頭の両側を短くしたり剃ったりして、中央の髪を長く残す「モヒカン」。現在では髪型の名前として知られていますが、もともと「モヒカン」という言葉が髪型を指していたわけではありません。
名前のもとになったのは、北米先住民のMohican(モヒカン)という名称です。ただし、現在のモヒカン刈りが、その人々の伝統的な髪型をそのまま受け継いだものとは言い切れません。英語辞書には、髪型名のMohicanがアメリカ先住民と誤って関連付けられて生まれたとする説明もあります。
さらに、アメリカ英語では同じような髪型を主にMohawk(モホーク)と呼びます。しかもMohicanとMohawkは、本来別の人々を指す名称です。
モヒカンはもともと髪型の名前ではない
日本語の「モヒカン刈り」は、英語のMohicanという名称に由来します。
『精選版 日本国語大辞典』では「モヒカン刈り」をMohicanの名に由来する語として掲載し、頭の前から後ろへ細長く髪を残し、それ以外を剃る髪型と説明しています。
Mohicanの人々につながる共同体は現在も存在します。米国ウィスコンシン州にはStockbridge-Munsee Community(ストックブリッジ・マンシー・コミュニティ)があり、現在も連邦政府から認められた部族共同体として存続しています。
つまり「モヒカン」は、最初からトサカ状の髪型を表すために作られた言葉ではありません。もともと人々を指していた名称が、後に髪型名として使われるようになりました。
なぜ民族名が髪型の名前になった?
髪型名の由来については、資料によって説明の仕方に違いがあります。
日本の国語辞典では「モヒカンの髪型をまねたもの」と説明されています。一方、Oxford Advanced Learner’s Dictionary(オックスフォード現代英英辞典)では、髪型としてのMohicanについて、1960年代にアメリカ先住民と誤って関連付けられた名称としています。
そのため、
「Mohicanの人々が現在のモヒカン刈りと同じ髪型を伝統的にしていたため、そのまま髪型名になった」
と考えるのは正確ではありません。
Mohicanという北米先住民に関係する名称が特定の髪型と結び付き、1960年代には髪型を表す言葉として使われるようになりました。現在の髪型名だけをもとに、Mohicanの人々が同じ髪型を伝統的にしていたと考えることはできません。
「民族名が髪型名になった」という部分は確かでも、その背景は「伝統的な髪型をそのまま受け継いだ」という単純なものではないのです。
アメリカでは「モヒカン」より「モホーク」
英語圏でも、この髪型の呼び方は同じではありません。
Cambridge Dictionary(ケンブリッジ英英辞典)では、両側の髪を短くしたり剃ったりして中央の髪を残すスタイルについて、アメリカ英語ではMohawk、イギリス英語ではMohicanとしています。
そのため、日本でいう「モヒカン」をアメリカで表現するなら、Mohawk hairstyle(モホーク・ヘアスタイル)という言い方が一般的です。
MohicanとMohawkは、同じ民族名の地域による言い換えではありません。
モヒカンとモホークは別の人々
MohicanとMohawkは、名前こそ似ていますが本来別の人々を指します。
モヒカンの人々につながる共同体としてStockbridge-Munsee Communityがある一方、モホークはハウデノショーニー(イロコイ連邦)を構成する人々の一つです。
つまり、髪型としてはイギリス英語のMohicanとアメリカ英語のMohawkがよく似たスタイルを指していても、民族名としてのMohicanとMohawkまで同じというわけではありません。
この違いがあるため、「モヒカン」と「モホーク」は単なる発音の違いだと考えると混乱しやすくなります。髪型の名称では地域差があり、人々の名称としては別だと分けて考えると分かりやすくなります。
日本では1960年代に「モヒカン刈り」の用例がある
モヒカンにはパンクファッションの印象もありますが、日本語の「モヒカン刈り」はパンクが広く知られる以前から使われていました。
『精選版 日本国語大辞典』が「モヒカン刈り」の初出例として挙げているのは、1965年の倉橋由美子『聖少女』です。少なくとも1960年代半ばには、日本語で髪型を表す言葉として「モヒカン刈り」が使われていたことになります。
ただし、これは1965年にこの言葉が初めて作られたという意味ではありません。辞書が採録している最古の用例が1965年ということです。それ以前にまったく使われていなかったとまでは断定できません。
それでも、モヒカンという髪型名が1970年代後半以降のパンク文化だけから日本に広まった言葉ではないことは分かります。
なぜ現在はパンクの髪型という印象がある?
現在のMohawk/Mohicanは、パンクファッションでよく見られる髪型としても知られています。
両側を大胆に短くし、中央だけを長く残して立たせるスタイルは視覚的な特徴が大きく、パンクの服装やメイクと組み合わされた姿も広く知られるようになりました。
ただし、日本では1965年にすでに「モヒカン刈り」という用例があります。そのため、パンク文化が日本語の「モヒカン」という髪型名そのものを作ったわけではありません。
「モヒカン刈り」という名称はパンク以前から使われており、現在ではパンクファッションとも結び付いた髪型として知られていると考えると、時系列も分かりやすくなります。
Q&A
まとめ
「モヒカン」は、もともと髪型を表すために生まれた言葉ではなく、北米先住民のMohicanという名称に由来します。
ただし、現在のモヒカン刈りをMohicanの人々の伝統的な髪型がそのまま残ったものとみなすのは正確ではありません。民族名と髪型が後に結び付けられ、髪型を表す名称として定着しました。
さらに、アメリカでは同じような髪型をMohawk、イギリスではMohicanと呼びますが、MohicanとMohawkは本来別の人々です。日本では少なくとも1965年には「モヒカン刈り」の用例があり、現在ではパンクファッションとも結び付いた髪型として知られています。
参考情報
- 小学館『精選版 日本国語大辞典』「モヒカン刈り」項(コトバンク掲載)
- Oxford University Press, Oxford Advanced Learner’s Dictionary, “Mohican”
- Cambridge University Press & Assessment, Cambridge Dictionary, “Mohawk” / “Mohican”
- Stockbridge-Munsee Community, Constitution and By-Laws of the Stockbridge-Munsee Community
- Saint Regis Mohawk Tribe, Cultural Preservation
