伝え方が曖昧になるのはなぜ?言葉のすれ違いが生まれる理由

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「これ、早めにお願い」「いい感じに直して」――話している本人には十分でも、受け手には判断材料が足りない言葉は日常にあふれています。

伝え方が曖昧になる理由は、語彙力や説明力だけではありません。人は会話をするとき、相手も自分と同じことを知っているつもりで話したり、細かな説明を省いたりします。確信の度合いを伝えるために言い切らなかったり、相手への伝え方を考えて間接的な表現を選んだりすることもあります。

話し手の中では意味が一つに決まっていても、聞き手には複数の解釈が残ることがあります。この差が、「伝えたつもりなのに伝わらない」というすれ違いにつながります。

目次

前提や基準が共有されていないと伝え方は曖昧になりやすい

伝え方が曖昧に感じられる大きな理由の一つは、話し手と聞き手で共有している前提や、言葉を具体化する基準が一致しているとは限らないことです。

たとえば「早めに送って」と頼んだとします。

話し手は「今日の15時まで」を想定しているかもしれません。一方、聞き手は「今日中なら早めだろう」と受け取る可能性があります。

「青いファイルを取って」で通じることもあれば、青いファイルが何冊もあれば「どれ?」となります。

同じ言葉を聞いていても、頭の中にある情報や経験まで同じとは限りません。

会話では、互いに共有していると考えている知識や状況を利用して言葉を省きます。こうした共有情報は「共通基盤」と呼ばれます。

共通基盤が十分にそろっていれば短い言葉でも伝わります。反対に、共有できていると思った前提がずれていれば、短い一言でも受け取り方が分かれることがあります。

伝え方が曖昧になる主な5つの理由

同じように曖昧に聞こえる表現でも、そこに至る理由は一つではありません。情報を省いた結果として曖昧になる場合もあれば、言葉そのものに幅がある場合や、あえて断定しない場合もあります。

1. 自分の知識を相手も共有していると思いやすい

人は会話のたびに、相手が何を知っていて何を知らないのかを完全に把握しているわけではありません。

そのため、

「前に話した件」
「あそこの資料」
「いつものやり方」

といった言葉が使われます。

双方が同じものを思い浮かべていれば問題ありません。しかし「前に話した件」が複数あったり、「いつものやり方」の認識が違ったりすれば、意味は一気に曖昧になります。

人は相手の立場を考えていても、自分が知っていることに引っ張られ、知らない人の立場を想像しにくくなることがあります。

これと関連する現象として知られているのが、「知識の呪い」です。

一度ある情報を知ると、その情報を知らない人の視点を考えるときにも、自分の知識が影響することがあります。

専門用語や社内だけで使う略称を「これくらいは知っているだろう」と説明なしで使ってしまう場面にも、似たズレがあります。

ただし、曖昧な伝え方がすべて知識の呪いで説明できるわけではありません。自分と相手の知識量の違いを見落とす一因として考えられます。

2. 会話では多くの情報を省いて話している

人は普段、頭の中にある情報をすべて言葉にしているわけではありません。

机の上に青いファイルが一冊しかなければ、

「青いファイル取って」

だけで十分です。

毎回、

「机の右側に置いてある、表紙が青色で、昨日の会議でも使ったファイルを取って」

と説明していたら、会話は必要以上に長くなります。

哲学者ポール・グライスは、会話が成り立つ仕組みを考える中で、必要な情報量や関連性、分かりやすさなどに関する原則を提案しました。

省略すること自体が問題なのではありません。むしろ日常会話では、短く伝えるために欠かせないものです。

すれ違いが起こるのは、話し手が「ここまで言えば分かる」と考えた地点と、聞き手が判断するために必要な情報量がずれたときです。

「昨日の件お願い」で十分な相手もいれば、「昨日のどの件?」となる相手もいます。

3. 「早め」「少し」「ちゃんと」は人によって基準が違う

言葉そのものに幅があるため、話し手と聞き手が別の基準を当てはめることもあります。

たとえば、

  • 「早め」……今日の午前中なのか、今日中なのか
  • 「少し」……1分なのか、10分なのか
  • 「大きめ」……何と比べて大きいのか
  • 「ちゃんと」……何を満たせば完成なのか
  • 「いい感じ」……どの状態を求めているのか

といった表現です。

こうした表現でも、基準が共有されていれば十分に伝わります。「いつもの大きさ」「前と同じくらい」で問題のない場面もあります。

曖昧に感じる表現にも違いがあります。

「早め」「少し」のように境界に幅がある言葉もあれば、「これ」「あれ」のように周囲の状況によって指すものが決まる表現もあります。「自由」「信頼」のような抽象度の高い言葉とも、厳密には同じものではありません。

ただ、日常会話ではこれらが重なり、話し手の中だけで具体化されている基準が相手に伝わらないことで、似たようなすれ違いが起こります。

4. 確信の度合いを伝えるために言い切らないことがある

「たぶん」「一応」「~だと思う」「~かもしれない」といった言葉は、発言の確実さを調整するときに使われます。

言語研究では、発言の確実さや断定の強さを調整するこうした表現を「ヘッジ」と呼ぶことがあります。

たとえば、

「この数字は間違っています」

と、

「この数字は少し違うかもしれません」

では、伝わる確信の強さが異なります。

後者なら、話し手が断定できるほどの情報を持っていないことも表せます。一方で、受け手には「実際に間違っているのか」「念のため疑っているだけなのか」という余地が残ります。

言い切らない表現には役割がありますが、どこまで確信しているのかが伝わらないと、受け手が判断に迷う場合があります。

5. あえて間接的に伝える場面もある

人は、いつでも最も直接的な言い方を選ぶわけではありません。

たとえば部屋が寒いとき、

「窓を閉めてください」

と言う代わりに、

「ちょっと寒くないですか?」

と伝えることがあります。

文字どおりには気温について尋ねていますが、状況によっては「窓を閉めてほしい」という意図も読み取れます。

依頼や断り、批判のように相手との関係へ影響しやすい場面では、直接言わずに意図を伝える間接的な言い方が使われることがあります。

この場合、曖昧さは説明に失敗した結果とは限りません。はっきり言い切らないこと自体が、会話の中で役割を持つ場合があります。

ただし、間接的な言い方なら必ず丁寧になるわけではありません。状況や言葉の選び方によって、受け取られ方は変わります。

曖昧な表現にも役割がある

曖昧な言葉をすべて数字や具体的な説明に置き換えれば、会話が必ず分かりやすくなるわけではありません。

家族に「それ取って」と言ってすぐ通じるなら、「テーブル右側にある黒い物を取って」と毎回説明する必要はありません。

「時間があればお願いします」
「できれば今日中に」

という言い方も、細かな条件を固定せず、相手にある程度の余地を残しています。

曖昧な表現には、

  • 会話を短くする
  • 状況に合わせて意味を調整する
  • 確信の強さを示す
  • 直接的な言い方を避ける

といった働きがあります。

曖昧な表現が役立つか、すれ違いにつながるかは、その場で必要な意味や基準をどこまで共有できているかによって変わります。

短くても十分に伝わる場面と、もう一つ情報を足したほうがよい場面があるということです。

曖昧さがすれ違いにつながりやすいのはどんなとき?

日常会話には曖昧な言葉がたくさんあります。それでも多くの会話が成立するのは、前後の状況や共通の経験から意味を補えるためです。

違いが問題になりやすいのは、曖昧な部分によって次の行動や結果が変わる場面です。

「早めに送って」なら期限。
「大きめに作って」ならサイズ。
「何個か用意して」なら数量。
「いい感じに直して」なら完成条件。

話し手の中では「早め=15時まで」「何個か=3個」と決まっていても、それを言葉にしなければ、聞き手は自分の基準で補うことになります。

特に、期限・数量・場所・対象・優先順位・完成条件のように、解釈の違いが結果へ直接影響する部分では、小さな曖昧さが大きなすれ違いにつながることがあります。

逆に「あとで雑談しよう」の「あとで」が多少ずれていても、大きな問題にならない場面もあります。

同じ表現でも、使われる場面によって曖昧さの影響は変わります。

伝わりやすくするには相手に見えていない情報を補う

伝わりやすくするために必要なのは、何でも細かく説明することではありません。

相手が判断するときに欠けている情報だけを補えば、短い言葉のままでも意味はかなり絞れます。

「早めにお願い」なら「今日の15時までにお願い」。

「そこに置いて」なら「入口右側の棚に置いて」。

「大きめに作って」なら「A4より一回り大きくして」。

曖昧だった部分を一つ具体化するだけでも、受け手が想像で補わなければならない範囲は小さくなります。

また、話し手が最初からすべてを具体化しなくても、聞き手の確認によって意味を合わせることができます。

「早めって今日中?」
「この資料で合ってる?」
「3個くらいで大丈夫?」

といった確認です。

会話では、互いに「ここまでは同じ意味で理解できている」と確かめながら、共有している情報を少しずつ増やしていきます。

言葉を発した瞬間にすべてが伝わるとは限りません。相手の返答や聞き返しを通じて意味を合わせることも、普段の会話の一部です。

伝わりやすさを左右するのは、単純な言葉数ではありません。

自分の頭の中にだけある情報がどこなのかに気づき、必要な部分を相手と共有できるかどうかが大きく関わっています。

まとめ

伝え方が曖昧になる背景には、単なる説明不足だけでなく、普段の会話そのものの仕組みがあります。

人は共有できていると思った情報を省き、自分が持っている知識の影響も受けながら話します。「早め」「ちゃんと」「少し」のように基準に幅がある言葉もあり、確信の度合いを伝えるために断定を避けたり、あえて間接的な言い方を選んだりすることもあります。

曖昧さそのものをなくす必要はありません。短い言葉で十分に通じる場面もあれば、期限や数量などを少し具体化したほうがよい場面もあります。

最初から完全に伝わらなくても、聞き返しや確認によって意味を合わせることもできます。

話し手には一つの意味しか見えていないのに、聞き手にはいくつもの意味が残っている。その差が、言葉のすれ違いを生む大きな理由です。

参考情報

  • Herbert H. Clark, Susan E. Brennan「Grounding in Communication」『Perspectives on Socially Shared Cognition』
  • Boaz Keysar, Dale J. Barr, Jennifer A. Balin, Jason S. Brauner「Taking perspective in conversation: the role of mutual knowledge in comprehension」Psychological Science
  • Colin Camerer, George Loewenstein, Martin Weber「The Curse of Knowledge in Economic Settings: An Experimental Analysis」Journal of Political Economy
  • Stanford Encyclopedia of Philosophy「Implicature」
  • Alexandra Lorson, Chris Cummins, Hannah Rohde「Strategic Use of (Un)certainty Expressions」Frontiers in Communication

この記事を書いた人

気になったテーマを中心に、公開情報や資料を読みながら記事をまとめています。背景や違いが見えにくい話題も、公式サイトや公開資料を確認しつつ、できるだけわかりやすく整理してお届けしています。

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