犬に話しかけたとき、こちらを見ながら首を少し傾けることがあります。まるで「何を言っているの?」と考えているように見えて、とても印象に残るしぐさです。
犬が首をかしげる理由は、まだ完全にわかっているわけではありません。ただ、音をよく聞こうとしている、飼い主の言葉や表情に注意を向けている、聞き慣れた言葉を記憶と結びつけている、といった可能性が考えられています。
近年の研究では、おもちゃの名前を覚えた犬が、その名前を聞いたときに首をかしげやすいことも報告されています。つまり、犬の首かしげは、ただ可愛いだけの動きではなく、音や記憶、飼い主とのやり取りが重なったしぐさかもしれません。
犬が首をかしげるのはどんなとき?
犬が首をかしげるのは、飼い主が話しかけたとき、聞き慣れない音がしたとき、気になる言葉を聞いたときなどに見られます。
たとえば、「散歩」「ごはん」「おやつ」「ボール」といった言葉に反応して、首を傾ける犬がいます。音の意味を人間のように細かく理解しているとは限りませんが、過去の経験から「この音のあとに何か起こる」と結びつけていることがあります。
犬にとって、音はとても大切な情報です。人の声の高さ、言葉のリズム、足音、ドアの音、袋を開ける音など、日常の中のさまざまな音を聞き分けています。首をかしげるしぐさは、その音に注意を向けている場面で出やすいと考えられます。
ただし、すべての犬がよく首をかしげるわけではありません。よくかしげる犬もいれば、ほとんどしない犬もいます。犬種、性格、耳の形、聞いている音、飼い主とのやり取りの仕方によっても違いがあります。
音を聞き取りやすくしている可能性
犬が首をかしげる理由としてよく考えられるのが、音をよりよく聞こうとしているというものです。
犬の耳は、人間よりも広い範囲の音を聞き取ることができます。左右の耳に届く音の差を使って、音の方向を探ることもあります。首の角度を少し変えることで、音の聞こえ方や方向の感じ方が変わる可能性があります。
たとえば、遠くで小さな物音がしたとき、犬が首を傾けることがあります。これは「何の音だろう」と注意を向けている状態かもしれません。人間も、聞き取りにくい音に対して顔や耳の向きを変えることがあります。犬の首かしげも、それに近い行動として見ることができます。
ただし、首をかしげる理由を「音を聞き取りやすくするため」だけにするのは少し単純です。音だけでなく、言葉の意味や過去の経験と結びついている可能性もあります。
言葉を記憶と照らし合わせているかもしれない
犬が首をかしげるしぐさについて注目された研究があります。
2021年に発表された研究では、40頭の犬を対象に、飼い主が特定のおもちゃの名前を言い、そのおもちゃを持ってくる課題が行われました。その中で、多くのおもちゃの名前を覚えた犬たちは、名前を聞いたときに首をかしげる頻度が高かったと報告されています。
この研究で興味深いのは、すべての犬が同じように首をかしげたわけではない点です。おもちゃの名前をよく覚えた犬たちは、飼い主の言葉を聞いたときに、記憶の中のおもちゃと照らし合わせていたのかもしれません。
つまり、首をかしげるしぐさは、ただ音に反応しているだけでなく、「その言葉に心当たりがある」「何かを思い出そうとしている」場面で出ることがあると考えられます。
もちろん、これは「首をかしげる犬ほど必ず賢い」という意味ではありません。研究対象は限られており、犬によって反応の仕方も違います。けれど、首かしげが注意や記憶と関係する可能性を示した点で、犬のしぐさを見るヒントになります。
飼い主の反応を覚えていることもある
犬の首かしげは、飼い主とのやり取りの中で増えることもあります。
犬が首をかしげたときに、飼い主が笑ったり、声をかけたり、写真を撮ったり、おやつをあげたりすると、犬は「このしぐさをすると注目される」と覚えることがあります。犬は人の反応に敏感な動物です。飼い主の声の調子や表情から、どんな行動が喜ばれるのかを学びます。
そのため、最初は音や言葉に反応して首をかしげていたとしても、あとから「かしげると飼い主が反応してくれる」と覚える場合もあります。
この場合の首かしげは、音を聞く行動でありながら、コミュニケーションの一部にもなっています。犬がこちらをじっと見て首を傾けると、人はつい話しかけたくなります。その反応が、犬にとってもやり取りの手がかりになるのです。
見え方を調整しているという説もある
犬が首をかしげる理由には、視界を調整しているという説もあります。
犬は鼻先が前に出ているため、顔の正面下側が見えにくいことがあります。特にマズルが長い犬では、人の口元や表情を見るときに、少し頭を傾けることで見え方が変わる可能性があります。
人間の表情や口の動きは、犬にとっても大切な情報です。犬は人の視線や表情、しぐさをよく見ています。声だけでなく、顔の動きや体の向きも合わせて、飼い主が何をしようとしているのかを読み取ろうとします。
ただし、この説も決定的に証明されているわけではありません。音を聞くため、言葉を処理するため、視界を調整するため、飼い主の反応を引き出すため。犬の首かしげは、ひとつの理由だけでは説明しきれないしぐさです。
首をかしげる方向にも個性がある
犬によっては、いつも同じ方向に首をかしげることがあります。
2021年の研究では、首をかしげる方向が数か月にわたって比較的安定していたことも報告されています。これは、犬がその場の偶然だけで首をかしげているのではなく、個体ごとに傾けやすい方向がある可能性を示しています。
人間にも利き手や利き目があるように、犬にも体の使い方の癖があります。首を右に傾けやすい犬、左に傾けやすい犬がいるのは、その犬なりの聞き方や反応の仕方があるからかもしれません。
いつものように一瞬だけ首をかしげるしぐさなら、音や言葉に注意を向けている可能性があります。一方で、片側だけに強く傾け続ける、急に首の傾きが戻らない、歩き方がふらつく、耳を気にするなどの変化がある場合は、可愛いしぐさとは別に考えたほうがよいこともあります。
首をかしげる犬は賢いのか
犬が首をかしげると、「考えているみたい」「賢そう」と感じる人は多いかもしれません。
たしかに、おもちゃの名前を多く覚えた犬が名前を聞いたときに首をかしげやすかったという研究はあります。しかし、そこから「首をかしげる犬は全員賢い」とは言えません。
犬の賢さは、言葉を覚える力だけで決まるものではありません。飼い主の表情を読むのが得意な犬、環境の変化に敏感な犬、落ち着いて待てる犬、人との距離の取り方が上手な犬など、得意なことはさまざまです。
首をかしげるしぐさは、犬が何かに注意を向けているサインのひとつとして見るとよいでしょう。可愛いからといって無理に何度も同じ音を聞かせるより、その犬が何に反応しているのかを見てあげるほうが、無理のない関わり方です。
Q&A(よくある疑問)
まとめ
犬が首をかしげる理由には、音をよく聞こうとすること、飼い主の言葉に注意を向けること、聞き慣れた言葉を記憶と結びつけることなどが関係していると考えられます。
近年の研究では、おもちゃの名前を覚えた犬が、その名前を聞いたときに首をかしげやすいことが報告されています。これは、聞いた言葉を覚えているものと結びつけていた可能性を示しています。
ただし、首をかしげる理由は犬によって違います。音、記憶、視界、飼い主の反応など、いくつもの要素が重なっているしぐさとして見ておくと、犬の反応を決めつけずに済みます。いつものしぐさとして楽しみながらも、急な傾きや体調の変化がある場合は、行動の意味だけで判断しないことも大切です。
参考情報
- Andrea Sommese, Claudia Fugazza, Ádám Miklósi ほか「An exploratory analysis of head-tilting in dogs」
- PMC「An exploratory analysis of head-tilting in dogs」
- American Kennel Club「Why Do Dogs Tilt Their Heads?」
- VCA Animal Hospitals「Vestibular Disease in Dogs」
