カースト制度とは何か?身分の仕組みと現代インドに残る影響

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カースト制度とは、出生によって受け継がれる社会集団が、歴史的に結婚、職業、人間関係、宗教儀礼などへ影響してきた仕組みを指す言葉です。

「インドの人々を四つの階級に分ける制度」と説明されることもあります。しかし、古代文献に示された四つの大区分「ヴァルナ」と、地域社会に数多く存在する出生集団「ジャーティ」は同じものではありません。四段の階層図だけでは、実際の社会関係を十分に表せないのです。

現代インドでは、憲法によってカーストなどを理由とする差別が禁じられ、不可触制も廃止されています。一方、家族や共同体への帰属意識、それに結びついた格差がすべて消えたわけではありません。歴史上の仕組みと現在の法制度を見ると、カーストが四つの階級だけでは説明できない理由が分かります。

目次

カースト制度は出生と結びついた社会的な区分

カースト制度は、一つの法律や全国共通の規則によって導入された制度ではありません。地域の共同体、職業、婚姻関係、宗教的な考え方、土地所有、政治的な力関係などが、長い年月をかけて結びついてきました。

収入や財産によって分けられる経済的な階級とも性質が異なります。経済的な立場は、就職や事業、資産の増減によって変わることがあります。これに対してカーストは、生まれた家族や共同体から受け継ぐ所属として扱われてきたため、本人の希望だけでは変えにくいものでした。

各集団の立場は、土地所有や政治力、経済状況によって変化することもありました。ある地域で高い地位に置かれた集団が、別の地域では異なる扱いを受ける場合もあります。カーストは固定された全国共通の順位表ではなく、地域や時代に応じて形を変えてきた社会構造です。

「カースト」はインドで生まれた言葉ではない

英語の「caste」は、ポルトガル語の「casta」に由来します。血統、家系、種類などに関係する言葉で、南アジアへ進出したヨーロッパ人が、現地に存在したさまざまな世襲集団を表すために使うようになりました。

出生による社会集団そのものは、ヨーロッパ人が南アジアへ進出する以前から存在していました。しかし、それらをまとめて「カースト」と呼ぶ名称は外部から入ったものです。

一つの外来語で多様な集団を表したため、宗教文献に登場する大きな区分と、地域社会で人々が所属してきた集団が混同されやすくなりました。現在も「カースト」という言葉は広く使われていますが、その内側にはヴァルナやジャーティなど、性格の異なる概念が含まれています。

全国共通の順位表があったわけではない

カースト制度という名称からは、インド全土に共通する身分表が存在したように見えるかもしれません。実際には、集団名、職業との結びつき、婚姻の慣習、社会的な評価は地域ごとに異なりました。

どの集団が高い地位にあると見なされるかについても、土地の所有、王や有力者との関係、経済力、宗教儀礼への関わりなどが影響しました。同じ名前の集団でも、地域が変われば社会的な位置づけが異なる場合があります。

実際の社会では、広い範囲で知られたヴァルナの考え方と、地域ごとのジャーティが複雑に重なっていました。

ヴァルナとジャーティは同じものではない

カースト制度を知るうえで、特に区別したい言葉が「ヴァルナ」と「ジャーティ」です。

ヴァルナは古代文献などに示された大きな社会区分です。ジャーティは、人々が地域社会で実際に所属してきた多数の出生集団を表します。

教科書などで見かける四段の図は、主にヴァルナを表したものです。日常生活における結婚相手、共同体、伝統的な職業などでは、ジャーティのほうが直接的な意味を持ってきました。

1. ヴァルナは四つの大きな区分

伝統的なヴァルナの考え方では、社会は四つに分けられます。

バラモンは、サンスクリット語ではブラーフマナと呼ばれ、祭司や学者に結びつけられました。クシャトリヤは王や戦士、ヴァイシャは商人や生産者、シュードラは労働や奉仕を担う人々とされました。

これは古代文献に表された理念上の分類です。現代の職業や社会的な立場を、四つのヴァルナだけに当てはめることはできません。

個々のジャーティをどのヴァルナに位置づけるかについても、地域や時代によって異なる主張がありました。植民地期の裁判では、ある集団がどのヴァルナに属するのかが争われ、裁判所の判断が一致しなかった例もあります。

四つのヴァルナを描いたプルシャ・スークタ

四つのヴァルナに関する古い記述として知られるのが、古代インドの聖典『リグ・ヴェーダ』に収められた讃歌「プルシャ・スークタ」です。

讃歌では、原初の存在プルシャの口からバラモン、腕からクシャトリヤ、腿からヴァイシャ、足からシュードラが生じたと象徴的に語られます。

ただし、この讃歌をカースト制度の開始記録と見ることはできません。文献上の社会観を示すものであり、各地のジャーティがどのように形成されたのか、後世の差別的な慣習がどのように広がったのかまでを、この物語だけで説明することはできないためです。

2. ジャーティは地域ごとの出生集団

ジャーティは、出生や家系をもとに所属する地域的な社会集団です。言葉自体にも「生まれ」や「種類」に関係する意味があります。

インドには数多くのジャーティがあり、伝統的な職業、居住地域、婚姻関係、食事や儀礼の慣習などによって区別されてきました。同じヴァルナに位置づけられるとされる人々でも、別々のジャーティに所属していることがあります。

ジャーティを世代を越えて保つ要素の一つが、同じ集団の中から結婚相手を選ぶ「内婚」です。子どもが親の所属を受け継ぐことで、共同体のつながりや社会的な立場も継承されやすくなりました。人々が日常生活で関わるカーストの単位としては、四つのヴァルナよりもジャーティのほうが実態に近いと考えられています。

現在では、都市化や教育、職業選択の広がりにより、本人の仕事とジャーティの伝統的な職業が一致しないことも珍しくありません。それでも、結婚や家族関係、地域の人間関係などで、出身集団が意識されることがあります。

3. 不可触制の対象とされた集団とダリット

四つのヴァルナの図だけでは表しにくいのが、歴史的に不可触制による差別を受けてきた集団です。

不可触制とは、特定の人々との接触を「けがれ」と結びつけ、寺院、井戸、学校、道路などの利用や社会参加を制限してきた差別的な慣習を指します。不可触制は、現在のインド憲法で廃止されています。

こうした差別を受けてきた人々の自己認識や社会運動では、「ダリット」という言葉が使われています。「抑圧された」「打ち砕かれた」といった意味に関係し、差別への抵抗や尊厳を示す呼称としても用いられてきました。

一方、インドの憲法や行政制度では「指定カースト(Scheduled Castes/SC)」という名称が使われます。ダリットは社会的・政治的な呼称、指定カーストは行政上の区分です。重なる部分はありますが、完全な同義語ではありません。インド政府も、公的な場面では憲法上の名称である指定カーストを用いるよう案内しています。

かつて使われた「不可触民」という言葉は、差別的な考え方を背景に持つ歴史上の表現です。現在の人々を直接その言葉で呼ぶのではなく、「不可触制による差別を受けてきた集団」などと表すほうが適切です。

カースト制度はいつ、なぜ生まれたのか

カースト制度には、明確な創設者や開始年がありません。古代文献に見られるヴァルナ、地域の共同体、職業の世襲、結婚の慣習、宗教儀礼、政治権力などが、長い期間を通じて結びつきました。

古代から現代まで、同じ形の制度が変わらず続いてきたのでもありません。文献上の四区分と地域社会のジャーティは、互いに影響しながら、時代や地域に応じて変化してきました。

職業と結婚が所属を受け継ぐ仕組みになった

農業、商業、金属加工、織物などの仕事を家族や共同体の中で受け継げば、技術や取引関係を次の世代へ渡せます。しかし、職業と出生が強く結びつくと、本人の希望とは関係なく、就ける仕事や社会的な立場が限られます。

同じ集団内での結婚が重視されると、所属、財産、人間関係も集団の中で受け継がれやすくなります。職業や婚姻関係が世代を越えて継承される一方で、社会的な排除や格差も固定されていきました。

特定の仕事や人々を「清い」「けがれている」と見なす考え方は、仕事の違いを人間そのものの評価へ結びつけました。カーストは単なる職業分担ではなく、生活の機会や社会的な力の差を伴う仕組みでもありました。

イギリス統治がゼロから作ったわけではない

「カースト制度はイギリスが作った」と説明されることがありますが、出生による集団や婚姻上の区分は、植民地統治以前から存在していました。

ただし、イギリス統治下で行われた人口調査、行政分類、裁判制度は、地域ごとに複雑だった集団を一定の名称や順位へ当てはめる働きをしました。人口調査や行政記録によって、地域ごとに異なっていた集団名や区分が固定的に扱われる場面も増えました。

植民地統治はカーストを無から発明したのではありません。既存の社会関係を行政や法律の枠組みに組み込むことで、カーストの名称や区分が公的にも明確に意識される一因になりました。

「古代から同じ形で続いた」という説明と、「植民地支配がすべて作った」という説明のどちらも、歴史の中で起きた変化を十分には表していません。

現代インドでカースト制度はなくなったのか

現代インドでは、カーストなどを理由とする差別が憲法で禁じられています。

インド憲法第15条は、宗教、人種、カースト、性別、出生地などを理由とした差別を禁じています。第16条は公的雇用における機会の平等を定め、第17条は不可触制を廃止し、その実行を禁じています。

その後も、不可触制に基づく行為を処罰する法律や、指定カースト・指定部族に対する深刻な犯罪を防ぐ法律が整備されてきました。法律上は、出生を理由として人の権利や公共施設の利用を不当に制限することは認められていません。

不可触制の廃止とカースト意識の消滅は別のこと

憲法第17条によって廃止されたのは不可触制です。家族が属する共同体の名称や、人々が持つ帰属意識まで法律で消したわけではありません。

Pew Research Centerが2019年から2020年に実施し、2021年に公表した調査では、結婚相手の選択などでカーストが意識される状況が報告されています。回答には地域差があり、都市部と農村部でも傾向が異なりました。

ヴァルナはヒンドゥー教の伝統的な社会観と深く関わりますが、出生集団への帰属意識はヒンドゥー教徒だけに限られません。インドのイスラム教徒、キリスト教徒、シク教徒などにも、地域の歴史を背景とする世襲的な集団区分が見られます。各宗教の教義が同じ制度を定めているという意味ではなく、南アジアの社会関係が宗教を越えて影響してきた結果です。

差別撤廃を訴えたアンベードカル

現代インドのカースト差別撤廃に大きな役割を果たした人物の一人が、ビームラーオ・ラームジー・アンベードカルです。

アンベードカルは、自身も幼少期からカースト差別を経験しました。国内外で学び、法律家、経済学者、政治家として活動しながら、不可触制の廃止や教育機会の拡大を訴えました。

独立後は、インド憲法起草委員会の委員長を務めています。憲法は多くの議員や委員の議論を通じて作られたため、アンベードカル一人が制定したものではありません。その中で、差別を受けてきた人々の権利を憲法へ反映させる過程に深く関わりました。

指定カースト・指定部族・OBCは別の行政区分

現代インドでは、指定カースト、指定部族、その他後進階級などの区分が使われています。これらは、四つのヴァルナをそのまま現代の行政分類へ置き換えたものではありません。

指定カースト(Scheduled Castes/SC)は、歴史的に不可触制などの不利益を受けてきた集団に関する公的区分です。憲法第341条に基づき、州や連邦直轄領との関係で対象となる集団が指定されます。

指定部族(Scheduled Tribes/ST)は、憲法第342条に基づいて指定される部族共同体に関する区分です。指定カーストや四つのヴァルナとは、制度上の成り立ちが異なります。

その他後進階級(Other Backward Classes/OBC)は、社会的・教育的に不利な状況にあるとされる集団を対象とする行政区分です。対象となる集団の一覧は、中央政府と州政府で異なる場合があります。

SC、ST、OBCは、歴史的な不利益や社会的な格差へ対応するための公的区分です。ヴァルナ、地域のジャーティ、現代の行政区分は一対一で対応していません。

留保制度は教育や雇用の機会を確保する仕組み

インドには、歴史的に不利益を受けてきた集団へ、教育や公的雇用などの機会を確保する「留保制度」があります。英語では「Reservation」と呼ばれる積極的差別是正措置の一種です。

指定カースト、指定部族、その他後進階級などを対象に、教育機関の入学枠や公的な職の一部を確保する制度が設けられています。インド憲法も、社会的・教育的に不利な集団や、公的機関で十分に代表されていない集団に対する特別措置を認めています。

対象、割合、適用範囲は、中央政府と州政府、教育機関、採用制度によって異なります。すべての学校や仕事へ同じ条件が適用される制度ではありません。

留保制度は、長く不利益を受けてきた人々の教育や公的雇用への機会を広げ、格差を軽減するために設けられています。対象範囲や制度設計をめぐる議論は、現在も続いています。

Q&A

カースト制度は現在も法律で認められていますか?

カーストを理由とする差別は憲法で禁じられ、不可触制も廃止されています。ただし、出生集団への帰属意識や社会的な格差まで、法律の制定によってすべて消えたわけではありません。

インドの人々は四つのカーストに分かれているのですか?

四つの区分は、ヴァルナと呼ばれる文献上の大分類です。実際の地域社会には多数のジャーティがあり、現代の行政ではSC、ST、OBCなど別の区分も使われています。四段の図だけで現在のインド社会を説明することはできません。

名字を見ればカーストが分かりますか?

名字から地域や共同体を推測できる場合はありますが、必ず判別できるわけではありません。同じ名字が複数の集団で使われることもあります。名前だけで本人の所属や立場を決めつけるのは適切ではありません。

カースト制度はヒンドゥー教だけのものですか?

ヴァルナはヒンドゥー教の伝統的な社会観と深く関わります。一方、南アジアのイスラム教徒、キリスト教徒、シク教徒などにも、地域の歴史と結びついた世襲的な集団区分が見られます。各宗教の教義が同じ制度を定めているという意味ではありません。

日本の昔の身分制度と同じですか?

生まれや職業が社会的な立場に影響した点には共通部分があります。ただし、成立した歴史、宗教との関係、集団の数、結婚の慣習、近代以降の法制度などは異なります。日本の身分制度をそのままカーストへ置き換えることはできません。

まとめ

カースト制度とは、出生による所属が、歴史的に結婚、職業、人間関係などへ影響してきた社会的な仕組みです。

四つの大区分であるヴァルナと、地域ごとの多数の出生集団であるジャーティは同じものではありません。「カースト」というヨーロッパ由来の言葉によって、性格の異なる区分が一つにまとめて説明されてきました。

現代インドでは、カーストなどを理由とする差別が憲法で禁じられ、不可触制も廃止されています。指定カースト、指定部族、OBCなどの行政区分や留保制度は、四つのヴァルナを維持するものではなく、歴史的な不利益や格差へ対応するために設けられています。

カーストを四つの階級図だけで捉えず、地域差、植民地統治、現代の法律まで合わせて見ることで、現在のインド社会を単純な身分表だけでは説明できない理由が分かります。

参考情報

  • India Code「The Constitution of India」
  • インド社会正義・エンパワーメント省「List of Scheduled Castes」
  • インド社会正義・エンパワーメント省「About the Division」
  • Dr. Ambedkar Foundation「Know Dr. BR Ambedkar」
  • Richard G. Fox「Varna Schemes and Ideological Integration in Indian Society」Cambridge University Press
  • Hayden J. Bellenoit「Legal Limbo and Caste Consternation: Determining Kayasthas’ Varna Rank in Indian Law Courts, 1860–1930」Cambridge University Press
  • Rosalind O’Hanlon「Caste and its Histories in Colonial India: A Reappraisal」Cambridge University Press
  • Merriam-Webster「caste」
  • Pew Research Center「Attitudes about caste in India」

この記事を書いた人

気になったテーマを中心に、公開情報や資料を読みながら記事をまとめています。背景や違いが見えにくい話題も、公式サイトや公開資料を確認しつつ、できるだけわかりやすく整理してお届けしています。

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