7月29日の「世界トラの日」は、野生のトラと生息地を守る意識を高めるため、2010年のサンクトペテルブルク宣言で定められました。
力強い動物として知られるトラですが、歴史的な分布域の多くを失い、現在も生息地の分断や密猟、違法取引などの影響を受けています。その一方で、保護活動によって個体数が増えた国もあります。
この記念日には、野生トラの減少を食い止め、国境を越えて生息地を守ろうとする取り組みが込められています。
世界トラの日は2010年の国際会議で定められた
世界トラの日は、英語で「Global Tiger Day(グローバル・タイガー・デー)」または「International Tiger Day(国際トラの日)」と呼ばれます。
きっかけとなったのは、2010年11月にロシアのサンクトペテルブルクで開かれた国際トラ保全フォーラムです。
この会議には、当時トラ生息国として位置付けられていた13カ国が参加しました。各国は「サンクトペテルブルク宣言」を採択し、毎年7月29日を世界トラの日として祝うことを決めました。
会議では、記念日を設けるだけでなく、野生トラの個体数を回復させるための国際的な計画も示されています。生息地の保全、密猟対策、個体数調査、国境を越えた協力などを進める出発点になりました。
なお、国際トラ保全フォーラムが開催されたのは11月です。7月29日に会議が開かれたわけではありません。
宣言文には毎年7月29日を世界トラの日とすることが記されていますが、この日付が選ばれた詳しい理由までは明記されていません。
なぜトラのための記念日が必要だった?
20世紀初めには、世界に約10万頭の野生トラがいたと推定されています。しかし、生息地の減少や密猟などが続き、2010年ごろには約3,200頭まで減ったとされました。
トラはかつて、トルコ周辺からロシア極東、東南アジアに至る広い地域に分布していました。現在では、歴史的な分布域の約93%を失ったとされています。
国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、トラは「絶滅危惧(Endangered)」に分類されています。
森林が分断されると移動が難しくなる
トラは森林だけでなく、草原、湿地、マングローブ林などにも生息します。獲物を探しながら広い範囲を移動するため、まとまった生息地が必要です。
森林の間に道路や農地、住宅地が造られると、生息地が小さな区画に分かれます。離れた森林へ移動しにくくなり、繁殖相手を見つける機会が減ることもあります。
人や家畜が暮らす地域へトラが近づくと、家畜被害や人との接触が起きる可能性も高まります。そのため、保護区の内部だけでなく、森林同士をつなぐ移動経路を残すことも保全活動に含まれます。
密猟と違法取引も続いている
トラの毛皮や骨などを目的とした密猟と違法取引も、個体数の回復を妨げる要因です。
野生生物の取引を調査するTRAFFIC(トラフィック)は、長年にわたってトラに関する押収記録を集めています。近年の報告でも、野生個体を狙った密猟に加え、飼育個体が関係しているとみられる違法取引が続いていることが示されています。
個体数が回復した地域でも、密猟防止の巡回や国境を越えた取引の監視が行われています。
TX2で野生トラはどこまで回復した?
2010年のサンクトペテルブルク宣言では、次の寅年に当たる2022年までに、世界の野生トラの個体数を2倍にする目標が掲げられました。
この目標は「TX2(ティーエックスツー)」と呼ばれます。Tiger(トラ)の頭文字と、2倍を意味する「X2」を組み合わせた名称です。
各国では、保護区の整備、密猟対策、カメラを使った個体数調査、地域住民との協力などが進められました。インドやネパールなど、2010年以降に推定個体数が大きく増えた国もあります。
グローバル・タイガー・フォーラムは、2023年時点の世界の野生トラを約5,574頭と発表しています。一方、IUCNが2022年に示した推定値は3,726〜5,578頭です。
数字に差があるのは、国や地域によって調査年、調査範囲、推定方法が異なるためです。カメラの設置数が増え、以前は確認できなかった個体を把握できるようになったことも、推定数の変化に関係しています。
2010年ごろの約3,200頭より増えたとみられますが、世界全体で同じ条件のもと2倍を達成したと単純に判断できる数字ではありません。
回復状況にも地域差があります。南アジアなどで増加が確認される一方、カンボジア、ラオス、ベトナムでは野生トラが地域絶滅したとされています。世界全体の合計だけでなく、それぞれの地域に個体群が残っているかを見ることも重要です。
トラを守ると生息地の動植物も守られる
トラの保全には、広い森林や湿地を守る取り組みが欠かせません。トラが暮らせる環境を残すと、同じ場所に生息する多くの動植物も保護されます。
トラは食物連鎖の上位に位置する肉食動物です。トラが暮らしていることは、獲物となる動物が存在し、その動物を支える植物や水辺の環境が残されていることを示す手がかりになります。
生息地には、河川の水源となる森林や、海岸を守るマングローブ林も含まれます。こうした環境の保全は、生物多様性だけでなく、周辺で暮らす人々が利用する水や森林資源を守ることにも役立ちます。
保護区の整備に加え、人とトラの接触を減らす対策も進められています。家畜を守る囲いを設置する、トラの移動経路を調べる、被害が発生した地域を支援するといった活動です。
地域住民の生活と両立できる仕組みがなければ、生息地を長期間守ることは難しくなります。
トラの縞模様は個体識別に使われる
トラの縞模様は一頭ずつ異なり、人間の指紋のように個体を見分ける手がかりになります。
野外調査では、動物が前を通ると自動で撮影するカメラを森の中に設置します。撮影された写真の縞模様を比べれば、同じトラが再び現れたのか、別の個体なのかを判別できます。
ただし、トラの左右では縞模様が異なります。そのため、調査では体のどちら側が写っているのかも確認しながら写真を比べます。
複数の場所に設置したカメラの記録を調べることで、確認された個体数だけでなく、移動範囲や活動する時間帯を知る手がかりも得られます。
一頭ずつ直接捕まえなくても調査できるため、個体数の推定や保護区の管理に利用されています。
7月29日はトラの現状を知るきっかけになる
世界トラの日には、各国の動物園、研究機関、保全団体などが、トラの生態や保護活動を伝える催しを行います。
私たちがトラの生息地へ直接行く機会は多くありません。それでも、野生トラが暮らす地域や、そこで行われている保全活動を知ることはできます。
情報を調べるときは、国際機関、研究機関、公的機関、活動内容を公開している保全団体など、情報源が確認できる資料を選ぶと地域ごとの状況を把握しやすくなります。
世界トラの日は、トラの力強さや美しい縞模様を楽しむだけでなく、野生で暮らし続けるために必要な環境へ目を向ける日でもあります。
Q&A
まとめ
7月29日の世界トラの日は、野生のトラと生息地を守る意識を高めるため、2010年のサンクトペテルブルク宣言で定められました。
2010年ごろに約3,200頭とされた野生トラは、その後の保全活動によって増加したとみられます。ただし、推定数には調査方法による幅があり、回復状況も地域によって異なります。
生息地の分断、密猟、違法取引などの脅威は現在も続いています。トラが暮らせる環境を守ることは、同じ森林や湿地に生息する多くの動植物を守ることにも役立ちます。
世界トラの日は、縞模様の美しさとともに、野生で生きるトラの現状や、各地で続けられている保全活動を知るための記念日です。
参考情報
- 世界銀行「Global Tiger Recovery Program」
- 国際自然保護連合(IUCN)「Migratory monarch butterfly now Endangered – IUCN Red List」
- グローバル・タイガー・フォーラム「Wild tiger numbers increase globally」
- TRAFFIC「Beyond Skin and Bones: A 25-year analysis of tiger seizures from 2000 to June 2025」
- スミソニアン国立動物園・保全生物学研究所「Tiger」
- 世界自然保護基金(WWF)「Why Protecting Tigers Benefits People, Wildlife & Climate」
