インターネットは、いまでは買い物、動画、SNS、仕事、地図、ニュースなど、日常のあらゆる場面で使われています。けれど、その出発点をたどると、1960年代のアメリカで作られた実験的なコンピューターネットワークに行き着きます。
その代表的な存在が ARPANET(アーパネット) です。正式には Advanced Research Projects Agency Network(高等研究計画局ネットワーク) と呼ばれ、アメリカ国防総省の高等研究計画局、当時のARPAに関係する研究プロジェクトとして始まりました。DARPAは、1969年10月29日22時30分に、UCLAのBoelter Hallから最初のARPANETメッセージが送られたことを紹介しています。
ただし、「インターネットは米軍が作った」とだけ言うと、研究機関や大学が関わって発展した面が見えにくくなります。ARPANETは国防総省系の研究体制と関係していましたが、実際には大学や研究機関のコンピューターをつなぎ、離れた場所の計算資源を共有するための研究ネットワークとして発展していきました。
ARPANET(アーパネット)とは何だったのか
ARPANETは、複数のコンピューターをつなぎ、離れた場所から情報や計算資源をやり取りできるようにするためのネットワークでした。
現在のインターネットのように、誰もがスマートフォンで使うものではありません。初期のARPANETは、大学や研究機関にある大型コンピューター同士をつなぐ実験的な仕組みでした。
当時のコンピューターは高価で、研究機関ごとに別々の機械が置かれていました。離れた場所にあるコンピューターを互いに利用できれば、研究者はより効率よく計算資源やデータを使えるようになります。ARPANETには、そうした研究資源の共有という目的がありました。
つまり、ARPANETは「一般の人が情報検索をするためのネット」ではなく、まずは研究者たちのコンピューターをつなぐための実験ネットワークだったのです。
最初のメッセージは「LOGIN」ではなく「LO」だった
ARPANETの歴史でよく語られるのが、1969年10月29日の最初の通信です。この日、UCLAからStanford Research Institute、つまりSRIへ向けて接続が試みられました。
送ろうとした言葉は「LOGIN」でした。ところが、最初はシステムが途中で止まり、「L」と「O」までしか届かなかったとされています。ICANNに掲載されたLeonard Kleinrock氏の回想でも、UCLA側で「l」「o」までは届いたものの、「g」を送ったところでシステムがクラッシュしたこと、最初のメッセージが「lo」だったことが語られています。
もちろん、この時点で現在のようなインターネットが完成していたわけではありません。ですが、遠く離れたコンピューター同士が通信し、情報をやり取りするという発想が、ここから現実のものになっていきました。
この「LO」という短い文字は、今の巨大なインターネットの始まりを思わせる印象的な出来事として語られています。最初はたった2文字の通信でも、その後の社会を大きく変える技術につながっていきました。
ARPANETを支えたパケット交換という仕組み
ARPANETの大きな特徴のひとつが、パケット交換という考え方です。
昔の電話のような通信では、相手とつながっている間、ひとつの回線を占有する考え方が中心でした。一方、パケット交換では、データを小さなかたまりに分けて送ります。この小さなかたまりをパケットと呼びます。
たとえば、長い文章やファイルをそのまま一つの大きな荷物として送るのではなく、小さな封筒に分けて別々に送り、届いた先で組み立て直すようなイメージです。途中の経路が混んでいたり、一部に問題があったりしても、別の経路を使ってデータを届けやすくなります。
この仕組みは、現在のインターネットの基本的な考え方にもつながっています。Webページを見るとき、動画を見るとき、メッセージを送るときも、データは小さな単位に分けられ、さまざまな経路を通って相手に届きます。
インターネットが大きく広がれた理由のひとつは、特定の一本の道だけに頼らず、データを分けて運ぶ仕組みを持っていたことです。
ARPANETとインターネットは同じものではない
ARPANETはインターネットの起源としてよく紹介されますが、ARPANETそのものが現在のインターネットだったわけではありません。
ARPANETは、初期の重要な研究ネットワークです。一方、インターネットは、さまざまなネットワーク同士が共通のルールでつながった「ネットワークのネットワーク」です。1つのネットワークだけでなく、複数のネットワークをつなげる仕組みが重要になります。
そのため、インターネットが本格的に現在の姿へ近づくには、ネットワーク同士をつなぐ共通ルールが必要でした。その代表が TCP/IP(ティーシーピー・アイピー) です。
Internet Societyの歴史解説でも、ARPANETのホストプロトコルが1983年1月1日にNCPからTCP/IPへ移行したことが紹介されています。これは、ネットワーク同士をつなぐインターネットの考え方が広がるうえで重要な節目でした。
つまり、ARPANETはインターネットの重要な祖先ですが、現在のインターネットは、その後の技術や運用の積み重ねによって広がったものです。
TCP/IPがネットワーク同士をつなぐ鍵になった
インターネットの発展で重要なのが、TCP/IPという通信ルールです。TCP/IPは、異なる種類のネットワーク同士でもデータをやり取りできるようにするための基本的な仕組みです。
それ以前のネットワークは、それぞれ別々の方式で動いていました。別々の方式のままでは、あるネットワークから別のネットワークへ自由に情報を送るのが難しくなります。
TCP/IPの考え方によって、異なるネットワーク同士をつなげる道が開かれました。Internet Societyの解説でも、1983年1月1日のNCPからTCP/IPへの移行は、すべてのホストが同時に切り替える「flag-day」形式の大きな転換として紹介されています。
この流れによって、ネットワークをひとつの閉じた仕組みにするのではなく、複数のネットワークをつないで広げることが可能になりました。現在のインターネットが世界中に広がっているのは、この「違うネットワーク同士をつなげる」考え方があったからです。
インターネットとWebは同じではない
インターネットの話で混同されやすいのが、インターネットと World Wide Web(ワールド・ワイド・ウェブ)、つまりWebです。日常会話では「ネットを見る」「Webを見る」と同じように使われることがありますが、厳密には同じものではありません。
インターネットは、世界中のコンピューターやネットワークをつなぐ基盤です。メール、ファイル転送、チャット、動画配信、Webサイト閲覧など、さまざまな通信がこの基盤の上で動きます。
一方、Webはそのインターネット上で使われる仕組みのひとつです。CERNの解説では、ティム・バーナーズ=リーが1989年にCERNでWorld Wide Webを発明し、世界中の大学や研究所の科学者どうしが自動で情報を共有できる仕組みとして構想されたと説明されています。
ARPANETから始まった流れはインターネットの土台につながり、その上に後からWebが登場したと見ると理解しやすくなります。インターネットが道路や通信網なら、Webはその上を走るサービスのひとつです。
なぜ軍事研究から日常の技術へ広がったのか
ARPANETは、アメリカ国防総省系の研究機関と関係して始まりました。しかし、その後インターネットは軍事だけでなく、大学、研究機関、企業、家庭へと広がっていきました。
理由のひとつは、ネットワークが研究者にとって非常に便利だったからです。離れた場所にあるコンピューターを利用したり、情報を共有したり、共同研究を進めたりできることは大きな利点でした。
さらに、通信ルールが共通化されると、別々の組織や地域のネットワークもつながりやすくなります。研究用途で広がったネットワークは、やがて教育、ビジネス、個人利用へと広がっていきました。
軍事研究や戦時の必要から日常の技術へ広がったものは、インターネットだけではありません。GPSは、現在では地図アプリやカーナビ、物流などで広く使われていますが、GPS.govでは、GPSはアメリカが所有する測位・航法・時刻サービスであり、アメリカ宇宙軍が宇宙セグメントと制御セグメントを開発・維持・運用していると説明されています。
また、ティッシュペーパーの代表的なブランドであるKleenexも、第一次世界大戦中にKimberly-Clarkがガスマスク用フィルターに使うクレープ紙を開発したことから物語が始まったと、Kleenex公式の歴史で紹介されています。
このように、限られた目的で研究された技術や、戦時の必要から生まれた素材が、その後に生活の中へ広がることがあります。インターネットも、研究ネットワークとして始まりながら、やがて社会全体の基盤になっていった技術の代表例といえます。
インターネットの起源を知ると見方が変わる
インターネットは、今では当たり前の存在です。スマートフォンを開けばすぐに情報が見つかり、世界中の人と連絡できます。しかし、その始まりは、研究機関のコンピューター同士をつなぐ小さな実験でした。
最初の通信はわずか2文字の「LO」でした。そこから、パケット交換、TCP/IP、ネットワーク同士の接続、Webの登場といった流れを経て、今のインターネットへつながりました。
この歴史を見ると、インターネットは一人の発明家が一度に作ったものではなく、多くの研究者や技術者が積み重ねてきた仕組みだとわかります。
また、国防関連の研究に関係する技術が、研究、教育、商業、日常生活へ広がっていった点も、この歴史を考えるうえで重要です。今では何気なく使っているネットの裏には、半世紀以上にわたる技術の積み重ねがあります。
Q&A(よくある疑問)
まとめ
インターネットの起源をたどると、1960年代のアメリカで始まったARPANETに行き着きます。ARPANETは、アメリカ国防総省系のARPAが支援した研究ネットワークで、大学や研究機関のコンピューターをつなぐ実験として発展しました。
最初の通信は1969年、UCLAからSRIへ送られた「LO」という短い文字でした。その後、パケット交換やTCP/IPといった技術が発展し、複数のネットワークをつなぐ現在のインターネットへとつながっていきました。
インターネットは、最初から今のような巨大な日常インフラだったわけではありません。研究者たちの実験的なネットワークが、技術の積み重ねによって世界中の人が使う通信基盤になったのです。
参考情報
- DARPA「The ARPANET & Computer Networks」
- ICANN「The First Message Transmission」
- Internet Society「Brief History of the Internet」
- CERN「A short history of the Web」
- GPS.gov「GPS Overview」
- Kleenex「Our History」
