宇宙には数え切れないほど多くの星や銀河があります。それなのに夜空を見上げると、星と星の間には広い暗闇が見えます。
もし宇宙が無限に広がり、無限の昔からほぼ同じ状態で、どこを見ても平均的には同じように星が存在して輝き続けているとしたら、どの方向を見てもいずれ星の表面に行き当たり、夜空全体が明るく見えるはずです。それなのに実際の夜空は暗い。この疑問は「オルバースのパラドックス」として知られています。
夜空が暗い理由を考えるうえで特に重要なのは、宇宙には約138億年という年齢があり、星も永遠の昔から輝いていたわけではないことです。さらに、宇宙の膨張によって遠くから届く光は波長を伸ばされています。
普段何気なく見ている夜空の黒さには、宇宙が長い時間をかけて変化してきた歴史が関係しています。
星がたくさんあるのに、なぜ夜空は明るくならない?
肉眼で見える星のさらに奥にも、はるか遠くまで星や銀河が存在しています。それでも空の大部分は黒く見えます。
「遠くの星ほど暗いからでは?」と思うかもしれません。確かに一つ一つの星は、遠くなるほど暗く見えます。
しかし、宇宙のどこまでも同じような密度で星が存在すると仮定すると、それだけでは説明できません。
遠くへ行くほど一つの星から届く光は弱くなる一方、その距離に広がる空間も大きくなります。そのぶん、そこに含まれる星の数も増えていきます。
そのため、無限に広く、無限に古く、星がどこまでも存在する宇宙を考えると、空のどの方向にも最終的には星があることになります。
もしすべての視線の先が星の表面へ行き着くなら、夜空は現在のように星と星の間が黒く見えるのではなく、空全体が明るく輝いているはずです。
この「星が大量に存在するのに、なぜ夜空は暗いのか」という問題がオルバースのパラドックスです。
宇宙のちりが光を遮っているだけでは説明できない
遠くの星が見えないのは、宇宙空間にあるガスやちりが光を遮っているからだとも考えられます。
実際、星間空間にあるちりは星の光を吸収し、可視光では暗く見える領域を作ることがあります。しかし、無限の昔から星が輝き続けている宇宙を仮定すると、ちりだけで夜空全体の暗さを説明することはできません。
光を吸収し続けた物質はエネルギーを受け取って温まり、やがてそのエネルギーを別の波長で放射するからです。
つまり「途中にある物質が星の光を隠している」という説明だけでは、夜空全体が暗いことを十分には説明できません。
夜空の暗さを理解する鍵になるのは、宇宙と星の歴史が永遠ではないことです。
夜空が暗い大きな理由は宇宙に「年齢」があるから
現在の観測では、宇宙の年齢は約138億年とされています。
夜空の暗さを考えるうえで重要なのは、宇宙が現在まで歩んできた時間には限りがあるという点です。これは、宇宙全体の空間がどこかで終わっているという意味ではありません。宇宙そのものの広さに端があるかどうかとは別の話です。
そして光にも速さの限界があり、真空中では1秒間に約30万km進みます。
例えば100光年離れた星を見るとき、私たちが受け取っているのは約100年前にその星を出た光です。100万光年離れた天体なら、約100万年前の姿を見ています。
遠くを見ることは、それだけ昔の宇宙を見ることでもあります。
宇宙が現在まで歩んできた時間には限りがあるため、私たちのもとへ光が届くために使える時間にも限りがあります。しかも、宇宙の非常に初期から現在のような星や銀河が存在していたわけでもありません。
最初の星が生まれるまでにも時間が必要でした。その後も星は生まれては寿命を迎え、銀河も長い年月をかけて変化してきました。
そのため、あらゆる距離から星の光が届いて夜空全体を埋め尽くすことはありません。これが、夜空が暗く見える大きな理由です。
宇宙の膨張も遠くの光を弱める
宇宙は現在も膨張しており、その影響は遠くから届く光にも表れます。
遠方の銀河からやって来る光は、宇宙空間の膨張によって波長が引き伸ばされます。この現象が「宇宙論的赤方偏移」です。
波長が長くなると、もともと可視光として放たれた光が赤外線など、人間の目では見えない範囲へ移ることがあります。また、波長が伸びるほど光子一個あたりのエネルギーも小さくなります。
そのため宇宙の膨張も、非常に遠い天体から届く光を弱める方向に作用します。
ただし、夜空が暗い理由を「宇宙が膨張しているから」とだけ考えるのは十分ではありません。
中心にあるのは、宇宙と星の歴史に始まりから現在までの時間的な限りがあり、あらゆる距離から無限の時間をかけて星の光が届いているわけではないことです。宇宙膨張による赤方偏移は、そこへ加わる重要な要素の一つです。
オルバースが最初に夜空の暗さへ気付いたの?
「オルバースのパラドックス」という名前を見ると、ドイツの天文学者ハインリヒ・ヴィルヘルム・オルバースが最初に考えた問題のように思えます。
しかし、夜空の暗さをめぐる疑問は、それより前から考えられていました。
17世紀初頭にはヨハネス・ケプラーも、星が無限に広がっているなら夜空はどう見えるのかという問題に触れています。その後も複数の学者が似た疑問を取り上げ、19世紀にオルバースが論じたことで、その名前が広く知られるようになりました。
つまり、オルバースのパラドックスは一人の天文学者が突然見つけた謎というより、宇宙の広さや歴史を考える中で長く議論されてきた問題です。
夜空が暗いという身近な事実が、「宇宙は永遠なのか」「星はいつから存在しているのか」「宇宙は時間とともに変化しているのか」という大きな問いにつながっていました。
実は宇宙は完全な「真っ暗」ではない
人間の目には星と星の間が黒く見えますが、「黒く見えること」と「そこから光がまったく届いていないこと」は同じではありません。
非常に暗いため肉眼では黒く見える場所にも、ごく弱い光が存在します。可視光の範囲でも、遠くの銀河などから届く非常に淡い背景光が観測されています。
さらに、人間の目で見ることのできない波長まで広げると、宇宙にはさまざまな電磁波が存在しています。
その代表的なものが「宇宙マイクロ波背景放射」です。
ほぼ全天から届く約2.7Kの背景放射
宇宙マイクロ波背景放射は、宇宙が非常に若かった時代の名残です。
初期の宇宙は高温で、電子が自由に動き回っていました。光は電子に何度も散乱されるため、現在のように遠くまでまっすぐ進むことができませんでした。
やがて宇宙が膨張して冷えると、電子と原子核が結びついて中性の原子ができるようになります。すると光が電子に頻繁に散乱されなくなり、宇宙空間を長い距離進めるようになりました。これは宇宙誕生から約38万年後のことです。
そのころに自由に進み始めた光が、現在もほぼあらゆる方向から届いています。宇宙の膨張によって波長が大きく引き伸ばされたため、現在では主にマイクロ波として観測され、その温度は約2.7Kです。
人間の目ではマイクロ波を見ることができないので、夜空を見上げても黒く感じます。しかし、観測する波長を変えれば、宇宙には淡い背景放射が広がっています。
夜空が「暗い」と感じるのは、私たちの目に届く可視光が非常に少ないためです。波長を広げて観測すると、宇宙からはさまざまな電磁波が届いています。
星と星の間の暗さも観測の対象になる
星や銀河だけに注目すると、その間にある黒い部分は何もない場所のように感じられます。
実際には、背景がどれほど暗いかを測ることも、宇宙に存在する光の総量を調べる手がかりになります。肉眼では何も見えない方向でも、高感度の観測装置を使えば非常に弱い背景光を測定できます。
つまり、天文学で注目されるのは明るく輝く星や銀河だけではありません。「何もないように見える場所がどれほど暗いのか」も、宇宙を調べるための情報になります。
Q&A
まとめ
宇宙に数え切れないほど多くの星があるのに夜空が暗いという疑問は、「オルバースのパラドックス」として長く考えられてきました。
もし宇宙が無限の昔からほぼ同じ状態で、星がどこまでも輝き続けているなら、夜空は現在よりはるかに明るくなるはずです。しかし、実際の宇宙には約138億年という年齢があり、星も永遠の昔から存在していたわけではありません。
宇宙が現在まで歩んできた時間には限りがあるため、遠くの星の光が私たちへ届くために使える時間にも限りがあります。宇宙の膨張による赤方偏移も、遠くから届く光を弱める要素の一つです。
さらに、人間の目には黒く見える宇宙にも非常に弱い背景光があり、マイクロ波では約2.7Kの宇宙背景放射がほぼ全天から届いています。
ただ光がないように見える夜空の背景にも、宇宙がどれほど長く続いてきたのか、どのように変化してきたのかを知るための情報が含まれています。
参考情報
- NASA「Looking Beyond the Stars: September’s Night Sky Notes」
- ESA「Cosmology」
- NASA「Universe Glossary」
- NASA「Hubble Cosmological Redshift」
- ESA「Cosmic Microwave Background (CMB) radiation」
- NASA「A Measurement of the Cosmic Optical Background from the Outer Solar System with New Horizons」
