人によって価値観が違うのはなぜ?同じ環境でも差が出る理由

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同じ家庭で育った兄弟姉妹なのに、お金の使い方も仕事への考え方もまったく違う。長年一緒にいる友人でも、大切にするものが違うことがあります。

「育った環境が価値観に関わるなら、同じ環境で育った人は似るのでは?」と思うかもしれません。

しかし、人の価値観は家庭や文化だけで一つに決まるものではありません。同じ社会で暮らしていても、一人ひとりが経験する人間関係や出来事は異なります。本人自身の特徴にも違いがあり、複数ある価値の中で何をより優先するかも人それぞれです。

人によって価値観が違う理由を考えるときは、「持っている価値そのものがまったく違う」と考えるより、「何をどのくらい大切にしているか」に注目すると違いが見えてきます。

目次

価値観の違いは「何を持っているか」より優先順位に表れやすい

人はそれぞれ、まったく別の種類の価値だけを持って生きているわけではありません。

価値研究で広く知られる心理学者シャローム・シュワルツの理論では、「安全」「自由」「達成」「周囲への配慮」など、人に共通して見られる基本的な価値の構造が示されています。こうした構造はさまざまな文化で研究されており、それぞれの価値をどの程度重視するかには個人差があります。

たとえば、

「生活の安定も、新しい挑戦も大切」

と思っている二人がいたとします。

一人は「まず生活を安定させてから挑戦したい」と考え、もう一人は「多少不安定でも、今しかできない挑戦を優先したい」と考えるかもしれません。

二人とも安定と挑戦を大切にしています。それでも、どちらをより優先するかが違えば、同じ状況でも選択は変わります。

価値観の違いは、価値を持っているかどうかだけではなく、複数ある価値の優先順位の違いとして表れることがあるのです。

同じ環境で育っても価値観が違う5つの理由

価値観には家庭や学校、文化などが関わります。しかし「同じ家で育った」「同じ学校に通った」というだけで、二人が同じ経験を積み重ねるわけではありません。

価値観そのものがどのように形づくられるかは、「価値観はどうやって生まれる?家庭や経験から形づくられる理由」で詳しく紹介しています。

ここでは、似た環境から出発しても、なぜ価値の優先順位に差が出るのかを見ていきます。

1. 同じ家庭でも実際に経験することは同じではない

兄弟姉妹は同じ親、同じ家で育つことがあります。それでも生活のすべてを共有しているわけではありません。

学校で出会う友人も違えば、先生との関係も違います。得意なこと、失敗した経験、周囲から任される役割にも一人ひとり違いがあります。

行動遺伝学では、こうした個人差を考える際に非共有環境(non-shared environment=同じ家庭で育ったきょうだいを互いに異ならせる環境要因などを統計的に捉える考え方)という概念が使われます。

ただし、非共有環境は単に「違う友達がいた」「違う先生に教わった」といった特定の経験そのものを意味する言葉ではありません。研究上の推定には測定上の誤差なども含まれ得るため、具体的な一つの出来事とそのまま対応させることはできません。

人の価値を扱った双生児研究のレビューでは、検討された価値について遺伝的要因と非共有環境の双方の寄与が報告されています。

つまり、「同じ家庭で育った」ことと「同じ経験をしてきた」ことは同じではないということです。

友人関係や学校生活など一人ひとり異なる経験は、価値観の違いを考える手がかりになります。ただし、双生児研究だけから「この経験が原因で、この価値観になった」と個別の原因まで特定することはできません。

2. 育った環境だけでは説明できない個人差もある

価値観の違いを、すべて「育てられ方」に結びつけることもできません。

双生児研究をまとめたレビューでは、人の価値の個人差に遺伝的要因が関与することを示す結果が報告されています。一方で、環境に関係する要因も無視できません。

ここでいう遺伝的要因は、「挑戦を大切にする遺伝子」「家族を大切にする遺伝子」のようなものがあり、特定の価値観を直接決めているという意味ではありません。

研究で示される遺伝率も、ある集団で見られる個人差について推定した統計量です。特定の人について「この価値観の何%が遺伝で決まった」と分けることはできません。

また、価値観と性格には関連がありますが、心理学では別の概念として扱われます。

性格特性は、その人が普段どのように考えたり行動したりしやすいかという比較的持続する傾向です。一方、価値は「自分にとって何が重要か」「何を目指したいか」という目標や優先順位に関わります。

たとえば慎重な性格だからといって、全員が必ず「安定」を最優先するとはいえません。

価値観の個人差は、本人自身の特徴か育った環境かのどちらか一方だけでは説明しにくいものです。

3. 関わる友人や集団が一人ひとり違う

同じ地域や学校にいても、全員が同じ人間関係の中で生活するわけではありません。

スポーツをする仲間、趣味を共有する友人、進学先で出会った人、職場の同僚など、関わる相手が変われば触れる考え方にも違いが出ます。

2024年に公表された思春期の友人関係を追跡した研究では、価値の優先順位が似た相手と関係を作る「選択」と、友人として関わる中で価値が似ていく「社会化」の両方が確認されました。ただし、すべての価値や人間関係で同じ程度の影響が見られたわけではありません。

人は同じ国に暮らしていても、家庭、地域、学校、職業、世代など複数の社会的な環境に属しています。

文化によって価値の平均的な優先順位に違いが見られることもありますが、同じ文化の中にも個人差があります。

そのため、

「日本で育ったからこの価値観」
「この世代だからこの考え方」

と個人の価値観まで一つに決めることはできません。

文化や世代は、何を大切にするかに関係する背景の一つです。同じ社会の中でも、実際の優先順位は人によって異なります。

4. 自分の価値に合う環境を選ぶこともある

環境が価値観へ影響する一方、すでに持っている価値が、どの環境を選ぶかに関わる場合もあります。

たとえば、新しい経験を重視する人が変化の多い進路へ関心を持ったり、ある考え方を大切にする人が、似た考えを持つ人たちと関わる機会を増やしたりすることがあります。

人生の環境が変わる場面を追跡した複数の研究では、自分の価値に合う環境へ入る自己選択(self-selection=自分の特徴や価値に合う環境を選ぶこと)と、新しい環境で過ごす中で価値が影響を受ける社会化(socialization=周囲との関わりを通じて考え方や行動の仕方などを身につける過程)の両方が検討されています。

研究結果は、価値に合う環境を自ら選ぶ傾向がある一方、生活環境が大きく変わった場面では、その後の経験に伴う価値の変化も起こり得ることを示しています。

つまり、周囲の環境が価値観に関わるだけでなく、現在の価値が次に選ぶ環境へ関わることもあるのです。

同じ家庭から出発しても、選ぶ進路や人間関係が異なれば、その後に経験する環境にも違いが生まれます。こうした積み重ねも、人による価値観の違いと関係していると考えられます。

5. 価値観の変化の仕方も全員同じではない

価値観には一定の安定性がありますが、成人期にも変化は見られます。

2026年に公表された5~14歳の価値に関する系統的レビューでは、45本の研究が検討されました。子どもの段階でも価値の構造や優先順位を捉えられ、年齢が上がるにつれて価値がより安定する傾向が報告されています。

大人についても、25~70歳の1万人以上を最大11年間追跡した2024年の研究では、成人期を通じて個人内の価値に変化が見られました。すべての価値が同じ方向や同じ速度で変わったわけではなく、成人後期まで変化が続くものも確認されています。

子どもの頃に似た価値の優先順位を持っていた二人でも、その後の経験が異なれば、時間とともに差が出る可能性があります。

ただし、年齢だけを見て「若い人はこの価値観」「年配者はこの価値観」と決めることはできません。同じ年代の中にも個人差があり、年齢による変化と、異なる時代を経験してきた世代の違いも分けて考える必要があります。

同じ出来事でも判断が違うのはなぜ?

二人が同じ出来事に直面しても、そこで同じ判断をするとは限りません。すでに重視しているものが違えば、一つの出来事の中で注目する部分も変わるためです。

たとえば会社から転勤を提案された場合を考えてみましょう。

新しい経験や挑戦をより重視する人には、

「知らない土地で経験を広げられる機会」

と映るかもしれません。

一方、家族との時間や現在の生活の安定をより重視する人には、

「今の暮らしを大きく変える選択」

として映ることがあります。

同じ「転勤」という事実を理解していても、何をより大切にしているかによって、選択するときに重く見る部分は異なります。

二人の違いは、必ずしも一方が事実を理解していないために生じているとは限りません。複数の価値の中で何を優先するかが違えば、同じ情報から異なる選択に至ることがあります。

価値観が違うからといって「どちらかが間違い」とは限らない

価値観が違う相手と話していると、「なぜそんな考え方になるのだろう」と感じることがあります。

しかし、相手が大切なことを理解していないのではなく、何をより優先するかが違っている場合があります。

たとえば仕事について、

「多少忙しくても収入を増やしたい」

という人と、

「収入が少し下がっても自由な時間を確保したい」

という人がいたとします。

一方は収入や達成をより重く見ていて、もう一方は時間の自由や生活との両立をより優先しているのかもしれません。

「どちらが普通なのか」だけで比べるより、何を重く見てその判断に至ったのかを見ると、違いの背景を捉えやすくなります。

ただし、意見の違いが、必ずしも価値観の不一致を意味するとは限りません。

持っている情報が違う場合もあれば、言葉の意味を別々に受け取っている場合もあります。単なる誤解や事実認識の違いから結論が分かれていることもあります。

同じ事実を理解していても結論が違う場合には、「何をより大切にしているのか」という優先順位に目を向けることで、違いの背景が見えてくることがあります。

まとめ

人によって価値観が違うのは、一人ひとりがまったく別の価値だけを持っているからではありません。共通して大切だと思うものがあっても、何をどれほど優先するかには違いがあります。

同じ家庭で育っても、その後に出会う人や経験する出来事は完全には同じではありません。本人自身の特徴や、所属する集団、文化的な背景も関係します。

さらに、人は周囲から影響を受けるだけでなく、現在の価値に合う進路や人間関係を選ぶことがあります。そこで経験する環境の違いも、その後の価値の優先順位と関係します。

価値観には安定する面と変化する面があり、その変化の仕方も全員同じではありません。

同じ家庭や社会から出発しても、経験すること、選ぶ環境、何をより大切にするかが少しずつ異なるため、人によって価値観にも違いが出てくるのです。

参考情報

  • Lilach Sagiv, Sonia Roccas, Jan Cieciuch, Shalom H. Schwartz「Personal Values Across Cultures」Annual Review of Psychology.
  • Louise Twito, Ariel Knafo-Noam「Beyond culture and the family: Evidence from twin studies on the genetic and environmental contribution to values」Neuroscience & Biobehavioral Reviews.
  • Jan Cieciuch, Maria Kwiatkowska, Martin Kindschiほか「Peers and value preferences among adolescents in school classes: a social network and longitudinal approach」European Journal of Psychology of Education.
  • Anat Bardi, Kathryn E. Buchanan, Robin Goodwin, Letitia Slabu, Mark Robinson「Value stability and change during self-chosen life transitions: Self-selection versus socialization effects」Journal of Personality and Social Psychology.
  • Oscar Smallenbroek, Adrian Stanciu「Age and gender differences in the value development of Dutch adults in 11 years of longitudinal data」Journal of Research in Personality.
  • Evelia Murcia-Álvarez, Iva Tendais, Alice Ramosほか「The development of social values in childhood and early adolescence: a systematic review」Children and Youth Services Review.

この記事を書いた人

気になったテーマを中心に、公開情報や資料を読みながら記事をまとめています。背景や違いが見えにくい話題も、公式サイトや公開資料を確認しつつ、できるだけわかりやすく整理してお届けしています。

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