肉じゃがは、日本の家庭料理を代表する一品です。
甘辛い味つけと素朴な見た目から、昔から日本にあった料理のように感じる人も多いかもしれません。
一方で、「肉じゃがはビーフシチューを真似て作られた料理らしい」という話を聞いたことがある人もいるはずです。
もしそれが本当だとすれば、和食の定番である肉じゃがに、西洋料理が関係していることになります。
この説はよく知られていますが、どこまでが史料に基づいた話で、どこからが後世に広まったエピソードなのでしょうか。
肉じゃが誕生をめぐる通説と、現在確認されている史料の位置づけを整理しながら、その由来を見ていきます。
肉じゃが誕生のきっかけとして語られる有名な話
肉じゃがの由来として広く知られているのが、明治時代の日本海軍に関係する説です。
この説では、日本海軍が西洋文化を取り入れていた時代に、
ビーフシチューのような料理を作ろうとしたことが始まりだとされています。
しかし当時の日本では、ワインやバターなどの西洋食材は手に入りにくく、
代わりに醤油や砂糖といった日本の調味料が使われました。
その結果、現在の肉じゃがに近い煮込み料理が生まれた、という流れです。
「ビーフシチューを再現しようとして、日本風の味になった」という分かりやすさから、この話は長く語り継がれてきました。
本当に史料は残っていないのか
肉じゃがの由来について、「確かな資料は残っていない」と説明されることがあります。
ただし、これはまったく史料が存在しないという意味ではありません。
実際には、明治期の海軍に関する調理教本が確認されています。
その中には、「甘煮(あまに)」と呼ばれる料理の記述があり、
牛肉とじゃがいもを甘辛く煮る内容は、現在の肉じゃがと非常によく似ています。
重要なのは、この料理が
- 名称としては「肉じゃが」ではないこと
- それが家庭料理として広く定着していたかは分からないこと
です。
つまり、肉じゃがに近い料理が存在していたことを示す史料はあるものの、
現在の肉じゃががこの時点で完成していたと断定できる資料は残っていない、
というのが、より正確な整理になります。
ビーフシチュー由来説はどこまで事実なのか
ビーフシチューが肉じゃがの直接の元になった、という話も、完全な事実とは言い切れません。
当時の一次資料に「ビーフシチューを作れと命じた」と明記された文書は確認されていないためです。
ただし、明治時代の日本では、西洋料理を日本の調味料で置き換える試みが各地で行われていました。
その流れの中で、
西洋風の煮込み料理を参考にしながら、日本人の味覚に合う形へ変化した料理が生まれた
と考えるのは自然です。
その代表例として語られるのが、肉じゃがだといえます。
なぜ肉じゃがは日本の家庭料理として定着したのか
仮に肉じゃがの原型に西洋料理の影響があったとしても、
現在の味は明らかに日本的です。
理由の一つは、使われている調味料です。
醤油と砂糖の組み合わせは、ご飯に合い、当時の日本人にとってなじみ深い味でした。
また、
- 材料が比較的安価で手に入りやすい
- 煮込み料理で失敗しにくい
- 冷めても味がなじむ
といった点も、家庭料理として広まる要因になりました。
こうして肉じゃがは、由来の細かな経緯とは別に、
「作りやすく、食べやすい料理」として日本の食卓に根づいていきました。
由来をめぐる話が今も語られる理由
肉じゃがの由来には、はっきりとした「誕生の瞬間」がありません。
そのため、さまざまな説やエピソードが語られてきました。
ビーフシチューを真似たという話は、日本が西洋文化を取り入れていく時代背景とも重なり、印象に残りやすい内容です。
事実と伝承が混ざり合いながら語られてきたことで、この説は広く知られるようになりました。
由来が一つに定まらないからこそ、肉じゃがは日本の近代史や食文化を象徴する存在として、今も語られ続けているのかもしれません。
まとめ
肉じゃがは、ビーフシチューを真似て生まれたと語られることの多い料理です。
実際には、肉じゃがに近い料理が明治期の史料に残っている一方で、現在の肉じゃががその時点で完成していたと断定できる資料は確認されていません。
ただし、西洋料理を日本の調味料で再解釈する流れがあったことは確かです。
肉じゃがは、その過程で生まれ、日本の家庭料理として定着した料理だといえます。
由来を知ることで、いつもの肉じゃがが少し違って見えるかもしれません。
