ホテルやカフェで楽しめる、サンドイッチやスコーン、色鮮やかなスイーツが並ぶアフタヌーンティー。華やかな三段スタンドの印象が強いものの、もともとはイギリスで紅茶と軽食を楽しむ習慣から発展した文化です。
「三段スタンドはどこから食べる?」「なぜ午後に紅茶を飲むようになった?」「ハイティーやクリームティーとは何が違う?」など、現在のスタイルにはイギリスの食事時間や社交文化の変化が関係しています。
さらに、今では象徴的な三段スタンドも、アフタヌーンティーの始まりから現在と同じ形で使われていたわけではありません。由来をたどりながら、食べる順番や似たティー文化との違いも見ていきましょう。
アフタヌーンティーとは?
アフタヌーンティーは、午後に紅茶と軽い食事や菓子を楽しむイギリスの習慣です。
現在では、フィンガーサンドイッチなどの塩味の軽食、スコーン、ケーキやペストリーを紅茶と一緒に楽しむスタイルが広く知られています。
英国の老舗フォートナム&メイソンでも、クラシックなアフタヌーンティーとして、サンドイッチ、スコーン、ケーキやペストリーを組み合わせた形式が紹介されています。
代表的な内容は次のようなものです。
- サンドイッチなどの塩味の軽食
- スコーン
- ケーキやペストリーなどの甘いもの
- 紅茶
塩味の料理は「セイボリー(savory)」と呼ばれることもあります。日本のホテルやカフェでは、こうした料理と紅茶を一式にしたメニューを「アフタヌーンティーセット」と呼ぶ場合もあります。
文化や食事習慣そのものを指す場合は「アフタヌーンティー」、店舗で提供される料理一式を指す場合は「アフタヌーンティーセット」という使い分けができます。
アフタヌーンティーはなぜ生まれた?
アフタヌーンティーが発展した背景には、19世紀のイギリスで、裕福な階級の夕食時間が遅くなっていったことがあります。
British Museum(大英博物館)によると、当時は昼食を正午ごろにとる一方、裕福な人々の夕食が午後9時近くになることもありました。昼食から夕食までの間が長くなったことで、その途中に紅茶と軽い食べ物をとる習慣が広がっていきました。
現在の華やかなアフタヌーンティーからは想像しにくいかもしれませんが、もともと何種類ものスイーツを楽しむイベントとして始まったわけではありません。遅い夕食までの空腹を補う軽食と、紅茶を囲んで人と交流する時間が結びつき、社交習慣へと発展していきました。
伝統的な時間帯としてよく挙げられるのは午後4~5時ごろです。National Trust(ナショナル・トラスト)も、上流・中流階級の人々が午後4~5時ごろに軽食と紅茶を楽しみ、遅い夕食までの間をつないでいたと説明しています。
ただし、これは歴史的な時間帯の目安です。現在のホテルやカフェでは昼過ぎから夕方まで幅広い時間帯で提供されています。
ベッドフォード公爵夫人が「発明した」は本当?
アフタヌーンティーの歴史でよく名前が挙がるのが、第7代ベッドフォード公爵夫人アンナ・マリア・ラッセル(Anna Maria Russell)です。
広く知られている話では、1840年ごろ、昼食から夕食までの空腹をしのぐため、アンナが午後に紅茶とパン、バター、ケーキなどを楽しむようになり、やがて友人を招く社交の機会へ発展したとされています。British Museumでも、アンナと1840年ごろのアフタヌーンティーの習慣が紹介されています。
ただし、午後に紅茶と食べ物を楽しむ習慣そのものが、アンナの時代に初めて現れたわけではありません。
Historic England(ヒストリック・イングランド)によると、それ以前のジョージ王朝期にも、裕福な人々が紅茶とパンや焼き菓子などを楽しんでいました。紅茶を囲む社交の機会もすでに存在しています。
その後、ヴィクトリア朝に「アフタヌーンティー」という名称や現在につながる形式が定着していきました。そのためアンナは、アフタヌーンティーの唯一の発明者というより、午後の紅茶と軽食を19世紀の社交習慣として広めたことを象徴する人物として知られています。
英国紅茶・インフュージョン協会によると、こうした習慣は1860年代までには広く流行するようになったとされています。さらにNational Trustは、日常的な社交習慣としてのアフタヌーンティーがエドワード朝に最盛期を迎えたと説明しています。
三段スタンドは最初からあった?食べる順番は?
現在のアフタヌーンティーを象徴するものの一つが、料理を上下に並べる三段のティースタンドです。
しかし、現在のような三段スタンドが、初期のアフタヌーンティーから標準的に使われていたわけではありません。
Historic Englandによると、ヴィクトリア朝には「アフタヌーンティー」という名称が定着し、スコーン、クリーム、ジャム、ケーキスタンド、サンドイッチなどを組み合わせた現在につながる形式が成立していきました。
一方、三段式スタンドの考案者や、現在の形が成立した正確な年代は明確ではありません。アフタヌーンティーの誕生時から三段スタンドまで完成していたのではなく、文化の広がりとともに食べ物の種類や提供方法も変化していきました。
そのため、三段スタンドはアフタヌーンティーの「始まりそのもの」を示す道具というより、後に定着して現在の象徴的なスタイルとなったものです。
三段スタンドはどこから食べる?
現在よく見られるクラシックな三段スタンドでは、上から見ると次のように料理が配置されます。
上段:ケーキやペストリー
中段:スコーン
下段:サンドイッチなどの塩味の軽食
フォートナム&メイソンでも、最下段にフィンガーサンドイッチ、中段にスコーン、最上段にケーキやペストリーという構成が紹介されています。
代表的な食べる順番は、
サンドイッチなどの塩味の軽食 → スコーン → ケーキなどの甘いもの
です。
つまり、スタンドを上から見ると「甘いもの→スコーン→サンドイッチ」と並んでいても、食べ進める方向はその反対になります。
ただし、段ごとの内容は店舗によって異なります。スコーンを別皿で提供したり、温かい料理を別に出したりする店もあります。「必ず一番下の皿から」と覚えるより、塩味のものから始め、スコーン、甘いものへ進むという流れを代表的な食べ方として知っておくとよいでしょう。
スコーンはナイフで真っ二つにしない?
スコーンにも、英国のティータイムでよく知られる食べ方があります。
フォートナム&メイソンでは、スコーン全体をナイフで水平に切り分けるのではなく、食べる分を手で割り、クロテッドクリームやジャムを付ける方法を紹介しています。
また、「ジャムとクロテッドクリームのどちらを先に付けるのか」について、一つだけの決まりがあるわけではありません。クリームを先にする方法とジャムを先にする方法があり、その違いには地域の食文化も関係しています。
この地域差は、スコーンを中心に楽しむ「クリームティー」とも深く結びついています。
アフタヌーンティー・ハイティー・クリームティーの違い
アフタヌーンティーと似た言葉に、ハイティー(High Tea)とクリームティー(Cream Tea)があります。
いずれも紅茶を伴う食文化ですが、食事の内容や歴史的な背景は異なります。
| アフタヌーンティー | ハイティー | クリームティー | |
|---|---|---|---|
| 主な時間帯 | 午後 | 夕方 | 時間帯より内容で区別される |
| 食事の性格 | 軽食・社交 | しっかりした食事 | 軽いティータイム |
| 代表的な内容 | サンドイッチ、スコーン、ケーキ、紅茶 | 肉料理、パイ、パン、チーズ、紅茶など | スコーン、クロテッドクリーム、ジャム、紅茶 |
| 特徴 | 社交習慣として発展 | 労働者家庭の主要な食事とも結びつく | デヴォンやコーンウォールで特に知られる |
ハイティーは「高級なアフタヌーンティー」ではない
「High Tea」という名前から、アフタヌーンティーより豪華で格式の高いものを想像することがあります。
歴史的なハイティーは、仕事を終えた人々が夕方にとる、しっかりした食事として発展しました。
National Trustは、働く人々の家庭でパイ、肉、チーズなどを紅茶とともに食べるものとしてハイティーを紹介しています。英国紅茶・インフュージョン協会も、アフタヌーンティーが昼食と夕食の間をつなぐ軽食だったのに対し、ハイティーは一日の主要な食事だったと説明しています。
ただし、19世紀の「tea」という言葉の使われ方は、地域や階級、家庭によって必ずしも一定ではありませんでした。当時にも複数のティー習慣があり、現在の分類ほど明確に分かれていたとは限りません。
したがって、「アフタヌーンティー=軽い午後の食事」「ハイティー=夕方のしっかりした食事」という違いは、歴史上の代表的な傾向として覚えておくのが適しています。
クリームティーはスコーンを中心に楽しむ
クリームティーは、スコーンにクロテッドクリームとジャムを添え、紅茶と一緒に楽しむ比較的シンプルなティータイムです。
イングランド南西部のデヴォンやコーンウォールで特に知られています。Visit Devon(デヴォン公式観光情報)では、伝統的なデヴォンのクリームティーとして、焼きたてのスコーン、イチゴジャム、クロテッドクリーム、ポットの紅茶という組み合わせが紹介されています。
アフタヌーンティーでは、サンドイッチやスコーン、複数の菓子などを組み合わせることが多いのに対し、クリームティーではスコーンが主役です。午後だけに限らず、休憩や軽いティータイムとして楽しまれています。
クリームとジャムを塗る順番には地域差があります。
デヴォンでは、クロテッドクリームを先に塗り、その上にジャムを重ねる方法が伝統として知られています。一方、コーンウォールではジャムを先にして、その上にクロテッドクリームをのせる方法がよく知られています。
塗る順番の違いは、デヴォンとコーンウォールを代表する地域文化の一つです。
現代のアフタヌーンティーは形も楽しみ方もさまざま
現在のアフタヌーンティーは、伝統的なイギリス式だけに限られません。
ホテルやカフェでは、季節の果物を中心にしたもの、チョコレートをテーマにしたもの、和菓子や日本茶を取り入れたもの、塩味の料理を充実させたものなど、多彩なスタイルがあります。
こうした変化も、長く続いてきたティー文化の延長線上にあります。ヴィクトリア朝にも、大人数が集まる社交的なティーから家庭で楽しむ簡素なものまで、さまざまな形が存在していました。
19世紀後半になるとティールームも人気を集め、家庭の応接室だけでなく、外で友人と紅茶を楽しむ文化が広がります。英国紅茶・インフュージョン協会によると、1880年代以降のティールームやティーショップは、女性が男性の付き添いなしで会話や休憩を楽しめる場所としても人気を集めました。
現在も、料理の内容やスタンドの形、紅茶の種類、提供方法は店によってさまざまです。代表的な食べ方や歴史を知っておけば、形式だけにこだわらず、その店ならではの料理や紅茶、空間まで楽しみやすくなります。
まとめ
アフタヌーンティーは、紅茶とともにサンドイッチ、スコーン、ケーキなどを楽しむイギリスの食文化です。
午後に紅茶と食べ物を楽しむ習慣は19世紀以前にもありましたが、19世紀には遅い夕食までの空腹を補う軽食と社交の時間が結びつき、現在につながるアフタヌーンティーが広がっていきました。
ベッドフォード公爵夫人アンナ・マリア・ラッセルは、その普及を象徴する人物として知られています。ただし、それ以前にも午後の紅茶文化が存在しており、一人の人物だけを唯一の発明者とする説明では、その前史を十分に表せません。
三段スタンドも誕生時から現在と同じ形だったわけではありません。現在よく見られる形式では、上段にスイーツ、中段にスコーン、下段にサンドイッチなどを置き、食べるときは塩味の料理からスコーン、最後に甘いものへ進む流れが代表的です。
また、ハイティーは夕方のしっかりした食事、クリームティーはスコーン、クロテッドクリーム、ジャム、紅茶を中心としたティータイムで、それぞれアフタヌーンティーとは異なる背景を持っています。
華やかな三段スタンドだけでなく、食事時間や社交文化、似たティー文化との違いまで知ると、アフタヌーンティーをより深く楽しめるでしょう。
参考情報
- British Museum「The tea-rific history of Victorian afternoon tea」
- Historic England「Where Does the English Habit of Afternoon Tea Come From?」
- National Trust「The history of tea」
- UK Tea & Infusions Association「A Social History」
- Fortnum & Mason「The Short History of Afternoon Tea」
- Fortnum & Mason「The Etiquette of Tea」
- Visit Devon「Devonshire cream tea」
- Visit Cornwall「Cornwall’s Food & Drink Heritage」
