自分の声を録音で聞いたとき、「思っていた声と違う」と驚いたことがある方は多いのではないでしょうか。これは、普段の自分の声が空気を通って耳に届く音だけでなく、頭や骨の振動も一緒に聞こえているのに対し、録音では主に空気を通った成分だけを聞くことになるからです。そのため、録音の声はいつもより少し高く、細く、よそよそしく感じられやすくなります。
ふだんの自分の声は、2つの経路で聞こえている
人が自分の声を聞くとき、音は大きく分けて2つの経路で届きます。ひとつは、口から出た声が空気を通って耳に入る空気伝導です。これは周囲の人が聞いている声に近い経路です。もうひとつは、話したときの振動が頭部の組織や骨を通って内耳へ届く骨伝導で、普段の自分の声はこの2つが混ざった状態で聞こえています。Scientific American も東京大学の解説も、この違いが録音とのズレを生む基本的な理由だと説明しています。
骨伝導で伝わる成分は、一般に低い周波数が強調されやすいと考えられています。つまり、自分が普段聞いている声には、外から聞こえる音に加えて、少し低めに響く成分が重なっています。録音ではその混ざり方が変わるため、「思ったより高い」「いつもより薄い」と感じやすくなるわけです。録音音声が変に加工されているというより、普段の聞こえ方と条件が違うと考えたほうが自然です。
録音の声は、自分が内側から聞いている声とは少し別物
録音された声は、主に空気を通って届いた音をマイクが拾ったものです。そのため、普段自分が内側から聞いている声というより、周囲の人が外から聞いている声に近い音になります。東京大学の解説でも、録音で聞く声は空気を伝わった成分だけになり、それが他人の聞く声にあたると説明されています。
ただし、ここでいう「近い」は「まったく同じ」という意味ではありません。実際の録音音声は、マイクの特性、口との距離、録音する部屋の反射などでも少しずつ印象が変わります。つまり、録音の声は他人が聞いている声にかなり近いものの、録音環境によっては少し差が出ることもあります。録音で聞いた声に違和感があるのは、外から聞く音に近づいたうえで、それを自分があまり聞き慣れていないからです。
違って聞こえるのは、録音機材のせいだけではない
録音の声が思った声と違うと、スマホやマイクの性能が悪いのではないかと感じることがあります。もちろん、マイクにはそれぞれ周波数特性があり、拾いやすい音域や音の出方に違いがあります。Shure も、周波数特性はマイクの音の個性を決める大きな要素だと説明しています。
ただ、機材の差があっても、録音の声が自分の感覚とズレるいちばん大きな理由は、やはり骨伝導の成分が普段と同じ形では入らないことです。スマホで録っても、きちんとしたマイクで録っても、「録音の自分の声が少しよそよそしく感じる」という現象そのものは起こりやすいです。違和感の中心にあるのは、機材の性能差というより、ふだんの自分が聞いている声と録音で再生される声の経路の違いです。
また、同じ自分の声でも、ボイスメモ、動画撮影、オンライン通話などで印象が少し違うことがあります。これは、使うマイクの位置や集音方法が違うためです。口元に近いマイクと離れたマイクでは、声の輪郭や響きの入り方も変わります。録音の声が毎回まったく同じに聞こえないのは、不自然なことではありません。
録音の声に違和感があるのは普通のこと
この違和感は珍しい反応ではありません。人は毎日自分の声を使っていますが、実際に慣れているのは「空気伝導と骨伝導が混ざった声」です。録音ではその片方が抜けたような状態になるため、聞き慣れた自己イメージと少しズレた印象になりやすくなります。近年の研究でも、録音された自己音声は自分の声として認識されても、自然な自己音声とは感じにくいことが示されています。
だから、録音の自分の声を聞いて少し恥ずかしく感じたり、別人のように思えたりしても、それ自体はかなり普通です。声そのものが変というより、自分の中にある「いつもの声」と条件の違う音を急に聞いているため、ズレが強調されやすいのです。毎日使っているはずの声なのに録音では妙によそよそしく感じるのは、そのためです。
面白いのは、「自分の声」に2つの聞こえ方があること
この話の面白いところは、自分の声には実質的に2種類の聞こえ方があることです。ひとつは、自分だけが日常的に聞いている、骨伝導も混ざった内側の声です。もうひとつは、録音や他人の耳を通して聞こえる、外側の声です。どちらかが本物で、どちらかが間違いというより、同じ声でも届く経路が違うために印象が変わると考えるほうが自然です。
この見方をすると、録音の声に違和感があるのも不思議ではなくなります。普段の自分が知っている声と、外から聞こえる自分の声は、完全には同じではないからです。自分の声を録音で聞いたときに驚くのは、それだけ多くの人に起こる自然な反応だといえます。
まとめ
自分の声が録音だと違って聞こえるのは、普段の声が空気を通る音と骨伝導の振動の両方で聞こえているのに対し、録音では主に空気を通った成分だけを聞くことになるからです。そのため、録音の声は少し高く、細く、普段の自己イメージとズレて感じられやすくなります。マイクや録音環境で印象が多少変わることはありますが、違和感の中心にあるのは「いつもの自分の聞こえ方」と「録音で再生される聞こえ方」の差です。録音の声に驚くのは、それだけ多くの人に共通する自然な反応です。
参考情報
- Scientific American「Why does my voice sound so different when it is recorded and played back?」
- 東京大学「Why do recordings of one’s own voice sound so strange?」
- Faivre, Nathan ほか「Bone conduction facilitates self-other voice discrimination」
- Ota, Kiwamu ほか「Neural representations of own-voice in the human auditory cortex」
