ほとんど話したことがない相手なのに、「この人とは少し合わないかもしれない」と感じることがあります。反対に、初対面から話しやすそうだと思う人もいます。
人は相手の性格をじっくり分析してから第一印象を作っているわけではありません。顔の表情や視線、声、話し方など、短時間に入ってくる情報の処理はすぐに始まり、理由を言葉にするより先に「接しやすそう」「少し距離を感じる」といった印象が生まれる場合があります。
ただし、素早く印象が生まれることと、相手との本当の相性を正確に見抜けることは別です。「なんとなく合わない」という感覚には、相手の振る舞いだけでなく、自分の過去の経験や価値観も関わります。
心理学研究では「合う・合わない」という感覚そのものより、好感度や信頼性など、第一印象を構成する評価を個別に調べることが多くあります。日常で感じる「なんとなく苦手」「少し合わない」という感覚にも、こうした複数の印象が重なっている可能性があります。
第一印象はじっくり考えるより早く生まれる
初対面の相手について印象を持つまでには、長い時間が必要とは限りません。
ウィリスとトドロフが2006年に発表した研究では、知らない人物の顔写真を100ミリ秒、つまり0.1秒見ただけでも、その顔から受ける好感度や信頼性、能力などについての評価が形成されました。
見る時間を長くすると評価への自信は高まりましたが、最初の短時間で作られた評価そのものが大きく変わるとは限りませんでした。
この結果は、人が0.1秒で相手の本当の性格や相性を見抜けることを示したものではありません。 顔を見たときの第一印象が、非常に短い時間でも生まれ得ることを示しています。
顔から受ける社会的な印象に関する脳研究では、扁桃体(へんとうたい)など複数の脳領域の活動との関係も調べられています。
扁桃体は感情や社会的な情報の処理などに関わる脳領域の一つです。顔から受ける信頼性の印象に応じて活動が変化した研究もあります。
ただ、扁桃体が「この人とは合わない」と判定する専用の場所というわけではありません。実際の人物評価には、視覚情報だけでなく記憶や経験、そのときの状況など多くの要素が関わります。
相手をどう感じるかにつながる情報処理は、自分で理由を説明できるようになる前から始まっている場合があるのです。
「合わない」と感じる手がかりは一つではない
実際に人と会ったときに受け取る情報は、顔写真だけではありません。
表情、声、視線、姿勢、会話のテンポなど、複数の手がかりが同時に入ってきます。「この人とは少し合わないかもしれない」という感覚も、一つの特徴だけではなく、それらが重なって生まれる場合があります。
1. 表情や視線、声、話し方も印象に関わる
初対面では、相手が何を話したかという言葉の内容だけを受け取っているわけではありません。
たとえば、
- 目線をどの程度合わせるか
- 表情がどのように変わるか
- 声の大きさや話す速さ
- 相づちやうなずき
- 会話へ入るタイミング
- 相手との距離の取り方
なども、相手から得られる情報です。
心理学では、短時間だけ観察した行動の断片から人物や対人場面について判断する研究を、thin slice(シン・スライス、行動の短い断片)と呼ぶことがあります。
短い観察でも、視線やうなずきなど一部の非言語行動を捉えられることが報告されています。一方で、短時間の判断がどこまで正確かは、何を判断するのか、どのような状況なのかによって異なります。
声についても、短い発声から人物への印象が生まれることがあります。初めて聞く人が発した1秒未満の「hello」という声だけでも、聞き手が信頼性や好感度、支配性などについて評価を作った研究があります。
顔だけでなく、声からも短時間で人物への印象が形成される場合があります。 ただし、そこで生まれた評価が本人の実際の性格をそのまま表しているとは限りません。
そのため、
「目を合わせないから冷たい人」
「声が大きいから威圧的な人」
と一つの特徴だけから性格を決めることはできません。
文化や場面、その人自身の話し方の癖によっても意味は変わります。
2. 自分と似ていると感じることも好意と関係する
人間関係では、相手と自分との類似性が好意と結び付くことがあります。
心理学では以前から、態度や考え方が似ている相手や、自分と似ていると感じる相手に好意を持ちやすい傾向が研究されてきました。
初対面でも会話をしているうちに、
「考え方が似ていそう」
「同じことに興味がありそう」
「大切にしているものが近そう」
と感じれば、親しみにつながる場合があります。
反対に、違いを意識することが相手との距離感につながる場合もあります。
ただし、似ていないから相性が悪いと決まるわけではありません。
関係が深まってから共通点に気付くこともあれば、違いがあっても相手への理解が変わる場合があります。
会話のテンポや距離感の合いやすさも印象には関わりますが、考え方や価値観が似ていることとは別の要素です。
3. 過去の経験による連想も人物評価に影響する
目の前の相手について感じる印象は、それまでの経験と無関係ではありません。
人は過去に得た情報や学習した関連付けを使いながら、新しく出会った人物についても評価します。
たとえば、以前関わった人物を思い出させる表情や話し方に出会ったとき、過去の経験と結び付いた感情が呼び起こされる可能性があります。
だからといって、
「以前合わなかった人に似ている=この人とも合わない」
とは言えません。
過去の経験による連想は現在の印象へ影響することがありますが、その印象が目の前の相手の性格や自分との相性を正確に表しているとは限らないからです。
「理由は説明できないけれど、なんとなく合わない」という感覚の背景にも、現在の相手そのものだけでなく、それまでに経験してきたことが関係している場合があります。
4. 最初のマイナス情報が人物全体の評価に影響することもある
初対面でどのような情報を最初に受け取ったかも、その後の印象に関係する場合があります。
人物の印象形成を調べた研究では、最初にネガティブな情報を受け取った場合、その人物に対する全体的な評価も否定的になりやすい傾向が報告されています。
たとえば初対面で、
「話している途中で遮られた」
「返事がそっけなかった」
という出来事があれば、「少し話しにくい」「自分とは合わなそう」と感じるきっかけになるかもしれません。
一方、その一場面だけでは分からない事情もあります。相手が緊張していた、急いでいた、会話のタイミングが偶然ずれただけという可能性もあります。
最初に感じた違和感にはきっかけがあっても、その一場面だけで相手全体や二人の相性を説明できるとは限りません。
同じ相手でも全員が「合わない」と感じるわけではない
第一印象には、人々の間である程度共通する傾向もあります。しかし、同じ顔や同じ人物を見れば、誰もがまったく同じ評価をするわけではありません。
近年の第一印象研究では、顔から受ける信頼性などの評価について共通する傾向がある一方、誰が評価するかによる個人差も大きいことが指摘されています。
同じ控えめな振る舞いでも、見る人によって「落ち着いている」「少し接しにくい」など受け取り方が変わることがあります。
この違いには、評価する側の経験や価値観、その場で期待しているコミュニケーションなども関係します。
つまり、「合わない人」という性質が相手の中に一つの特徴として固定されているわけではありません。
ある人にとって話しにくい相手が、別の人にとっては話しやすい相手であることもあります。
第一印象には、相手の特徴だけでなく、評価する側の経験や感じ方も関わっています。
第一印象が早く生まれても「相性が分かる」とは限らない
心理学研究では、第一印象が非常に短い時間でも形成されることが示されています。脳活動を調べた研究でも、顔から受ける社会的な評価と扁桃体などの活動との関係が研究されています。
ただし、判断が速いことと、その判断が正確であることは同じではありません。
特に顔だけを見て、
「信頼できそう」
「能力がありそう」
「感じがよさそう」
と評価しても、それが本人の実際の性格や、自分との相性をそのまま表しているとは限りません。
同じ人物であっても、使われる写真が変わるだけで、他人から受ける信頼性などの評価が大きく変わることも研究されています。
私たちが感じる第一印象には、相手そのものだけでなく、その瞬間に見えている表情や置かれている状況なども影響するということです。
そのため、
「一瞬で合わないと感じたから、この人とは本当に相性が悪い」
とは言えません。
また、「相手がどんな人物なのか」という評価と、「自分がその相手をどう感じたか」は同じものではありません。
「話すテンポが自分とは合わない」
「距離の取り方に違和感がある」
「以前の経験を思い出した」
という感覚があったとしても、それだけで相手の性格や二人の関係全体を説明することはできません。
最初は「合わない」と感じても印象が変わることがある
第一印象は早く生まれますが、その後ずっと固定されるとは限りません。
初対面では相手について持っている情報が少ないため、その場で目立った表情や話し方などの影響を受けやすくなります。
関わる時間が増えれば、それまで知らなかった行動や考え方を見る機会も増えます。
「無愛想だと思っていたけれど、実際には口数が少ないだけだった」
「話が合わないと思っていたけれど、共通の興味が見つかった」
というように、新しい情報によって印象が変化することもあります。
反対に、最初は話しやすいと思った相手でも、関わる中で印象が変わる場合があります。
短時間で生まれた印象は、その時点で得られた限られた情報をもとにしたものです。
第一印象は、その時点で得られた情報による評価であり、その人との相性についての最終的な答えではありません。
まとめ
まだ相手をよく知らないのに「この人とは少し合わないかもしれない」と感じる背景には、顔や表情、声、視線などの情報処理が早い段階から始まり、第一印象が短時間で生まれることがあります。
顔写真をわずか0.1秒見ただけでも、顔から受ける好感度や信頼性などの評価が形成された研究があります。声についても、ごく短い発声から人物への印象が作られることが報告されています。
実際に人と接するときには、表情や声だけでなく、相手と似ていると感じるかどうか、過去の経験による連想、最初に受け取った情報なども印象へ影響します。また、同じ相手でも全員が同じ評価をするわけではなく、見る側の経験や価値観によって感じ方は変わります。
ただし、素早く第一印象が生まれることと、本当の相性をすぐに見抜けることは別です。
先に形づくられるのは最初の印象であって、「この人とは本当に合う・合わない」という最終的な答えではありません。
参考情報
- Janine Willis, Alexander Todorov, “First impressions: making up your mind after a 100-ms exposure to a face,” Psychological Science
- Andrew D. Engell, James V. Haxby, Alexander Todorov, “Implicit trustworthiness decisions: automatic coding of face properties in the human amygdala,” Journal of Cognitive Neuroscience
- Phil McAleer, Alexander Todorov, Pascal Belin, “How do you say ‘hello’? Personality impressions from brief novel voices,” PLOS ONE
- Nora A. Murphy et al., “Reliability and validity of nonverbal thin slices in social interactions,” Personality and Social Psychology Bulletin
- R. Matthew Montoya, Robert S. Horton, Jeffrey Kirchner, “Is actual similarity necessary for attraction? A meta-analysis of actual and perceived similarity,” Journal of Social and Personal Relationships
- Gabriele Bellucci, “The organizational principles of impression formation,” Cognition
- Clare A. M. Sutherland et al., “Individual differences in trust evaluations are shaped mostly by environments, not genes,” Proceedings of the National Academy of Sciences
- “Face evaluation: Findings, methods, and challenges,”
