焼き魚を食べたあとに白いご飯を一口。漬物の塩気が残っているうちにご飯を食べると、ちょうどよい味に感じる。
こんな普段の食べ方には、「口内調味」または「口中調味」という名前があります。
料理を皿の上で混ぜるのではなく、ご飯とおかずを食べ進めながら、口の中で味の組み合わせを作る食べ方です。
ご飯とおかずを交互に食べることは口内調味につながりますが、料理を順番に食べ進める「三角食べ」と、口の中で味を組み合わせる「口内調味」は同じ意味ではありません。
白飯と複数のおかずを別々の器に並べる日本の食事との相性がよく、日本に特徴的な食べ方の一つとして紹介されています。ただし、日本人だけが行うものではなく、似た食べ方がみられる国もあります。
何気なく繰り返している「おかずの次にご飯」には、どのような食文化が表れているのでしょうか。
口内調味とはご飯とおかずの味を口の中で合わせる食べ方
口内調味とは、白飯とおかずを組み合わせ、口の中で味を調整しながら食べることです。
学術論文では「口中調味」という表記が用いられる例が多く、農林水産省の資料では「口中調味(口内調味)」と併記されています。表記は異なりますが、基本的には同じ食べ方を指しています。
日本の白飯は、炊く段階で塩や濃い味を付けないことが一般的です。一方、おかずには塩味、うま味、甘味、酸味などがあります。
そこで、
焼き魚 → ご飯
煮物 → ご飯
漬物 → ご飯
のように食べると、おかずの味と白飯が口の中で組み合わさります。
ご飯そのものへ調味料を加えていなくても、食べる人が一口ごとにご飯とおかずの量を変えることで、感じる味の濃さも変えられます。
必ず二つの食べ物を同時に口へ入れるわけではない
「口の中で味を合わせる」と聞くと、ご飯を口に入れたまま別のおかずを追加する食べ方だけを想像するかもしれません。
しかし、口内調味は最初から二つの料理を同時に口へ入れる方法だけを指すわけではありません。
幼児と成人の食事を観察した研究では、成人がおかずを食べたあとにご飯を口へ運ぶ行動も、口中調味として観察されています。
口内調味では、最初から二つの料理を同時に口へ入れるとは限りません。おかずを食べたあとにご飯を口へ運び、口の中で味を組み合わせる食べ方も含まれます。
なぜ日本の食事と口内調味は相性がいい?
日本の食事では、白飯、汁物、主菜、副菜などを別々の器に並べる献立がみられます。
和食の基本的な形として知られる「一汁三菜」も、ご飯を主食に、汁物と複数のおかずを組み合わせる食事の一例です。
すべての味を最初から一皿の中で完成させるのではなく、それぞれの料理が別々に置かれているため、食べる人はその都度、ご飯とおかずを行き来できます。
白飯は比較的淡い味で、おかずには味が付いています。そのため、
「塩気のある魚のあとにご飯を食べる」
「甘辛い煮物なら、ご飯を少し多めにする」
といった食べ方がしやすくなります。
農林水産省も、米を主食とする和食について、ご飯とおかずを交互に口へ運び、口の中で味を合わせる食べ方を「口中調味(口内調味)」として紹介しています。
白飯がおかずの味を受け止める
口内調味を考えるうえで大きな役割を持つのが、白飯そのものに濃い味が付いていないことです。
塩気のある焼き魚を一口食べたあと、ご飯を食べる。甘辛い煮物ならご飯を少し多めにし、漬物なら少量を白飯と組み合わせる。
同じおかずでも、ご飯との量の比率を変えれば、口の中で感じる味は変わります。
2011年に発表された女子大学生を対象とする研究では、口中調味を行う群と行わない群を比較し、「白飯をおいしく感じるおかず」について調べています。魚の塩焼き、煮魚、肉じゃが、きんぴらごぼうなど、ご飯と組み合わせることの多い料理も対象になりました。
これは「口内調味をすれば誰でも必ずおいしく感じる」という意味ではありません。
好みや食習慣には個人差があります。ただ、白飯とおかずを別々に用意する食事には、食べ手自身が味の組み合わせや濃さを変えやすい特徴があるといえます。
三角食べや「ばっかり食べ」と口内調味はどう違う?
口内調味と一緒によく登場する言葉に「三角食べ」があります。
どちらもご飯やおかずを行き来しながら食べる場面で見られますが、注目している部分が違います。
三角食べは、ご飯、汁物、おかずなど、一つの料理だけを先に食べきらず、複数の料理を順番に食べ進めていく方法です。
一方、口内調味では、食べる順番そのものより、ご飯とおかずなどの味が口の中で組み合わされることに重点があります。
たとえば、
- おかずを食べる
- ご飯を食べる
- 汁物を飲む
- 別のおかずを食べる
という流れなら、複数の料理を順番に食べています。
その途中で、おかずとご飯の味が口の中でつながれば、口内調味にもなります。
三角食べが口内調味につながることはありますが、両者は同じ意味ではありません。三角食べは料理を順番に食べ進める方法、口内調味はご飯とおかずなどの味を口の中で組み合わせる食べ方を指します。
一品ずつ食べる「ばっかり食べ」とは対照的
一つの料理を食べ終わってから次へ移る食べ方は、「ばっかり食べ」と呼ばれることがあります。
たとえば、
おかずを全部食べる → ご飯を全部食べる → 汁物を飲む
という進め方です。
この場合、それぞれの料理を単独で食べる時間が長くなるため、白飯とおかずによる口内調味は起こりにくくなります。
ただし、ばっかり食べが悪く、三角食べが必ず正しいという話ではありません。
料理の種類や食文化、本人の好みでも食べ方は変わります。
味付きご飯や丼物、カレーのように、最初から料理の中で味が組み合わされているものでは、白飯とおかずを交互に食べる必要もありません。
学校給食を観察した報告でも、ピラフや混ぜご飯、ふりかけなどがある献立では、白飯とおかずによる口中調味を観察しにくいことが指摘されています。
料理の形が違えば、味の組み合わせ方も変わります。
口内調味は健康にいいの?
農林水産省の過去の資料では、口内調味について、薄味に慣れやすいことや、よく噛むこと、食事のバランスなどにつながる利点が紹介されています。
こうした説明を見ると、口内調味そのものに健康上の効果があるように感じるかもしれません。
ただし、口内調味だけで特定の健康効果が得られると断定できるわけではありません。
食事全体の栄養バランスや摂取量は、何をどれだけ食べるかによって変わります。ご飯とおかずを交互に食べるという行動だけで、健康状態や体重などが決まるものでもありません。
これまでの研究では、口内調味の食べ方や、白飯のおいしさとの関係などが調べられています。一方で、健康への効果が広く確立しているとまではいえません。
そのため、口内調味は健康法として見るより、白飯とおかずの味を食べ手自身が組み合わせられる食文化の一つとして捉えるほうが分かりやすいでしょう。
子どもと大人では口内調味のしかたが違う?
大人が何気なく行っている口内調味ですが、子どもと大人では食べ方に違いがみられた研究があります。
2017年に発表された観察研究では、3歳児11人、5歳児7人、成人14人の食事の様子を比較しました。
幼児では同じ料理を続けて食べる傾向があり、口中調味はあまり観察されませんでした。一方、成人では料理を頻繁に替えながら食べ、口中調味も多く観察されています。
研究では、箸や茶碗を扱うこと、次に食べる料理を選ぶことなど、食事の中で身につける動作が口中調味に関係する可能性が示されています。
対象人数が少ない研究なので、「子どもは口内調味ができない」「大人になれば必ず口内調味をする」とまではいえません。
普段の食事には、
- どの料理を次に食べるか選ぶ
- 茶碗と箸を扱う
- ご飯とおかずの量を加減する
- 料理を切り替えながら食べ進める
といった複数の動作があります。
大人には当たり前に見える「魚を食べたから次はご飯」という一口も、単なる味覚だけではなく、食器を扱ったり料理を選んだりする動作と結びついている可能性があります。
口内調味は日本にしかない食べ方なの?
口内調味は、日本に特徴的な食べ方として紹介されています。
味を強く付けない白飯と複数のおかずを別々に並べ、食べながら味を組み合わせる食事形式は、日本の食文化を説明する特徴の一つです。
ただし、「日本人だけが行う」「日本以外には存在しない」と言い切るのは適切ではありません。
農林水産省の資料でも、このような食べ方を日本に特徴的なものとして説明しながら、短粒種の米を主食とする他国の一部にも似た食べ方があるとしています。
「日本に特徴的な食べ方」と「日本にしか存在しない食べ方」は同じ意味ではありません。
食べ物を口の中で組み合わせる行為そのものが、特定の国だけに限定されているわけではありません。
日本の口内調味で注目されているのは、味を強く付けない白飯を中心に、複数のおかずを別々の器から選びながら味を組み合わせる食事形式と結びついていることです。
そのため、「日本だけの食べ方」というより、日本の白飯とおかずの食文化で特徴的にみられる食べ方と捉えると分かりやすいでしょう。
まとめ
口内調味とは、ご飯とおかずを食べ進めながら、口の中でそれぞれの味を組み合わせる食べ方です。学術論文などでは「口中調味」という表記も使われています。
ご飯とおかずを交互に食べることは口内調味につながりますが、料理を順番に食べる三角食べと、味を口の中で組み合わせる口内調味は同じ意味ではありません。
味を強く付けない白飯と複数のおかずを別々に並べる一汁三菜などの食事では、おかずの塩気やうま味を白飯と組み合わせ、一口ごとの味を食べ手自身が変えられます。
子どもと大人の食事を比べた研究では、成人に口中調味が多く観察されており、箸や茶碗を扱うことなど、食事の中で身につける動作が関係する可能性も示されています。
そして、口内調味は日本に特徴的な食べ方ではありますが、日本だけに存在するとはいえません。
「おかずの次にご飯が欲しくなる」。普段は意識しないその一口にも、白飯とおかずを組み合わせて食べる文化が表れています。
参考情報
- 農林水産省 中国四国農政局「平成23年度 中国四国食料・農業・農村情勢報告」
- 農林水産省「和食の基本をおさえよう 1 献立」
- 木村留美・杉山寿美・石永正隆(2011)「口中調味の実施状況が白飯とおかずを組み合わせた食事での白飯のおいしさに及ぼす影響」『日本調理科学会誌』
- 川崎里沙・外山紀子(2017)「口中調味の発達:観察データの分析から」『日本食生活学会誌』
- 村上亜由美・青山和絵(2009)「学校給食時の観察からみた児童の料理の食べ方と食事マナー」『福井大学教育地域科学部紀要 第V部 応用科学(家政学編)』
