Rhnull(アールエイチ・ヌル)は、赤血球の表面にRh血液型の抗原が現れない、極めて珍しい血液型です。医学的には「血液型表現型」と呼ばれ、一般的なRhマイナスとは抗原の現れ方が異なります。
その希少性から「黄金の血液」と呼ばれることがあります。ただし、血液が金色をしているわけではなく、医学上の正式名称でもありません。Rhnullの珍しさを印象的に伝える通称です。
Rhnullの赤血球は、一部の患者の輸血に役立つ可能性があります。その一方で、Rhnullの人自身が輸血を必要とした場合には、適合する血液を確保しにくいという事情もあります。
RhnullとはRh抗原が現れない血液型
血液型というと、A型・B型・O型・AB型の4種類を思い浮かべる人が多いでしょう。これはABO血液型による分類です。
赤血球の表面にはABO以外にも多くの抗原があり、輸血ではRh血液型も重要になります。Rh血液型にはD・C・c・E・eなどの代表的な抗原があります。普段使われる「Rhプラス」と「Rhマイナス」は、主にD抗原があるかどうかを示すものです。
一般的なRhマイナスでは、D抗原が赤血球の表面にありません。一方のRhnullでは、D抗原だけでなく、C・c・E・eを含むRh血液型の抗原が現れません。「null」には、存在しない、値を持たないといった意味があります。
RhマイナスとRhnullは同じではない
Rhマイナスの人も、C・c・E・eなど、D以外のRh抗原を持っていることがあります。RhnullではRh抗原全体が現れないため、単に「とても珍しいRhマイナス」と考えると、両者の違いが分かりにくくなります。
日本人のRhマイナスは約0.5%で、およそ200人に1人です。少数ではあるものの、献血された血液を検査することで一定数を確保できるため、日本赤十字社では通常の「まれな血液」には含めていません。
Rhnullはそれよりもはるかに確認例が少なく、一部の医学文献では約600万人に1人という推定が引用されています。ただし、約600万人に1人という数字は、世界中で同じ条件の調査を行って算出されたものではありません。これまでに報告された症例をもとにした推定値であり、実際の割合とは差がある可能性があります。
Rhnullが「黄金の血液」と呼ばれる理由
Rhnullは確認例が非常に少ないうえ、一般的な血液では適合しにくい一部の患者に役立つ可能性があります。希少性と輸血上の重要性が、「黄金の血液」という呼び名につながっています。
国際輸血学会はRhnullを、ボンベイ型やJr(a−)型などと並ぶ、代表的な希少血液の一つとして挙げています。
Rh系の抗体を持つ患者に役立つ場合がある
輸血を受ける人が持っていない抗原を含む赤血球が体内に入ると、その抗原に反応する抗体が作られることがあります。すでに特定の抗体を持っている患者には、反応する抗原を持たない血液を選ぶ必要があります。
Rhnullの赤血球にはRh抗原が現れないため、Rh系の抗原に対する抗体を持ち、一般的な血液では適合が難しい患者の候補になる場合があります。ただし、実際の輸血ではABO血液型やRh以外の抗原も調べなければなりません。
献血者が極めて少ないため、必要な時期に十分な量を用意できるとは限りません。まれな血液が見つかった場合には、献血者への登録依頼や赤血球の凍結保存などが行われています。
誰にでも輸血できる万能な血液ではない
Rhnullは「誰にでも輸血できる血液」と紹介されることがありますが、Rh抗原がないだけですべての人に適合するわけではありません。
Rhnullの人にもA型・B型・O型・AB型のいずれかのABO血液型があります。赤血球にはRh以外にも多くの血液型抗原があり、患者が持つ抗体も輸血の適合性に関係します。
実際の輸血ではABO血液型をはじめ、抗体検査や交差適合試験などの結果を踏まえて、使用できる血液が選ばれます。
Rhnullの人は適合する血液を確保しにくい
Rhnullの赤血球は一部の患者に役立つ一方、Rhnullの人自身が輸血を必要とした場合には、選べる血液が非常に少なくなることがあります。
Rhnullの人がRh抗原を持つ赤血球の輸血を受けると、Rh系の抗原に反応する抗体を作る可能性があります。抗体ができた後は適合する血液がさらに限られ、Rhnullを含む特別に選ばれた血液が必要になる場合があります。
国内の通常在庫で適合する血液が見つからなければ、凍結保存された血液を調べたり、国外の登録情報から候補を探したりすることもあります。
Rhnullはなぜこれほど珍しいのか
Rhnullは、Rh抗原を作ったり、赤血球の表面に現したりする仕組みに関係する遺伝子の変化によって生じます。限られた遺伝的な組み合わせで現れるため、確認例が非常に少ない血液型です。
遺伝子の働き方によって複数の型がありますが、雑学としてRhnullの特徴を理解するうえでは、「Rh抗原を作る、または表面に出す仕組みがうまく働かない」と捉えると分かりやすいかもしれません。
赤血球の状態にも影響することがある
Rh抗原に関係するタンパク質は、血液型の目印になるだけでなく、赤血球膜の状態を保つ働きにも関わっています。
Rhnullの赤血球では形や膜の性質に変化が生じ、通常より壊れやすくなることがあります。そのため、赤血球が早く壊れることで起こる溶血性貧血を伴う例も報告されています。
状態には個人差があり、Rhnullという血液型だけから症状や健康状態を判断することはできません。
最初のRhnullは1961年に報告された
検出可能なRh抗原を持たない血液が初めて医学誌で報告されたのは1961年です。医学誌『ランセット(The Lancet)』に、「検出可能なRh抗原を持たない血液標本」という論文が掲載されました。
最初の例はオーストラリアの女性から見つかったとされ、その後の家族研究や遺伝子研究によって、Rhnullが生じる仕組みが少しずつ明らかになりました。
発見から半世紀以上が過ぎても、Rhnullは一般的な血液型ではありません。一つひとつの報告が、Rh血液型の仕組みや希少血液の輸血方法を考える資料となっています。
Rhnullは「まれな血液」の一つ
出現する割合が低く、輸血の際に適合する血液を確保しにくいものは「まれな血液」と呼ばれます。「希少血液」「まれ血」「稀血(まれけつ)」と表現されることもありますが、いずれも特定の一つの血液型を指す名称ではありません。
日本赤十字社は、出現頻度がおおむね1%以下で、輸血の際に確保へ支障を来すおそれがある血液型を「まれな血液」と説明しています。Rhnullは、こうした血液型に含まれる一例です。
まれな血液にはRhnullのほか、ボンベイ型などがあります。血液型ごとに抗原の現れ方や適合条件が異なるため、「まれな血液」という一種類の血液が存在するわけではありません。
日本人のRhマイナスは約200人に1人ですが、日本赤十字社では献血された血液を検査することで確保しており、「まれな血液型」には含めていません。人数の少なさだけでなく、必要な血液を用意できるかどうかも判断に関わります。
希少血液は国を越えて探される
Rhnullのような希少血液は、一つの国だけで必要な量を確保できない場合があります。そのため、各国の血液事業者や輸血機関が献血者や凍結血液の情報を共有しています。
国際希少献血者パネルは、世界保健機関と国際輸血学会の共同構想によって1965年に始まりました。現在は英国ブリストルにある国際血液型参照研究所が管理しています。
パネルには、各国の希少献血者情報と、世界各地で凍結保存されている血液の在庫情報が登録されています。国内で適合する血液が見つからないときは、医療機関を通じて国外の候補を探すことがあります。
日本でも、まれな血液が見つかった献血者に登録への協力を依頼し、必要に応じて赤血球を凍結保存しています。
Q&A
まとめ
Rhnullは、赤血球の表面にRh血液型の抗原が現れない、極めて珍しい血液型です。一般的なRhマイナスが主にD抗原を持たない状態なのに対し、RhnullではRh抗原全体が現れません。
「黄金の血液」は正式名称ではなく、その希少性を表す通称です。一部の患者の輸血に役立つ可能性がある一方、Rhnullの人自身が輸血を必要とした場合には、適合する血液の確保に時間を要することがあります。
Rhnullは「まれな血液」に含まれる一例です。希少血液の輸血は、献血者の登録、赤血球の凍結保存、医療機関や血液事業者による国際的な情報共有によって支えられています。
参考情報
- Qureshi, A.ほか「Rhnull: a rare blood group phenotype」
- Vos, G. H.ほか「A sample of blood with no detectable Rh antigens」
- Huang, C. H.ほか「RH blood group system and molecular basis of Rh-deficiency」
- Shahverdi, E.ほか「First Report of Known Rare Rhnull Phenotype Individuals in Iran」
- 米国国立衛生研究所「Rh deficiency syndrome」
- 日本赤十字社 長野県赤十字血液センター「HLA・まれな血液型」
- 国際輸血学会「Rare Donors」
- NHS Blood and Transplant「International Rare Donor Panel」
※「黄金の血液」は医学上の正式名称ではありません。記事ではRhnullの希少性を表す通称として使用しています。
※「約600万人に1人」は、世界人口を同じ方法で調査して算出された割合ではなく、医学文献で引用されている推定値です。
