洋食を食べていると、「フォークの背に料理を乗せて食べるのが正式なマナー」と聞くことがあります。ところが、実際にやってみると豆や細かな料理は落ちやすく、「なぜわざわざ食べにくい方法を使うの?」と思う人もいるでしょう。
実は、フォークの背に料理を乗せること自体が目的なのではありません。 ナイフとフォークを一緒に使う伝統的な英国式などでは、フォークの歯を下向きに保つ作法があります。その状態で刺さずに料理をナイフで押し載せると、フォークの背側へ料理が乗ります。
しかも、どんな料理でも必ず背に乗せるわけではありません。一見不思議に見える食べ方も、ナイフとフォークをどう使うかという流れから見ると理由が分かってきます。
フォークの背側に乗るのは「歯を下に向けて使う」作法があるから
フォークの背に料理を乗せる理由を知るには、ナイフとフォークを一緒に使うときの持ち方を見ると理解しやすくなります。
伝統的な英国式のテーブルマナーでは、基本的にナイフを右手、フォークを左手に持ちます。両方を使って食べている間は、フォークの歯を下向きにした状態を保ちます。
肉などはフォークで押さえたり刺したりできますが、細かな野菜ややわらかい料理は、ナイフを使ってフォークへ寄せることがあります。このとき歯が下を向いているため、刺さずに載せる料理は背側へ乗る形になります。
「料理を背に乗せるためにフォークを裏返している」のではなく、「歯を下向きに使う作法があり、その結果として背側に料理が乗ることがある」という順番です。
なぜフォークの歯を下に向けるの?
では、そもそもなぜ歯を下向きにして使うのでしょうか。ここでは、料理を切るときの持ち方が関係しています。
ナイフで肉や野菜を切るときは、左手のフォークの歯を下向きにして食材を押さえます。コンチネンタル・スタイル(フォークを左手に持ったまま食べる方式)では、切ったあともフォークを右手へ持ち替えず、そのまま左手で口へ運びます。
そのため、切るときに使っていたフォークの向きを大きく変えず、食べる動作へ移れます。右手のナイフも持ったままなので、次の一口を切ったり、細かな料理をフォークへ寄せたりすることもできます。
「背に料理を載せたいから歯を下へ向ける」のではありません。料理を押さえて切るところから口へ運ぶところまで同じ持ち方を続けるため、フォークの歯も下向きのまま使われます。
ただし、この作法そのものが歴史上なぜ成立したのかを、一つの理由だけで説明することはできません。現在見られる使い方は、ナイフとフォークを組み合わせる食事作法が長い時間をかけて形づくられてきたものです。
ナイフは切るだけでなく料理を寄せる役割もある
ナイフは肉などを切るためだけの道具ではありません。フォークでは扱いにくい細かな料理を寄せたり、フォークへ軽く押し載せたりする役割も持っています。
たとえば、小さく切った野菜なら、ナイフでフォークのほうへ寄せ、そのまま左手のフォークを口へ運べます。フォークを右手へ持ち替えたり、食べるたびに上下を返したりせず、ナイフとフォークを持った状態のまま一連の動作を続けられます。
英国式の作法とコンチネンタル・スタイルには、左手のフォークを歯が下向きのまま使うなど共通する部分があります。ただし、地域やマナー体系によって細かな作法まで完全に同じというわけではありません。
フォークの背側に料理が乗る場面は、単独の変わったルールではなく、ナイフとフォークを両手で使う一連の所作の中で生まれるものなのです。
豆までフォークの背に乗せるのはなぜ?
「肉なら刺せるけれど、グリーンピースまで背に乗せる必要があるの?」と疑問に思う人もいるでしょう。フォークの背について話題になると、特に例に出されやすいのが豆類です。
丸いグリーンピースをフォークの背へそのまま載せようとすれば、転がりやすくなります。伝統的な英国式の作法では、ナイフとフォークを使っている途中にフォークをひっくり返してスプーンのようにすくうのではなく、ナイフを使って料理をフォークへ寄せる方法があります。
豆のような小さな食材では、マッシュポテトなどのやわらかい料理と一緒にフォークへ載せる方法も知られています。
ただし、これは豆を一粒ずつ器用に背へ積み上げることがマナーだという意味ではありません。 食べ物を落としそうになりながら、何でも無理に背側へ載せ続ける必要はありません。
刺せる料理は普通に刺してよい
「背に乗せる」という言葉だけが広まると、すべての料理をフォークの背側へ載せなければならないように思えるかもしれません。
実際には、肉や大きめの野菜などフォークの歯で扱いやすい料理なら、そのまま刺したり押さえたりできます。一方、小さな食材ややわらかい料理なら、ナイフで寄せてフォークへ載せることがあります。
たとえば、肉や大きな野菜はフォークで刺したり押さえたりし、小さな料理はナイフで寄せる。豆などは、やわらかい料理と一緒に載せることもある、といった使い分けです。
肉や野菜、小さな食材など、料理に応じてフォークの使い方を変えるのが実際の食べ方です。
フォークはいつでも歯を下に向けるわけではない
もう一つ誤解されやすいのが、「正式な場ではフォークの歯は必ず下向き」という考え方です。
ナイフとフォークを一緒に使う伝統的な英国式などでは、フォークを左手に持ち、歯を下向きにするのが基本です。一方、ナイフを使わずフォークだけで食べる料理では、フォークを右手に持ち、歯を上向きにして使う場合もあります。
ライス料理や一部のパスタなどでは、フォークを上向きにしてすくうように扱うほうが食べやすい場合があります。「背側に乗せるのが正式で、歯を上向きにして食べるのは間違い」と一律に考える必要はありません。
テーブルマナーも料理に合わせて変化している
テーブルマナーというと、何百年も変わらない厳格な決まりのように感じるかもしれません。しかし、実際の食事作法は、さまざまな国や地域の料理が広まる中で変化してきました。
すべての料理を肉料理と同じ方法で扱う必要はありません。ライス料理のようにフォークの歯を上向きにしたほうが扱いやすいものもあり、料理本来の食べ方や食べやすさに応じてナイフやフォークの使い方も変わります。
「フォークは必ずこの向き」と一つだけ覚えるよりも、料理の種類や使っている道具によって所作も変わると知っておくほうが、実際の食卓では役立ちます。
アメリカ式では途中でフォークを持ち替えることもある
国や地域によっても、ナイフとフォークの使い方には違いがあります。
コンチネンタル・スタイルでは、料理を切るときも食べるときも、フォークを左手に持ったまま使います。一方、伝統的なアメリカ式では、左手のフォークで料理を押さえながら右手のナイフで切ったあと、ナイフを置き、フォークを右手へ持ち替えて食べる方法があります。
その場合、フォークの歯を上向きにして食べることもあります。フォークの歯を上に向けること自体は、マナー違反ではありません。
「フォークの背に乗せるのが洋食の正式マナー」と一律に覚えるより、いくつかある西洋式の食事作法の一つとして捉えるほうが、実際の食事作法に近い理解です。
フォークは昔から今のように使われていた?
現在では当たり前のように食卓に並ぶフォークですが、西洋でも最初から一般的な食事道具だったわけではありません。
古代ローマにもフォーク状の道具は存在しました。ただし、現在のように一人ひとりが料理を口へ運ぶためだけに使われていたわけではなく、料理を取り分ける道具として使われたとみられる例も残っています。
その後、東ローマ帝国(ビザンツ帝国)を中心とする地域では、食事用の小型フォークが使われるようになり、西ヨーロッパにも伝わっていきました。それでも、現在のように誰もが日常的に使う道具になるまでには時間がかかります。
イングランドで食事用フォークが広く受け入れられるようになったのは17世紀ごろとされ、それ以前には手やナイフ、スプーンを使って食べる場面も多くありました。
フォークが食卓に定着すると、ナイフとの組み合わせ方や、料理を切って口へ運ぶまでの所作も発達します。18世紀ごろには、右手にナイフ、左手にフォークを持ち、フォークの歯を下向きにする食べ方がヨーロッパで広く見られるようになったとされています。
とはいえ、「ある日誰かがフォークの背に料理を載せるルールを考案した」という歴史ではありません。
現在見られる食べ方は、ナイフとフォークをどう組み合わせて使うかという作法が長い時間の中で変化し、その結果として形づくられたものです。
Q&A
まとめ
フォークの背に料理を乗せて食べるのは、背側そのものに特別な意味があるからではありません。
ナイフとフォークを一緒に使う伝統的な英国式などでは、料理を切るときから左手のフォークの歯を下向きに保ちます。その持ち方のまま食べるため、刺さずに料理を押し載せると背側へ乗ることがあります。
肉などは普通に刺して食べられますし、フォークだけを使うライス料理などでは歯を上向きにする場合もあります。アメリカ式のように、途中でフォークを右手へ持ち替える食べ方もあります。
そのため、「洋食では何でもフォークの背に乗せるのが正解」と覚える必要はありません。
フォークの背に料理が乗るのは、ナイフとフォークを両手で使い、切るところから食べるところまで同じ持ち方を続ける食事作法から生まれた結果の一つです。料理や地域によって使い方が変わることまで知っておくと、一見不思議に見える西洋のテーブルマナーも理解しやすくなります。
参考情報
- Debrett’s, “The Golden Rules of Dining”
- Debrett’s, “Are Table Manners Old-Fashioned?”
- Debrett’s, “The Fabulous Fork”
- Emily Post Institute, “Table Manners – Continental Style Dining”
- The Metropolitan Museum of Art, “Fork – Italian, 15th century”
- The Metropolitan Museum of Art, “Bronze serving fork – Roman, ca. 2nd–3rd century CE”
