動物園ではひときわ目立つジャイアントパンダの白黒模様。しかし、野生の山林では、白い毛が明るい植物や雪に、黒い毛が木の幹や暗い影になじみ、姿を見つけにくくする保護色として働くと考えられています。遠くから見ると、白黒の境目が体の輪郭を崩す効果もあります。
目の周りや耳の黒い模様には、仲間を見分けたり、相手へ警戒を示したりする役割があるという説もあります。体の模様と顔の模様では、働きが少し異なる可能性があるのです。
パンダの白黒は、一つの理由だけで説明できる模様ではありません。現時点では、体の大部分は背景へ溶け込むため、顔の一部は仲間とのやり取りにも使われるという見方が有力です。
パンダの白黒模様は森の中で保護色になる
白と黒は正反対の色なので、近くで見ればよく目立ちます。ところが野生のジャイアントパンダが暮らす中国の山地には、暗い木の幹や深い影、光を受けた葉、岩、雪など、明るさの異なる背景が入り交じっています。
2021年の研究では、野生環境で撮影されたパンダの写真を画像解析し、人間だけでなく、イヌ科やネコ科の動物に近い見え方でも毛色が調べられました。その結果、白黒模様が生息地の背景になじみ、パンダの姿を捉えにくくすることが示されています。
白と黒が別々の背景になじむ
パンダの黒い手足や肩は、木の幹や森の暗い部分と重なります。白い顔や胴体は雪だけでなく、光を反射する明るい植物にもなじみます。
野外では毛に影が落ちたり、土などが付着したりするため、白い部分が灰色や茶色がかって見えることもあります。こうした中間的な色は、岩や地面に近い見え方になります。
白は雪、黒は木という単純な組み合わせではありません。さまざまな明るさが混在する森林だからこそ、白と黒の両方が役立ちます。
動物園の明るく開けた場所と野生の山林では、同じ毛色でも印象が大きく変わるのです。
白黒の境目が体の輪郭を崩す
白黒模様には、背景と似た色になることに加え、体の形を分かりにくくする働きもあります。
見る側は、色が切り替わる線を体の端と見間違えることがあります。パンダの肩や手足にある黒い部分が背景の影とつながると、どこまでが体なのかを一目で捉えにくくなります。このように模様によって輪郭を崩す仕組みは「分断色」や「輪郭分断」と呼ばれます。
野外写真を用いた研究では、近い距離では毛色が背景になじみ、遠い距離では白黒の境目によって体の形が崩れて見える傾向が確認されました。近くでは目立つ模様が、距離のある山林では迷彩へ変わります。
目と耳の黒い模様は隠れるためだけではない
体の白黒は保護色として説明しやすい一方、目の周りや耳の黒い部分には、仲間とのやり取りに関係する役割も考えられています。
顔の目立つ場所にある模様は、離れた場所から姿を隠すときだけでなく、近い距離でほかのパンダと向き合う場面でも意味を持つ可能性があります。
目の周りは仲間を見分ける手がかりになる可能性
目の周りにある黒い模様は「アイパッチ」とも呼ばれ、形や角度には個体ごとの違いがあります。
飼育下で行われた実験では、2頭の若いジャイアントパンダが、形のわずかに異なる目の周りの模様を見分けました。この結果から、顔の模様が仲間の識別や意思表示に利用される可能性が示されています。
ただし、野生のパンダが目の模様だけを使い、日常的に一頭ずつ見分けていると確認されたわけではありません。仲間を識別する手がかりになり得るものの、実際にどのように使われているかには未解明の部分があります。
黒い耳は警告のサインという説
丸い黒耳は、人間にはかわいらしく見えます。一方、動物の顔にある濃い色は、相手への警告や強さの表示として使われる場合があります。
2017年に食肉目の動物やクマの仲間の体色を比較した研究では、パンダの黒い耳は、相手へ警戒や強さを示すサインではないかという説が示されました。
これは多くの動物の模様と生態を比べて導かれた見方です。実際のパンダ同士の行動から耳の役割が直接確かめられたわけではないため、保護色ほど裏付けがそろった説明ではありません。
体温調節が主な理由という説は支持が弱い
黒い毛は光を吸収しやすく、白い毛は反射しやすいため、パンダの白黒模様は体温調節に役立つのではないかと説明されることがあります。
しかし、2017年の比較研究では、体温調節が白黒模様の主な理由だとする説を強く支持する結果は得られませんでした。目へのまぶしさを抑えるためという見方も、中心的な説明にはなっていません。
現在は、胴体や手足の模様には保護色、目や耳には仲間へのサインというように、部位によって役割が異なる可能性が考えられています。
動物の模様は、一つの働きだけを持つとは限りません。隠れる、輪郭を分かりにくくする、相手へ情報を伝えるといった働きが重なり、現在の模様が残ってきたとみられています。
Q&A
まとめ
パンダが白黒である理由として、現時点で最も支持されているのは、山林の背景へ溶け込むためという説です。
白い毛は明るい植物や雪、黒い毛は木の幹や暗い影になじみます。白黒の境目には体の輪郭を崩し、遠くから一頭の動物として捉えにくくする効果もあります。
目の周りや耳の模様には、仲間の識別や警告に使われる可能性があります。ただし、顔の模様については、保護色ほど役割が詳しく確かめられているわけではありません。
動物園でははっきり目立つ白黒模様も、光と影が入り交じる野生の山林では見つかりにくい装いへ変わります。見る場所や距離によって印象が逆転することが、パンダの毛色の大きな特徴です。
参考情報
- Nokelainen, O., Scott-Samuel, N. E., Nie, Y., Wei, F., & Caro, T.(2021)「The giant panda is cryptic」
- Caro, T., Walker, H., Rossman, Z., Hendrix, M., & Stankowich, T.(2017)「Why is the giant panda black and white?」
- Dungl, E., Schratter, D., & Huber, L.(2008)「Discrimination of face-like patterns in the giant panda」
- Wang, Y.ほか(2022)「A comparative study of skin transcriptomes and histological observations for black and white hair colors of giant panda」
- Guan, D.ほか(2024)「Taking a color photo: A homozygous 25-bp deletion in Bace2 may cause brown-and-white coat color in giant pandas」
