カーボンナノチューブはなぜ未来材料?注目される理由

カーボンナノチューブ(CNT)は、炭素原子だけでできた極細の筒状材料です。軽くて強く、電気や熱も通しやすいという特徴があるうえ、すでにリチウムイオン電池の導電助剤など実用品にも入り始めています。長く注目されているのは、性能の高さだけでなく、「実用化が進んでいるのに、なお研究が続く」という独特の位置にいるからです。


目次

そもそもカーボンナノチューブとは何か

CNTは、炭素の六角形の網目が丸まってできたナノサイズのチューブです。1991年に多層カーボンナノチューブが見いだされ、その後1993年に単層カーボンナノチューブが見いだされました。現在は、単層と多層で太さや向く用途が異なる材料として扱われています。産総研の資料では、単層CNTは直径およそ1〜4ナノメートル、多層CNTはおよそ4〜150ナノメートルと説明されています。


すごいと言われるのは、性質の組み合わせが珍しいから

CNTが特別視されるのは、ひとつの性能だけが高いからではありません。軽さ、強さ、導電性、熱伝導性といった、材料の世界では同時に満たしにくい性質をひとつの材料系の中で狙えるからです。産総研の一般向け解説でも、一般的な紹介として、鋼より強く、銅より熱を伝えやすく、アルミより軽く、シリコンより高い電子移動度を持つといった特徴が挙げられています。こうした性質の重なりが、CNTへの期待を大きくしています。

軽いのに強い

材料の世界では、強いけれど重い、軽いけれど強度が足りない、という組み合わせが珍しくありません。CNTが注目されるのは、軽さと強さを両立できる可能性があるからです。しかも、単なる補強材としてだけでなく、複合材料の中で機械的特性を底上げする役割も期待されています。こうした性質は、構造部材や高機能部材の候補として語られやすい理由のひとつです。

電気や熱も通しやすい

CNTは、電気を通しやすく、熱も逃がしやすいことでも注目されています。ここが面白いところで、軽くて強いだけなら補強材の話で終わりやすいのに、CNTは導電助剤や放熱用途、電子デバイス候補にもつながります。ひとつの材料群がここまで広い分野で期待されるのは珍しく、その応用範囲の広さが「次世代材料候補」と呼ばれやすい背景になっています。


次世代材料候補と言われながら、すでに実用化も進んでいる

CNTが面白いのは、ずっと研究室の中だけにある素材ではないところです。産総研は、多層CNTがリチウムイオン電池の導電助剤として世界で年5000トン以上使われていると説明しています。用途は電池だけでなく、スポーツ用品、防さび塗料、スピーカー振動板、発熱材料などにも広がっています。次世代材料候補として語られながら、すでに一部では「今の材料」になっているわけです。

NEDOの成果でも、CNTをほぐして分散しやすくする技術が三菱電機の車載用スピーカー振動板に採用されたことが公表されています。CNTは「いつか使われる材料」というより、用途ごとに少しずつ実装が進んでいる段階だと見るほうが実態に近いです。


それでも一気に広がらないのは、扱いが難しいから

ここまで見ると万能材料のようですが、難しさもはっきりあります。代表的なのは、CNTが凝集しやすいことです。NEDOは、CNTは一般に凝集塊の状態で存在しやすく、本来の性能を引き出すには、その塊をほぐして母材の中に高分散させる必要があると説明しています。ところが、強くほぐそうとするとCNT自体が傷んだり短くなったりすることがあり、高分散と高性能の両立は簡単ではありません。

産総研も、今後さらに用途を広げるには、量産技術だけでなく分散評価技術の向上が重要だと述べています。CNTは性能が高いからこそ、入れれば自動的によくなる材料ではなく、どう混ぜるか、どう並べるか、どう評価するかで結果が大きく変わります。優れた材料なのに研究が終わらないのは、この「使いこなし」の難しさがあるためです。

欲しい構造だけをそろえるのも難しい

CNTは、ただ作れればよい材料ではありません。産総研の2025年発表でも、CNTの物性は円筒の直径や炭素の並び方に強く依存すると説明されています。つまり、どの太さで、どんな構造のものを、どれだけそろえて作れるかが大きなポイントになります。性能の高さに注目が集まりやすい一方で、実際にはこの構造制御の難しさが長年の課題になっています。


半導体や次世代デバイスでも期待が続く

CNTは、電池や複合材料だけで注目されているわけではありません。電子デバイス材料としての期待も大きく、NIMS・産総研・東京大学の研究チームは2021年、金属的なCNTの中に半導体ナノチャネルを作り、2.8ナノメートルのCNTトランジスタで室温量子輸送を観測したと発表しました。この成果は、CNTが将来のナノデバイス候補として期待される理由を示す研究のひとつです。

もちろん、これはすぐにシリコンを置き換えるという話ではありません。けれど、電池材料、複合材料、放熱材料、電子デバイス候補まで、同じ材料群が広い分野で語られているのはかなり珍しいことです。CNTが長く注目されるのは、用途がひとつに閉じていないからでもあります。


研究が続くのは、未完成だからではなく伸びしろが大きいから

CNTが今も次世代材料候補として語られるのは、すぐれた性能を持ちながら、まだ完全には使いこなせていないからです。産総研の2025年発表でも、欲しい構造のCNTを狙って作ることや、混ざったものの中から特定構造だけを選び分けることが長年の課題だと説明されています。今の段階でも十分に実用化は進んでいますが、研究が進めばさらに性能を引き出せる余地が大きいということです。

軽くて強く、電気や熱にも強い。しかも、まだ伸びる余地がある。CNTが長く注目されるのは、その両方を持っているからです。次世代材料候補とされながら、すでに一部では実用品でもあり、なお研究の最前線にもいる。この「実用品でもあり、なお研究対象でもある」立ち位置が、CNTの大きな特徴です。


Q&A(よくある疑問)

カーボンナノチューブは、まだ研究段階の材料ですか

研究段階の側面はありますが、それだけではありません。多層CNTはリチウムイオン電池の導電助剤としてすでに大きな需要があり、スピーカー振動板などにも使われています。基礎研究と実用化が同時に進んでいる材料と考えるのが近いです。

何がそんなにすごいのですか

軽さ、強さ、導電性、熱伝導性といった性質を同時に狙える点です。しかも用途が電池、複合材料、放熱、電子デバイス候補まで広く、ひとつの材料群として扱える範囲がかなり大きいことも注目の理由です。

どうして、そんなに優秀なのに一気に広がらないのですか

性能をうまく引き出すのが難しいからです。CNTは凝集しやすく、分散のさせ方で性能が大きく変わります。さらに、直径や炭素の並び方でも性質が変わるため、欲しい構造をそろえて作ること自体が難しいという課題があります。


まとめ

カーボンナノチューブが次世代材料候補とされるのは、軽さ、強さ、導電性、熱伝導性といった魅力的な性質を同時に狙えるうえ、電池、複合材料、放熱、電子デバイス候補まで用途が広いからです。しかも、すでにリチウムイオン電池の導電助剤など実用品に入り始めています。

その一方で、凝集しやすさや構造制御の難しさはなお残っていて、性能を十分に引き出すには工夫が欠かせません。CNTが注目され続けるのは、「すごい材料」で終わらず、「まだ伸びる材料」でもあるからです。


参考情報

  • 産業技術総合研究所(産総研) : カーボンナノチューブとは?
  • 産業技術総合研究所(産総研) : 単層CNT量産・応用に関する構成学論文
  • 産業技術総合研究所(産総研) : カーボンナノチューブを融合して直径2倍のチューブへと効率よく変換
  • NEDO : CNT本来の性能を発現させる技術開発の成果が実用化を達成
  • NIMS : Observation of Quantum Transport at Room Temperature in a 2.8-Nanometer CNT Transistor

この記事を書いた人

気になったテーマを中心に、公開情報や資料を読みながら記事をまとめています。背景や違いが見えにくい話題も、公式サイトや公開資料を確認しつつ、できるだけわかりやすく整理してお届けしています。

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