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犬は人間の感情がわかる?研究で見えてきた反応のしくみ

犬と暮らしていると、「うれしい日は一緒にそわそわする」「落ち込んでいる日は、いつもより様子をうかがってくる」と感じることがあります。こうした感覚は、気のせいだけではなさそうです。研究では、犬が人の表情や声の調子を手がかりにし、その情報を行動の選択にも生かしている可能性が示されています。いっぽうで、人間のように相手の心の中まで理解しているとまでは、まだ慎重に考える必要があります。


目次

まず分かっているのは、感情の手がかりに反応していること

2015年の研究では、犬は人の怒った顔と笑顔を区別できることが示されました。しかも、訓練で見せていない顔や、顔の別の部分でも見分けられていたため、単なる模様当てではなく、感情表情そのものを手がかりにしている可能性が高いと解釈されています。少なくとも、顔つきの違いに応じて反応を変えていることは、かなり確かめられていると言えそうです。

この結果だけでも、犬が人の表情をただ眺めているのではなく、そこに含まれる違いをある程度拾っていることがうかがえます。日常で、飼い主の顔色や雰囲気が変わると犬の動きも変わるように見えるのは、研究結果とそれほど離れていません。もちろん、人間と同じ意味で「表情の意味を言葉で理解している」とは言えませんが、少なくとも表情の違いを行動に結びつける力はありそうです。


顔だけでなく、声の調子とも結びつけている可能性がある

2016年の研究では、犬は顔と声に含まれる感情の向きを結びつけている可能性が示されました。実験では、喜びと怒りに対応する顔と声を組み合わせると、犬は声の感情と合った顔をより長く見る傾向を示しました。研究チームは、犬が人間と犬の両方について、ポジティブかネガティブかという感情価を、視覚と聴覚の情報から統合している可能性を示しています。

つまり犬は、顔だけを見て判断しているわけではなさそうです。声の高さ、勢い、やわらかさのような情報も合わせて、「いま相手がどんな状態か」を読んでいる可能性があります。表情よりも先に声色に反応する犬がいるのも、不思議ではありません。顔と声が一致しているかどうかをある程度つかめるなら、人とのやり取りの中で受け取っている情報はかなり豊富だと考えられます。


見分けるだけでなく、その後の行動にも生かしているらしい

この話がさらに興味深いのは、犬が感情表現を見分けるだけでなく、その情報を次の行動の判断にも使っている可能性がある点です。2022年の研究では、犬は見知らぬ人同士のやり取りを見たあと、その場の感情表現を手がかりに行動を選んでいました。研究チームは、犬が人の感情表現から得た情報を、あとから機能的に利用している可能性を示しています。

2023年のレビューでも、犬は人の顔や体の向き、姿勢などから感情情報を受け取り、それを問題解決や対人場面で機能的に使える可能性があると整理されています。ここまで来ると、犬は人の感情をただ眺めているというより、社会的な手がかりとして利用していると考えるほうが自然です。飼い主だけでなく、見知らぬ人同士の感情的なやり取りからも情報を拾っている可能性がある点は、かなり興味深いところです。


顔や声だけではなく、匂いと関係の深さも関わっていそう

犬が読んでいるのは、顔や声だけではありません。2018年の研究では、人間の恐怖と幸福の体臭サンプルに対して、犬の行動や心拍に違いが出ました。研究者は、人から犬への感情情報の伝達に、体臭由来の手がかりが関わる可能性を報告しています。犬が匂いの動物であることを考えると、これはかなり納得しやすい結果です。

また2019年の研究では、飼い主にストレスがかかる場面で、犬と飼い主の心拍変動の関連が見られ、その傾向は一緒に暮らした期間が長いほど強まりました。さらに2024年の研究では、犬と飼い主のあいだで、心拍変動や活動量の共調整が見られることも報告されています。ここから見えてくるのは、犬が人の感情を一つのサインだけで読んでいるのではなく、表情、声、匂い、動き方、そして関係の深さをまとめて受け取っているらしい、ということです。

こうして見ると、飼い主には特によく反応するのに、知らない人の感情の変化にもある程度は反応する、という違いも説明しやすくなります。長く暮らすほど相手の変化に敏感になりやすい一方で、犬そのものがもともと人間の感情的な手がかりを拾いやすい動物だと考えると、研究全体の流れともよく合います。


ただし、人間のように「気持ちを理解している」とはまだ言い切れない

ここは少し大事なところです。研究が示しているのは、犬が人の感情に反応できることや、感情情報を使えることです。しかし、それがそのまま「人間と同じように相手の内面まで理解している」ことを意味するわけではありません。2024年の研究では、飼い主が本当に悲しい・うれしい状態にあるとき、犬の行動が変わることが示されましたが、著者らは同時に、そこからすぐに共感まで言えるわけではないと慎重に論じています。

実際、その研究では、飼い主が悲しいときに犬は行動を変えたものの、必ずしも慰めるような反応を一貫して示したわけではありませんでした。うれしいときには課題成績が上がり、悲しいときには視線や命令への反応が変わるなど、犬は相手の状態に応じて行動を変えていると考えられます。ただ、それをそのまま「人間のように相手の気持ちを理解している」と広げるのは、まだ早いということです。


では、どこまで分かっていると考えるのが自然か

いまの研究を踏まえると、いちばん自然な言い方はこうです。犬は、人間の感情を人間のように言語で理解しているとは言えない一方で、人間の感情表現をかなり敏感に拾い、行動に反映している可能性が高い、ということです。少なくとも、顔、声、匂い、関係性の文脈を使って「この人はいまいつもと違う」「近づくべきか、少し様子を見るべきか」といった判断につながる手がかりを、かなり受け取っている可能性があります。

だから、「犬は人間の感情がわかるのか」という問いには、かなり読んでいるが、人間と同じ意味で理解しているとまではまだ言い切れない、という答えがいちばん研究に沿っています。少し控えめに聞こえるかもしれませんが、言葉を使わずにここまで多くの手がかりを拾っているのだと考えると、それだけでも十分に興味深い能力です。


まとめ

犬は人間の感情を、少なくとも表情、声、匂い、行動の変化といった手がかりからかなり読み取っている可能性があります。研究では、人の感情表情を見分けたり、顔と声の感情を結びつけたり、その情報をその後の行動判断に使ったりする結果が報告されています。

いっぽうで、人間のように相手の内面を完全に理解しているとまで言い切るのは、まだ慎重であるべきです。いま言えるのは、犬は人の感情にかなり敏感で、そのサインを社会的な手がかりとして使っているらしい、ということです。研究はその境目を少しずつ確かめている段階にあり、そこがこのテーマの興味深さでもあります。


参考情報

  • PubMed「Dogs can discriminate emotional expressions of human faces」
  • PubMed「Dogs recognize dog and human emotions」
  • PMC「Dogs can infer implicit information from human emotional expressions」
  • PubMed「Interspecies transmission of emotional information via chemosignals: from humans to dogs (Canis lupus familiaris)」

この記事を書いた人

気になったテーマを中心に、公開情報や資料を読みながら記事をまとめています。背景や違いが見えにくい話題も、公式サイトや公開資料を確認しつつ、できるだけわかりやすく整理してお届けしています。

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