ブラックホールはどう撮影している?光も逃げられない天体の見方

ブラックホールは、光さえ逃げられないほど強い重力を持つ天体です。
そう聞くと、「光が出てこないなら、どうやって撮影しているのか」と不思議に感じるかもしれません。

実際、ブラックホールそのものを普通のカメラで撮影しているわけではありません。見えているのは、ブラックホールの周囲で高温になったガスが出す電波や、強い重力によって中央が暗く見える「影」のような部分です。

人類がブラックホールの姿を画像として初めて発表したのは、2019年4月10日でした。対象は、おとめ座の方向にある銀河M87の中心にある巨大ブラックホールです。その後、2022年には、私たちの天の川銀河の中心にある巨大ブラックホール「いて座Aスター(Sgr A*)」の画像も発表されました。

ブラックホールは「見えない天体」ですが、その周囲に残る光や電波の痕跡から、姿の手がかりを得られます。


目次

ブラックホールとはどんな天体なのか

ブラックホールは、非常に大きな質量が小さな領域に集中した天体です。

重力は、質量を持つものに働きます。同じ質量でも、より小さな範囲に集まるほど、周囲に与える重力の影響は強くなります。ブラックホールではその影響が極端になり、ある境界の内側からは光さえ外へ出られなくなります。NASAも、ブラックホールを「物質が小さな空間に詰め込まれた天体」とし、事象の地平面の内側では光さえ逃げられないと説明しています。

光も逃げられない境界がある

ブラックホールのまわりには、「事象の地平面」と呼ばれる境界があります。

これは、そこを越えて内側に入ると、光でさえ外へ戻れなくなる境目です。事象の地平面は、地球の表面のような固い面ではありません。外へ逃げるために必要な速度が光速を超えてしまう境界として考えると、つかみやすくなります。

事象の地平面そのものが、壁のように光って見えるわけではありません。外から見ると、その内側からは光も情報も届かないため、ブラックホール本体は直接見えない存在になります。

本体ではなく周囲の光から存在を知る

ブラックホールは、真っ暗で何も見えない天体というより、周囲の様子から存在を知る天体です。

ブラックホールの近くにガスやちりがあると、それらは強い重力に引き寄せられ、高温になって光や電波を出すことがあります。さらに、ブラックホールの重力は光の進み方も大きく曲げます。

そのため、ブラックホールを「見る」とは、本体を照らして写すことではありません。周囲の明るいガスや、そこにできる暗い影を手がかりにしているのです。


ブラックホールはどのように生まれるのか

ブラックホールの生まれ方としてよく知られているのは、非常に重い星の一生の終わりです。

星は、中心部で核融合をしながら輝いています。このとき、星の内側から外へ押し返す力と、自分自身の重力で内側へ縮もうとする力がつり合っています。けれど、重い星が燃料を使い果たすと、そのつり合いが崩れることがあります。

重い星の終わりに生まれる場合

非常に重い星では、中心部を支える力が弱まると、自分自身の重力で一気に崩れ込むことがあります。その結果、超新星爆発が起き、外側の物質が吹き飛ばされ、中心に残った高密度の天体がブラックホールになる場合があります。NASAも、恒星質量ブラックホールは非常に重い星が崩壊してできると説明しています。

すべての星がブラックホールになるわけではありません。太陽のような星は、通常そのままブラックホールになるほどの質量はありません。ブラックホールになるには、星の質量や進化の過程が大きく関係します。

巨大ブラックホールの成長には未解明な点もある

一方、銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍もの質量を持つ巨大ブラックホールが見つかっています。M87*や、天の川銀河中心のいて座Aスターも、このような巨大ブラックホールです。

こうした巨大ブラックホールがどのように生まれ、どのように大きくなったのかには、まだ未解明な点があります。小さなブラックホールが合体したり、周囲のガスや星を取り込んだりして成長したと考えられていますが、銀河の進化とも関わる大きなテーマです。


なぜ光も逃げられないほど重力が強いのか

ブラックホールの重力が特別に強いのは、質量が非常に小さな範囲に集中しているからです。

ここで関係するのが「脱出速度」です。脱出速度とは、天体の重力を振り切って外へ出るために必要な速さのことです。地球から宇宙へ飛び出すにも、地球の重力を振り切るだけの速さが必要になります。

ブラックホールでは、ある境界の内側で、この脱出速度が光の速さを超えてしまいます。光より速く進めるものはないため、その内側からは光も外へ逃げられません。この境界が、事象の地平面です。

「光も逃げられない」という表現は、ブラックホールが光を普通の物体のように引き戻しているというより、外へ出るために必要な速さが光速を超えてしまう、と考えると実際の説明に近くなります。


ブラックホールはいつ撮影できるようになったのか

ブラックホールの画像が初めて発表されたのは、2019年4月10日です。

このとき公開されたのは、銀河M87の中心にある巨大ブラックホールM87*の画像でした。中央に暗い影があり、その周囲を明るい輪のような構造が取り囲む姿は、世界中で大きく報じられました。

2019年にM87*の画像が発表された

M87*は、地球から約5500万光年離れた銀河M87の中心にある巨大ブラックホールです。太陽の約65億倍もの質量を持つとされ、代表的な超巨大ブラックホールの一つです。

2019年に発表された画像は、「ブラックホールを初めて直接見た」と表現されることがあります。ただし、正確にはブラックホール本体を写したのではなく、周囲の高温ガスが放つ電波と、中央にできる影を画像化したものです。NASAも、M87*の画像について、ブラックホールは高温ガスの放射によって輪郭づけられていると説明しています。

2022年には天の川銀河中心も画像化された

2022年には、私たちの天の川銀河の中心にある巨大ブラックホール「いて座Aスター(Sgr A*)」の画像も発表されました。

いて座Aスターは、M87より地球にずっと近い場所にあります。けれど、M87より質量がかなり小さいため、周囲のガスの動きが短い時間で変化しやすく、画像にまとめるには別の難しさがありました。

近いから簡単に撮影できるとは限りません。ブラックホールの大きさや周囲のガスの動き、観測中の変化の速さも、画像化の難しさに関わります。


どのようにブラックホールを撮影しているのか

ブラックホールの撮影には、普通の望遠鏡で写真を撮る方法とは違う仕組みが使われています。

中心になったのは、イベント・ホライズン・テレスコープ、略してEHTという国際的な観測プロジェクトです。EHTは、世界各地の電波望遠鏡をつなげて、地球サイズの巨大な望遠鏡のように使います。

世界中の電波望遠鏡をつなげる

ブラックホールは非常に遠く、地球から見た見かけの大きさはとても小さいです。そのため、細かい構造を見分けるには、非常に高い解像度が必要になります。

EHTでは、世界各地にある複数の電波望遠鏡を連携させ、同じ天体から届く電波を同時に記録しました。そのデータを後から組み合わせることで、地球ほどの大きさの望遠鏡で観測したような画像を作り出します。

この方法は、超長基線干渉法と呼ばれます。ひとつの巨大な望遠鏡を実際に作るのではなく、離れた場所にある望遠鏡を組み合わせて、大きな望遠鏡のように働かせる技術です。

「撮影」といっても普通の写真とは違う

ブラックホール画像を見ると、オレンジ色の輪のような姿が印象に残ります。

ただし、これはスマートフォンやカメラで撮る写真とは違います。EHTが観測しているのは、目に見える光ではなく、主にミリ波と呼ばれる電波の領域です。EHTのM87*観測は、1.3ミリメートルの波長で行われたとされています。

電波望遠鏡で得た膨大なデータを解析し、人間が見える画像に変換することで、あの姿が作られています。つまり、ブラックホールを「撮影している」といっても、可視光で直接撮っているわけではありません。

現在の観測でも、事象の地平面の内側やブラックホール内部を直接撮影しているわけではありません。けれど、周囲のガスが出す電波、ブラックホールの影、偏光の情報などから、質量や周囲のガスの動き、磁場の構造を調べることはできます。

近年は、明るい輪の画像だけでなく、偏光と呼ばれる光の向きに関する情報も使われています。2024年には、EHTがいて座Aスター周辺の偏光画像を発表し、天の川銀河中心の巨大ブラックホールの近くに強く組織だった磁場構造があることを示しました。


なぜ輪のように見えるのか

ブラックホールの画像が輪のように見えるのは、周囲にある高温のガスが関係しています。

ブラックホールのまわりには、落ち込む前のガスやプラズマが集まることがあります。これらは強い重力の影響を受けながら高速で動き、高温になって光や電波を出します。

明るい輪は周囲の高温ガス

画像で明るく見える輪の部分は、ブラックホールの周囲で高温になったガスから届く電波に由来します。

このガスの光は、ブラックホールの強い重力によって曲げられます。そのため、単純な円盤ではなく、輪のような構造として見えるのです。

また、輪の片側が明るく見えることがあります。これは、ガスの動きや相対論的な効果によって、こちらへ向かってくる側の光が強く見えるためです。

暗い中心はブラックホールの影

中央の暗い部分は、よく「ブラックホールの影」と呼ばれます。

そこは、ブラックホールそのものの表面を見ているわけではありません。光がブラックホールに取り込まれたり、強い重力で進路を曲げられたりするため、周囲より暗く見える領域です。

「ブラックホールを撮った」という言葉はわかりやすい表現ですが、正確には、ブラックホールの周囲の明るいガスと、重力が作る影を画像化したものと考えるほうが実際の観測に近い説明になります。


M87*といて座Aスターはどちらも巨大ブラックホール

最初に画像が公開されたM87*は、地球から約5500万光年離れた銀河M87の中心にある巨大ブラックホールです。太陽の約65億倍もの質量を持つとされ、代表的な超巨大ブラックホールの一つです。

一方、2022年に画像が発表された「いて座Aスター(Sgr A*)」は、私たちの天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールです。地球からはM87よりずっと近い場所にありますが、質量はM87よりかなり小さく、周囲のガスの動きも短い時間で変化します。

そのため、M87*は変化が比較的ゆっくり見えるため画像としてまとめやすく、いて座Aスターは近いにもかかわらず画像化が難しい対象でした。

この2つの画像が発表されたことで、遠い銀河の巨大ブラックホールだけでなく、私たちの銀河の中心にある巨大ブラックホールについても、画像や観測データを通じて調べられるようになりました。


ブラックホール画像が画期的だった理由

ブラックホール画像の意義は、単に「見えないはずのものを見た」ことだけではありません。

大きな意味は、重力が極限まで強い場所で、理論が予測してきた姿に近いものが観測されたことです。ブラックホールの影や周囲の明るい輪は、アインシュタインの一般相対性理論とも深く関係しています。EHTのM87*研究でも、ブラックホールの影は重力による光の曲がりや光子の捕獲によって生じるものとして扱われています。

また、世界中の望遠鏡と研究者が協力し、膨大な観測データを組み合わせて画像を作った点も重要です。単独の望遠鏡ではなく、地球規模の観測ネットワークによって、宇宙の非常に小さく遠い対象を見ようとした成果でした。

ブラックホール画像は、宇宙の写真であると同時に、人間がどれほど遠く小さなものを観測できるようになったかを示す象徴的な成果でもあります。


Q&A(よくある疑問)

ブラックホールは本当に撮影されたのですか?

はい。2019年に、銀河M87の中心にある巨大ブラックホールM87*の画像が初めて公開されました。ただし、普通の写真のようにブラックホール本体を可視光で撮ったわけではありません。周囲の高温ガスが出す電波と、中央の影のような構造を画像化したものです。

ブラックホールそのものは見えているのですか?

ブラックホールそのものは光を出さず、事象の地平面の内側から光も戻ってこないため、直接見えているわけではありません。見えているのは、周囲で光るガスや、強い重力によって暗く見える影です。ただし、影の大きさや偏光などの情報から、質量や周囲の磁場構造を調べることはできます。

なぜ世界中の望遠鏡を使う必要があったのですか?

ブラックホールは地球から見ると非常に小さく見えるため、細かい構造を分けて見るには高い解像度が必要です。そこで、世界各地の電波望遠鏡を連携させ、地球サイズの望遠鏡のように使うEHTの方法が使われました。

いて座Aスターとは何ですか?

いて座Aスター(Sgr A*)は、私たちの天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールです。2022年にEHTによって画像が発表されました。M87*より地球に近いものの、周囲のガスの動きが速く、画像化には別の難しさがありました。

ブラックホールはどうやって生まれるのですか?

よく知られているのは、非常に重い星の一生の終わりに中心部が崩壊して生まれる場合です。外側の物質が超新星爆発で吹き飛び、中心に残った高密度の天体がブラックホールになることがあります。銀河中心の巨大ブラックホールの成長には、まだ未解明な点もあります。


まとめ

ブラックホールは、非常に大きな質量が小さな領域に集中し、光さえ逃げられないほど強い重力を持つ天体です。その境界は事象の地平面と呼ばれ、内側から出た光は外へ届きません。

ブラックホールは、非常に重い星の終わりに中心部が崩壊して生まれる場合があります。また、銀河中心にある巨大ブラックホールは、物質を取り込んだり合体したりしながら成長してきたと考えられています。

人類がブラックホールの姿を画像として初めて発表したのは、2019年4月10日です。対象は、銀河M87の中心にある巨大ブラックホールM87でした。その後、2022年には天の川銀河中心の巨大ブラックホール、いて座Aスター(Sgr A)の画像も発表されました。

見えているのはブラックホール本体や内部ではなく、周囲の高温ガスが作る明るい輪と、中央の暗い影です。近年は偏光の情報から、周囲の磁場構造なども調べられるようになっています。光さえ逃げられない天体を「撮影している」というのは、直接写すことではなく、その周囲に残された光や電波の痕跡を読み取ることなのです。


参考情報

  • NASA Science「Black Holes」
  • NASA Science「Black Hole Anatomy」
  • NASA「What Are Black Holes?」
  • Event Horizon Telescope「Astronomers Capture First Image of a Black Hole」
  • NASA Science「First Image of a Black Hole」
  • NASA/JPL「How Scientists Captured the First Image of a Black Hole」
  • Event Horizon Telescope「Astronomers Reveal First Image of the Black Hole at the Heart of Our Galaxy」
  • Event Horizon Telescope「Astronomers Unveil Strong Magnetic Fields Spiraling at the Edge of Milky Way’s Central Black Hole」
  • The Astrophysical Journal Letters「First M87 Event Horizon Telescope Results. I. The Shadow of the Supermassive Black Hole」
  • The Astrophysical Journal Letters「First Sagittarius A* Event Horizon Telescope Results. I. The Shadow of the Supermassive Black Hole in the Center of the Milky Way」

この記事を書いた人

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