8月11日は国民の祝日「山の日」です。祝日法では「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」日と定められています。
日本では古くから山と深く関わってきましたが、山の日が始まったのは2016年です。新しい名称と趣旨を持つ国民の祝日としては、現在ある祝日の中で最も新しく設けられました。
山の日をつくろうという呼びかけは1961年にもありました。その後、地域ごとの活動や山岳団体による全国運動、国会での検討を経て、最初期の呼びかけから半世紀以上後に実現しています。
8月11日という日付も、山に関係する出来事や数字の語呂合わせで決められたものではありません。夏休みやお盆前という時期が考慮され、当初検討された8月12日案の見直しを経て選ばれました。
山の日は山と暮らしのつながりを考える祝日
山の日は、登山をする人に限らず、誰もが山と暮らしのつながりに目を向ける祝日です。
国民の祝日に山の日を加える祝日法の改正案は2014年5月23日に成立し、2016年1月1日に施行されました。最初の山の日は2016年8月11日です。
山の日は原則として毎年8月11日に訪れる固定日の祝日で、成人の日や海の日のように月曜日へ移動するハッピーマンデー制度の対象ではありません。8月11日が日曜日になった場合は、翌日が振替休日になります。
「山に親しむ」と聞くと、登山やハイキングを思い浮かべる人も多いでしょう。とはいえ、山頂を目指すことだけが山に親しむ方法ではありません。近くの山を眺める、森林を散策する、山に暮らす生きものを調べるといった過ごし方もあります。
普段使っている水の源を知ったり、身近な木製品に目を向けたりすることも、山との関係を考えるきっかけになります。特定の行動を求める祝日ではなく、それぞれの方法で山の恵みを感じる日といえるでしょう。
山の日を求める声は1961年にもあった
山の日が2016年まで設けられなかった背景には、全国共通の祝日を求める運動が2000年代以降に本格化したことがあります。
山の日をつくろうという声はそれ以前からあり、複数の自治体でも独自の山の日や関連行事が設けられていました。ただし、地域によって日付や活動内容は異なります。
地域の記念日を全国共通の祝日にするには、趣旨や日付をまとめ、多くの団体や自治体から賛同を集めたうえで法律を改正しなければなりません。そのため、各地の取り組みが国民の祝日として実を結ぶまでには長い時間がかかりました。
最初期の呼びかけは富山県の立山で行われた
全国山の日協議会の記録によると、「山の日をつくろう」という呼びかけが新聞に登場した最初期の例は1961年です。
同年7月、富山県の立山で開かれた登山行事「夏の立山大集会」の閉会式で、山の日の制定を求める呼びかけが行われました。その様子は当時の新聞でも紹介されています。
この呼びかけの後、全国規模の運動が続けて展開されたわけではありません。その後は山梨県や広島県、岐阜県、群馬県などで、国の祝日とは別に地域独自の山の日や関連行事が設けられました。
山への関心を高める活動は各地に広がったものの、日付や目的は統一されていません。1961年の呼びかけから数えると、国民の祝日として実現するまでには半世紀以上かかったことになります。
海の日の制定も動きを後押しした
1995年に「海の日」を国民の祝日とする法律が成立したことも、山の日を求める動きを後押ししました。
海の日は「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う」祝日です。海の恵みに感謝する日があるなら、山の恵みを考える日も設けたいという声が山岳関係者の間で広がっていきました。
山の日と海の日は、法律上正式に一組の祝日とされているわけではありません。それでも、日本の暮らしが海と山の両方に支えられていることから、関係の深い祝日として紹介されることがあります。
2002年には国際山岳年の催しが行われた
2002年は国連が定めた「国際山岳年」でした。世界各地で山岳地域の自然環境や文化、そこに暮らす人々の生活について考える活動が行われ、日本でも山をテーマにした催しが開かれました。
国際山岳年と山の日の制定運動は同じものではありませんが、この時期には山の環境や文化へ目を向ける機会が各地で生まれています。
2010年代に制定へ向けた動きが進んだ
国民の祝日を目指す全国的な活動が大きく進んだのは2010年代です。
2010年には、日本山岳会など5つの山岳団体が協力し、「山の日」制定協議会を発足させました。関係団体や自治体へ協力を呼びかけ、山の日を設ける意義を広く伝えていきます。
2012年には、山岳団体側から6月の第1日曜日を全国共通の山の日にする案が提案されました。6月は山の緑が深まり、夏山シーズンを迎える前の時期です。当時、6月に国民の祝日がなかったことも候補に挙げられた理由の一つでした。
その後の検討では、子どもが夏休みに入り、多くの人がお盆休みを迎える8月が候補になります。家族で山や森林に触れやすい時期として考えられたためです。
2013年4月には、政党の違いを超えた超党派の「山の日」制定議員連盟が発足しました。100人を超える衆参両院の国会議員が参加し、祝日の趣旨や日付について検討が進められます。
同年11月には全国「山の日」制定協議会も発足しました。山岳団体、自治体、関係者、国会議員による働きかけが広がり、祝日法の改正案は2014年5月23日に成立します。
法律には、山の日を8月11日とし、その趣旨を「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」とすることが記されました。実際に祝日として始まったのは、法律成立から約2年後の2016年です。
山の日はなぜ8月11日になった?
山の日が8月11日になったのは、多くの人が夏休みやお盆休みに入る時期だったことと、当初の8月12日案が見直されたためです。山にまつわる出来事や、数字の語呂合わせが公式な理由ではありません。
数字の「8」を山の形に見立て、「11」を木が並ぶ姿に見立てたという説明もあります。ただし、法律や政府の資料では、これが日付を決めた理由とはされていません。
山の日の日付は初めから8月11日に決まっていたわけではなく、制定に向けた話し合いの中で複数の候補が検討されました。
当初は6月の第1日曜日が提案されていた
山岳団体は当初、夏山シーズンを迎える前の「6月の第1日曜日」を、全国共通の山の日にする案として提案していました。
6月は山の緑が深まり、山や森林に関心が向きやすい季節です。当時の6月には国民の祝日がなかったことも、候補日として考えられた理由の一つでした。
その後の国会議員による検討では、夏休みやお盆休みと重なり、多くの人が山に親しみやすい8月へ候補が移ります。内閣府も、お盆休みや夏休みの期間に、大人と子どもが山について考える日になることが期待されたと説明しています。
8月12日案から8月11日へ変更された
2013年には、8月12日を山の日とする案が検討されました。お盆に近く、多くの人が休暇を取りやすい時期として候補に挙げられたためです。
しかし、8月12日は1985年に日本航空123便墜落事故が起きた日です。墜落現場となった御巣鷹(おすたか)の尾根は、群馬県上野村にあります。
多くの犠牲者を追悼する慰霊の日と新しい祝日が重なることへの懸念が示され、議員連盟は日付を再検討しました。2013年11月22日には、8月11日を山の日とする方針で意見がまとまります。
こうして候補日は8月11日に改められ、翌年成立した法律に盛り込まれました。
2020年と2021年は日付が移動した
山の日は原則として毎年8月11日ですが、2020年と2021年には特例によって日付が移動しました。
2020年の山の日は8月10日、2021年は8月8日です。東京オリンピック・パラリンピックの開催に伴う特例で、祝日の日付が変更されました。
2021年8月8日は日曜日だったため、翌日の8月9日が振替休日になっています。この2年間は例外で、現在は通常どおり8月11日です。
山の恩恵は暮らしの中にもある
山と森林はまったく同じものではありません。平地にも森林はあり、標高の高い山には木が育ちにくい場所もあります。一方、日本の山地の多くは森林に覆われているため、山の恵みを考えるうえで森林の働きは欠かせません。
日本の森林面積は約2,500万ヘクタールあり、国土のおよそ3分の2を占めています。森林は多くの生きものの生息地となり、木材や食べものを生み出すほか、水や土壌にも関わる役割を担っています。
水や土壌を支える森林の働き
森林の土壌には、降った雨を一時的に蓄え、時間をかけて川へ送り出す働きがあります。雨水が短時間で流れ出すのを和らげ、水の流れを保つ役割の一つです。
この働きは「水源涵養機能(すいげんかんようきのう)」と呼ばれ、暮らしに必要な水を支えています。家庭の蛇口から出る水や農業に使われる水も、山地や森林を流れる水と深くつながっています。
木の根や落ち葉には、土壌が流れ出すのを抑える働きもあります。ただし、森林だけで土砂災害を完全に防げるわけではありません。雨の量や地形、地質など、さまざまな条件が関係します。
生きものや地域の暮らしを育む山
森林には植物のほか、昆虫、鳥、哺乳類、微生物など、さまざまな生きものが暮らしています。
木の実や葉を食べる動物がいて、その動物を捕食する生きものもいます。落ち葉や枯れ木は昆虫や微生物によって分解され、植物を育てる土壌の一部になります。森林の中では、多くの生きものが互いに関わりながら暮らしています。
山や森林は木材を生み出す場所でもあります。住宅の柱や床、家具、紙、食器、文房具など、身近なところで木材は幅広く使われています。
きのこ、山菜、木の実なども山から得られる恵みです。地域によっては、山の水や植物、地形を生かした農業や伝統産業も受け継がれています。
美しい景色だけでなく、地域の暮らしや文化を支えてきたことも、山から受けている恩恵の一つです。
登山以外にもある山との関わり方
山の日は、登山をする人だけの祝日ではありません。
身近な山を眺めたり、地域を流れる川の水源を調べたり、木で作られた製品に目を向けたりすることも、山とのつながりを知るきっかけになります。
山へ出かける場合も、必ず山頂を目指す必要はありません。整備された遊歩道を歩いたり、山麓の公園や博物館を訪れたりするだけでも、山を身近に感じられます。
夏の山は天候が変わりやすいため、登山やハイキングをする場合は、事前に天気やルートを調べ、体力や経験に合った計画を立てることが大切です。
Q&A
まとめ
山の日は、原則として毎年8月11日に訪れる国民の祝日です。「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」ことを目的に、2016年から始まりました。
山の日を求める声は1961年にもありましたが、全国的な制定運動が本格化したのは2000年代以降です。山岳団体、自治体、関係者、国会議員による働きかけを経て、2014年の祝日法改正につながりました。
8月11日は、山にまつわる出来事や語呂合わせで決められた日ではありません。夏休みやお盆前という時期が考慮され、当初検討された8月12日案の見直しを経て選ばれています。
登山へ出かけるだけでなく、毎日使う水や木材、森林に暮らす生きもの、地域の景観に目を向けることも、山の恩恵を知るきっかけになります。
参考情報
- 内閣府「各『国民の祝日』について」
- 内閣府「国民の祝日について」
- 一般財団法人全国山の日協議会「『山の日』制定の歩み」
- 一般財団法人全国山の日協議会「萩原浩司氏が語る『山の日』制定の歴史 1.運動のスタート」
- 林野庁「第1章 森林の整備・保全」
