駅の案内表示や商品のパッケージ、スマートフォンの画面、家電のボタン配置。普段あまり意識しなくても、私たちの身の回りには数え切れないほどの「デザイン」があります。
そんなデザインの重要性を広く考える機会として設けられたのが、10月1日の「デザインの日」です。日付の由来は、1959年10月1日に旧通商産業省へデザイン奨励審議会が設置されたことにあります。1990年になってから、この日を記念して「デザインの日」が制定されました。
その背景には、1950年代から続いてきた日本のデザイン振興と、1973年・1989年に行われた「デザインイヤー」があります。記念日が誕生するまでの歴史を追うと、デザインが産業だけでなく暮らしや社会にも関わるものとして広がってきた流れが分かります。
デザインの日が10月1日なのは1959年の出来事が由来
「デザインの日」は、旧通商産業省、現在の経済産業省が1990年に設けた記念日です。
10月1日が選ばれた理由は、1959年10月1日にデザイン奨励審議会が設置されたことにあります。この日は、国民の幅広い見識を取り入れた本格的なデザイン政策が始まった節目とされています。
その約30年後となる1990年1月22日、毎年10月1日を「デザインの日」とすることが決まりました。なお、デザインの日は国民の祝日ではありません。
日本のデザイン振興そのものは、1959年より前から進められています。1957年には、現在のグッドデザイン賞につながる「グッドデザイン商品選定制度」、いわゆるGマーク制度が始まりました。翌1958年には通商産業省にデザイン課が設置されています。
当時の流れを並べると、次のようになります。
| 年 | 主な出来事 |
|---|---|
| 1957年 | グッドデザイン商品選定制度がスタート |
| 1958年 | 通商産業省にデザイン課を設置 |
| 1959年 | 10月1日にデザイン奨励審議会を設置 |
| 1973年 | 「’73 Design Year」を展開 |
| 1989年 | 「’89デザインイヤー」を全国展開 |
| 1990年 | 10月1日を「デザインの日」に制定 |
10月1日は、日本で初めてデザインが意識された日という意味ではありません。1950年代から進んでいたデザイン振興の中で、国の政策を本格化させる節目となった日が記念日の由来になっています。
デザインの日の制定には2度の「デザインイヤー」も関係している
1959年の出来事から「デザインの日」の制定までは約30年あります。その間にも、デザインを社会へ広げるための取り組みが続けられていました。
中でも大きな節目となったのが、1973年と1989年に展開された「デザインイヤー」です。
1973年には最初の「Design Year」が展開された
1973年には「’73 Design Year」が展開され、京都では世界インダストリアルデザイン会議も開催されました。
「’73 Design Year」は、日本産業デザイン振興会と日本インダストリアルデザイナー協会などによって展開されたデザイン運動です。この時期を境に、デザイン振興の活動はさらに幅を広げていきました。
そのため1989年のデザインイヤーは、1973年に続く2回目の大規模な取り組みにあたります。
1989年のデザインイヤーには400を超える事業が参加
1988年にはデザイン奨励審議会が「90年代のデザイン政策」をまとめ、翌1989年に「’89デザインイヤー」が全国で展開されました。
1989年は通商産業省が提唱した2回目の「Design Year」で、世界デザイン博覧会をはじめ、全国から400を超えるデザイン関連事業が参加しています。
この時期には、デザインを工業製品や企業活動だけで考えるのではなく、市民生活や地域づくりにも生かそうとする動きが広がりました。
そして翌1990年、旧通商産業省が10月1日を「デザインの日」とすることを決定します。1950年代から続いてきた政策と、1970年代・1980年代のデザイン振興がつながった先に生まれた記念日といえます。
デザインの日は何を目的に作られた?
制定の目的は、デザインの重要性を社会へ広く伝えることにありました。
当時は、快適な生活、産業活動、文化の発展など幅広い場面でデザインの役割が高まっていると考えられていました。そこで10月1日を、デザインの価値について考える機会として位置づけたのです。
創設時には、グッドデザイン賞の授与式やデザイン功労賞の表彰式、シンポジウム、ポスター配布なども行われました。
ここでいう「デザイン」は、デザイナーという職業だけを対象にしたものではありません。製品、情報、暮らし、地域など、社会のさまざまな場面に関係する考え方として扱われていました。
ロゴを手がけたのは亀倉雄策
「デザインの日」には、専用のマークやポスターも制作されています。
デザインを担当したのは、グラフィックデザイナーの亀倉雄策(かめくら・ゆうさく)です。1964年東京オリンピックの公式ポスターなどで知られています。
1990年には《10月1日デザインの日》が制作され、「デザインの日」のマークやポスターとして使われました。
記念日の内容だけでなく、それを社会へ伝えるための視覚表現にも著名なグラフィックデザイナーが関わっていた点は、この記念日ならではの特徴です。
「デザイン」は見た目をきれいにすることだけではない
「デザイン」と聞くと、ポスターやロゴ、家具、服などの色や形を思い浮かべる人も多いでしょう。
見た目を考えることはもちろんデザインの一部ですが、実際にはもっと広い範囲が対象になります。
商品やサービスなら、誰が使うのか、必要な情報が伝わるか、操作に迷わないかといった点も設計の対象です。駅の案内表示では方向を理解しやすいこと、スマートフォンの画面では目的の機能を見つけやすいことも大切になります。
グッドデザイン賞も、外観の美しさだけを評価する制度ではありません。産業や暮らしをより良くするデザインを見つけ、社会へ伝える活動として続いています。
食品パッケージなら、商品名や内容量、注意表示などを限られた面積の中で伝えます。道路標識では、移動しながらでも情報を素早く理解できる必要があります。家電のボタン配置やスマートフォンのアイコンにも、使う人が迷いにくくするための工夫があります。
こうした例から分かるように、デザインには見た目だけでなく、情報をどう伝えるか、どう使ってもらうかを考える役割もあります。
デザインの日が示す暮らしとデザインの関係
デザインの日が設けられた背景には、デザインを一部の専門分野だけにとどめず、産業や暮らし、文化へ広く関わるものとして捉える考え方があります。
1950年代のデザイン政策では、輸出振興や製品開発など産業との関係が大きなテーマでした。その後、1973年や1989年のデザインイヤーを通じて、市民生活や地域づくりへもデザイン振興の対象が広がっていきます。
駅の案内表示や食品パッケージ、家電、道路標識なども、こうした広い意味でのデザインと無関係ではありません。目立つ色や特徴的な形を作るだけでなく、情報が正しく伝わることや、使う人が迷いにくいことも設計の一部です。
現在では「デザイン」という言葉が、製品や広告だけでなく、サービス、情報、地域、組織などさまざまな分野で使われています。
10月1日の「デザインの日」は、そうしたデザインの役割が社会の幅広い分野へ広がってきた歴史とも結びついている記念日です。
まとめ
10月1日の「デザインの日」は、1959年10月1日に旧通商産業省へデザイン奨励審議会が設置されたことに由来し、1990年に制定されました。
制定までの背景には、1950年代から続いてきたデザイン政策に加え、1973年と1989年に行われたデザインイヤーがあります。特に1989年には400を超える関連事業が全国で展開され、デザインを産業だけでなく市民生活や地域へ広げる動きが強まりました。
また、ここでいうデザインは色や形だけを指すものではありません。使いやすさ、情報の伝わり方、サービスや地域の仕組みなども含まれます。
「デザインの日」の歴史には、日本のデザイン振興が産業分野だけでなく、市民生活や地域づくりへ対象を広げてきた過程も表れています。
参考情報
- 経済産業省「デザイン政策の歴史・デザインの日に関する資料」
- 公益財団法人日本デザイン振興会「日本のデザイン振興の歴史」
- 公益財団法人日本デザイン振興会「GOOD DESIGN AWARD」
- 文化庁 アートプラットフォームジャパン「亀倉雄策《10月1日デザインの日》」
