宇宙速度とは、人工衛星や探査機が地球のまわりを回ったり、地球や太陽の重力を振り切ったりするために必要な速度の目安です。
名前だけ見ると「宇宙へ行くための速さ」のように感じますが、単に高い場所へ届くための速度ではありません。大切なのは、地球に落ちずに回り続けるのか、地球から離れていくのか、さらに太陽の重力も振り切るのかという違いです。
代表的なものに、第一宇宙速度、第二宇宙速度、第三宇宙速度があります。それぞれ、人工衛星になる速さ、地球から脱出する速さ、太陽の重力を振り切る速さとして説明されます。数値だけでなく、どの重力からどこまで抜け出す速さなのかを知ると、宇宙速度の違いがかなり見えてきます。
宇宙速度とは何か
宇宙速度とは、人工天体を一定の条件で飛ばしたとき、軌道や脱出の状態を分ける速度のことです。天文学辞典では、第一宇宙速度を約7.9km/s、第二宇宙速度を約11.2km/s、第三宇宙速度を約16.7km/sと説明しています。またJAXAの資料でも、第1宇宙速度7.9km/s、第2宇宙速度11.2km/s、第3宇宙速度16.7km/sという並びが示されています。
ここで注意したいのは、宇宙速度が「宇宙空間に届くためだけの速さ」ではないことです。上に向かって高く飛ぶだけなら、いずれ落ちてくる軌道になることがあります。人工衛星のように地球のまわりを回り続けるには、上方向だけでなく、地球の丸みに沿って横へ進む速さが必要です。
よく使われるたとえに、「ものすごく速く投げたボール」があります。普通に投げたボールは地面へ落ちます。もっと速く投げると遠くへ飛びます。さらに速くなると、落ちながらも地球の丸みに沿って進み続け、地面にぶつからず地球を回るような軌道になります。このときの目安が第一宇宙速度です。
宇宙速度は、ただ高く上がるための数字ではなく、重力と速度の関係で決まる「軌道の変わり目」を示す数字です。
第一宇宙速度は人工衛星になるための速さ
第一宇宙速度は、地球の表面近くを円軌道で回り続けるために必要な速度です。JAXAの教材では、人工衛星が地球のまわりを円軌道で回るには地球の重力と遠心力が釣り合う必要があり、第一宇宙速度はおよそ秒速7.9kmと説明されています。
数値の目安は、地表近くで約7.9km/sです。時速に直すと約2万8400km/hほどになります。これは非常に速いですが、この速度は「地球から逃げる速さ」ではありません。地球に引っ張られながら、落ち続けるように回る速さです。
人工衛星が地球のまわりを回るのは、重力がなくなっているからではありません。むしろ重力に引かれ続けています。落ちているのに地面にぶつからないほど横向きの速度があるため、地球のまわりを回り続けます。
ここが、宇宙速度の中でも特に誤解されやすい点です。第一宇宙速度は「宇宙へ飛び出す速度」ではなく、「地球に落ちずに地球の周囲を回る速度」です。
ただし、実際の人工衛星は地表すれすれを飛ぶわけではありません。空気抵抗があるため、地球の大気がほとんどない高度まで上がってから軌道に入ります。第一宇宙速度の約7.9km/sは、理想化した条件での目安です。
第二宇宙速度は地球から脱出するための速さ
第二宇宙速度は、地球の重力を振り切って離れていくための速度です。地球からの脱出速度とも呼ばれ、天文学辞典では第一宇宙速度の√2倍で約11.2km/sと説明されています。JAXAの資料でも、第2宇宙速度は秒速11.2kmとして示されています。
第一宇宙速度が「地球のまわりを回る速さ」なら、第二宇宙速度は「地球へ戻らない軌道へ移る速さ」です。第一宇宙速度より少し速いだけに見えますが、意味は大きく違います。
速度が第一宇宙速度を超えると、軌道は円ではなく楕円に近づきます。さらに速くなると、地球から遠く離れる軌道になります。そして第二宇宙速度に達すると、理想的には地球の重力に引き戻されず、遠くへ向かう軌道になります。
ただし、これも空気抵抗や地球の自転、大気圏内での損失などを無視した理論上の目安です。実際のロケットは地上で一瞬にして秒速11.2kmになるわけではなく、エンジンで加速しながら高度と速度を得ていきます。
第二宇宙速度は、「この速さで一気に飛び出さないと宇宙へ行けない」という意味ではなく、地球の重力から完全に離れるためのエネルギーの目安として見ると理解しやすくなります。
第三宇宙速度は太陽の重力を振り切る速さ
第三宇宙速度は、地球表面から出発して、太陽の重力も振り切るために必要な速度です。天文学辞典では、地球表面から出発して太陽の重力を振り切るために必要な速度として、約16.7km/sと説明されています。JAXAの月・惑星探査資料でも、第1宇宙速度は秒速7.9km、第2宇宙速度は秒速11.2km、第3宇宙速度は秒速16.7kmという並びで示されています。
地球は太陽のまわりを秒速約30kmで公転しています。これだけ聞くと、地球は太陽から離れていってしまわないのかと感じるかもしれません。ESAの地球データでは、地球の平均公転速度は29.78km/sと示されています。
けれど、地球の速度は太陽からまっすぐ逃げる向きではなく、太陽のまわりを回る向きに使われています。地球は太陽の重力に引かれながら横向きに進んでいるため、太陽へ落ち込まず、太陽から逃げ出すこともなく公転を続けています。
太陽系の惑星や多くの小天体も、同じように太陽の重力に引かれながら、それぞれの速度と向きによって軌道を保っています。もし速度の大きさや向きが大きく変われば、現在のような軌道ではなくなり、より細長い楕円軌道になったり、太陽に近づきやすくなったり、反対に遠くへ離れやすくなったりします。
さらに、太陽の重力を振り切るだけのエネルギーを持てば、太陽のまわりを閉じた軌道で回り続けるのではなく、外へ向かう軌道に入ることもあります。実際に、ボイジャー1号やボイジャー2号のように、太陽圏の外へ進んだ探査機もあります。NASAは、ボイジャー2号が2018年に太陽圏を出て恒星間空間へ到達したと発表しています。ここでいう太陽圏の外とは、太陽が作る粒子や磁場の泡の外側という意味で、太陽の重力が完全になくなるという意味ではありません。
第三宇宙速度は、地球表面から出発する探査機が、地球の重力を抜け、さらに太陽の重力にも捕まらない軌道へ入るための理論的な目安です。単純に「太陽の近くから逃げる速さ」という意味ではありません。
実際の宇宙探査では、ロケットの加速だけでなく、惑星の重力を利用するスイングバイなども使われます。宇宙速度は基本の目安ですが、実際のミッションでは軌道設計や燃料、打ち上げ方向、惑星の位置関係などが大きく関わります。
第一・第二・第三宇宙速度の違いを表で見る
第一宇宙速度、第二宇宙速度、第三宇宙速度は、数字だけでなく「何から離れるのか」「どんな軌道になるのか」が違います。
| 種類 | 速度の目安 | 意味 | イメージ |
|---|---|---|---|
| 第一宇宙速度 | 約7.9km/s | 地球表面近くで円軌道を回る速度 | 人工衛星になる |
| 第二宇宙速度 | 約11.2km/s | 地球の重力を振り切る速度 | 地球から脱出する |
| 第三宇宙速度 | 約16.7km/s | 太陽の重力を振り切る速度 | 太陽を回る軌道から離れる |
この表を見ると、第一宇宙速度は「地球のそばに留まる速さ」、第二宇宙速度は「地球から離れる速さ」、第三宇宙速度は「太陽の重力からも離れる速さ」と考えられます。
ただし、どれも理想化された条件での目安です。空気抵抗、地球の自転、打ち上げ高度、ロケットの加速方法などを考えると、実際の宇宙飛行では単純にこの数字だけで決まるわけではありません。
宇宙速度は「上に飛ぶ速さ」ではなく「軌道を変える速さ」
宇宙速度という名前から、上に向かってものすごい速さで飛ぶイメージを持つかもしれません。けれど、人工衛星や探査機にとって重要なのは、上方向の速度だけではありません。
地球のまわりを回るには、横向きの速度が必要です。地球に引っ張られて落ちながらも、同時に横へ進むことで、地面にぶつからず地球の周囲を回ります。
第一宇宙速度は、この横向きの速度の代表的な目安です。第二宇宙速度は、地球の重力に引き戻されないだけのエネルギーを持つ速度です。第三宇宙速度は、さらに太陽の重力を振り切る段階です。
宇宙速度は「高く飛ぶ速さ」というより、「どの重力に捕まるか、どこまで抜け出せるか」を分ける速さです。
この視点で見ると、宇宙速度の数字はただの暗記ではなく、軌道の違いを表す目印になります。
ロケットは宇宙速度で一瞬に飛び出すわけではない
宇宙速度の話を聞くと、「ロケットは地上でいきなり秒速7.9kmや11.2kmになるのか」と思うかもしれません。
実際には、ロケットはエンジンを燃焼させながら加速していきます。空気抵抗の大きい地上付近でいきなり極端な速度を出すのではなく、高度を上げながら、必要な向きと速度を得ていきます。
また、人工衛星を軌道へ入れるには、単に速ければよいわけではありません。速度の大きさだけでなく、向きも大切です。地球を回るには横向きの速度が必要ですし、月や惑星へ向かうには、目的地との位置関係やタイミングも重要になります。
JAXAの月・惑星探査資料でも、月へ向かうには人工衛星の軌道と月の軌道のタイミングを計って正確に打ち上げる必要があると説明されています。速度だけでなく、軌道とタイミングが重要だということです。
宇宙速度は、ロケットの実際の飛び方をそのまま表す数字ではありません。重力と軌道の関係を理解するための基準になる数字です。
第三宇宙速度より上の速度はあるのか
第三宇宙速度のさらに先には、銀河系の重力を振り切る速度という考え方もあります。第一・第二・第三宇宙速度ほど一般的な分類ではありませんが、太陽系よりもさらに大きな重力のまとまりから抜け出す速度を考えることはできます。
銀河系から脱出する速度は、どこを基準にするか、銀河全体の質量をどう見積もるかによって変わります。そのため、ひとつの決まった数字として覚えるより、「太陽系の外のさらに大きな重力圏から抜け出す考え方もある」と受け止めるとよいでしょう。
実際、太陽の近くで銀河系から脱出する速度は、研究によって数百km/s規模と見積もられています。Gaia DR2のデータを用いた研究では、太陽近傍の銀河系脱出速度を580±63km/sと推定しています。また、別の研究では、モデルによって約485km/s前後の値も示されており、銀河系の脱出速度は測定方法や前提によって幅があります。
これは、第三宇宙速度の約16.7km/sとは桁が違います。太陽の重力を振り切ることと、銀河系全体の重力から抜けることは、かなり規模の違う話なのです。
人類が達成している速度はどのくらいか
宇宙速度を知ると、「実際の探査機はどれくらい速く飛んでいるのか」も気になります。
人類が作った探査機の速度として特に有名なのが、NASAのパーカー・ソーラー・プローブです。NASAによると、同探査機は2024年12月24日の太陽最接近時、時速43万マイル、つまり約69万km/hで飛行しました。これは秒速にすると約192km/sです。
この速度だけを見ると、第三宇宙速度の約16.7km/sを大きく超えています。ただし、これは地球から打ち上げた瞬間の速度ではありません。パーカー・ソーラー・プローブは太陽に近づく軌道で、太陽の強い重力によって加速されるため、非常に大きな速度になります。
また、この速度は非常に大きいものの、研究で推定されている太陽近傍の銀河系脱出速度には届きません。第三宇宙速度を超えているからといって、銀河系全体の重力を振り切る速度という意味にはならない点にも注意が必要です。
宇宙速度は「地球表面から出発する理論上の目安」であり、探査機が太陽や惑星の重力を利用して軌道上で達成する速度とは、基準が違います。どの天体を基準にしているのか、どの向きへ進んでいるのか、どの重力を利用しているのかによって、速度の見方は変わります。
Q&A(よくある疑問)
まとめ
宇宙速度とは、人工衛星や探査機がどのような軌道へ進むかを分ける速度の目安です。第一宇宙速度は地球の周りを回るための速度で約7.9km/s、第二宇宙速度は地球の重力を振り切る速度で約11.2km/s、第三宇宙速度は太陽の重力を振り切る速度で約16.7km/sです。
第一宇宙速度は人工衛星になる速さ、第二宇宙速度は地球から脱出する速さ、第三宇宙速度は太陽の重力から離れる速さとして考えると分かりやすくなります。
ただし、これらは理想的な条件での目安です。実際のロケットや探査機は、空気抵抗や地球の自転、打ち上げ方向、軌道のタイミングなどを考えながら飛びます。
また、人類が作った探査機の中には、太陽の重力を利用して秒速約190kmを超える速度に達するものもあります。宇宙速度は単なる最高速度のランキングではなく、重力と軌道の関係を表す数字なのです。
参考情報
- 天文学辞典「宇宙速度」
- JAXA「人工衛星は、どうして落ちてこないのだろう?」
- JAXA「月・惑星探査」
- JAXA 宇宙教育センター「ロケットゼミナール 事前学習1」
- ESA Science & Technology「Earth」
- NASA「NASA’s Voyager 2 Probe Enters Interstellar Space」
- NASA Science「NASA’s Parker Solar Probe Makes History With Closest Pass to Sun」
- Monari et al.「The escape speed curve of the Galaxy obtained from Gaia DR2 implies a heavy Milky Way」Astronomy & Astrophysics
