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同じ曲を何度も聴きたくなるのはなぜ?音楽と慣れの心理

気づくと、同じ曲ばかり再生していることがあります。新しい曲もあるのに、なぜか特定の一曲だけを何度も聴きたくなる。これは単なる気まぐれというより、慣れ、予測しやすさ、気分の調整、記憶との結びつきが重なって起こりやすい反応です。音楽研究でも、繰り返し聴くことで好意が高まりやすいことや、親しみのある音楽が感情や快さに強く関わることが示されています。


目次

慣れるほど好きになりやすい

まず大きいのは、聴き慣れること自体が好意につながりやすいことです。2017年の研究では、参加者に未知の曲を約4週間にわたって繰り返し聴いてもらったところ、曲の複雑さにかかわらず、聴く回数が増えるにつれて「好き」という評価が上がりました。しかも、好きかどうかを強く左右していたのは、単にその曲を何回聴いたかだけでなく、似た音楽のスタイルにどれだけ慣れていたかでもありました。

これを日常感覚で言い換えると、「知っている感じ」が心地よさに変わっていく、ということです。最初は少し印象が薄くても、サビの入り方やリズムの流れが分かってくると、その曲に対する身構えが減ります。何が起きるか分からない状態より、少しずつなじんできた状態のほうが、耳も気持ちも入りやすくなるわけです。


次に何が来るか分かると安心しやすい

同じ曲を何度も聴きたくなる理由として、予測できることの心地よさもあります。2019年の研究では、音楽の快さは単純に「予測しやすいほど高い」というより、予測可能性と少しの意外性のバランスに関わると示されました。中くらいの複雑さを持つ音楽が好まれやすく、予測できる部分と少し先が読めない部分の組み合わせが快さにつながりやすいと考えられています。

同じ曲をくり返し聴くと、「そろそろサビが来る」「このあと音が抜ける」「ここで盛り上がる」といった流れが頭に入ってきます。その結果、曲を追いかける負担が減り、安心して聴けるようになります。しかも、全部が分かりきっていればいつも最も快いというわけではなく、少しだけ意外性が残っているほうが心地よい場合もあります。だからこそ、くり返し聴いてもなお気持ちいい曲が生まれます。


気分を整える手段になりやすい

音楽は、気分の調整にもよく使われます。研究では、人は日常の中で、自分の感情の状態に合う音楽を選びやすいことが示されています。落ち込んでいるときに静かな曲を選んだり、気分を上げたいときに勢いのある曲を選んだりするのは、かなり自然な行動です。

ここで同じ曲が何度も再生されやすいのは、その曲が気分を動かすきっかけになっているからです。「この曲を聴くと落ち着く」「この曲を流すとやる気が出る」という感覚があると、人は新しい曲を探すより、そのままよく合う一曲を選びやすくなります。好みの問題でもありますが、それ以上に、自分の状態を整える手段として定着している面があります。


記憶や感情と結びついている

同じ曲を何度も聴きたくなるとき、その曲は単なる音ではなく、記憶や感情の入口になっていることもあります。2011年の脳研究では、聴き慣れた音楽のほうが、聴き慣れていない音楽よりも、感情や報酬に関わる脳領域の活動と強く結びついていました。研究者は、音楽に対する感情的な関わりには、親しみや聴き慣れた感覚が重要だと述べています。

つまり、同じ曲を何度も聴きたくなるのは、その曲自体が好きだからだけではありません。その曲を聴いていた季節、通学や通勤の時間、誰かといた場面、自分の気分まで一緒に思い出されることがあります。そうなると、その一曲はただのBGMではなく、気持ちごと呼び戻す存在になりやすいのです。


くり返しても飽きない曲と、そうでない曲があるのはなぜ?

ここで気になるのが、「同じ曲を何度も聴きたくなるなら、なぜ飽きる曲もあるのか」という点です。これは不思議ではありません。2019年の研究では、同じ刺激を繰り返し提示すると、好ましさの評価が下がる結果も示されており、繰り返しがいつもプラスに働くわけではないことが分かります。

違いを生みやすいのは、慣れによる安心感と、残っている面白さのバランスです。最初は分かりにくかった曲が、何度か聴くうちに気持ちよくなってくることはありますが、全部が読み切れて新しい発見もなくなると、今度は刺激が足りなくなります。逆に、よく聴くのに細かな音や入り方、空気感に小さな発見が残る曲は、飽きにくくなりやすいです。

また、飽きるかどうかは曲そのものだけでなく、そのときの自分の状態にも左右されます。元気を出したいときに繰り返していた曲が、気分が変わると急に響かなくなることもあります。だから、同じ曲を何度も聴きたくなることと、ある時点で離れることは、どちらも自然な反応です。


まとめ

同じ曲を何度も聴きたくなるのは、慣れるほど好きになりやすいこと、次の展開が分かる安心感があること、気分を整える手段として使いやすいこと、そして記憶や感情と強く結びつきやすいことが重なっているからです。研究でも、繰り返し聴くことで好意が高まりやすいことや、親しみのある音楽が感情や快さに深く関わることが示されています。

ただし、繰り返せばいつも好きになるわけではなく、飽きる場合もあります。予測できる安心感と、少しだけ残る意外性。その両方がちょうどよく重なったときに、人は「またこの曲を聴きたい」と感じやすくなるのかもしれません。


参考情報

  • PubMed「Repeated Listening Increases the Liking for Music Regardless of Its Complexity」
  • PubMed「Predictability and Uncertainty in the Pleasure of Music」
  • PMC「Familiarity mediates the relationship between emotional arousal and pleasure during music listening」
  • PubMed「Music in Mood Regulation」
  • PubMed「Why musical memory can be preserved in advanced Alzheimer’s disease」

この記事を書いた人

気になったテーマを中心に、公開情報や資料を読みながら記事をまとめています。背景や違いが見えにくい話題も、公式サイトや公開資料を確認しつつ、できるだけわかりやすく整理してお届けしています。

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