「既存」はなぜ「きぞん」とも読む?読み方が広がった理由

「既存」は、本来 きそん と読む言葉です。

ところが、日常会話やビジネスの場では きぞん と読む人も少なくありません。パソコンやスマホでも「きぞん」と入力して「既存」に変換できることが多いため、「きぞん」でもよいのではないかと感じる人もいるはずです。

現在の扱いを見ると、「きそん」が本来の読みである一方、「きぞん」も日常で耳にする読みになっています。つまり、「既存」は日本語の読み方がどのように揺れ、広がっていくのかが見えやすい言葉の一つです。


目次

「既存」の本来の読み方は「きそん」

「既存」は、すでに存在していることを意味する言葉です。

たとえば、「既存の施設」「既存のルール」「既存の顧客」「既存システム」のように使います。新しく作るものに対して、すでにあるものを指すときによく使われます。

この「既存」の本来の読み方は きそん です。

「既」は「すでに」という意味を持ち、「存」は「存在する」「ある」という意味を持ちます。そのため、「既存」は文字通り「すでに存在していること」を表します。

ただ、読み方で迷いやすい理由は「存」という漢字にあります。

「存」は、熟語によって そん と読んだり、ぞん と読んだりします。「存続」「存亡」は「そん」と読みますが、「保存」「存分」「存じる」などでは「ぞん」と読みます。

このように同じ漢字でも読みが分かれるため、「既存」も「きぞん」と読まれやすくなったと考えられます。


なぜ「きぞん」と読む人が増えたのか

「きぞん」と読む人が増えた理由の一つは、似た言葉に「ぞん」と読むものが多いからです。

たとえば、「保存」「生存」「依存」「共存」「現存」などは、日常でもよく見聞きします。これらの言葉では「存」を「ぞん」と読むことがあります。

そのため、「既存」も同じように「きぞん」と読んだほうが自然に感じられる人が出てきます。漢字を一字ずつ読み分けるというより、耳で聞き慣れた言葉のパターンに引き寄せられるわけです。

こうした読み方は、最初は本来の読みとは違っていても、使う人が増えることで社会に広がっていきます。

このように、本来とは違う読み方が広く使われるようになったものは「慣用読み」と呼ばれることがあります。

たとえば、「重複」は本来「ちょうふく」とされますが、「じゅうふく」も広く使われます。「早急」は「さっきゅう」と読まれてきましたが、「そうきゅう」もよく耳にします。

言葉は辞書の中だけで固定されているのではなく、実際に使われる中で少しずつ揺れながら変わっていきます。


「きぞん」はいつから使われるようになったのか

「既存」を「きぞん」と読むようになった正確な始まりを、一つの日付で示すのは難しいです。

ただ、少なくとも2010年代には、「きぞん」という読みが広く使われていたことがうかがえます。辞書や漢字辞典でも、「きそん」を基本としつつ、「きぞん」ともいうと補足されることがあります。

ここで押さえておきたいのは、「きぞん」がある時点で突然生まれた読み方ではないということです。

もともと「存」を「ぞん」と読む言葉が多く、そこから「既存」も「きぞん」と読まれやすくなりました。その読みが会話や仕事の場で使われるうちに、辞書や資料でも取り上げられるようになってきたと考えられます。

ただし、「きぞん」が広がったからといって、「きそん」が古い読みになったわけではありません。現在でも、本来の読みとしては「きそん」が中心です。


辞書によって扱いが違う理由

「既存」の読み方で迷いやすいのは、辞書や資料によって扱いが少し違うからです。

たとえば、辞書では「既存」を「きそん」として載せ、「きぞん」は本来は誤りと補足しているものがあります。一方で、漢字辞典系の資料では「きそん」を基本としつつ、参考として「きぞん」ともいうと記されることがあります。

この違いは、どちらかが単純に間違っているというより、辞書が何を重視するかの違いでもあります。

本来の読みをはっきり示す辞書もあれば、実際に広く使われている読み方を補足する資料もあります。言葉の読みは、学校で習う読み、辞書の見出し、放送で使う読み、日常会話で使われる読みが、いつも完全に一致するとは限りません。

「既存」は、その揺れが見えやすい言葉なのです。


仕事では「きそん」と読むほうが無難?

現在でも、改まった場面では きそん と読むほうが無難です。

理由は、「きそん」が本来の読み方として辞書の中心に置かれているからです。会議、発表、面接、学校、資格試験、原稿読みなど、正確さが求められる場面では「きそん」を使ったほうが安心です。

一方で、日常会話や職場の会話では「きぞん」と読む人もいます。その場で意味が通じているなら、会話を止めてまで強く訂正する必要はないかもしれません。

ただし、自分が読む側なら、迷ったときは「きそん」を選ぶのが扱いやすいです。

「きぞん」は広く使われるようになった読みですが、すべての辞書やすべての人が同じように受け止めているわけではありません。相手によっては、「きぞん」に違和感を持つことがあります。

そのため、記事やビジネス文書、音読、公式な場面では「きそん」を基本にし、会話では相手や場面に合わせるのが現実的です。


読み方が変わるのは珍しいことではない

「既存」の読み方が揺れていると聞くと、言葉が乱れているように感じる人もいるかもしれません。

しかし、読み方が変化すること自体は珍しくありません。

言葉は、辞書に載ってから使われるだけではなく、人が使う中で広がり、辞書や放送用語の扱いにも反映されていきます。特に漢字の読み方は、似た熟語の影響を受けやすく、よく聞く読み方に引き寄せられることがあります。

「依存」も、以前は「いそん」と読むことが意識されていましたが、現在では「いぞん」が広く使われています。一方で「既存」は、今でも「きそん」が本来の読みとして中心にあります。

同じ「存」を含む言葉でも、読み方の変化の進み方は一律ではありません。ここに、漢字の読み方が一語ごとに揺れながら変わっていく様子が見えます。


「きそん」と「きぞん」はどう使い分ければいい?

迷ったときの基本は、次のように考えるとわかりやすいです。

正確さを重視する場面では「きそん」を使います。学校、試験、原稿、辞書的な説明、ビジネスでの正式な発表などでは、「きそん」と読むのが無難です。

一方で、会話の中で相手が「きぞん」と言っている場合は、意味が通じていれば会話を止めてまで直す必要はありません。言葉の読み方には慣用読みがあり、広く使われることで扱いが変わっていくものもあります。

ただし、自分が誰かに説明する場合は、次のように伝えると誤解が少なくなります。

「本来はきそん。ただし、きぞんとも言われるようになっている」

「どちらが絶対に正しいか」だけで見るより、「本来の読み」と「広がった読み」を分けて考えると、読み方の変化を理解しやすくなります。


Q&A(よくある疑問)

「既存」は「きそん」と「きぞん」どちらが正しいですか?

本来の読み方は「きそん」です。ただし、「きぞん」と読む人も増えており、資料によっては「きぞん」ともいうと補足されています。正式な場面や正確さが求められる場面では「きそん」を使うのが無難です。

「きぞん」はいつから使われるようになったのですか?

正確な始まりを一つの日付で示すのは難しいです。ただ、少なくとも2010年代には「きぞん」という読みが広く使われていたことがうかがえます。現在も辞書や漢字辞典では、「きそん」を基本としながら、「きぞん」ともいうと補足されることがあります。

なぜ「きぞん」と読む人が多いのですか?

「保存」「生存」「依存」「共存」など、「存」を「ぞん」と読む言葉が多く耳に入るためです。その読みのパターンに引き寄せられて、「既存」も「きぞん」と読まれやすくなったと考えられます。

ビジネスではどちらを使うべきですか?

会議や発表など改まった場面では「きそん」が無難です。日常会話では「きぞん」と読む人もいますが、相手によっては違和感を持つことがあります。迷ったら「きそん」を選ぶと安心です。

「きぞん」と読んだ人に伝えるべきですか?

会話が通じているなら、必ず直す必要はありません。ただし、原稿読み、試験、研修、文章指導など正確さが必要な場面では、「本来はきそん」と補足するとよいでしょう。


まとめ

「既存」は本来 きそん と読む言葉です。意味は、すでに存在していること。「既存の施設」「既存のルール」「既存顧客」のように使われます。

一方で、現在では きぞん と読む人も増えています。少なくとも2010年代には広く使われる読みになっていたと考えられ、資料によっては「きぞん」ともいうと補足されることがあります。

ただし、現在でも本来の読みとしては「きそん」が中心です。改まった場面では「きそん」、会話では「きぞん」も耳にする読みと考えると、言葉の変化を無理なく理解できます。


参考情報

  • コトバンク「既存」
  • 日本漢字能力検定協会 漢字ペディア「既存」
  • 日本漢字能力検定協会 漢字ペディア「存」
  • JapanKnowledge「第126回『存』の読みは辞書編集者泣かせ」

この記事を書いた人

気になったテーマを中心に、公開情報や資料を読みながら記事をまとめています。背景や違いが見えにくい話題も、公式サイトや公開資料を確認しつつ、できるだけわかりやすく整理してお届けしています。

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