物語では、主人公たちが馬車で数日移動し、隣町や別の国へ到着する場面があります。しかし、馬車に乗れば徒歩の何倍も速く進めるとは限りません。
長旅の目安は、徒歩と重い荷馬車が1日20〜30キロメートル、同じ馬を使う騎馬が40〜60キロメートルほどです。宿場で馬を交換できる駅馬車なら、1日80〜110キロメートルほど進んだ例もあります。
道路や荷物に加え、休養日、天候、途中の滞在まで含めることで、地図上の距離と物語の時間を合わせやすくなります。
徒歩・騎馬・馬車は1日にどのくらい進むのか
旅の日数を決めるときは、一時的な最高速度ではなく、何日も続けられる距離を基準にします。
馬は短時間なら人より速く走れますが、一日中走り続けられるわけではありません。馬車も車輪が付いているから速いとは限らず、荷物が重ければ徒歩と同じほどの速度になることがあります。
下の表は、歴史上の移動例をもとに幅を持たせた目安です。道路、荷物、同行者などの条件によって、実際に進める距離は変わります。
| 移動手段 | 1日の移動距離 | 想定する条件 |
|---|---|---|
| 徒歩 | 20〜30km | 健康な成人が街道を長く歩く |
| 急ぐ徒歩 | 30〜40km | 身軽で道がよく、短期間に限る |
| 騎馬 | 40〜60km | 同じ馬を休ませながら使う |
| 重い荷馬車 | 15〜30km | 荷物が多く、馬を交換しない |
| 軽い旅客馬車 | 30〜60km | 荷物が少なく、比較的よい道を通る |
| 駅馬車 | 80〜110km | 宿場で馬を交換できる |
スタンフォード大学の古代ローマ交通モデル「ORBIS(オルビス)」では、徒歩を1日30キロメートル、騎馬を56キロメートル、高速馬車を67キロメートルとして計算しています。
これは古代ローマの交通網を再現するためのモデルです。すべての時代や地域に共通する平均値ではありません。
徒歩は1日20〜30キロメートルが目安
平らな道を時速4キロメートルほどで7時間歩けば、計算上は約28キロメートル進めます。ただし、実際の旅では食事や休憩、道探し、荷物の調整にも時間を使います。
何日も続く旅では、1日20〜25キロメートルほどを基準にすると、途中の休憩や多少の遅れも含められます。身軽な旅人が整備された街道を急ぐなら、30キロメートルを超える日程も成立します。
一行に子ども、高齢者、負傷者がいる場合は、1日10〜20キロメートルほどまで落ちることもあるでしょう。一行の速度は、歩くのが遅い人や休憩を多く必要とする人に合わせることが多いためです。
地図上の直線距離と、実際に歩く道のりも同じではありません。山を避け、川を渡れる場所まで迂回すれば、目的地が近く見えても到着まで数日かかります。
騎馬の長旅では馬の休養も日程に入る
騎馬旅行では、常歩を中心に進みながら速歩を交えます。翌日も同じ馬へ乗るなら、水や餌を与え、鞍を外して休ませる時間も取ります。
数日以上続く旅では、1日40〜60キロメートルほどが一つの目安です。短期間だけ急ぐ場面なら、さらに距離を伸ばすこともできます。
ただし、同じ馬で連日100キロメートル以上進む日程は、通常の旅よりかなり速い設定になります。高速移動を続けるなら、途中で馬を交換するか、複数の馬を交互に使う形が考えられます。
馬車は種類によって速さが大きく変わる
「馬車」という言葉には、農作物を運ぶ荷車、商人の貨物馬車、貴族の旅客馬車、定期運行する駅馬車などが含まれます。
19世紀アメリカのナショナル・ロードと呼ばれる幹線道路では、大型貨物馬車が1日平均約24キロメートル進みました。一方、速度を重視した駅馬車は、1日約97〜113キロメートルに達したとされています。
大量の荷物を積んだ馬車は、馬が引いていても速くありません。泥や石が多い道、急坂、壊れた橋など、車輪に不向きな場所では徒歩より遅れることもあります。
駅馬車が速かったのは、馬車自体に特別な速さがあったからではありません。荷物を抑え、整備された街道を使い、途中で新しい馬へ交換できたことが大きな違いです。
駅馬車や早馬が速いのは中継できるから
通常の騎馬旅行より早馬が速いのは、一頭の馬が長時間走り続けるからではありません。疲れた馬を途中で降ろし、休んでいる馬へ乗り換えることで速度を保ちます。
アメリカの高速郵便制度であるポニー・エクスプレスでは、およそ16〜24キロメートルごとに馬を交換しました。乗り手も約120〜160キロメートルごとに交代しています。
約3,200キロメートルに及ぶ経路を10日前後で結べたのは、多数の馬や乗り手、中継所を全区間に配置していたためです。一頭の馬や一人の乗り手が、最初から最後まで走ったわけではありません。
情報の速さと旅人の速さは同じではない
早馬網によって1日に150キロメートル以上先へ文書を届けられても、同じ人物がその距離を移動したとは限りません。手紙や命令書だけが次の乗り手へ渡され、先へ進みます。
日本の東海道でも、一般の旅人が江戸から京都まで約2週間かかったのに対し、公用文書を宿場で中継する継飛脚は3〜4日ほどで届けたとされています。
人や荷物を運ぶ駅馬車では、乗客の休憩や食事、乗り降り、荷物の積み替えにも時間がかかります。夜間運行を続けるなら、交代する御者や照明、道案内も求められます。
「王都から国境まで知らせが二日で届く」ことと、登場人物が二日で移動できることは同じではありません。両者を分けておけば、知らせの到着日と登場人物の旅程を混同せずに済みます。
移動日数から距離を逆算する
地図を先に描く方法だけでなく、物語に必要な日数から都市間の距離を決める方法もあります。
徒歩と重い荷馬車を1日25キロメートル、騎馬を50キロメートル、駅馬車を100キロメートルとして計算すると、次のようになります。
| 移動日数 | 徒歩・重い荷馬車 | 騎馬 | 駅馬車 |
|---|---|---|---|
| 3日 | 約75km | 約150km | 約300km |
| 7日 | 約175km | 約350km | 約700km |
| 14日 | 約350km | 約700km | 約1,400km |
| 30日 | 約750km | 約1,500km | 約3,000km |
表の日数は、日中の食事や短い休憩を取りながら目的地へ進む移動日の計算です。数日ごとの休養日、悪天候、故障、国境での手続きなどは含めていません。
観光、買い物、情報収集、商談、知人宅への滞在がある場合は、その日数も別に加えます。体調不良、馬車の整備、通行許可の取得などで予定外の滞在が生じることもあります。
移動だけなら7日の距離でも、途中の町で商談に2日、情報収集に1日、雨による足止めに1日を使えば、到着は11日後です。長い旅では、進んでいない日も物語の時間に含まれます。
日本の都市間や大陸規模では何日かかるのか
数千キロメートルの旅は想像しにくいため、日本の街道を基準にすると距離感をつかみやすくなります。
江戸時代の東海道では、江戸の日本橋から京都の三条大橋までが約492キロメートルありました。一般の旅人が歩く場合は、約2週間が一つの目安とされています。
宿場が整った主要街道の例であり、同行者や荷物、途中の滞在によって日数は変わります。
江戸から京都級の距離でも数週間かかる
約500キロメートルを、徒歩1日25キロメートル、騎馬50キロメートルとして計算すると次のようになります。
| 距離のモデル | 徒歩・重い荷馬車 | 騎馬 | 馬を交換する高速馬車・仮定 |
|---|---|---|---|
| 江戸~京都級・約500km | 約20移動日 | 約10移動日 | 約5移動日 |
右端は、江戸時代の東海道で同じ駅馬車制度が運用されていたという意味ではありません。全区間に交換用の馬と中継所があると仮定し、1日100キロメートルで計算した比較値です。
歴史上の東海道では一般の旅人が約2週間とされる一方、表では約20日になっています。表は、休憩や遅れを含めやすい1日25キロメートルで計算しているためです。
整備された街道を長時間歩く旅人は、1日30キロメートル以上進むこともあります。反対に、荷物の多い一行や子どもを含む旅では、20日を超える日程も考えられます。
ヨーロッパ規模の横断ルートを仮定した場合
ここでは、創作上の横断ルートを3,000〜4,000キロメートルとします。ヨーロッパの実際の横幅を示す数値ではありません。
徒歩や重い荷馬車で1日25キロメートル進むなら、120〜160移動日です。休養や足止めを加えると、5〜7か月ほどを見込めます。
騎馬なら60〜80移動日、駅馬車なら30〜40移動日です。ただし、広い土地の全区間に同じ水準の街道と中継所が続いているとは限りません。山岳地帯や国境で速度が落ちれば、さらに日数が延びます。
北米主要部級の横断ルートを仮定した場合
北米の主要部を東西に移動する規模として、4,000〜5,000キロメートルの陸路を想定します。こちらも大陸の端から端を測った実測値ではなく、広い世界の旅程を比べるための距離です。
徒歩や荷馬車なら160〜200移動日です。休養に加えて冬の雪や川の増水、峠越えによる遅れを含めると、7〜10か月ほどの旅にもなります。
騎馬なら80〜100移動日、駅馬車でも40〜50移動日です。数日で到着させる場合は、実際の距離が短いか、飛行生物や魔法など別の移動手段が使われていると考えられます。
大陸規模の舞台では、目的地までに複数の国を通る場合もあります。国境で通行証の確認や荷物検査が行われたり、争いを避けるために迂回したりするなら、その時間も移動日とは別に加えます。
河川や海路を組み合わせる方法もある
広い土地を移動するとき、全区間を馬車で進むとは限りません。大河や海岸に航路があれば、馬車で港へ向かい、その後は船へ乗り換える旅程も作れます。
大量の人や荷物を運ぶ世界では、陸路より水上交通が重視されることもあります。港や大河の周囲に都市が発達しているなら、街道だけでなく航路も地図へ加えると、都市がその場所にある理由も見えてきます。
川が国境になっている場合は、橋や渡し場を管理する町が交易の中心になることもあります。海を隔てた国同士なら、陸路では遠くても船では行き来しやすい関係を作れます。
移動が速すぎると広い国に見えにくい
設定資料で「大陸最大の王国」「果ての見えない国土」と説明しても、登場人物が徒歩や普通の馬車で各地を数日で行き来していると、読者には小さな国に見える場合があります。
王都から国境まで馬車で三日なら、重い荷馬車では約45〜90キロメートル、軽い旅客馬車では約90〜180キロメートルほどが目安です。
王都が国の中央付近にあるなら、国土全体も数百キロメートル規模に感じられるかもしれません。隣国の首都へ三日、反対側の海岸へ一週間で到着する場面が続けば、地図を大きく描いても広大さは伝わりにくくなります。
旅の全日程を細かく描写する必要はありません。「三週間後、一行は北部の城塞へ着いた」「増水で足止めされ、国境まで一か月を要した」と時間の経過を短く示すだけでも、土地の広さを表現できます。
魔法や転移門で短時間移動できる世界では、誰が利用できるのか、料金はいくらか、どの都市までつながっているのかを決めておくとよいでしょう。利用できる人や場所に制限があれば、転移門があっても長距離の旅そのものは残せます。
Q&A
まとめ
長旅の目安は、徒歩と重い荷馬車が1日20〜30キロメートル、騎馬が40〜60キロメートルほどです。宿場で馬を交換できる駅馬車では、1日100キロメートル前後へ伸びる例もあります。
国や大陸の広さは、地図上の面積だけでなく、登場人物が移動に費やす時間からも伝わります。休養、滞在、地形、国境、交通網まで旅程へ反映すると、広い世界を小さく見せずに描けます。
参考情報
・スタンフォード大学「Building ORBIS: Historical evidence」
・アメリカ国立公園局「Traveling on the National Road」
・アメリカ国立公園局「The First Ride」
・アメリカ国立公園局「Pony Express National Historic Trail Official Map & Guide – Large Print」
・国土交通省 関東地方整備局 横浜国道事務所「飛脚は東海道を何日くらいかかったの?」
