認知的不協和とは?考えと行動が食い違うと心に何が起こる?

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「健康のために早く寝たいのに、つい夜更かししてしまった」「よく考えて高い商品を買ったのに、あとから別の商品も気になってきた」。自分の考えと実際の行動が食い違ったとき、何となく落ち着かない気持ちになることがあります。

こうした不一致と関係する心理学の概念が「認知的不協和」です。認知的不協和が生じたとき、人は考え方を変えることもあれば、行動を変したり、新しい理由を付け加えたりすることもあります。

では、なぜ自分の中にある食い違いが気になり、受け止め方まで変わることがあるのでしょうか。身近な例や有名な実験とともに見ていきます。

目次

認知的不協和とは「両立しにくい認識から生じる不協和」

認知的不協和とは、自分の信念や態度、自分が取った行動についての認識などが互いに両立しにくいときに生じる不協和を扱う心理学の概念です。人はその食い違いを小さくするため、考え方や行動を変えたり、新しい理由を加えたりすることがあります。

この考え方を体系化したのが、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーです。1957年に『A Theory of Cognitive Dissonance(認知的不協和の理論)』を刊行し、その後の社会心理学に大きな影響を与えました。

たとえば、

「健康のためには運動したほうがよい」と思っている。
しかし、自分はほとんど運動していない。

という二つの認識が同時にあるとします。

この食い違いが本人にとって気になるものであれば、「このままでいいのだろうか」と落ち着かなさにつながることがあります。そこで、不一致を小さくする方向へ考えや行動が変化することがあります。

ただ、意見や希望が二つあるだけで、何でも認知的不協和になるわけではありません。

「今日はカレーもラーメンも食べたい」という迷いと、「健康を大切にしたいと思っているのに、それに反する行動を続けている」という食い違いは性質が異なります。

自分にとって意味のある信念や態度と、自分の行動についての認識などが両立しにくい場面を考えると分かりやすいでしょう。

矛盾を感じたとき、人はどう受け止める?

認知的不協和が生じたとき、その食い違いを小さくする方法は一つではありません。

考え方を見直す場合もあれば、実際の行動を変えることもあります。新しい理由を加えることで、それまで矛盾して見えていた二つの認識を両立させやすくすることもあります。

行動を変える方法もあれば、理由を付け加える方法もある

先ほどの運動の例なら、

「健康のために運動したほうがよい」
「でも自分は運動していない」

という食い違いがあります。

これを小さくする分かりやすい方法は、実際に運動を始めることです。「運動したほうがよい」という考えに合わせて行動を変えています。

別の受け止め方もできます。

「通勤でかなり歩いている」
「食生活には気を付けている」
「今は仕事が忙しい時期だから仕方がない」

といった理由を加えれば、現在の行動を受け入れやすくなるかもしれません。

さらに、

「毎日しっかり運動しなければ意味がないわけではない」

と、最初に持っていた考え自体を見直すこともあります。

つまり、不協和を小さくする方向には、行動を変える、認識を変える、新しい理由を加えるといった複数の形があります。

選んだあとに評価が変わることもある

認知的不協和との関係で長く研究されてきたのが、何かを選んだあとの評価の変化です。

たとえば、よく似た二つの商品で迷った末にAを購入したとします。その後になってBの長所が気になれば、

「Aを選んだ」
「Bにもかなり魅力があった」

という二つの認識が両立しにくくなることがあります。

そこで、

「Aのほうが自分には使いやすい」
「Bには自分に合わない部分もあった」

などと受け止めることで、自分の選択に対する迷いが小さくなる場合があります。

こうした選択後の評価変化は、認知的不協和との関係で研究されてきました。ただし、選んだものをあとから高く評価する現象のすべてが認知的不協和だけで説明できるわけではなく、測定方法や別の心理過程についても研究が続いています。

苦労したものを高く評価する「努力の正当化」

認知的不協和との関係では、努力の正当化と呼ばれる考え方も知られています。

たとえば、大きな努力や苦労をして参加した活動が、実際にはそれほど魅力的ではなかったとします。このとき、

「ここまで苦労した」
「でも得られたものは大したことがなかった」

という食い違いが生じます。

そこで得られたものへの評価が高まれば、「苦労しただけの価値はあった」と受け止めやすくなります。

このように、苦労と得られた結果の釣り合いを取るように評価が変わる現象は、「努力の正当化」として研究されてきました。とはいえ、苦労したものを好きになる現象のすべてを認知的不協和だけで説明できるわけではありません。

なぜ1ドル条件のほうが作業を好意的に評価した?

認知的不協和の研究でよく知られているのが、フェスティンガーと心理学者ジェームズ・M・カールスミスが1959年に発表した実験です。

参加者は単調な作業をしたあと、次に来る参加者に対して「作業は面白かった」という趣旨のことを伝えるよう求められました。

その際、ある参加者には1ドル、別の参加者には20ドルの報酬が渡されました。

実験では、1ドル条件の参加者のほうが、20ドル条件の参加者より作業を好意的に評価する傾向が示されました。

研究者たちは、20ドルを受け取った参加者なら、

「大きな報酬をもらったから面白いと言った」

と、自分の行動を説明しやすいと考えました。

1ドルでは外から与えられた理由として弱いため、

「本当は退屈だった」
「それなのに、他人には面白かったと伝えた」

という食い違いが生じやすくなります。

研究者たちは、作業そのものへの評価が変わることで、この食い違いが小さくなった可能性を考えました。

この実験は認知的不協和を説明する代表的な研究として知られています。ただし、この一つの実験だけで人間の態度変化すべてを説明できるわけではなく、その後も不協和が生じる条件や態度変化の仕組みについて研究が続いています。

認知的不協和は「都合のいい言い訳」と同じではない

認知的不協和の例を見ると、「自分に都合のいい理由を付けているだけでは?」と感じるかもしれません。

しかし、認知的不協和は、単に「自分に都合のいい言い訳をする心理」を意味するわけではありません。自分が持つ認識の間に食い違いが生じ、それを小さくする方向へ認識や行動が変化することを考えるための概念です。

たとえば、

「使い捨てを減らしたい」
「でも毎日のように使い捨て容器を使っている」

という食い違いを感じた人が、マイボトルや繰り返し使える容器を選ぶようになったとします。

この場合は、自分の考えを都合よく変えたのではなく、もともとの考えに近づけるよう行動を変えています。

別の人なら、

「今の生活では、すべてを使い捨てなしにするのは難しい」

という理由を加えるかもしれません。

同じような食い違いでも、考えを見直す人もいれば、行動のほうを変える人もいます。

不協和の大きさはいつも同じではない

考えと行動が食い違っていても、毎回同じ程度に気になるわけではありません。

「今日は予定より30分遅く寝てしまった」という程度なら、あまり気にしない人もいるでしょう。ところが、健康を非常に大切にしている人が、自分でも問題だと考えている生活を長く続けていれば、より大きな食い違いとして受け止めるかもしれません。

どれほど重要な考えに関係しているのか、別の説明で納得できるのか、行動を変えられる状況なのかによっても反応は変わります。

同じような矛盾でも、どれほど気になるかは人や状況によって変わります。

他人を見て認知的不協和だと決めつけることはできない

外から見て行動に矛盾があるように見えても、本人が何を重視し、どう受け止めているかまでは分かりません。別の理由や事情がある場合もあります。

そのため、他人の行動だけを見て「認知的不協和を起こしている」と断定するのは適切ではありません。

認知的不協和は、考えや行動についての認識が両立しにくいとき、人はその食い違いを小さくする方向へ変化することがあるという枠組みとして理解すると分かりやすいでしょう。

Q&A

認知的不協和はストレスと同じですか?

同じ意味ではありません。認知的不協和は、信念や態度、自分の行動についての認識などが両立しにくいことと関係する概念です。不快感を伴うことはありますが、日常で使う「ストレス」全般を指す言葉ではありません。

認知的不協和が起きると必ず自分を正当化しますか?

必ずではありません。認識を見直すこともあれば、実際の行動を変えたり、新しい理由を加えたりすることもあります。

買い物のあとに良いところばかり探すのも認知的不協和ですか?

認知的不協和と関係して説明できる場合はあります。選ばなかった商品の魅力と自分の決定が両立しにくいとき、選んだ側への評価が変化することがあります。ただし、購入後の満足や評価変化をすべて認知的不協和だけで説明することはできません。

認知的不協和と確証バイアスは同じですか?

同じ概念ではありません。認知的不協和は、信念や行動についての認識などが両立しにくい状態と関係します。確証バイアスは、自分がすでに持っている考えに合う情報を重視しやすい傾向を指します。両者が関係する場面はありますが、区別して考えられています。

まとめ

認知的不協和とは、自分の信念や態度、自分が取った行動についての認識などが互いに両立しにくいときに生じる不協和を扱う心理学の概念です。それを体系的に説明したものが、フェスティンガーによる認知的不協和理論です。

不協和が生じたとき、考え方を変えることはあります。ときには考えではなく、実際の行動のほうが変わることもあります。その強さも、本人にとっての重要さや状況によって異なります。

認知的不協和を知ると、「なぜ選んだあとで評価が変わることがあるのか」「なぜ苦労したものに価値を感じることがあるのか」といった日常の心理を考える手掛かりになります。

参考情報

  • Stanford University, Center for Advanced Study in the Behavioral Sciences「Leon Festinger」
  • Festinger, L. & Carlsmith, J. M.(1959)“Cognitive consequences of forced compliance”, Journal of Abnormal Psychology.
  • Izuma, K. & Murayama, K.(2013)“Choice-Induced Preference Change in the Free-Choice Paradigm: A Critical Methodological Review”, Frontiers in Psychology.
  • Cancino-Montecinos, S. et al.(2020)“A General Model of Dissonance Reduction: Unifying Past Accounts via an Emotion Regulation Perspective”, Frontiers in Psychology.
  • Harmon-Jones, E. et al.(2020)“The Effect of Perceived Effort on Reward Valuation”, Cognitive, Affective, & Behavioral Neuroscience.

この記事を書いた人

気になったテーマを中心に、公開情報や資料を読みながら記事をまとめています。背景や違いが見えにくい話題も、公式サイトや公開資料を確認しつつ、できるだけわかりやすく整理してお届けしています。

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