オウムが人の声や生活音をまねられるのは、聞いた音の特徴を覚え、自分の発声を変えて近づける能力があるからです。鳥の発声器官である鳴管で音を生み、舌やくちばしなどを動かして響きを調整しています。
こうした能力の背景には、仲間と声を交わしながら暮らすオウム類の社会性もあります。人と暮らす環境では、毎日耳にするあいさつや笑い声、着信音なども学習の対象になります。
インコもオウム目に含まれるため、セキセイインコやオキナインコの研究も、オウム類の発声能力を知る大切な手掛かりです。人間とは異なる体の仕組みで、なぜ言葉のような音を作れるのかを見ていきます。
オウムは聞いた音を覚えて鳴き方を変えられる
多くの動物の鳴き声には、生まれつき備わった特徴があります。その一方でオウム類は、周囲から聞こえた音を覚え、自分の発声を変えて似た響きへ近づけられます。
聞いた音をもとに鳴き方を学ぶ能力は「発声学習」と呼ばれます。鳥類では、オウム類、鳴禽類(めいきんるい)、ハチドリ類が代表例として詳しく研究されてきました。
近年は、発声学習を「できる鳥」と「できない鳥」にきっぱり分けるのではなく、経験によってどの程度鳴き声が変化するかという視点でも研究されています。
聞いた音を自分の声で作り直している
オウムは、人の声をそのまま録音して再生しているのではありません。耳から入った音の高さやリズム、響きなどを覚え、自分の発声器官を動かして似た音を作っています。
最初は不明瞭だった言葉が、何度も聞くうちに少しずつはっきりしてくることがあります。自分の声を聞きながら、覚えた音との差を縮めていると考えられています。
そのため、同じ言葉を覚えたオウムでも発音が完全に同じになるとは限りません。人の声質や話す速さ、周囲の生活音、その鳥が出しやすい音によって聞こえ方が変わります。
成鳥になってから新しい音を覚える種類もいる
鳥のなかには、幼い時期に覚えた鳴き声を成鳥後はほとんど変えない種類もいます。一方、セキセイインコをはじめ、一部のオウム類は成鳥になってからも新しい鳴き方を学べます。
年齢を重ねたセキセイインコにも、発声を変える柔軟性が残っていることを示す研究があります。ただし、どれほど音を覚えるかは種類や個体によって異なります。
よく話す種類として知られていても、人の言葉をほとんどまねない個体もいます。年齢だけでなく、普段聞いている音や周囲との関わり方も、覚える音の違いにつながります。
オウムの脳には発声学習を支える領域がある
人の声に似た音を作るには、舌やくちばしが器用なだけでは足りません。聞いた音を記憶し、発声に必要な動きへ結びつける脳の働きも必要です。
2015年に発表された研究では、オウム類の発声に関わる脳領域に、中心部の「コア」と外側の「シェル」と呼ばれる構造があると報告されました。
このような構造は、オウム類の優れた発声学習を考える手掛かりとして注目されています。ただし、コアとシェルが音まねのなかでそれぞれ何を担うのかは、まだ十分に分かっていません。
人の声をまねる能力には、これらの脳領域だけでなく、聴覚や記憶、呼吸、鳴管、舌、くちばしの動きも関わります。複数の働きが連動することで、聞いた音に似た声が生まれます。
人間とは異なる発声器官で似た音を作る
人間は喉頭にある声帯を振動させ、声の元になる音を作ります。鳥にも喉頭はありますが、主な音源は気管の下部に位置する「鳴管(めいかん)」です。
肺から送られた空気が鳴管を通ると、内部の組織が振動して音が生まれます。その音は気管や喉、口の中を通り、外へ出るまでに響きが変わります。
オウムは人間と同じ発音方法を使っているのではありません。異なる体の構造を細かく動かし、結果として人の言葉に似て聞こえる音を作っています。
鳴管で声の元になる音を生み出す
鳴管は、多くの鳥が持っている発声器官です。しかし、人の声をまねるには鳴管だけでなく、聞いた音を覚えて発声を調整する能力も求められます。
音の高さや強さには鳴管の動きが大きく関わります。鳴管で生まれた音が気管や口の中を通ると、その空間の形に応じて響きが変わります。
楽器にたとえるなら、鳴管が音源、気管や口、舌、くちばしが音色を整える部分に当たります。どちらか一方だけでは、オウムらしい多彩な音まねは生まれません。
舌やくちばしで声の響きを変える
オウムが話す様子を見ると、発する音に合わせてくちばしを細かく開閉しています。舌も一定の場所にあるわけではなく、発声中に前後や上下へ動きます。
オキナインコの発声をX線動画で調べた研究では、鳴いている間にくちばしの開き方、舌の位置、気管の長さが変化していました。オウムは声道の形を変えながら、鳴管で作った音の響きを調整しているのです。
舌やくちばしの位置が変わることで、人の母音や子音に似て聞こえる要素を作る助けになります。もちろん、音の違いが舌やくちばしだけで生まれるわけではなく、鳴管や気管の動きも欠かせません。
音をまねる能力は仲間との暮らしにも役立つ
オウム類の発声学習は、人の言葉を話すために生まれた能力ではありません。野生では、仲間との連絡や関係の維持に鳴き声が使われます。
多くのオウム類は社会的な集団で暮らし、離れた仲間と連絡を取るために「コンタクトコール」と呼ばれる鳴き声を使います。相手に似た声へ変化する行動も、個体同士のやり取りと関係していると考えられています。
セキセイインコは相手に似た声へ変わることがある
成鳥のセキセイインコを新しくつがいにした研究では、オスの鳴き声が相手のメスの鳴き声に似ていく変化が確認されました。
こうした音まねは、つがい関係の形成や維持に役立つ可能性があります。ただし、すべてのオウム類が同じ方法で仲間の声へ近づけると確認されたわけではありません。
それでも、発声学習が単なる音遊びではなく、仲間との関わりのなかで使われる能力であることが伝わる研究例です。
飼育下では人の声や生活音も学習対象になる
人と暮らすオウムにとって、日常的に聞こえる話し声や生活音は身近な学習対象です。名前やあいさつ、着信音、電子音、笑い声などをまねる個体もいます。
飼育下のオウム類877羽について飼い主から回答を集めた調査では、多くの種類で人の言葉や生活音の模倣が報告されました。その一方で、覚えた音の種類や数には大きな個体差がありました。
この調査だけで、音を覚えた詳しい原因まで特定できるわけではありません。ただ、飼育下のオウムが言葉だけでなく、暮らしのなかにある幅広い音を学んでいることが分かります。
音をまねることと言葉を理解することは別
オウムが「おはよう」や「おかえり」と話すと、言葉の意味を理解して会話しているように感じられます。
聞いた音を正確に再現する能力と、言葉の意味や文法を理解する能力は同じではありません。上手に話す個体でも、発した言葉がその場の状況に合っているとは限りません。
ただし、すべての発声が意味と無関係ともいえません。同じ場面で同じ言葉を繰り返し聞くことで、特定の出来事と音を結びつける個体がいます。
音と出来事を関連づけて覚える
人が部屋へ入るたびに「おかえり」と聞いていれば、その音と人が帰ってくる場面を関連づけることがあります。
食べ物を受け取るときの言葉や、特定の人物の名前も、似た状況で繰り返し聞くことで使われやすくなります。多くの場合は、言葉の辞書的な定義よりも、聞いた音とその場で起きる出来事の関係を学んでいるとみられます。
訓練を受けたヨウムのアレックスを対象にした研究では、物の名前や色、形、数を表す言葉を場面に合わせて使い分けた例があります。ただし、この結果をすべてのオウムに当てはめたり、人間と同じ言語理解だとみなしたりすることはできません。
音まね、場面との結びつき、訓練による学習は、それぞれ分けて考える必要があります。オウムの発声能力には幅があり、個体によってできることも大きく異なります。
すべてのオウムが同じように話すわけではない
オウム類は発声学習が得意な鳥として知られていますが、すべての個体が人の言葉を同じように覚えるわけではありません。
飼い主へのアンケートで集めた877羽、73種の調査では、調査対象のなかでヨウムが特に多くの音を覚える傾向を示しました。ただし、同じ種類でも覚えた音の数には大きな差がありました。
言葉よりも口笛や電子音を好む個体もいます。普段耳にする音、年齢、種類、周囲との関わり方によって、学習する対象は変わります。
人の言葉をほとんど話さなくても、学習能力が低いとは限りません。その個体が関心を持つ音や、発しやすい音が異なる場合もあります。
Q&A
まとめ
オウムが人の声や生活音をまねられるのは、聞いた音の特徴を記憶し、自分の発声を変えて似た響きへ近づける能力があるためです。
声の元は鳴管で作られ、舌、くちばし、気管などの動きによって響きが調整されます。発声学習に関わる脳領域も、聞いた音をもとに鳴き方を変える能力を支えています。
音を学ぶ力は、仲間との連絡や関係を保つ場面でも役立ってきました。人と暮らす環境では、話し声や生活音が身近な学習対象になります。
ただし、音をまねられることと、言葉の意味を理解することは同じではありません。オウムの「おしゃべり」は、聴覚や記憶、脳、鳴管、舌、くちばし、社会性が重なって生まれる行動です。
参考情報
- Chakraborty, M. et al.「Core and Shell Song Systems Unique to the Parrot Brain」
- Ohms, V. R. et al.「Vocal tract articulation revisited: the case of the monk parakeet」
- Benedict, L. et al.「A survey of vocal mimicry in companion parrots」
- Hile, A. G. et al.「Male vocal imitation produces call convergence during pair bonding in budgerigars, Melopsittacus undulatus」
- Moussaoui, B. et al.「Persistent vocal learning in an aging open-ended learner reflected in neural FoxP2 expression」
- Pepperberg, I. M.「In Search of King Solomon’s Ring: Cognitive and Communicative Studies of Grey Parrots」
