一円玉は作るのに三円?海外にもある高コスト硬貨

一円玉は、買い物の端数をぴったり払うときに便利な硬貨です。ところが「一円玉は一枚作るのに三円ほどかかる」と聞くと、硬貨の見え方が少し変わってきます。

ただし、日本の一円硬貨については、正確な製造原価が公表されていません。2025年の参議院質問主意書では「一円硬貨一枚当たりの製造コストは約三円と言われている」と触れられていますが、政府答弁では、偽造を助長するおそれがあるため一円貨幣の製造原価は明らかにできないとされています。

そのため「一円玉は必ず三円かかる」と断定するより、一円玉の製造費は公式には非公表だが、額面を上回る可能性のある硬貨として語られることがあると見るのが正確です。

海外にも、額面より作る費用のほうが高い硬貨はあります。アメリカの一セント硬貨、カナダの一セント硬貨、オーストラリアやニュージーランドの低額硬貨などを見ると、少額硬貨を維持する難しさが見えてきます。


目次

一円玉の「三円」は公式発表ではない

一円玉について「作るのに三円かかる」と言われることがあります。額面が一円なので、製造費がそれを上回ると聞くと、硬貨は何のために作られているのか気になってきます。

ただ、この数字は公式に確定した製造原価ではありません。政府答弁では、一円貨幣の製造原価は、貨幣の偽造を助長するおそれがあるため明らかにできないとされています。

また、造幣局は貨幣を製造する機関であり、製造した貨幣はすべて財務省を通じて日本銀行へ納められ、その後に日本銀行から市中の金融機関へ流通すると説明しています。つまり、造幣局は貨幣を作る機関であり、市中での流通や両替は日本銀行や金融機関の領域になります。

一円玉の話で大切なのは、「一円より高いらしい」という驚きだけではありません。硬貨には、作る費用だけでなく、流通させる費用、保管する費用、数える手間、店舗や金融機関で扱う負担もあります。小さな硬貨ほど、額面に対してこうしたコストが目立ちやすくなります。

なぜ一円より高くなりやすいのか

硬貨の製造費は、金属の値段だけで決まりません。

一円玉の素材はアルミニウムです。アルミの量だけを見れば、ごく小さな金額に見えるかもしれません。けれど、硬貨として使える形にするには、材料の調達、加工、刻印、検査、設備の維持、人件費、輸送などが必要です。

百円玉や五百円玉なら、製造や管理にある程度の費用がかかっても、額面との差に余裕があります。一方で一円玉は額面が一円しかないため、わずかな費用でも額面を超えやすくなります。

これは日本だけの事情ではありません。一セント、二セントのような低額硬貨を持つ国では、物価上昇や金属価格、流通コストの影響で、作る意味を見直す議論が起きやすくなります。

製造費と社会的コストは分けて見るとわかりやすい

一円玉の負担を考えるときは、製造費と社会的コストを分けて見るとわかりやすくなります。

製造費は、硬貨を作るためにかかる費用です。一方、社会的コストには、硬貨を運ぶ、数える、保管する、両替する、レジや精算機で扱うといった費用や手間も含まれます。

財布の中に一円玉が何枚も残っていると、軽い硬貨なのに少し扱いに困ることがあります。これが全国の店舗や金融機関で日々扱われるとなると、数える手間や保管の負担は積み重なっていきます。

参議院の質問主意書でも、金融機関や商業施設の現金管理コスト、自動販売機等の対応コスト、環境負荷や資源コストが論点として挙げられています。ただし、政府答弁では、これらの範囲はさまざまであり、網羅的な把握は行っていないとされています。

つまり、一円玉の負担は「作るのにいくらか」だけでは終わりません。作られたあとに社会の中を動き続けることで、見えにくい手間も生まれます。


額面より製造費が高い硬貨は海外にもある

額面より製造費が高い硬貨は、海外にもあります。商売でいう「逆ざや」に近い状態で、硬貨の額面より作る費用のほうが高くなるわけです。

この記事でいう高コスト硬貨とは、額面に対して製造や流通の負担が大きくなりやすい硬貨のことです。代表的なのが、アメリカの一セント硬貨であるペニーです。

アメリカ造幣局の2024年年次報告では、ペニーの単位コストは3.69セント、五セント硬貨のニッケルは13.78セントで、どちらも額面を上回っていました。ペニーとニッケルの単位コストが額面を超えたのは、2024年度で19年連続とされています。

一セント硬貨を作るのに約3.7セント、五セント硬貨を作るのに約13.8セントかかるという計算です。これは、日本の一円玉の話と同じく、少額硬貨ほど額面に対して製造費が重くなりやすいことを示しています。

ただし、貨幣はふつうの商品ではありません。国は硬貨を売って利益を出すために作っているわけではなく、社会の支払いを支えるために発行しています。そのため、製造費だけを見て「すぐ廃止すべき」とは言い切れません。

アメリカではペニーの流通用製造が終わった

アメリカでは、ペニーを作り続けるべきかどうかが長く議論されてきました。製造費が額面を上回り、現金利用も変化してきたためです。

アメリカ造幣局は2025年11月12日、フィラデルフィア施設で流通用一セント硬貨の最終製造を行ったと発表しました。発表では、ペニーの流通用製造は232年の歴史を終えたとされています。また、過去10年でペニー1枚あたりの製造費は1.42セントから3.69セントへ上がったとも説明されています。

硬貨の製造をやめても、すでに流通している硬貨の価値がすぐになくなるとは限りません。アメリカ造幣局は、流通用製造は停止してもペニーは法定通貨であり続けると説明しています。市場には推定3000億枚のペニーが流通しており、小売店などは引き続き一セント単位で価格を付けることもできます。

低額硬貨を見直す国でも、既存の硬貨をしばらく使えるようにしたり、金融機関で扱えるようにしたりする仕組みが取られることがあります。製造停止は「新しく作らない」という話であり、手元の硬貨がその日に無価値になるという意味ではありません。

カナダは一セント硬貨をやめた

カナダも、少額硬貨の見直しを進めた国です。

カナダ政府は2012年の資料で、一セント硬貨を新しく作るのに1.6セントかかり、経済へ供給するための政府コストは年間約1100万カナダドルと説明していました。さらに、一セント硬貨は価値を保ち、引き続き支払いに使えるものの、流通から徐々に引き揚げられるにつれて、現金取引では端数処理が必要になるとしています。

カナダの方法で特徴的なのは、現金払いと非現金払いを分けていることです。現金取引では最終的な支払額を五セント単位に丸める一方、クレジットカードやデビットカードなどの非現金決済は一セント単位のまま処理される仕組みが示されました。

日本で一円玉の将来を考える場合も、現金払いとキャッシュレス決済を分けて見る視点は参考になります。現金では端数処理が必要になっても、キャッシュレス決済なら一円単位の支払いを続けることができるからです。

オーストラリアやニュージーランドでも低額硬貨は姿を消した

オーストラリアでは、1セント硬貨と2セント硬貨の発行停止が1990年に発表され、1992年2月から流通から引き揚げられました。王立オーストラリア造幣局は、その理由として、インフレによる実質的な購買力の低下と、硬貨を作る費用を挙げています。

ニュージーランドでも、1セント硬貨と2セント硬貨は1990年初めに法定通貨ではなくなりました。ニュージーランド準備銀行は、1989年に硬貨発行の責任が財務省から準備銀行へ移ったあと、1セント・2セント硬貨をかなり早く引き揚げたと説明しています。

こうした国々を見ると、低額硬貨が見直される理由はひとつではありません。作る費用が高いこと、購買力が下がったこと、現金を扱う手間が増えたこと、支払い方法が変わったこと。それらが重なったとき、小さな硬貨の役割が問い直されます。


それでも一円玉が残っている理由

では、日本でも一円玉をすぐにやめればよいのでしょうか。実際には、支払いの仕組みや価格表示にも関わるため、簡単には決められません。

一円玉には、価格を一円単位で表示し、現金で一円単位まで支払えるようにする役割があります。消費税を含む価格、割引後の金額、細かな会計処理など、日本の生活では一円単位がまだ広く使われています。

政府答弁では、一円貨幣は市中に約360億枚流通しており、市中の取引において需要があると考えているとされています。また、一円貨幣や五円貨幣などを廃止すると民間の経済取引に影響を与えると考えられるため、廃止は検討していないと答弁されています。

キャッシュレス決済なら一円単位の支払いを続けられますが、現金払いでは端数をどう扱うかが問題になります。カナダのように現金払いだけ五円単位に丸める方法も考えられますが、日本で導入するなら、レジシステム、価格表示、消費者の納得感、店舗の運用なども調整の対象になります。

一円玉は小さな硬貨ですが、なくすとなると支払いの仕組み全体に関わってきます。

「作ると赤字」だけでは判断できない

一円玉の製造費が額面を上回る可能性があるとしても、それだけで不要とは言い切れません。

貨幣には、物の値段を測る単位、支払いの手段、価値を保存する道具という役割があります。一円玉は大きな買い物では目立ちませんが、価格の最小単位を支える存在です。

一方で、現金を扱う側の負担もあります。硬貨を数える、袋に入れる、運ぶ、保管する、両替する。こうした手間は、一枚一枚では小さくても、社会全体では無視しにくい量になります。

だからこそ、一円玉の議論は「三円かかるから無駄」でも「昔からあるから必要」でも終わりません。現金の使われ方、キャッシュレス化、店舗や金融機関の負担、消費者の納得感を合わせて見ると、一円玉の役割が立体的に見えてきます。


Q&A(よくある疑問)

一円玉は本当に作るのに三円かかるのですか?

日本の一円硬貨の製造原価は公表されていません。参議院の質問主意書では「一円硬貨一枚当たりの製造コストは約三円と言われている」と触れられていますが、政府答弁では、一円貨幣の製造原価は明らかにできないとされています。そのため「三円」は公式な確定値ではなく、推計として扱うのが安全です。

なぜ硬貨の製造原価は公表されないのですか?

政府答弁では、貨幣の偽造を助長するおそれがあるため、一円貨幣の製造原価を明らかにできないとされています。硬貨の費用は素材の金属代だけではなく、加工、検査、設備、人件費、流通に関わる費用も関係するため、単純に金属代だけでは判断できません。

他国にも額面より製造費が高い硬貨はありますか?

あります。代表例はアメリカの一セント硬貨と五セント硬貨です。アメリカ造幣局の2024年年次報告では、ペニーの単位コストは3.69セント、ニッケルは13.78セントで、どちらも額面を上回っていました。カナダの一セント硬貨も、廃止方針が示された2012年時点で一枚あたり1.6セントかかると説明されていました。

一円玉も将来なくなる可能性はありますか?

将来の可能性として議論されることはあり得ますが、現時点で日本の一円玉を廃止する方針が決まっているわけではありません。政府答弁では、一円貨幣は市中の取引で需要があると考えており、廃止は検討していないとされています。

低額硬貨をやめると、支払いはどうなるのですか?

国によって方法は異なりますが、カナダでは現金取引の最終支払額を五セント単位に丸め、非現金決済は一セント単位のまま処理する方法が示されました。つまり、低額硬貨をやめても、すべての価格表示がすぐ五セント単位になるとは限りません。現金払いとキャッシュレス決済を分けて扱う方法もあります。


まとめ

一円玉は「作るのに三円ほどかかる」と語られることがありますが、日本では硬貨ごとの製造原価が公表されていません。参議院の質問主意書では約三円という表現が出ていますが、政府答弁では一円貨幣の製造原価は明らかにできないとされています。

一方で、額面より製造費が高い硬貨は海外にもあります。アメリカの一セント硬貨や五セント硬貨、かつてのカナダの一セント硬貨は、その代表例です。アメリカでは2025年に流通用ペニーの製造が終わり、カナダやオーストラリア、ニュージーランドでも低額硬貨の見直しが進められてきました。

一円玉は、ただの小さなアルミ硬貨ではありません。価格の最小単位や現金決済を支える一方で、製造や管理には手間と費用がかかります。製造費だけでなく、現金の使われ方やキャッシュレス化の進み方まで見ると、一円玉の役割が少し違って見えてきます。


参考情報

  • 参議院「一円硬貨の維持に関する社会的コストと今後の対応に関する質問主意書」第217回国会、質問第三三号
  • 参議院「一円硬貨の維持に関する社会的コストと今後の対応に関する質問に対する答弁書」第217回国会、内閣参質二一七第三三号
  • 独立行政法人造幣局「貨幣Q&A」
  • United States Mint “2024 Annual Report”
  • United States Mint “United States Mint Hosts Historic Ceremonial Strike for Final Production of the Circulating One-Cent Coin” 2025
  • United States Mint “Penny FAQs”
  • Government of Canada “Eliminating the Penny” 2012
  • Government of Canada “Budget 2012 – Annex 1: Responsible Spending”
  • Government of Canada / Royal Canadian Mint “Government of Canada and the Royal Canadian Mint Bid Farewell to the Canadian Penny”
  • Royal Australian Mint “One Cent”
  • Reserve Bank of New Zealand “The evolution of New Zealand’s currency”

この記事を書いた人

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