授業中によく手を挙げる子、先生へ積極的に話しかける子、グループ活動で自分の意見をすぐ伝えられる子。こうした行動は周囲から見えやすく、その子が何を考えているのかも伝わりやすくなります。
一方、理解していてもあまり発言しない子や、考えてから話したい子もいます。実際にはよく考えていても、周囲から「消極的」「やる気がない」と受け取られてしまう場面があるかもしれません。
では、おとなしい子は本当に損をしやすいのでしょうか。
おとなしいこと自体が、能力や意欲の低さを意味するわけではありません。ただし、発言や自己主張など外から見える行動が重視される場面では、本人の考えや持っている力が周囲へ伝わりにくく、不利になることがあります。
これは学校だけの話ではありません。社会に出た後も、会議で意見を出す、提案する、自分の成果を伝えるといった行動が求められる場面があります。
「静かだから損をする」というより、本人の考えや強みを周囲が知る機会が少ないことで、評価につながる材料が見えにくくなる場合があると考えると、この問題を捉えやすくなります。
「おとなしい子」にはさまざまなタイプがいる
一口に「おとなしい子」といっても、同じ理由で静かにしているわけではありません。
大勢で話すより一人で過ごすことを好む子もいれば、話したい気持ちはあるものの、人前では緊張してしまう子もいます。学校では静かでも、家や親しい友人の前ではよく話す子もいるでしょう。
心理学では、内向性とシャイネスは別の概念として扱われています。
内向性は、外向性の低さなどに関わる性格特性です。一方、シャイネスには、人と関わりたい気持ちがあっても対人場面で緊張やためらいを感じるといった特徴が含まれます。
そのため、
「発言しないから内向的」
「おとなしいから人付き合いが苦手」
「静かだからシャイ」
と外から見える行動だけで決めることはできません。
子どものシャイネスについて調べた研究は数多くありますが、その結果を「おとなしい子」全員へ当てはめることもできません。外から静かに見える理由は一人ひとり異なるからです。
おとなしい子が「損をする」と感じやすい3つの場面
おとなしいことそのものに問題があるわけではありません。それでも、学校のように大勢の人が同じ場所で活動する環境では、発言や質問など表に出た行動の違いが周囲からの見え方に影響することがあります。
1. 考えていることが周囲から見えにくい
授業中に答えを思いつき、手を挙げて発言した子は「ここまで理解している」「こんな考えを持っている」と先生へ伝えることができます。
同じ答えを頭の中で考えていても、発言しなければその思考は外から見えません。
ここで生まれているのは、能力そのものの差ではなく、何を考えているかの見えやすさの差です。
子どものシャイネスを扱った研究でも、教師が静かな児童の内面的な経験を十分に把握しにくい場合があることが指摘されています。
これは「先生がおとなしい子を見ていない」という意味ではありません。大勢の子どもがいる教室では、発言や質問として表れた考えほど周囲から把握しやすくなります。
そのため、発言が少ない子については、書いた内容、課題への取り組み、一対一でのやり取りなど、別の手がかりから理解を確かめることも必要になります。
2. 困っていても周囲へ伝わりにくいことがある
授業が分からないときに「分かりません」と言える子なら、先生も支援が必要だと気づきやすくなります。
一方、自分から質問することが少ない場合、静かに座っている様子だけでは「理解しているのか」「聞きたいことがあるのか」を区別しにくいことがあります。
静かで援助を求める行動が少なければ、困っていること自体が表面に出にくくなる場合があります。
ここでも「おとなしい性格」が悪いわけではありません。
分からないときや助けが必要なときに、本人が意思を伝えられる方法があるか。そして周囲にも、それを受け取る方法があるかが重要になります。
3. 発言量が「参加しているように見える度合い」に影響しやすい
授業への参加というと、挙手や発言を思い浮かべやすいものです。
しかし実際には、話を聞きながら考える、文章へまとめる、課題を修正する、少人数では意見を伝えるといった参加の仕方もあります。
ここで知っておきたいのが、学校での学習評価です。
文部科学省が示す現行の学習評価の考え方では、「主体的に学習に取り組む態度」を挙手の回数など形式的な行動だけで評価することは適当ではないとされています。
学習状況を振り返り、自分の学び方を調整しながら取り組もうとしているかなども含めて見る考え方です。
ただし、全国すべての学校や教室で、まったく同じ方法によって評価が行われているという意味ではありません。
国が評価についての基本的な考え方を示していても、具体的に何を材料とし、どのように評価へ反映するかという運用には、学校、教科、教師などによる違いがあります。
制度上は発言回数だけで主体性を評価することが想定されていなくても、実際の教室では発言や質問の多い子ほど、考えや意欲が周囲から見えやすくなる場面はあります。
学校を卒業しても「見える行動」が有利になる場面はある
同じ問題は、学校を卒業した後の職場でも起こり得ます。
会議で意見を出す、提案する、自分の判断理由を説明する、仕事の成果を報告する、周囲へ働きかける。社会に出ると、こうした自己表現が求められる場面があります。
そこで周囲が知ることができるのは、本人の頭の中にある力そのものではなく、言葉や行動として外へ表れた情報です。
たとえば、同じ会議に同程度の知識を持つ二人がいて、一人は何度も提案し、もう一人は必要な場面だけ話すとします。前者の考えのほうが、周囲から認識されやすくなることがあります。
積極的に発言したり、自分の成果を示したりする人が多い集団では、静かな人の考えや働きは相対的に目立ちにくくなる場合があります。
能力があっても、それを外へ示す機会が少ないと、目に留まりやすい人が多い場では相対的に目立ちにくくなることがあります。
対面する集団の中で誰が影響力や地位を得やすいのかを調べた研究でも、能力だけでなく、自己主張や外向的な行動など、自分の考えや強みを周囲へ示しやすい特徴が関係することが報告されています。
ここから言えるのは、「自己主張が強い人ほど仕事ができる」ということではありません。
実際に持っている力と、それが集団の中で周囲へ伝わりやすいことは別です。
リーダーとして認識されることと、実際の成果は別
この違いを考えるうえで参考になるのが、リーダーシップ研究で使われる二つの概念です。
一つはleader emergence(リーダー・エマージェンス=集団の中でリーダーとして選ばれたり、周囲からリーダーだと認識されたりすること)です。
もう一つはleader effectiveness(リーダーとして実際に成果を上げること)です。
この二つは似ていますが、同じものではありません。
会議ですぐに発言する人、自分の意見を明確に伝える人、周囲へ積極的に働きかける人は、集団の中で存在感を示しやすくなります。そのため「この人が中心になりそうだ」と周囲から認識される場面があります。
一方、実際にリーダーとして成果を上げるには、発言量だけでなく、判断や他者との協力など複数の要素が関わります。
そのため、リーダーとして認識されやすいことと、実際にリーダーとして成果を上げることは必ずしも一致しません。
時間をかけて考えてから発言する人や、必要な場面だけ意見を示す人は、集団の中で目立ちにくいことがあります。
それでも、持っている知識や判断力、周囲との協調力まで低いとは限りません。
おとなしいことと能力・意欲は別
静かな行動を、そのまま学力や理解力、意欲の低さと結びつけることはできません。
人と関わりたいのに緊張して話せない子と、一人で過ごすことを好んでいる子では背景が違います。大勢の前では話さなくても、文章や少人数の場では自分の考えを十分に表せる人もいます。
その一方で、学校でも社会でも、自分の考えや必要な情報を周囲へ伝えなければならない場面はあります。
ここで目指すものは、必ずしも「よく話す人になること」ではありません。
必要なときに、自分に合った方法で考えや意思を伝えられることのほうが大切です。
口頭で説明するだけでなく、文章へまとめる、事前に考えを準備する、一対一で伝えるなど、意思を示す方法はいくつもあります。
「発言しないからやる気がない」「静かな人だからコミュニケーション能力が低い」と決めるのではなく、その人がどのような方法なら考えを表しやすいのかを見る必要があります。
考えを伝える方法は「もっと話す」だけではない
静かな子の考えが周囲から見えにくい問題を、本人の性格だけを変えることで解消しようとする必要はありません。
シャイな児童への支援を扱った研究では、教師が本人との関係を築き、子どもが何を考えているのか、どのような場面なら参加しやすいのかを理解することの重要性が示されています。
こうした関係づくりの視点に加え、教室で考えられる方法としては、
- すぐに答えを求めず、考える時間を取る
- 全員の前だけでなく、2人や少人数で話す機会を作る
- 文章やワークシートでも考えを表せるようにする
- 一対一で質問や相談ができる場面を作る
- 発言回数だけで参加度を捉えない
といった工夫があります。
こうした方法は、おとなしい子だけに限ったものではありません。
すぐ口頭で答えられる子もいれば、一度考えをまとめてから話したい子もいます。学んだことや考えていることを表す方法には個人差があります。
社会に出てからも同じです。
会議で即座に発言することだけが自己表現ではありません。事前に議題を確認して考えをまとめる、資料を用意する、文章で提案する、少人数で意見を伝えるなど、自分の考えや仕事ぶりを周囲へ伝える方法はいくつもあります。
必要なのは、外向的な人と同じ振る舞いをすることではなく、自分が持っている考えや力が、必要な場面で相手へ届く方法を持つことです。
ただし、人と話したいのに強い苦痛が続いている、学校生活などに大きな支障が出ている場合は、単なる「おとなしい性格」と同じ話として扱うことはできません。
反対に、本人が困っておらず、必要な場面では意思や考えを伝えられているのであれば、静かな性格そのものを変える必要があるとは限りません。
まとめ
おとなしい子が必ず損をするわけではありません。ただし、発言や自己主張など目に見える行動が重視される場面では、考えていることや持っている力が周囲へ伝わりにくく、不利になることがあります。
学校では、文部科学省が示す学習評価の考え方として、挙手回数など形式的な行動だけで主体性を評価することは適当ではないとされています。一方、具体的な評価や教室での運用には違いがあり、発言する子の考えが周囲から見えやすい場面はあります。
社会に出てからも、意見や成果を外へ示す人が多い集団では、静かな人の働きが相対的に目立ちにくくなることがあります。
また、リーダーとして認識されやすいことと、実際にリーダーとして成果を上げることは同じではありません。目立ちやすさと実際に持っている力は分けて考える必要があります。
静かなこと自体よりも、外から見える行動だけで理解や意欲、能力を捉えようとすると、その人が持っているものが見えにくくなることがあります。
大切なのは、よく話す人になることではありません。必要な場面で、自分の考えや力を周囲へ伝えられる方法を持つことです。
参考情報
- 文部科学省「総則・評価特別部会、小学校部会、中学校部会、高等学校部会における議論の取りまとめ」
- Kenneth H. Rubin, Robert J. Coplan, Julie C. Bowker「Social Withdrawal in Childhood」Annual Review of Psychology.
- Anat Korem「Teachers’ outlooks and assistance strategies with regard to “shy” pupils」Teaching and Teacher Education.
- Geir Nyborg, Liv Heidi Mjelve, Anne Edwards, W. Ray Crozier, Robert J. Coplan「Working relationally with shy students: Pedagogical insights from teachers and students」Learning, Culture and Social Interaction.
- Michael P. Grosz, Robbie C. M. van Aert, Mitja D. Back「A meta-analytic review of the associations of personality, intelligence, and physical size with social status」Psychological Bulletin.
- Anoop A. Javalagi, Daniel A. Newman, Mengtong Li「Personality and Leadership: Meta-Analytic Review of Cross-Cultural Moderation, Behavioral Mediation, and Honesty-Humility」Journal of Applied Psychology.
- Nathan Baker, William Scott, Christopher D. Nyeほか「The Many Facets of Leadership: A Meta-Analysis of Personality Facets, Leader Effectiveness, and Emergence」Journal of Applied Psychology.
