「法の日」という名前から、何か重要な法律が10月1日に制定された記念日だと思うかもしれません。実際には、この日付のルーツは戦前の陪審制度と「司法記念日」にあります。
1928年10月1日に陪審法が施行され、翌1929年から10月1日が司法記念日となりました。その歴史を受け、1959年に「法の日」の制定が提唱され、1960年の閣議了解によって10月1日が「法の日」と定められました。
さらに1947年10月1日は、最高裁判所が発足してから初めて法廷が開かれた日でもあります。
現在は10月1日から7日までが「法の日週間」とされ、法や裁判の役割について知るための行事も全国各地で行われています。
なぜ法の日が10月1日なのか。その背景をたどると、日本でかつて行われていた陪審裁判から現在の司法制度へと続く歴史が見えてきます。
法の日とは?法の役割を考える10月1日の記念日
「法の日」は、法の役割や重要性について考えるきっかけとして設けられた日です。
1960年6月24日の閣議了解によって、10月1日が「法の日」と定められました。
法を尊重し、法によって国民の基本的人権を守り、社会秩序を確立する精神を高めることなどが、その趣旨とされています。
ただし、法の日は国民の祝日ではありません。
「法の日」は祝日法で定められた国民の祝日には含まれていないため、10月1日が法の日だからといって、学校や会社が休日になるわけではありません。
法律によって休日として設けられた日ではなく、政府の閣議了解によって定められた記念日である点も、国民の祝日との大きな違いです。
また、5月3日の「憲法記念日」とも別の日です。
憲法記念日は日本国憲法の施行を記念する国民の祝日ですが、法の日は特定の一つの法律だけを記念する日ではありません。
では、なぜ日付が10月1日なのでしょうか。その背景をたどると、現在では行われていない戦前の陪審制度へつながります。
法の日が10月1日なのは1928年の陪審法施行がきっかけ
1928年10月1日、日本で「陪審法」が施行されました。
陪審法そのものは1923年(大正12年)に制定されており、その後の準備期間を経て、1928年から制度が実施されています。
この陪審法の施行を受け、翌1929年から10月1日が「司法記念日」と定められました。
現在の法の日が10月1日である直接の由来は、この司法記念日にあります。
つまり、「10月1日に法の日に関係する法律が制定されたから」ではありません。
10月1日に戦前の陪審制度が始まり、それを記念して司法記念日が設けられたことが、現在の日付の出発点なのです。
戦前の日本にも陪審制度があった
陪審制度というと、海外の映画やドラマに登場する裁判を思い浮かべるかもしれません。しかし、日本でも戦前に陪審裁判が行われていました。
ただし、現在の裁判員制度とは仕組みが大きく異なります。
当時の陪審員になれる人には、年齢や性別、居住期間、納税額などについて条件が設けられていました。
具体的には、帝国臣民である30歳以上の男子であること、引き続き2年以上同じ市町村に住んでいること、引き続き2年以上一定額以上の直接国税を納めていること、読み書きができることなどが条件でした。
施行前の調査では、全国の陪審員資格者は178万1232人だったとされています。
現在の日本では、一定の条件を満たす幅広い国民が裁判員候補者となります。一方、戦前の陪審制度では性別や納税などによる条件があり、市民参加といっても対象はかなり限定されていました。
裁判では、弁護や証拠調べなどが終わると、裁判長が陪審員に法律上の論点や問題となる事実、証拠について説明しました。
その後、陪審員が評議を行い、犯罪を構成する事実があったかどうかについて裁判所へ答申します。
ここも、現在の裁判員制度との違いを理解するうえで重要なポイントです。
戦前の陪審員は、現在の裁判員のように裁判官と一緒に有罪・無罪や刑の重さを決める仕組みではありませんでした。
さらに、陪審員による答申には裁判所を法的に拘束する力がありませんでした。
裁判所が陪審の答申を適当ではないと判断した場合には、その答申を採用せず、新たな陪審に改めて判断させる「陪審の更新」という仕組みもありました。
同じ「一般の市民が刑事裁判に関わる制度」でも、戦前の陪審制度と現在の裁判員制度では、参加方法や権限、裁判官との関係が異なっていたのです。
陪審裁判はなぜ少なくなった?
法務省によると、陪審事件の評議件数は合計484件でした。
制度開始直後の1929年には143件ありましたが、翌1930年には66件へ減少し、その後も利用件数は減っていきます。
なぜ陪審裁判はあまり利用されなくなったのでしょうか。
その理由についてはさまざまな見方がありますが、法務省は複数の背景を紹介しています。
一つは、裁判官・検事・弁護士といった当時の法曹関係者が、陪審裁判に必ずしも積極的ではなかったことです。通常の裁判より準備や手続きに手間がかかることなどから、陪審裁判が敬遠される場合があったとされています。
また、被告人の請求によって陪審裁判を行う場合、有罪になると陪審にかかった費用を被告人が負担することがありました。こうした制度上の事情も、利用をためらわせる要因の一つだったと考えられています。
さらに時代が進んで戦争が拡大すると、多くの人手や費用を必要とする陪審裁判そのものが行われにくくなりました。
そのため、「利用する人が少なかったから単純に不要になった」と考えるだけでは、制度の歴史を十分に説明できません。
当時の制度設計や法曹関係者の姿勢、社会情勢など、複数の事情が重なって利用件数が減少していったと見る必要があります。
戦前の陪審制度は1943年に停止された
戦前の陪審制度は、1943年4月1日に「陪審法ノ停止ニ関スル法律」によって停止されました。
ただし、この法律では陪審制度を永久に廃止するとされたわけではありません。
戦争終了後に再び施行する趣旨の規定も設けられており、法律上は「廃止」ではなく「停止」という形が取られていました。
それでも、戦後にこの陪審制度が再開されることはありませんでした。
その後、日本で国民が刑事裁判に参加する大きな制度として誕生したのが、2009年5月21日に始まった現在の裁判員制度です。
しかし、裁判員制度は戦前の陪審制度をそのまま復活させたものではありません。
戦前の制度では、陪審員が犯罪を構成する事実の有無について評議し、裁判所へ答申しました。
これに対して現在の裁判員制度では、裁判員と裁判官が一緒に刑事裁判の審理に参加し、有罪・無罪を判断します。さらに、有罪の場合には刑の重さについても裁判官と裁判員が一緒に判断します。
戦前と現在の制度には「国民が刑事裁判に参加する」という共通点がありますが、その仕組みは大きく異なります。
1947年の10月1日にも司法史上の出来事があった
10月1日には、もう一つ司法に関係する出来事があります。
1947年10月1日は、最高裁判所が発足してから初めて法廷が開かれた日です。
法務省も、法の日が10月1日である背景を紹介する際に、この出来事に触れています。
陪審法の施行日は1928年10月1日。そして戦後、新しい司法制度の中心となった最高裁判所で最初に法廷が開かれた日も、1947年10月1日でした。
日本の司法史上、異なる時代の重要な出来事が、同じ10月1日に重なっていることになります。
ただし、ここは混同しないよう注意が必要です。
現在の「法の日」が10月1日になった直接の流れは、1928年の陪審法施行を受けて、翌1929年に10月1日が司法記念日とされたことです。
最高裁判所の最初の法廷が10月1日に開かれたことだけを理由として、法の日の日付が決められたわけではありません。
「法の日」が定められたのは1960年
10月1日には司法記念日という歴史がありましたが、現在の「法の日」が定められたのは1960年です。
その前年の1959年10月、裁判所・検察庁・弁護士会による三者協議で、10月1日を「法の日」とすることが提唱されました。
提唱では、国民主権のもとで自由や正義を守ること、法によって社会秩序を築くことなどが掲げられています。
その後、政府は1960年6月24日の閣議了解によって、今後10月1日を「法の日」と定めました。
法を尊重し、基本的人権を守り、社会秩序を確立する精神を高める日として位置づけられたのです。
法律によって新しい祝日を作ったのではなく、司法記念日として続いてきた10月1日の歴史を引き継ぎながら、「法そのものについて国民が考える日」という現在の位置づけが作られました。
主な流れを並べると、次のようになります。
| 年 | 主な出来事 |
|---|---|
| 1923年 | 陪審法が制定される |
| 1928年 | 10月1日に陪審法が施行される |
| 1929年 | 10月1日が「司法記念日」となる |
| 1943年 | 戦前の陪審制度が停止される |
| 1947年 | 10月1日に最高裁判所で発足後初めて法廷が開かれる |
| 1959年 | 三者協議で「法の日」の制定を提唱 |
| 1960年 | 閣議了解によって10月1日を「法の日」と定める |
「法の日」という名称が生まれたのは1960年ですが、10月1日という日付の背景には1928年から続く司法の歴史があります。
時系列で見ると、法の日は1960年に突然作られた記念日ではありません。
戦前の陪審制度、司法記念日、戦後の新しい司法制度という歴史を経て、現在の法の日へとつながっていることが分かります。
憲法記念日と法の日は何が違う?
法に関係する記念日としてよく知られているのが、5月3日の「憲法記念日」です。
憲法記念日は、日本国憲法が1947年5月3日に施行されたことを記念する国民の祝日です。
これに対して、10月1日の法の日は国民の祝日ではありません。
二つを比べると違いが分かりやすくなります。
| 項目 | 法の日 | 憲法記念日 |
|---|---|---|
| 日付 | 10月1日 | 5月3日 |
| 国民の祝日 | いいえ | はい |
| 主な背景 | 陪審法施行と司法記念日 | 日本国憲法の施行 |
| 位置づけ | 法の役割や重要性を考える日 | 日本国憲法の施行を記念する祝日 |
| 関連する週間 | 法の日週間 | 憲法週間 |
憲法記念日を中心とする5月1日から7日までは「憲法週間」とされ、裁判所などで憲法の精神や司法への理解を深めるための行事が行われています。
一方、法の日は、ある特定の法律の制定や施行だけを記念する日ではありません。
私たちの生活を支える法や司法制度がどのような役割を果たしているのかを改めて考える日です。
名前から似た印象を受ける二つの記念日ですが、成立した背景も法的な位置づけも異なります。
「憲法記念日は祝日なのに、法の日は休みではない」という違いも、それぞれの成り立ちを知ると理解しやすいでしょう。
10月1日から7日は「法の日週間」
「法の日」そのものは10月1日ですが、10月1日から7日までは「法の日週間」とされています。
最高裁判所、法務省・最高検察庁、日本弁護士連合会などが関わり、法や裁判への理解を深めるためのさまざまな取り組みが全国各地で行われています。
普段、裁判所や法務省の施設へ入ったり、裁判官や法律の専門家から直接話を聞いたりする機会は、それほど多くありません。
法の日週間には、その年や地域によって法廷見学、模擬裁判、講演、法律相談、展示など、さまざまな企画が実施されます。
法律というと、難しい条文や専門用語をイメージする人も多いでしょう。
しかし実際には、買い物や契約、仕事、交通、家族、住まい、財産など、私たちの日常生活のさまざまな場面に法が関係しています。
法の日週間は、法律の専門家だけではなく一般の人にとっても、法と暮らしとのつながりを知る機会になっています。
2026年も最高裁判所や法務省で記念行事を予定
2026年度には、最高裁判所で10月3日(土)に小学生・中学生を対象とした「来て!見て!知って!最高裁見学会」が予定されています。
普段はなかなか入ることのできない大法廷の見学をはじめ、法服を着て裁判官席で記念撮影をしたり、裁判官に直接質問したり、裁判クイズに挑戦したりしながら、法や裁判について学べる内容です。
2026年9月11日時点では、午前と午後の2回開催が予定されており、各回70人の先着制となっています。申込期間は9月1日から9月30日までですが、定員に達した場合は期間内でも受付終了となります。
法務省でも同じ10月3日(土)に、東京・霞が関の法務省で「法の日フェスタin赤れんが2026」が予定されています。
法や司法を身近に感じられる複数の企画が用意されており、事前申込が必要なプログラムと、当日参加できるプログラムがあります。
2026年9月11日時点では、「模擬裁判―みんなが裁判員―」と「検察官による模擬取調べ実演」はすでに申込受付を終了しています。一方で、そのほかにも事前申込制の企画や自由参加できる企画が案内されています。
また、2026年は劇場版「虎に翼」と法務省のタイアップ企画も発表され、女性法曹の歴史に関する展示や特別企画などが予定されています。
イベントの内容や申込状況は変わる可能性があるため、参加を考えている場合は、最高裁判所や法務省の公式サイトで最新情報を確認しておくと安心です。
※2026年度のイベント情報は2026年9月11日時点の内容です。開催内容、定員、申込状況などが変更される可能性があります。
法の日のルーツは戦前の陪審制度までさかのぼりますが、現在は過去の司法制度だけを振り返る日ではありません。
10月1日をきっかけに、裁判や法律が自分たちの暮らしや社会をどのように支えているのかを知ることにも意味があります。
まとめ
「法の日」は毎年10月1日です。その日付の直接のルーツは、1928年10月1日の陪審法施行を受け、翌1929年から同日が「司法記念日」とされたことにあります。
陪審法自体は1923年に制定され、1928年から実施されました。戦前には実際に陪審裁判が行われましたが、利用件数は次第に減少し、1943年に制度は停止されました。
また、1947年10月1日は、最高裁判所が発足してから初めて法廷が開かれた日でもあります。
その後、1959年には裁判所・検察庁・弁護士会の三者協議で「法の日」の制定が提唱され、1960年6月24日の閣議了解によって10月1日が法の日と定められました。
法の日は国民の祝日ではなく、5月3日の憲法記念日とも異なります。また、10月1日から7日までは法の日週間として、現在も法や裁判について知るための行事が行われています。
10月1日という日付をたどると、戦前の陪審制度から司法記念日を経て、法の役割や重要性を考える現在の「法の日」へと続く、日本の司法の歴史が見えてきます。
参考情報
- 法務省「『法の日』とは」
- 法務省「日本でかつて行われていた陪審制度」
- 裁判所「裁判員制度の概要」
- 内閣府「各『国民の祝日』について」
- 最高裁判所「令和8年度『法の日』週間記念行事」
- 法務省「法の日フェスタin赤れんが2026特設ページ」

