一人で飲食店に入ることは、以前よりずっと身近な行動になりました。
カウンター席のあるカフェ、ひとり焼肉、作業しやすい喫茶店、一人でも使いやすいファミリーレストランなど、今は「一人客」を前提にした店づくりも珍しくありません。
背景にあるのは、単身世帯の増加だけではありません。スマホの普及、働き方の多様化、席の配置や注文方法の変化、一人時間への見方の変化が重なり、店に入りやすい空気が少しずつ広がってきました。
おひとりさま消費の広がりを見ると、身近な店の変化だけでなく、暮らし方や価値観の変化も見えてきます。
一人で入りやすい店が増えた背景
一人で入りやすい店が増えた背景には、暮らしの中で「一人で行動する場面」が増えたことがあります。
外食やレジャーは、かつて家族や友人、職場の人と一緒に楽しむものという印象が強くありました。もちろん今でも、誰かと食事をする楽しさは変わりません。
ただ近年は、「予定を合わせるより、自分の都合で行きたい」「食べたいものを自分で選びたい」という感覚も広がっています。仕事の休憩時間、帰宅前の短い時間、休日の空き時間など、一人で店を使いたい場面は日常の中に多くあります。
国立社会保障・人口問題研究所の2024年推計では、単独世帯は2020年時点で一般世帯の38.0%を占め、2050年には44.3%になると見込まれています。一人で暮らす人が増えていることは、店づくりにも少しずつ影響しています。
店側から見ても、一人で利用したい人の需要は無視しにくくなっています。
大人数の来店だけを待つより、昼休み、仕事帰り、休日のすき間時間に立ち寄る一人客を受け入れたほうが、席を効率よく使いやすくなります。
そのため、カウンター席を増やす、入口から店内の様子が見えやすくする、注文しやすい仕組みにするなど、一人でも入りやすい工夫が増えてきました。
一人で来ても浮きにくい店は、結果的に多くの人にとって使いやすい店になりやすいのです。
おひとりさま消費は「寂しさ」ではなく「選択」になった
おひとりさま消費という言葉には、少し前まで「一人で行くのは寂しい」という雰囲気もありました。
しかし今は、一人で食べる、一人で映画を見る、一人で買い物をすることが、誰かと行けないからではなく、自分の時間を自分のペースで使う選択として受け止められやすくなっています。
クロス・マーケティングの2024年調査では、ハンバーガーショップ、ファミリーレストラン、ショッピング施設などが「ひとりでも行く」場所として挙げられています。また同調査を見ると、おひとりさま行動そのものが一気に増えたというより、一人で行くことへの抵抗が以前より薄れている様子がうかがえます。
ここで注目したいのは、「一人で行動する人が急増した」という単純な話ではない点です。
一人で店に入ることを気にしにくくなると、店選びの基準も変わります。
「誰かと行くなら良さそうな店」だけでなく、「一人でも入りやすいか」「長居しても気まずくないか」「注文や会計が簡単か」といった視点が重視されるようになります。
たとえば、カフェで読書をする人、ラーメン店で短時間の食事を済ませる人、映画の前後に一人で食事をする人など、利用シーンはかなり細かく分かれています。
店側にとっては、こうした細かな使い方に応えられるほど、さまざまな客層を受け入れやすくなります。
席の配置や店内のつくりが一人客に合うようになった
一人で行きやすい店が増えた理由には、席の配置や店内のつくりの変化もあります。
以前は、飲食店の席といえば2人席や4人席が中心でした。そこへ一人で入ると、席を広く使ってしまうような気まずさがありました。
混雑している時間帯なら、なおさら入りにくく感じた人もいたはずです。
近年は、カウンター席や小さめのテーブル席をうまく配置する店が増えました。壁向きの席、隣との距離が少し保たれた席、コンセントのある席などは、一人利用と相性が良い形です。
カウンター席は一人客の気まずさを減らす
カウンター席は、一人で入りやすい店づくりと相性の良い席です。
向かい合う相手がいなくても座りやすく、周囲の視線も受けにくくなります。料理を待つ時間も、自分の正面に向いて過ごせるため、テーブル席より気楽に感じやすい面があります。
ラーメン店、牛丼店、そば店などは、早くから一人で入りやすい店として親しまれてきました。
ホットペッパーグルメ外食総研の2021年調査では、首都圏・関西圏・東海圏の20〜69歳を対象に、過去1年の一人外食実施者が45.9%だったとされています。調査期間は2020年4月から2021年3月で、コロナ禍の影響を受けた時期でもあるため、数字そのものより「一人で食事をする人が少なくなかった」点を見るとよさそうです。
一人専用ではなく「一人でも使いやすい店」が増えた
近年の店づくりで目立つのは、必ずしも一人専用にしすぎない点です。
一人でも入りやすく、二人でも使いやすく、家族でも利用できる。こうした柔らかい店づくりのほうが、客層を狭めずにすみます。
たとえば、カフェにカウンター席とテーブル席の両方があれば、一人で作業したい人も、友人と話したい人も利用できます。
回転寿司や焼肉店でも、一人用の席や小さな区画があることで、複数人向けの楽しさを残しながら一人利用の入口を作れます。
一人客にやさしい店は、孤独な人だけのための店ではありません。
短時間で食事を済ませたい人、静かに過ごしたい人、仕事の合間に立ち寄りたい人、好きなものを気兼ねなく食べたい人にとっても使いやすい店です。
スマホが一人行動の気まずさを減らした
おひとりさま消費の広がりには、スマホの存在も関係しています。
一人で店に入ると、注文を待つ時間や料理が来るまでの時間に手持ちぶさたを感じることがあります。以前は、その時間が気まずさにつながりやすい場面もありました。
今はスマホでニュースやSNSを見たり、動画や電子書籍を楽しんだり、予定を確認したりできます。こうした行動が当たり前になったことで、一人で席に座っている時間が以前ほど目立たなくなりました。
さらに、地図アプリや口コミサイト、予約サービスの普及によって、一人で行く店を探しやすくなりました。店内写真や席の雰囲気を事前に見られるため、「入ってみたら一人では居づらかった」という不安も減ります。
モバイルオーダーやセルフレジも、一人客には合いやすい仕組みです。店員に声をかける緊張感が少なくなり、自分のペースで注文や会計ができます。
初めて入る店では、この小さな安心感が大きく働きます。スマホは、待ち時間を埋める道具であると同時に、店を探し、入り、注文し、過ごすまでの流れを支える道具にもなっています。
店側にとって一人客は大切な存在になった
一人客は、店にとって席を効率よく使いやすい客層です。
もちろん、大人数の来店には客単価の高さや、店内ににぎわいを生む力があります。一方で、一人客は短時間で食事を済ませることも多く、時間帯によっては回転率を支えてくれます。
特にランチや仕事帰りの時間帯では、「今日の食事を一人で済ませたい」という需要が安定してあります。
店側がその需要に合わせれば、空席を埋めやすくなります。
また、一人客は自分の満足度で店を選びます。誰かの好みに合わせる必要がないため、気に入った店には繰り返し通いやすい面があります。
静かに過ごせるカフェ、入りやすい定食店、席の配置が落ち着くラーメン店などは、日常の行きつけになりやすい存在です。
店にとっては、一人客を大切にすることがリピーターづくりにもつながります。
おひとりさま消費はこれからも続くのか
おひとりさま消費は、一時的なブームというより、生活スタイルの一部として残りやすい動きです。
単身世帯の増加に加えて、働き方や休日の過ごし方も多様になっています。全員が同じ時間に働き、同じ時間に休むわけではありません。
予定が合わないから外出をあきらめるより、一人でも楽しめる場所を選ぶ人は今後も出てくるでしょう。
ただし、すべての店が一人向けに変わるわけではありません。
友人や家族と会話を楽しむ店、大人数で盛り上がる店、特別な日に使う店も必要です。
一人利用と複数人利用は、対立するものではありません。
今日は一人で静かに食べる。別の日は友人とゆっくり話す。家族で食事を楽しむ日もある。
その時々の気分や予定に合わせて選べる場所が増えたことが、今のおひとりさま消費を支える変化です。
Q&A(よくある疑問)
まとめ
一人で入りやすい店が増えた背景には、単身世帯の増加、スマホの普及、働き方の多様化、店側の席づくりの変化があります。
おひとりさま消費は、寂しさを示すものではなく、自分の時間を自分のペースで使う選択肢として広がってきました。
一人で楽しむ日も、誰かと過ごす日もある。そうした使い分けがしやすくなったことが、今の外食文化や消費行動の変化を表しています。
参考情報
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)令和6(2024)年推計」
- クロス・マーケティング「おひとりさま消費に関する調査(2024年)外出編」
- ホットペッパーグルメ外食総研「一人外食の実態調査(2021年4月実施)」
