9月8日の国際識字デーは、読み書きの大切さを世界で考えるため、国連教育科学文化機関(ユネスコ/UNESCO)が1966年に制定した国際デーです。
文字を読み、その意味を理解して自分の考えを伝える力は、学校で勉強するときだけに使うものではありません。交通案内や商品の表示を読む場面、必要な手続きを進める場面、インターネット上の情報を受け取る場面にも関わっています。
国際識字デーが9月8日になった背景をたどると、普段は意識しにくい「読み書きができること」の価値が見えてきます。
国際識字デーとは?
国際識字デー(International Literacy Day)は、識字の大切さを伝え、誰もが学べる環境について考える日です。ユネスコ総会が1966年に制定し、1967年から毎年9月8日に世界各地で記念行事が開かれています。
「識字」は、一般に文字を読んだり書いたりする力を表す言葉です。ユネスコは識字を基本的人権の一つと位置づけ、より幅広い知識や技能を身につけるための土台として重視しています。
世界では教育の普及が進み、読み書きのできる人の割合も上昇してきました。一方でユネスコによると、2024年時点でも少なくとも7億3,900万人の若者や成人が、基礎的な識字能力を身につけていません。最低限の読解力に達していない子どもも、世界で10人に4人いるとされています。
世界の識字率が上がった現在も、読み書きを学ぶ機会には地域や生活環境による差が残っています。国際識字デーは、過去の成果を祝うだけでなく、今も続いている課題へ目を向ける日でもあります。
なぜ9月8日が国際識字デーになったの?
日付の由来は、1965年にイランのテヘランで開かれた「非識字撲滅に関する世界文部大臣会議」にあります。
会議は1965年9月8日に始まり、読み書きを学ぶ機会を得られない人々への教育をどのように広げるか、各国の代表者が話し合いました。会議では、その開幕日である9月8日を国際識字デーとし、世界で記念することが勧告されています。
この提案を受け、翌1966年の第14回ユネスコ総会で国際識字デーが正式に制定されました。最初の記念行事が開かれたのは1967年9月8日です。
9月8日という日付は、世界規模で識字の問題を話し合った会議の開幕日に由来します。単に覚えやすい日が選ばれたわけではなく、各国が協力して読み書きの普及に取り組もうとした歴史を伝える日付です。
「識字」は文字を読めるだけではない
識字と聞くと、ひらがなや漢字を読めること、自分の名前を書けることを思い浮かべるかもしれません。しかし現代では、文字を目で追えることだけでなく、文章の意味を理解し、得た情報を生活に役立てる力まで含めて考えられています。
読み書きの力には段階があります。短い文章は読めても、専門用語の多い説明や複雑な手続きを読み取るのが難しい場合もあります。日常会話ができても、母語とは異なる言語で書かれた公的なお知らせを理解しにくい人もいるでしょう。
ユネスコは識字を、一度身につければ終わる能力ではなく、生涯にわたって高めていく学びとして捉えています。読み書きや計算に加え、デジタル技能やメディア情報を読み解く力とも関わる考え方です。
1. あらゆる学びの土台になる
教科書を読み、授業の内容を理解し、自分の考えを文章にするには、基礎的な読み書きの力が欠かせません。
読み書きが身につくと、本や資料を使って自分で調べられるようになります。学校を離れた後も、仕事や暮らしに必要な知識を学びやすくなり、興味を持った分野について理解を深めることもできます。
文字を学ぶことは、一つの教科を得意にするためだけのものではありません。その後に出会うさまざまな学びへ進むための入口になります。
2. 暮らしの選択と社会参加を助ける
日常生活には、交通案内、申込書、求人情報、商品の注意書き、公共機関からのお知らせなど、文字で示される情報が数多くあります。
内容を読み取れれば、自分に必要な情報を探し、いくつかの選択肢を比べやすくなります。読み書きは、自分の意見や経験を文章で伝えたり、必要な支援を求めたりする手段にもなります。
識字は個人の学力だけに関わるものではありません。必要な情報を受け取り、自分の考えを周囲へ伝えるための基礎にもなっています。
3. デジタル情報を読み解く力につながる
スマートフォンやパソコンを使うと、ニュース、広告、SNSの投稿など、大量の情報が次々と目に入ります。文章を読めたとしても、その内容が正しいとは限りません。
誰が発信した情報なのか、いつ公開されたのか、根拠となる資料が示されているかを見る力が必要です。広告と客観的な情報を見分けたり、複数の情報を比べたりする力は、メディアリテラシーや情報リテラシーと呼ばれます。
ユネスコも、デジタル化が進む社会では、従来の読み書きに加えて、メディアや情報を適切に扱う力が重要だとしています。
識字の向上は、持続可能な開発目標(SDGs)の目標4「質の高い教育をみんなに」とも関係しています。ターゲット4.6では、2030年までにすべての若者と相当数の成人が、読み書きと計算能力を身につけることが掲げられています。
2026年は国際識字デー制定60周年
2026年の国際識字デーは、1966年の制定から60周年を迎える節目の年です。
2026年のテーマは「Literacy for people, the planet and prosperity(人々、地球、繁栄のための識字)」です。識字と社会参加、持続可能な未来、暮らしの向上とのつながりに注目する年とされています。
世界規模の記念行事は、2026年9月8日から9日にかけて、メキシコ南部のチアパス州で開かれる予定です。ユネスコとメキシコ政府が協力し、各地で進められてきた識字教育の取り組みや、これからの課題を共有します。
国際識字デーに授与される2つの賞
国際識字デーに合わせて、優れた識字教育の活動をたたえる「ユネスコ国際識字賞」の授賞式も行われます。
現在の国際識字賞には、韓国政府の支援によって1989年に設けられた「世宗王識字賞」と、中国政府の支援によって2005年に設けられた「孔子識字賞」があります。
世宗王識字賞は、母語や複数の言語を生かした識字教育を重視する賞です。孔子識字賞は、農村部の成人や学校へ通っていない若者への実用的な識字支援などを評価します。2026年は、それぞれ3件ずつ、合計6件の活動が表彰対象となっています。
国際識字デーは問題を知らせるだけの日ではありません。世界各地で成果を上げた取り組みを紹介し、ほかの地域へ広げる機会にもなっています。
国際識字デーを身近に考えるには
日本で暮らしていると、読み書きは多くの人が身につけているように感じられます。それでも、難しい公的文書や専門用語の多い説明、母語とは異なる日本語など、情報を受け取りにくくする壁は身近にあります。
子どもへの読み聞かせや図書館の利用は、本や文章に触れる機会を増やします。地域の学習支援や日本語教室について調べることも、国際識字デーを身近に考えるきっかけになるでしょう。
文章を伝える側になったときは、難しい言葉を言い換える、重要な情報を見つけやすくする、文字だけで伝わりにくい内容には図を添えるといった工夫ができます。
情報を受け取るときには、発信元や公開日を見て、別の資料とも比べてみる。9月8日は、文字を読めることを当たり前と思わず、読む力と伝える力の両方へ目を向ける日です。
Q&A
まとめ
9月8日の国際識字デーは、1965年にテヘランで開かれた国際会議をきっかけに生まれ、1966年にユネスコが制定した記念日です。
読み書きの力は学習の土台になるだけでなく、必要な情報を受け取り、自分の考えを伝える場面でも役立ちます。現代では、インターネット上の情報を読み解く力も識字と深く関わっています。
2026年は制定60周年です。国際識字デーをきっかけに、日頃目にしている文章の伝わりやすさや、情報との向き合い方を考えてみてはいかがでしょうか。
参考情報
- UNESCO「International Literacy Day(国際識字デー)」
- UNESCO Digital Library「Report of the Director-General on the World Congress of Ministers of Education on the Eradication of Illiteracy」
- UNESCO「International Literacy Day global celebration and Literacy Prizes 2026 award ceremony」
- 文部科学省「2026年ユネスコ国際識字賞の募集について」
- United Nations Statistics Division「SDG Indicators:Goal 4・Target 4.6」
