業務ではふつうにPCを使っているのに、会議になると手書きのメモが残る。録音すれば聞き漏れを減らせそうなのに、あえてICレコーダーを使わない。AI議事録も便利そうなのに、全面的には任せない。
日本の会議でこうした場面が残るのは、技術そのものを嫌っているからというより、会議中のふるまい、機密管理、そしてAIや録音をどこまで正式記録づくりに組み込むかに慎重だからです。デジタル庁では生成AI利用環境「源内」の業務利用が進んでおり、2025年5月から7月の3か月で職員約1,200人中約950人、約8割が利用しました。AI戦略会議でも、まずは公開された会議の議事録作成など、機密性の低い業務から試行する考え方が示されています。
PCのほうが合理的な場面は、実際にかなり多い
まず前提として、タイピングに慣れている人にとっては、手書きよりノートPCのほうが速いことは珍しくありません。あとで検索しやすく、共有しやすく、修正もしやすいので、入力手段としてはかなり合理的です。録音や音声認識を組み合わせれば、聞き漏れや固有名詞の取り違えも減らしやすくなります。議事録作成に関する2026年の調査でも、音声認識による文字起こしを「便利」と答えた人は99.6%でした。
つまり、PCや録音のほうが効率的な場面は、かなりあります。ここを無理に否定しないほうが実感に合います。会議で手書きや非録音が残る理由は、「PCや録音が不便だから」ではなく、別のところにあると見たほうが自然です。
それでも手書きが残るのは、会議中のふるまいと慣行が影響しやすいから
それでも会議で手書きが残ることがあります。これは、手書きのほうが本質的に優れているからではありません。会議では、速さだけでなく、その場でどう見えるかや、どんなふるまいが好まれるかも影響します。会議によっては、ノートPCを開くこと自体が少しよそよそしく見えたり、打鍵音や視線の動きが気になったりすることもあります。図や矢印、余白を使ってラフに書きたい場面では、紙のほうが扱いやすいと感じられることもあります。
実際、手書きメモ自体は今も珍しくありません。LINE WORKS の2025年の調査では、不動産・建設業の営業職における「会議やお客様との打ち合わせ内容の記録方法」として、「メモ帳やノートに手書きしている」が73%で最も多く、「WordやExcelで入力している」は45%でした。少なくとも一部の業種では、PCを使える職場でも、会議では手書きが併用されていることが分かります。
短い打合せや少人数の会議では、まず個人メモとして要点だけを押さえれば足りることもあります。こうした場面では、あとで検索しやすいかどうかより、その場で素早く書けるか、自由に書き散らせるかが優先されやすくなります。手書きが残るのは、紙のほうが常に優秀だからではなく、会議中の使い勝手と職場ごとの慣れがまだ効いているからだと考えると分かりやすくなります。
録音したほうが確認精度は上がる。それでも録音をためらう理由がある
録音には、はっきりした利点があります。あとで聞き直せるので、聞き漏れや聞き間違いを減らしやすく、固有名詞の確認にも役立ちます。だから、「録音して後から要点にまとめたほうがミスが少ないのでは」という疑問はかなりもっともです。実際、音声認識やAIの利便性に対する評価は高く、文字起こしを便利だと感じる人は非常に多くなっています。
ただ、録音データは最終版の議事録より情報量の多い生データになりやすく、声そのもの、言い直し、雑談、未整理の発言まで含みます。個人情報保護委員会は、通話内容から特定の個人を識別できる場合、録音データは個人情報に該当し得るとしています。特定の個人を直接識別できない場合でも、ほかの情報と容易に照合できれば個人情報に当たり得ます。さらに、音声から特徴情報を抽出して本人認証に使える形へ変換した場合は、個人識別符号に当たり得るとしています。
IPAも、Web会議の録画・録音データをクラウドに保存する場合、完全削除の可否、暗号化方式、暗号鍵の扱いなどを確認すべきだと案内しています。会議録音・録画データ、共有資料、チャットなどの会議データがクラウド上にある場合は、端末側への移動や暗号化、クラウド上からの削除も検討すべきとされています。録音したほうが確認精度は上がっても、一律導入にならないのは、便利さと引き換えに管理上の論点が増えるからです。
AI議事録が一気に広がらないのは、便利でも不安が残るから
AI議事録も、まったく使われていないわけではありません。政府内では生成AIの利用が進んでおり、まずは機密性の低い会議の議事録作成などから試す考え方も示されてきました。使うこと自体は、すでに現場の選択肢に入っています。
それでも全面置換が起きにくいのは、便利さと同時に不安も残っているからです。2026年の調査では、議事録作成で生成AIを「積極的に活用したい」が66.0%ある一方、不安として「正確性・信頼性」が59.2%、「セキュリティ・情報漏えい」が50.2%に上りました。さらに、生成AIの議事録のほうが若手社員より精度が高いと見る回答は多かった一方、人間が作成した議事録のほうが信用できるという回答も66.0%ありました。つまり、AIは下書きとして便利でも、そのまま最終版にするにはまだ慎重さが残るという感覚が強いわけです。
ここでよく出るのが、「後から人が調整すれば解決するのでは」という考え方です。実際、その方向で使うのが今の主流に近いです。AIで文字起こしや要約の草案を作り、人が確認・補正して正式版にする。かなりの問題はこれで減らせます。
ただ、その場合でも、完全自動化のうまみは薄れやすくなります。結局のところ、AIをそのまま正式記録にするのではなく、AIを補助にして人が確定する運用が中心になりやすいからです。調査結果を見る限り、今の現場感覚に近いのもその形です。
日本は技術を使わないのではなく、会議ごとに線を引いている
ここまで見ると、日本の会議文化は「手書きか、PCか」「録音か、非録音か」「AIか、人か」という単純な二択ではありません。タイピングに慣れている人にはPCのほうが合理的ですし、録音や文字起こしは確認精度を上げやすいです。けれど、機密性が高い会議、音声データを残したくない会議、外部サービス利用に慎重な会議では、手書きや非録音がなお選ばれやすい。逆に、公開前提の会議や定例の情報共有では、音声認識やAI要約と相性がよい場面も多いはずです。政府の方針も、まさに機密性の低いところから試す方向でした。
つまり、日本の会議文化は「技術を使わない文化」というより、便利さ、確認精度、機密管理、信頼性を見ながら、会議ごとに使い分けている文化と考えるほうがしっくりきます。変化が遅く見えるのは、道具の優劣だけでなく、正式記録の扱い方や情報管理の考え方まで一緒に動かさなければならないからです。
Q&A(よくある疑問)
まとめ
日本の会議で手書きや非録音が残るのは、PCや録音のほうが非効率だからではありません。PCのほうが速い人もいますし、録音や文字起こしが確認精度を上げるのも事実です。
それでも一律導入にならないのは、会議中のふるまいとして手書きがなお選ばれる場面があること、録音データは最終版より情報量の多い生データになりやすいこと、そしてAIも含めて、正確性やセキュリティへの不安がまだ残っているからです。
その一方で、日本でもAIや音声認識の活用そのものは着実に進んでいます。
だから、日本の会議文化は「技術を使わない文化」というより、会議の性質に合わせて、便利さと慎重さの間で線を引いている文化と見るのが、いちばん実態に近そうです。
参考情報
- デジタル庁 : デジタル庁職員による生成AIの利用実績
- 内閣府 : 第3回 AI戦略会議 議事要旨
- 個人情報保護委員会 : 顧客との電話の通話内容は個人情報に該当しますか。また、通話内容を録音している場合、録音している旨を相手方に伝えなければなりませんか。
- 個人情報保護委員会 : 顧客との電話の通話内容を録音していますが、通話内容から特定の個人を識別することはできません。この場合の録音記録は、個人情報に該当しますか。
- 情報処理推進機構(IPA) : Web会議サービスを使用する際のセキュリティ上の注意事項
- LINE WORKS : 〖不動産・建設業界 営業業務実態調査〗8割以上が顧客と個々に電話・メールにてコンタクト、手書きで議事録作成をしている割合も7割超え。不動産・建設営業のアナログな実態が明らかに
- アドバンスト・メディア : 議事録作成に関する調査
