月を見上げると、いつも同じ模様が見えます。うさぎのように見える暗い部分も、満月のたびにほとんど同じ位置にあります。
では、反対側にある「月の裏側」はどうなっているのでしょうか。探査機が撮影した月の裏側を見ると、地球から見える表側よりもクレーターが目立ち、でこぼこした印象があります。
月の裏側が地球から見えないのは、月が地球のまわりを回る時間と、自分で1回転する時間がそろっているためです。そしてクレーターが多く見えるのは、裏側には表側のような黒く平らな「海」が少ないからです。
月の裏側は本当に地球から見えないのか
月の裏側全体は、地球から直接見ることができません。
これは、月が自転していないからではありません。月はちゃんと自転しています。ただし、月が自分で1回転する時間と、地球を1周する時間がほぼ同じです。そのため、月は地球に対していつも同じ面を向けています。
この状態は「潮汐(ちょうせき)ロック」と呼ばれます。潮の満ち引きにも関係する重力の働きによって、月が地球に同じ面を向け続けるようになった状態です。
身近なたとえでいえば、相手の周りを歩きながら、ずっと相手のほうを向き続けているようなものです。歩いている本人は向きを変えていますが、相手から見ると顔しか見えません。
月も同じです。月は宇宙空間で回っていますが、地球から見ると、いつも表側だけを見せているように見えます。
月の裏側は「暗い側」ではない
月の裏側は、英語圏で「dark side(暗い側)」と呼ばれることがあります。そのため、ずっと暗い場所だと思われがちです。
しかし、月の裏側が常に暗いわけではありません。
月は太陽の光を受けて輝いています。地球から見える表側にも昼と夜があるように、裏側にも昼と夜があります。新月のころは、地球から見える表側が太陽の反対を向いて暗くなり、反対に裏側は太陽の光を受けています。
つまり「裏側」は、地球から見えない側という意味です。光が届かない永久の暗闇という意味ではありません。
こう考えると、「月の裏側」という言葉の印象も少し変わります。そこは永遠に暗い場所ではなく、地球からは隠れているもう一つの月面です。
月の裏側はなぜクレーターが多く見えるのか
月の裏側にクレーターが密集して見える背景には、表側と裏側で地形の残り方が違うことがあります。
地球から見える月の表側には、黒っぽく平らな部分があります。これは「月の海」と呼ばれる地形です。海といっても水があるわけではなく、昔の火山活動で流れ出た溶岩が広いくぼみを埋めて固まったものです。
一方、月の裏側にはこの月の海が少なく、古い高地が広く残っています。
表側では、古いクレーターの一部が溶岩に覆われ、なめらかな平原になりました。裏側では、同じような溶岩の広がりが少なかったため、衝突でできたクレーターが残りやすかったのです。
そのため、月の裏側は「クレーターが多く作られた」というより、クレーターが消されずに残って見えやすい場所と考えると、実際の姿に近づきます。
裏側の地殻は表側より厚い
月の表側と裏側の違いには、月の内部構造も関係しています。
月の地殻は、表側と裏側で同じ厚さではありません。地球から遠い側、つまり裏側の地殻は、地球側より厚いと考えられています。
地殻が厚いと、巨大な天体がぶつかっても、地下のマグマが表面まで出にくくなります。表側では衝突によってできた巨大なくぼみに溶岩が流れ込み、広い月の海ができました。裏側では地殻が厚いため、表側ほど広い溶岩の平原が作られにくかったと考えられています。
この違いが、現在の見た目につながっています。
表側は、黒い海が多く、なめらかな場所が目立つ月面。裏側は、明るい高地が広がり、クレーターがびっしり残った月面。
同じ月でありながら、表側と裏側で大きく印象が変わるのは、この地殻の厚さや火山活動の違いが関係しているのです。
盾になったというより月面の残り方が違う
月の裏側にクレーターが多いと聞くと、「表側は地球が隕石を防いでくれたのでは」と考えたくなります。
また反対に、月に多くのクレーターがあることから「月が地球の盾になってきたのでは」と感じる人もいるかもしれません。
ただし、月の表側と裏側の見た目の違いは、地球や月が盾になったかどうかだけでは説明できません。大きく関係しているのは、月面がその後どう変化したかです。
表側では、昔の溶岩が広いくぼみに流れ込み、古いクレーターを覆いました。裏側ではそのような平らな溶岩地形が少なく、古い衝突の跡が残りやすかったのです。
そのため、月の裏側にクレーターが多く見えるのは、何かが一方的に盾になったからというより、表側と裏側で「月面の傷跡の残り方」が違ったからと見るほうが合っています。
月の裏側はいつ初めて確認されたのか
月の裏側の姿が初めて確認されたのは、宇宙探査が始まってからです。
地球から望遠鏡を向けても、月の裏側を直接見ることはできません。その姿が知られるようになったのは、探査機が月の裏側へ回り込み、写真を撮影したからです。
月の裏側を初めて撮影したのは、1959年のソ連の探査機ルナ3号です。写真は現在の基準では粗いものでしたが、それまで地球からは見えなかった月面の姿を明らかにしました。
現在では、月の裏側の姿は探査機によって詳しく調べられています。表側と裏側の地形差、地殻の厚さ、クレーターの分布などがわかるようになり、月の成り立ちを考える手がかりになっています。
さらに近年は、月の裏側そのものを調べる探査も進んでいます。2024年には中国の嫦娥(じょうが)6号が月の裏側から試料を持ち帰りました。これは月の裏側から試料が回収された初めての例とされ、月の表側と裏側の違いを調べるうえで重要な資料になっています。
昔は想像するしかなかった月の裏側も、いまでは少しずつ詳しい姿がわかってきています。
月の裏側が教えてくれること
月の裏側は、ただ「見えない場所」ではありません。月の歴史を知るための大事な手がかりです。
表側の月の海は、過去の火山活動を示しています。裏側のクレーターが多い高地は、古い月面の姿を多く残しています。つまり、表側と裏側を比べることで、月がどのように冷え、どのように固まり、どのように衝突を受けてきたのかが見えてきます。
地球から見える月は、月の一面にすぎません。裏側には、表側とは違う地形、違う地殻、違う火山活動の歴史があります。
いつも夜空に見えている月が、実は表と裏で大きく違う顔を持っている。そこが、月の裏側の興味深いところです。
Q&A(よくある疑問)
まとめ
月の裏側が地球から見えないのは、月が地球のまわりを1周する時間と、自分で1回転する時間がそろっているからです。そのため、地球からは月の同じ面ばかりが見えています。
月の裏側にクレーターが密集して見えるのは、表側のような広い月の海が少ないためです。表側では溶岩が古いクレーターを覆いましたが、裏側では古い高地が残りやすく、衝突の跡が目立ちます。
地球や月が盾になったかどうかだけでは、この違いは説明できません。大きいのは、表側と裏側で月面の傷跡の残り方が違ったことです。
月の裏側は、暗い場所ではなく、地球から見えないもう一つの月面です。そこには、表側とは違う月の歴史が刻まれています。
参考情報
- NASA Science「Tidal Locking」
- NASA Science「Moon Craters」
- NASA Science「Moon Composition」
- NASA Science「First Photo of the Lunar Far Side」
- National Science Review「Nature of the lunar far-side samples returned by the Chang’E-6 mission」
