出世欲はなぜ薄れたように見える?働き方の優先順位が変わった理由

「最近は出世したがる人が減った」と言われることがあります。たしかに、管理職や昇進に前向きではない声は以前より目立ちます。dodaが2025年に公表した調査では、非管理職のうち「出世したくない」「どちらかといえば出世したくない」を合わせた割合は58.5%で、「出世したい」「どちらかといえば出世したい」の32.9%を上回りました。数字だけを見ると、出世欲そのものが弱まったようにも見えます。けれど実際には、上を目指す気持ちが消えたというより、昇進で得られるものと失うものを、以前より細かく比べる人が増えたと見るほうが今の実感に近そうです。


目次

本当に「出世したくない人」ばかりになったのか

この話は、世代をまとめて見ると少し見誤ります。dodaの同じ調査では、20代は「出世したい」側が46.3%、「出世したくない」側が47.9%でほぼ並んでいました。一方で、50代では「出世したくない」側が67.5%まで上がっています。若い世代が一様に後ろ向きというより、年代によって出世の見え方に差があるテーマだと考えたほうが自然です。

しかも、出世をためらう理由は一つではありません。doda調査で上位だったのは、「リーダーシップやマネジメントが苦手だから」35.3%、「新しい責任を負うことに不安を感じるから」35.2%、「高いプレッシャーやストレスに耐えられないから」34.2%でした。これは、努力したくないというより、管理職の仕事そのものが自分に向くかどうかを慎重に見ている人が多いことを示しています。プレイヤーとして成果を出すことと、人をまとめ、評価し、チーム全体を背負うことは、似ているようでかなり別の仕事です。


出世欲が薄れたように見える大きな理由

最近の感覚として大きいのは、昇進のメリットより、責任や時間負担のほうが先に見えやすいことです。エン・ジャパンの2024年調査では、管理職に興味がある理由の1位は「給与を上げたいから」76%でした。一方で、興味がない理由の上位は「時間的な負担が重くなりそうだから」59%、「大きな責任を負いたくないから」52%です。つまり、管理職が魅力的に映るかどうかは、肩書きそのものより、収入増と負担増のバランスで判断されやすいわけです。

ここで効いてくるのが、「管理職になると給料は少ししか増えないのに、責任だけははっきり増える」と見える職場です。公開調査は会社ごとの昇給額までは示していませんが、管理職に前向きな理由で「給与を上げたい」が強く、後ろ向きな理由で「時間的な負担」「責任の重さ」「報酬が見合わない」が上位に並ぶ以上、見返りが弱く負担ばかり目立つ環境ほど、昇進が魅力に映りにくいと読むのは無理がありません。出世欲がなくなったというより、見合うかどうかをかなり厳しく見るようになった、と言ったほうが近いでしょう。


私生活を重視する価値観も強くなっている

働き方の優先順位が変わってきたことも見逃せません。厚生労働省が2025年に公表した若年層の調査では、「共育てをしたいが、実現のためには社会や職場の支援が必要だと思う」が64.8%で最多でした。あわせて、若年層の約7割が会社選びで「仕事とプライベートの両立」を意識し、理想の働き方のために求める支援としては「残業時間の抑制」「在宅勤務の活用」「有給休暇取得の促進」が多く挙がっています。収入や肩書きだけでなく、暮らし全体との両立を前提に将来を考える人が増えていることが分かります。

こうして見ると、今の「出世欲の低下」は、上を目指す気持ちが消えたというより、出世で失うものが以前よりはっきり意識されるようになった結果とも読めます。仕事中心の生き方だけが正解ではなくなり、家庭、育児、健康、自由時間も同じくらい大切なものとして見られるようになった。そのなかで、昇進が人生全体で本当に得なのかを計算する人が増えたのでしょう。とくに、収入の伸びが小さいのに責任や拘束が増えるように見える場合、出世より自由時間や家族との時間を優先したほうがメリットが大きいと考えられるのは、不思議なことではありません。


「出世したくない」ではなく「別ルートで伸びたい」人も増えている

もう一つ大きいのは、会社側も「昇進=管理職」一択では考えなくなっていることです。リクルートマネジメントソリューションズの2024年調査では、複線的な人事制度運用を行っている企業は65.7%で、そのうち「専門職制度があり、複線型の人事制度として運用されている」企業は58.0%でした。つまり企業側も、「評価されたいなら管理職になるしかない」という設計から少しずつ離れ、専門性で処遇するルートを広げています。

これは見方を変えるとかなり大きな変化です。昔なら、給料を上げたい、評価されたい、会社の中で上に行きたいと思ったとき、管理職になる道がかなり中心でした。今は、専門職、スペシャリスト、特定分野の高度人材として伸びたい人の受け皿が少しずつ整っています。管理職を選ばないことが、そのまま成長を止めることを意味しにくくなっているわけです。だから「出世欲がなくなった」というより、「昔ながらの出世観が一つではなくなった」と捉えるほうが、今の空気には合っています。


出世欲が消えたのではなく、見合うかどうかを厳しく見るようになった

ここまでを見ると、「出世欲がなくなった」という言い方は半分当たりで、半分は言いすぎです。たしかに管理職への前向きさは以前ほど一様ではありません。けれど、その背景には、責任の重さ、マネジメントへの苦手意識、私生活との両立、報酬とのつり合い、そして管理職以外の成長ルートの広がりがあります。つまり、上に行きたい気持ちが消えたというより、その出世が本当に自分に見合うのかを以前より厳しく見る人が増えた、と考えたほうが実態に近いでしょう。

今の働き方では、「出世=正解」が一本ではありません。給料がはっきり上がり、裁量も増え、自分に向いた役割なら、昇進を望む人はもちろんいます。けれど、収入の伸びが小さいのに責任や拘束が増えるなら、出世より自由時間や家族との時間を取ったほうが得だと考えるのも自然です。そう考えると、「出世欲がなくなっている」という話も、少し違って見えてきます。


Q&A(よくある疑問)

本当に若い人は出世したくないのですか?

一概には言えません。dodaの2025年調査では、20代は「出世したい」側46.3%に対し、「出世したくない」側47.9%でほぼ並んでいました。若い世代が一様に後ろ向きというより、気持ちが割れていると見るほうが近そうです。

出世欲が弱いのは向上心がないからですか?

そうとは限りません。管理職の負担や役割の変化に慎重だったり、専門職として伸びたいと考えたり、私生活との両立を優先したりする人もいます。上を目指す気持ちが消えたというより、目指す形が分かれてきたと考えるほうが実態に合っています。

給料があまり上がらないと、やはり出世したくなくなるのですか?

傾向としてはかなりあります。管理職に前向きな理由では「給与を上げたい」が上位に入る一方、後ろ向きな理由では「時間的な負担」「責任の重さ」「報酬が見合わないこと」が挙がっています。見返りが小さく、負担ばかり目立つなら、出世より別のものを優先したくなるのは自然です。


まとめ

出世欲がなくなっていると言われる背景には、責任の重さ、マネジメントへの不安、私生活との両立意識、そして専門職ルートの広がりがあります。とくに、昇進しても報酬の伸びが小さいのに負担だけが増えるように見える場合は、出世より自由時間や家族との時間を優先したほうが得だと考えられやすくなります。

つまり、上を目指したい気持ちが消えたというより、昔のように「出世=正解」が一本ではなくなったと見るほうが近いのかもしれません。今は肩書きそのものより、自分に合う役割や続けやすい働き方を選びたい人が増えているようです。


参考情報

  • パーソルキャリア「転職サービス『doda』、出世に関する意識調査 出世したくない人は58.5%」
  • 厚生労働省「若年層における仕事と育児の両立に関する意識調査(速報)」
  • エン・ジャパン「20代・30代のビジネスパーソン1000人に聞いた『管理職への意向』調査」
  • リクルートマネジメントソリューションズ「昇進・昇格および異動・配置に関する実態調査2024」

この記事を書いた人

気になったテーマを中心に、公開情報や資料を読みながら記事をまとめています。背景や違いが見えにくい話題も、公式サイトや公開資料を確認しつつ、できるだけわかりやすく整理してお届けしています。

目次