ワーキングメモリとは何?頭の回転との関係を身近な例で紹介

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ワーキングメモリとは、いま必要な情報を一時的に頭の中へ置きながら、考えたり使ったりする働きのことです。

たとえば、暗算をするとき、会話の内容を聞きながら返事を考えるとき、料理の手順を覚えながら作業するときに使われます。単に覚えるだけではなく、覚えた情報をその場で扱う「頭の作業台」のようなものです。

「頭の回転が速い」と呼ばれる感覚にも関係しますが、ワーキングメモリだけで決まるわけではありません。知識量、慣れ、集中しやすさ、話のつかみ方なども大きく関わります。


目次

ワーキングメモリとは何か

ワーキングメモリは、短い時間だけ情報を保ちながら、その情報を使って考える働きです。

心理学では、ワーキングメモリは情報を一時的に保つだけでなく、理解・学習・推論などに必要な情報を扱う仕組みとして説明されます。日常の言葉でいうと、いま使う情報を一時的に置き、必要に応じて動かすための働きです。

頭の中の作業台に近い働き

ワーキングメモリは、机の上に必要な資料を広げて作業する感覚に近い働きです。

暗算で「27+48」を考えるとき、27と48を覚えたまま、十の位と一の位を分けて計算します。文章を読むときも、前の文の内容を少し覚えながら次の文を読みます。会話でも、相手の話を覚えながら、自分の返事を考えています。

ただし、頭の中の作業台は無限に広いわけではありません。一度に置く情報が多すぎると、途中で抜けたり混ざったりします。名前を聞いた直後に別の話題が入ると忘れやすいのも、別の情報が入り込んで負担が増えるためです。

短期記憶との違い

ワーキングメモリは、短期記憶と似ていますが、同じ意味で使われるとは限りません。

短期記憶は、短い時間だけ情報を覚えておく働きとして説明されることが多いです。一方、ワーキングメモリは、覚えている情報を使って考えるところまで含みます。

たとえば、電話番号を数秒だけ覚えるのは短期記憶に近い働きです。その番号を覚えながら、どの書類に書くべきか判断したり、別の番号と比べたりするなら、ワーキングメモリの働きが強くなります。

短期記憶が得意でもワーキングメモリを使う場面が得意とは限らない

短期記憶として情報を覚えることと、その情報を使って考えることは少し違います。

聞いた数字をそのまま繰り返すのは得意でも、その数字を使って暗算したり、順番を入れ替えたり、別の条件と比べたりすると負担が増えることがあります。これは、短期記憶では「覚えておく」ことが中心になるのに対し、ワーキングメモリでは「覚えながら使う」ことが求められるためです。

会議でも、発言内容を覚えるだけなら追えていても、その内容をもとに質問を考えたり、次の行動へつなげたりする場面では別の負担がかかります。

そのため、短期記憶が得意に見える人でも、ワーキングメモリを使う場面では負担を感じることがあります。これは能力差として見るより、情報を保つことと、情報を操作して使うことの違いとして捉えると理解しやすくなります。

ワーキングメモリは記憶力全般ではない

ワーキングメモリや短期記憶だけで説明できない記憶もあります。たとえば、1時間以上の会議内容を覚えていたり、一日の行動を思い出せたりする力は、ワーキングメモリや短期記憶だけで成り立っているわけではありません。

会議中に相手の話を聞きながら要点をつかむ場面では、ワーキングメモリが働きます。前の発言と今の発言をつなげたり、聞いた内容をもとに返事を考えたりするためです。一方で、会議が終わったあとに「何が決まったか」「自分は何をすることになったか」を思い出すときには、長期記憶も関わります。

特に、一日の出来事を流れとして思い出す働きは、エピソード記憶に近いものです。エピソード記憶とは、いつ、どこで、何をしたかといった出来事の記憶を指します。長い内容を覚えている人は、情報をそのまま頭に残しているというより、要点や流れにまとめて記憶している場合があります。

つまり、ワーキングメモリは記憶力全体の名前ではありません。いま使う情報を一時的に保ちながら考える働きであり、あとから思い出す記憶には長期記憶も関わります。


頭の回転との関係

ワーキングメモリは、「頭の回転が速い」と感じる場面に関わります。

ただし、頭の回転という言葉は日常的な表現です。会話が早い、理解が早い、切り返しがうまい、複数の情報を同時に扱えるなど、さまざまな意味で使われます。

情報を持ちながら考える力に関わる

ワーキングメモリが働くと、複数の情報を頭の中に置いたまま考えやすくなります。

たとえば、相手の話を聞きながら「これは前に聞いた話とつながっている」「この質問には理由から答えたほうが伝わりやすい」と判断する場面があります。このとき、話の内容、相手の意図、自分の知識を一時的に並べて使っています。

そのため、ワーキングメモリがうまく働くと、会話や読解、計算、段取りの中で「反応が早い」「理解が早い」と見えやすくなります。

頭の回転はワーキングメモリだけでは決まらない

ワーキングメモリがよく働けば、頭の回転が速く見える場面はあります。ただし、どんな場面でも同じように速く見えるわけではありません。

よく知っている話題なら、少ない負担で理解できます。慣れた仕事なら、手順を細かく考えなくても進められます。逆に、知らない分野では、情報を一時的に覚えるだけでいっぱいになり、反応が遅くなることもあります。

頭の回転に見えるものには、ワーキングメモリのほかに、知識、経験、語彙、集中しやすさ、緊張のしにくさなども関わります。ワーキングメモリは大事な要素ですが、それだけで人の理解力や判断力を決めるものではありません。


ワーキングメモリはどんな場面で使われる?

ワーキングメモリは、勉強や仕事だけでなく、日常生活のかなり多くの場面で使われています。

意識しにくい働きですが、情報を聞いて、覚えて、判断して、行動する場面にはよく関わっています。

会話で使われる

会話では、相手の言葉を聞きながら、話の流れを覚えておく必要があります。

相手が「昨日の予定なんだけど、午前中は雨だったから午後に変えて、それで駅前の店に行った」と話した場合、後半を聞くころには前半の内容も覚えていないと意味がつながりません。

さらに、返事を考えるときには、自分の経験や相手との関係も頭の中で使います。話を聞いている途中で別のことを考えると、話の筋が追えなくなるのは、ワーキングメモリに別の情報が入り込むためです。

勉強や読書で使われる

文章を読むときも、ワーキングメモリはよく使われます。

前の文で出てきた主語や理由を覚えながら、次の文を読み進めるからです。数学の文章題では、条件を覚えながら計算します。英語や古文でも、文の前半を保ちながら後半を読む必要があります。

文章が長すぎたり、条件が多すぎたりすると、内容がわかりにくくなります。これは理解力だけの問題ではなく、一度に扱う情報が多くなりすぎている場合もあります。

段取りや作業で使われる

料理、買い物、片づけ、仕事の手順でもワーキングメモリは使われます。

料理なら「先にお湯を沸かす」「その間に野菜を切る」「調味料を出す」といった順番を頭の中で保ちます。買い物なら、必要なものを覚えながら店内を回ります。

途中で話しかけられたり、スマホ通知が入ったりすると、何をしようとしていたか忘れることがあります。これは、頭の中に置いていた情報が別の情報に押し出された状態に近いです。


ワーキングメモリには限りがある

ワーキングメモリは便利な働きですが、一度に扱える量には限りがあります。これは、情報を一時的に覚えておくだけでなく、その情報を使って考えるための余裕にも限りがあるということです。

1956年の心理学論文をきっかけに、短期記憶では「7つ前後」の情報を一時的に保てるという見方が広く引用されるようになりました。ただし、これは誰にでも同じ数が当てはまるという意味ではありません。その後の研究では、条件や情報のまとまり方によっては3〜5チャンク程度と考える見方もあります。ここでいうチャンクとは、情報のまとまりのことです。

実際にどのくらい覚えやすいかは、人によっても、そのときの状況によっても変わります。疲れているとき、緊張しているとき、周りが騒がしいとき、聞き慣れない言葉が多いときには、聞いたばかりの内容でも抜けやすくなります。反対に、よく知っている内容や意味のまとまりを作りやすい情報なら、覚えやすく感じることがあります。

ワーキングメモリでは、こうした一時的な記憶の枠を使いながら、さらに計算したり、文章を理解したり、返事を考えたりします。そのため、ただ覚えるだけの場面よりも、同時に扱う情報が多くなりやすく、負担も大きくなります。

人によって扱いやすさには差がある

ワーキングメモリや短期記憶の働きには、人によって差があります。同じ説明を聞いてもすぐに要点をつかめる人もいれば、メモを取りながらのほうが理解しやすい人もいます。数字や言葉を覚えるのは得意でも、段取りを同時に考える場面では負担を感じやすい人もいます。

ただし、この差は能力の優劣だけで説明できるものではありません。知っている分野かどうか、疲れているか、緊張しているか、周りが騒がしいかによっても、情報の扱いやすさは変わります。普段は問題なくできることでも、急いでいるときや初めての作業では抜けやすくなることがあります。

ワーキングメモリの差は、能力の高低だけで見る話ではなく、情報をどのくらい同時に抱えやすいか、どんな形なら扱いやすいかの違いとして見るほうがわかりやすくなります。

たくさん覚えるよりまとめ方が大切

「1・9・8・9」という4つの数字も、「1989年」という一つのまとまりとして覚えれば、負担は軽くなります。「東京都千代田区」という地名も、漢字を一文字ずつ覚えるより、一つの地名として覚えるほうが覚えやすくなります。

ワーキングメモリがよく働いているように見える人でも、実際には情報をうまくまとめている場合があります。知識が多い人ほど、新しい情報をすでに知っている枠に入れられるため、頭の中の作業台を効率よく使いやすくなります。

また、会議内容を長く覚えている人も、すべての発言をそのまま保存しているとは限りません。「決まったこと」「保留になったこと」「自分が次にすること」のように、意味のまとまりへ置き換えている場合があります。情報をそのまま抱えるより、まとまりを作って残すほうが記憶しやすくなります。

情報が多すぎると処理が遅くなる

ワーキングメモリに負担がかかると、反応が遅くなったり、ミスが増えたりします。

たとえば、初めて行く場所への道順を聞きながら、時間も確認し、持ち物も気にし、相手の話にも返事をしようとすると、頭の中がいっぱいになります。こうなると、どれか一つの情報が抜けやすくなります。

これは能力だけの問題ではなく、一度に扱う情報が多すぎる状態です。人は誰でも、疲れているときや緊張しているとき、知らない情報が多いときには、ワーキングメモリの負担を感じやすくなります。


ワーキングメモリを使いやすくする工夫

ワーキングメモリの容量そのものを簡単に広げようとするより、負担を減らして使いやすくする考え方が役立ちます。

頭の中だけで覚えようとする情報が増えるほど、考えるための余裕は少なくなります。そこで、覚える量を減らしたり、情報を小分けにしたり、よく使う流れを型にしたりすると、日常の作業が進めやすくなります。

外に出して覚える

頭の中だけで抱えようとすると、ワーキングメモリはすぐにいっぱいになります。

買い物メモを書く、やることを紙に出す、手順をチェックリストにするだけでも、頭の中の負担は減ります。これは記憶力に頼らない方法です。

「覚えておく」ことに力を使いすぎると、「考える」ための余裕が減ります。メモやリストは、頭の中の負担を外へ逃がす道具として使えます。

情報を小さく分ける

一度にすべてを処理しようとすると、負担が大きくなります。

長い文章を読むときは、段落ごとに意味をつかむ。作業は「準備」「実行」「確認」に分ける。説明を聞くときは、要点を一つずつ区切って受け取る。

このように情報を分けると、ワーキングメモリで同時に扱う量が少なくなります。頭の回転そのものを速くするというより、考える流れを詰まりにくくする工夫です。

慣れた型を作る

よく使う作業は、型にしておくと負担が減ります。

朝の準備、文章の書き方、会議前の確認、勉強の始め方などを毎回同じ流れにすると、考える量が少なくなります。慣れた作業ほどスムーズにできるのは、頭の中で一つひとつ保持しなくても進められる部分が増えるからです。

頭の回転が速い人に見える場合も、すべてをその場で考えているわけではありません。知識や経験によって、考えなくても進められる部分が増えていることがあります。


Q&A(よくある疑問)

ワーキングメモリがよく働くと頭の回転が速く見えますか?

関係はあります。ただ、会話の速さや理解の早さは、知識や慣れにも左右されます。ワーキングメモリは情報を一時的に保ちながら考える働きなので、会話や計算、読解の速さに関わりますが、それだけで頭の回転が決まるわけではありません。

ワーキングメモリと短期記憶は同じですか?

似ていますが、同じ意味で使われるとは限りません。短期記憶は短い時間だけ情報を覚えておく働きとして説明されることが多く、ワーキングメモリはその情報を使って考える働きまで含みます。暗算や会話の返答には、ワーキングメモリが関わります。

短期記憶が得意でもワーキングメモリを使う場面が苦手なことはありますか?

あります。数字や言葉をそのまま覚えるのは得意でも、それを使って計算したり、比べたり、判断したりする場面では負担が増えることがあります。覚えておく力と、覚えた情報を使って考える力は、少し違う働きとして見るとわかりやすいです。

長い会議内容や一日の行動を覚えるのもワーキングメモリですか?

ワーキングメモリだけではありません。会議中に話を聞きながら要点をつかむ場面ではワーキングメモリが働きますが、あとから内容を思い出すときには長期記憶も関わります。一日の出来事を流れとして思い出す働きは、エピソード記憶に近いものです。

ワーキングメモリを使いやすくする工夫はありますか?

あります。メモを使う、情報を小さく分ける、手順を型にするなど、頭の中だけで抱え込まない工夫が役立ちます。ワーキングメモリそのものを大きくするというより、一度に扱う情報を減らして負担を軽くする考え方です。


まとめ

ワーキングメモリとは、いま必要な情報を一時的に頭の中へ置きながら、考えたり使ったりする働きです。暗算、会話、読書、段取りなど、日常のさまざまな場面で使われています。

短期記憶と似ていますが、短期記憶が「短い時間だけ覚えておく働き」として説明されることが多いのに対し、ワーキングメモリは覚えた情報を使って考えるところまで含みます。また、長い会議内容や一日の行動をあとから思い出す場面では、長期記憶やエピソード記憶も関わります。

頭の回転と呼ばれる感覚にも関係しますが、それだけで決まるわけではありません。知識、経験、慣れ、集中しやすさも大きく関わります。

ワーキングメモリには限りがあるため、頭の中だけで抱え込むと負担が増えます。メモに出す、情報を分ける、慣れた型を作ることで、考えるための余裕を残しやすくなります。


参考情報

  • APA Dictionary of Psychology「Working Memory」
  • APA Dictionary of Psychology「Short-Term Memory」
  • APA Dictionary of Psychology「Long-Term Memory」
  • Baddeley「Working memory」
  • Miller「The Magical Number Seven, Plus or Minus Two」
  • Cowan「The magical number 4 in short-term memory」
  • Dickerson and Eichenbaum「The Episodic Memory System」
  • Melby-Lervåg, Redick, Hulme「Working Memory Training Does Not Improve Performance on Measures of Intelligence or Other Measures of Far Transfer」

この記事を書いた人

気になったテーマを中心に、公開情報や資料を読みながら記事をまとめています。背景や違いが見えにくい話題も、公式サイトや公開資料を確認しつつ、できるだけわかりやすく整理してお届けしています。

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