマップです。
視線や注視の分布を色の違いで表し、どの領域に視線が集まったのかを見やすくします。
ただし、ヒートマップだけでは「どの順番で見たか」が分かりにくくなります。
同じ場所が強く表示されていても、最初に見たのか、最後に見たのか、何度も戻った結果なのかでは意味が違います。
見る順番まで調べたい場合には、スキャンパスやゲイズプロットなど別の表示方法も使われます。
アイトラッキングでは何が分からない?
アイトラッキングは視線を細かく記録できますが、人の考えや感情をそのまま読み取る技術ではありません。
「なぜ見たのか」
「好きなのか嫌いなのか」
「内容を理解したのか」
「買いたいと思ったのか」
といった内面まで、一つの視線指標だけで決めることはできません。
長く見たから「興味がある」とは限らない
ある商品を10秒、別の商品を2秒見たとしても、それだけで10秒見た商品のほうを好んでいるとはいえません。
長く見た理由は、説明が分かりにくかったからかもしれません。文字を読むのに時間がかかった、欲しい情報を探していた、何の商品なのか判断しづらかったという可能性もあります。
同じ「長時間の注視」でも、その理由は一つではありません。
そのため、注視時間が長い=好意が強いとはいえません。
本人へのアンケート、クリックなど実際の行動、条件の異なる画面との比較などを組み合わせることで、視線データの意味を考えやすくなります。
「見ている場所」と「注意している場所」も同じとは限らない
人は目を向けた場所を中心に情報を得ていますが、視線を動かさずに別の場所へ注意を向けることもできます。
視線移動を伴って対象へ注意を向けることは顕在的注意、視線を動かさず別の場所へ注意を向けることは潜在的注意と呼ばれます。
一般的なアイトラッキングは視線位置を記録するため、潜在的注意そのものを測っているわけではありません。
つまり、視線位置は注意を調べる重要な手掛かりですが、「視線位置=注意している場所」とは限りません。
ヒートマップでほとんど直接注視されていない場所についても、「まったく見えていなかった」とまでは言えません。周辺視野から情報を得ている可能性があるためです。
瞳孔が開いたから「興味を持った」とも限らない
アイトラッカーによっては、瞳孔の大きさも記録できます。
瞳孔径は、精神的な努力や課題への負荷などを調べる際の指標として使われることがあります。ただし、瞳孔の大きさは一つの心理状態だけで決まるものではありません。
特に大きな影響を与えるのが明るさです。
暗い場所では光を多く取り込むため瞳孔が広がり、明るい場所では小さくなります。近くを見るときにも変化し、覚醒状態や精神的な努力なども影響します。
したがって、
「瞳孔が開いた=興味を持った」
「瞳孔が大きい=好き」
という一対一の読み取りはできません。
瞳孔径を指標として使う場合は、照明や画面の明るさなどの条件を考慮し、課題内容やほかのデータと合わせて見る必要があります。
アイトラッキングはどんな場面で使われる?
アイトラッキングは、人が何を見ながら行動しているのかを調べたいさまざまな場面で使われています。
Webサイトやアプリでは、目的の情報へ視線が向くまでの過程を調べるユーザビリティ調査に利用できます。商品や広告では、どの領域へ視線が集まったかを比較できます。
読書について調べる場合は、どの単語や文章へ視線がとどまり、どこへ読み戻ったかを分析できます。運転については、道路や標識、車内表示などへ視線がどう配分されているかを調べる用途があります。
こうした使い方では、視線は「人がどう見たか」を知るための測定データです。
視線そのものを入力手段にすることもある
一方、同じ視線検出技術を機器を動かすための操作に利用することもできます。
手や声での操作が難しい人向けの支援技術では、画面上の文字やボタンを視線で選び、文章を入力したりコンピューターを操作したりする仕組みがあります。
日本でも、身体の動きに大きな制約がある人を対象として、視線による文字入力やコンピューター操作が研究・利用されています。
文字を選ぶ方法も一つではありません。画面上の文字を一定時間見続けることで入力を確定する方式や、視線と別のスイッチ操作を組み合わせる方式などがあります。
さらに、視線入力は文字だけに限られません。
EyeHarpは、視線で操作できるデジタル楽器として開発・利用されています。身体の動きに制約がある人でも、画面上の要素を視線で選び、音やメロディーを操作できる仕組みです。
同じ目の動きでも、視線計測では「人がどう見たかを調べるデータ」になり、視線入力では「文字を選ぶ、機器を動かす、音を鳴らすための操作」になります。
まとめ
アイトラッキングとは、目や視線の動きを計測し、人がどこを、どの順番で、どれくらい見たかを調べる技術です。
注視位置や注視時間、視線の移動順序などから、情報を見る過程を調べられます。AOI(関心領域)を設定して特定の部分を比べたり、ヒートマップで視線の集中を表示したりすることもできます。
一方、「長く見たから好き」「視線が向いたから理解した」「瞳孔が開いたから興味を持った」といった心理状態を、目の動きだけで断定することはできません。 視線を動かさず周辺へ注意を向けることもあり、測定された視線位置には一定の誤差も含まれます。
視線は観察するだけでなく、文字入力やコンピューター操作、音楽演奏などの入力手段にも利用されています。
アイトラッキングから直接得られるのは、まず「目がどう動いたか」という情報です。その動きをどう解釈し、どう利用するかによって、情報の見られ方を調べる技術にも、人と機器をつなぐ操作方法にもなります。
参考情報
- Hooge, I. T. C. et al.「Eye tracker calibration: How well can humans refixate a target?」Behavior Research Methods, 2024
- Brunyé, T. T. et al.「A review of eye tracking for understanding and improving diagnostic interpretation」
- van der Wel, P. & van Steenbergen, H.「Pupil dilation as an index of effort in cognitive control tasks: A review」
- Mathôt, S.「Pupillometry: Psychology, Physiology, and Function」
- 大矢哲也ほか「重度肢体不自由者における視線入力および接点スイッチを用いた文字入力の検討」『生体医工学』2017
- EyeHarp公式サイト「What is EyeHarp」
