文章を書き終えたあと、「もう少し読みやすくできないか」「この言葉で本当に伝わるだろうか」と見直すことがあります。こうした場面で使われるのが「推敲(すいこう)」という言葉です。
推敲とは、文章の字句や表現をよく吟味し、より適切な文章になるよう練り直すことを指します。誤字脱字を見つけるだけではなく、言葉選びや語順、説明の流れまで見直すのが特徴です。
しかも「推敲」という二文字には、唐代の詩人が「推す」と「敲く」のどちらを使うか迷ったという故事が隠れています。
推敲とは文章をより良く練り直す作業
辞書では「推敲」を、詩や文章の字句・表現を十分に吟味して練り直すことと説明しています。
たとえば、
「私は急いで駅まで走って行った」
という文章を書いたとします。
読み返したときに、
「『急いで』と『走って』は意味が少し重なっていないか」
「『駅まで走った』だけでも伝わるのではないか」
と考えて、
「私は駅まで走った」
と直すのも推敲の一例です。
ただし、推敲は文章を短くする作業ではありません。説明が足りなければ言葉を加え、意味が伝わりにくければ別の表現へ置き換えます。文の順番を入れ替えたほうが読みやすければ、構成そのものを動かすこともあります。
つまり推敲では、削る・足す・置き換える・順番を変えるといった方法を使いながら、伝えたい内容に合う文章へ近づけていきます。
見直すポイントは文章によって異なりますが、主に次のような部分が対象になります。
- 言葉の選び方は適切か
- 同じ意味の表現を重ねていないか
- 語順を変えたほうが読みやすくならないか
- 一文が長くなりすぎていないか
- 説明の順番に無理がないか
- 必要な説明が抜けていないか
- 読み手に誤解される表現になっていないか
小説や詩だけに使う言葉ではありません。作文、レポート、メール、ブログ記事など、文章を練り直す場面で広く使えます。
推敲は誤字脱字を直すだけではない
文章を見直すというと、漢字の間違いや変換ミスを探す作業を思い浮かべるかもしれません。
もちろん、推敲している途中で誤字に気づき、直すことはあります。ただ、推敲の中心はそこだけではありません。
たとえば、
「とても非常に大きな建物だった」
という文なら、「とても」と「非常に」が重なっています。
「非常に大きな建物だった」
とすれば、意味を保ったまま読みやすくなります。
一方、
「建物だった」
まで削ってしまうと、書き手が伝えたかった大きさが失われます。
単純に文字数を減らすのではなく、どの言葉を残し、どこを直せば意図が伝わるのかを考えるのも推敲です。
「推敲」の由来は「推す」と「敲く」で迷った詩人
「推敲」という言葉の由来には、文章を練るという意味をそのまま表したような故事があります。
登場するのは、中国・唐代の詩人賈島(かとう)と、同じく唐代の文人韓愈(かんゆ)です。
賈島が詩を作っていたとき、
「僧は推す月下の門」
という趣旨の句を考えました。
この句は、賈島の「題李凝幽居(李凝の幽居に題す)」という詩に含まれるものとして知られています。
ところが、門を「推す(おす)」とするか、「敲く(たたく)」とするかで迷います。
賈島はロバに乗りながら「推す」「敲く」の動きを繰り返すほど考え込んでいたと伝えられています。その途中で韓愈の一行にぶつかり、事情を説明すると、韓愈は「敲く」のほうがよいとしました。
「推」と「敲」は、まさに賈島が迷った二つの字です。
この故事から、現在では一つ一つの言葉を吟味しながら文章を練り直すことを「推敲」と呼ぶようになりました。
「推す」と「敲く」では文章の印象も変わる
「押す」と「たたく」では、表している動作が異なります。
静かに門を押す姿と、月夜に門をたたく姿では、読み手が思い浮かべる情景も変わります。「敲く」なら音まで想像する人もいるでしょう。
わずか一文字の違いでも、文章から受ける印象は変わります。
推敲と校正・校閲・添削は何が違う?
文章を直したり確かめたりする作業には、「校正」「校閲」「添削」という言葉もあります。
どれも文章を見直す場面で使われますが、重点を置く部分は少しずつ異なります。
| 言葉 | 主な意味 |
|---|---|
| 推敲 | 字句や表現を吟味し、文章を練り直す |
| 校正 | 文字・文章などを照合し、誤りを正す |
| 校閲 | 内容の誤りや不備などを調べ、必要に応じて正す |
| 添削 | 文章や答案などに手を加えて直す |
校正は、文字や文章などを照らし合わせながら誤りを正す作業です。出版物では、誤字・脱字や表記、組版上の問題などを確認する場面でも使われます。
校閲では、文字だけでなく内容にも目を向けます。事実関係に誤りがないか、説明に矛盾がないか、不適切な表現がないかなどを調べる作業を指すことがあります。
添削は、文章や答案などに手を加えて直すことです。先生が作文や答案に修正を入れる場面は、分かりやすい例でしょう。
一方、推敲は、書いた文章の表現や言葉選びを吟味し、より適した形へ練り直すことに重点があります。
たとえば、
自分の文章の言い回しを考え直す → 推敲
原稿の文字や表記の誤りを確かめる → 校正
内容や事実関係まで確かめる → 校閲
先生などが文章や答案に修正を加える → 添削
と考えると、それぞれの違いがつかみやすくなります。
ただし、実際の文章作りでは作業範囲が重なることもあります。「推敲は表現だけ」「校正は誤字だけ」と完全に分離できるものではありません。
推敲している途中で誤字を直すこともあれば、校閲で内容の問題が見つかった結果、文章そのものを書き直すこともあります。何を重点的に見る作業なのかを考えると、違いが分かりやすくなります。
推敲するときは何を見直せばいい?
推敲は、文章を書き終えたあとだけに行うものではありません。書いている途中で言葉を選び直したり、構成を組み替えたりすることも推敲に含まれます。
細かな言葉だけを最初から追うより、まず文章全体に目を向けると見直しやすくなります。
最初に確かめたいのは、伝えたい内容が読み手に届く形になっているかです。
説明の順番が前後していないか。同じ話を何度も繰り返していないか。必要な説明が抜けていないか。文章全体を読み返すことで、書いている途中には気づかなかった部分が見えてくることがあります。
次に、一文ごとの表現へ目を向けます。
今の言葉が適切か、もっと伝わりやすい言い方はないか、語順を変えたほうが読みやすくならないかと考えてみます。説明を足したほうが誤解されにくい場合もあれば、反対に重複している言葉を削ったほうがよい場合もあります。
同じ言葉が短い間隔で何度も登場していれば、言い換えられないか考えることもできます。一文が長すぎれば分け、細切れになりすぎていればつなげる方法もあります。
最後に、誤字脱字や表記の揺れなども確認します。
文章を書きながら、あるいは一度形にしてから読み返し、必要な部分を練り直していくのも推敲です。 書き進める途中と書き終えたあとでは見える部分が違うため、推敲のタイミングも一度だけとは限りません。
まとめ
推敲とは、詩や文章の字句・表現を吟味し、より適切な形へ練り直す作業です。
誤字脱字を探すだけではなく、言葉選びや語順、説明の流れ、重複なども見直します。不要な表現を削るだけでなく、必要な説明を足したり、言葉を置き換えたり、順番を変えたりすることも推敲です。
言葉の由来は、唐代の詩人・賈島が、詩の中で門を「推す」とするか「敲く」とするか迷い、韓愈に相談したという故事にあります。
また、推敲と校正・校閲・添削は似ていますが、表現を練るのか、文字の誤りを確かめるのか、内容まで調べるのかといった重点に違いがあります。
文章を書いている途中でも、書き終えたあとでも、「この言葉や順番で伝わるだろうか」と見直して練り直す。その作業が「推敲」です。
参考情報
- 国立国会図書館 レファレンス協同データベース「『推敲(すいこう)』という言葉のもとになった漢文の白文、書き下し、現代語訳が載っている図書が見たい。」
- 国際交流基金 日本語国際センター「日本語教師のためのオンラインコース 作文の教え方 Unit 2 Part 3 文章完成までのプロセスと評価」
- 国際交流基金「日本語教育通信 日本語の教え方 イロハ 第11回」
- 国立教育政策研究所「令和3年度 全国学力・学習状況調査 授業アイディア例【中学校国語】」
- 国立国会図書館 レファレンス協同データベース「『校閲』と『校正』の違いは何ですか。」
